持続可能な社会実現と経済安保

持続可能な社会に向けて、などというと、まだまだ絵空事と思う方が多いのだと思います。実際、私も5年前に聞かれたら、大切だよね、くらいで済ませていたのかもしれません。しかし、3年前には、ビジネスと両立する仕組みづくりを地方創生の文脈で考えていたし、現在では世界的な流れをはっきりと感じるようになっています。つまり、SDGs的な価値観が浸透してきているということです。今後、企業はSDGsに取り組まなければ資金調達にも困難を伴うようになるのだと思います。

持続可能な社会に向けた取り組みは、これまで余力のある企業がCSRの一環として取り組んでいたイメージがありますが、ビジネス上、必要な価値軸になりつつあるということです。おいおい説明していきたいと思います。

(地方創生とソーシャルベンチャー)
5年前くらいから地方創生の柱の一つとして取り組んできたのが、ソーシャルベンチャー支援です。党の社会的事業推進特別委員会で事務局長(今は事務総長なる大仰なタイトルになっていますが)を仰せつかっておりますが、まさにビジネスとして社会課題を解決していこうとする事業者を応援することで、地方の持続可能性を高める取り組みでした。現在でも進行中ですが、取り組んでいて気づくのが、資本主義の質が徐々に変わることでした。国が社会の持続可能性を高める地方の会社を支援するわけですから、必然的に資本主義の在り方が変わる時代がくるであろうということです。

取り組み始めてすぐに、国連が発表したのがSDGsです。貧困の軽減、民主的ガバナンスと平和構築、気候変動と災害リスク、経済的不平等という主要分野に重点を置いたこの取り組みは、瞬く間に世界に広がり、現在では各国政府のみならず民間や市民といったパートナーを得ています。この流れは、まさに地方創生の文脈で取り組んできたソーシャルビジネスと完全にマッチする価値軸でした。

(コロナ禍での加速)
こうした流れを加速したのがコロナ禍でした。今年はコロナに始まりコロナに終わるというコロナに翻弄された1年となりましたが、社会の持続可能性を考えるきっかけともなり、SDGsの流れが大いに加速したように見えます。例えば、国際コーポレートガバナンスネットワークを始めとしたESG投資家が揃って、配当よりも雇用維持を優先すべきだ表明したことは、間違いなくSDGs的な価値観が浸透していることを実感した瞬間でした。

ただ、日本でそれを聞くと、当たり前に感じるほど日本的価値観でもあります。日本では、昔から商いには近江商人の三方よしと言って、売り手と買い手と社会がよくなることがよい商いとされていましたから、昔から地でいっていたのだと思います。つまり、商いを通じて社会をよくするという考え方に最もマッチするはずなのです。

(ステークホルダー資本主義の世界的広がり)
株主だけではないステークホルダー資本主義の考え方は、例えばWEF(世界経済フォーラム)、ハーバードビジネススクール、BRT(ビジネスラウンドテーブル)でも大いに議論されています。ダボス会議のシュワブ会長は、日本の経営者にインスパイア(影響)されたと言っています。

ただ、日本と違うのはルールに落とし込もうとしていること。日本は、どちらかというと、何となくやっている。文化としてやっている。欧米は、まさにこれからルールにしようとしているのだということを感じます。それもそのはずで、例えばESG投資は世界で4000兆円を超えるようになっており、融資、債券、不動産にまで広がりを見せるようになってきました。コロナ下で株価が不思議な上昇基調にあり、もちろんアナリスト的には金融緩和による影響と言えますが、ESG投資も後押しをしているはずで、資本主義の流れが徐々に変わりつつあるのを見逃すわけにはいきません。(日経は29年ぶりの2万5千円超え、S&Pは過去最高値更新)。

(DXとSXとテスラモーターの衝撃)
DXとはデジタルトランスフォーメーションのことで、SXとはサステーナビリティトランスフォーメーション。前者は手段であって後者は目標だと言えますが、DXによりターゲットをSXに振り出した際に、今後の世界の勝者になるのだと思います。実際、電気自動車メーカーのテスラモーターはたった十数年でトヨタの時価総額を抜き、現在はその2倍。車の販売台数は20分の1ですから驚きの数字です。

仮にテスラがグループのCo2排出量を削減するために、サプライチェーン企業に排出抑制義務を課したら、グリーンに取り組まない企業はテスラと取引できなくなる。仮にどうしても達成できそうもないと判断した経営者がいたとしたら、撤退するか排出権取引に動かざるを得なくなる。当然、損益分岐を超えられるのかと普通の経営者は考えるわけですが、これが超えるようになってきたということなのだと思います。斯様、グリーンを意識した経営が必要になってくるわけです。

実際、サプライチェーンでは全くありませんが、ホンダがテスラと排出権購入で基本合意したとの報道もあります。そしてこうした社会を実現しているコアは、ビジネスモデルではなく、テクノロジーだということは忘れるべきではありません。

(金融市場の動き)
金融市場の方はどうなのかというと、例えば今年6月、ドイツで初めて66億ユーロのグリーン国債が発行され、330憶ユーロの注文があったたと話題になりました。欧州の中央銀行はグリーンQE(量的緩和)の流れがこれまでもあったようですが、アメリカでも否定的なトランプから肯定的なバイデンに大統領が変わることで、流れが加速すると予想されています。
http://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-09-02/QG0XO0T0AFB401

因みに世界のSDGs債市場は、グリーン債・ソーシャル債・サステナビリティ債というのがあって、そのうち5〜10年程度のグリーン債が圧倒的と言われています。発行は、フランス・国際機関・オランダのほか、意外なことに中国も多いとされています。日本もグリーンが多く59%。ほとんどが政府系機関による発行だそうですが、それはGPIFによるものです。そして日本の特徴は、ソーシャルとサステナビリティが世界に比べて一定のボリュームを維持していることです。そして、それほど頻繁に売買されず比較的安定しているのだそうです。ソーシャルは、例えば政府系でいえば学生支援機構や日本政策投資銀行も関与しています。

(必要なのは指標づくり)
ソーシャルベンチャー支援でも議論の中心でしたが、こうしたESG拡大の流れに合わせた持続可能な社会を気づくために絶対に必要なのが指標づくりです。何をもってソーシャルなのか、何をもってグリーンなのか、資金を動かしていくわけですから、当然求められるのが透明性であって、やはりルールが必要になってきます。この点、先ほども述べましたように、何となく文化としてやってきた日本は弱い。EUは既にサステナブルファイナンスのための指標づくりで先行しています。
about.bloomberg.co.jp/blog/need-know-european-commissions-new-sustainable-finance-taxonomy/

つまり、ESG投資を行おうとする投資家にとって、金融市場や投資対象、あるいは社会と言ってもいいかもしれませんが、共通言語が必要になってきます。やってますよ、という掛け声だけでは、他企業と比較できません。そして、その共通言語を作るためのベースとして、EUではタクソノミー(分類)を提示しています。そしてタクソノミーをベースに細部が決められていきます。

実はこの標準化こそが、ビジネス上非常に重要な部分であるのは、既存の知的財産戦略としての標準化とまったく変わりません。この取り方次第では、サプライチェーンに入れもしない場合もでてくるわけです。

(経済安全保障とコバルトやネオジウムなど)
こうした世界的な流れをビジネスとして捉えた上で、持続可能社会を見据えなければなりません。それは、もちろん電気自動車とかエネルギー政策という現実の課題に直結するものですが、裏側では、激しい国際競争も出てくることも予想できます。

例えば、電気自動車のキモの部分は、モーターとバッテリーですが、高性能モーターにはネオジウム、高性能バッテリーにはコバルトという希少金属が必要です。もちろん、コバルトはアフリカが主要産出国、ネオジウムはもっぱら中国が産出国です。必然的に、各国メーカは、そうした材料を使わずに済む技術開発を懸命に進めているのだと思いますが、各国の思惑も交錯してくるのは必然なのだと思います。

(今後の政策)
従って、あらゆる方向から必要な政策を総動員して推進すべきなのが、カーボンニュートラルという政策で、決してバラ色な、お花畑な政策ではありません。排出権取引の導入も、今後推進していかなければ、益々業種間の不公平は拡大し、中国に有利な世界が展開されるとの指摘もなされています。心してかかりたいとおもいます。