コロナ対策ー何をもって経済(生活)と感染のバランスなのか

(経済とのバランスより感染拡大防止を求める声が多くなっている)
経済対策と感染拡大防止のバランスが大切だ、というのは様々な場面で言われることですが、巷では感染拡大防止を図らなければ経済への悪影響は避けられないので感染拡大防止に全力を傾注すべきではないのか、ということがよく言われます。飲食宿泊業などを中心としたコロナ禍の直撃をうける事業者には、政府が直接補償すればいいではないか、なぜ感染拡大防止を徹底しないのか、との不満の声です。めちゃめちゃ分かります。

(緊急事態宣言か?)
まず、感染拡大の徹底的な防止を図るべきは論を待ちません。状況次第では緊急事態宣言を発出することも躊躇してはなりません。政権にはその覚悟はあるのだと思います。ただ、問題は、状況次第といったその状況がどんなものなのか、そして出したらどうなるのか、あるいは地域限定で出したらどう違うのか、生活困窮者はどのくらい増えるのか、エッセンシャルワーカーにどう影響するのか、医療機関にどのようなインパクトがあるのか、そのために事前に何をすべきなのか、国民とどのようなリスクコミュニケーションを図るのか、などが徹底的に分析されていないことの方が遥かに問題なのだと思います。つまり緊急事態宣言を出すと全てが解決されるかのようなお花畑思想は徹底的に排除し、インパクト評価を徹底して最大の効果を出すことが必要です。

(影響を受ける企業の補償?)
その上で、補償というのは主に要請に対する協力金であったり雇用維持のための助成金が中心となり、これは現在も継続しているものもあり、またその他の施策も全力で打っていますが、雇用にはネガティブな影響がでています。有効求人倍率も1付近まで低下、解雇された従業員も新しい職場を見つけづらい状況です。小規模事業者を考えれば、経済は生活に直結したものです。失業率が1%上がると自殺者は2500人程度増えると言われています。有効求人倍率が1以上の状況と以下の場合では、想像以上の違いが表れることになるはずです。
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2010/05/pdf/058-066.pdf
www3.nhk.or.jp/news/html/20201121/k10012724931000.html

(個人に特別定額給付か?)
事業者ではなくて個人に特別定額給付金を複数回打てばいいとのお考えの方もいらっしゃるのだと思います。幸い世界は未だに低金利状態が続いており、直ちに財政再建を急ぐ必要があるわけではありませんので、短期的に言えば世界各国が同規模の財政政策をとるならば可能だとは思いますが(現在では世界各国GDP2割で横並び)、持続可能な債務水準を意識しながら、経済と生活の下支えをしなければなりません。
http://www.imf.org/ja/News/Articles/2020/07/10/blog-fiscal-policies-for-a-transformed-world

(経済と感染のバランス指標)
現在、そのバランスは何を指標に図っているのかというと、医療提供体制の確保、監視体制、感染の状況です。具体的には、①医療提供体制ー病床逼迫具合(全入院者確保病床使用率、全入院者確保想定病床使用率、重症者確保病床使用率、重症者確保想定病床使用率)、②医療提供体制ー療養者数、③監視体制(陽性者数/PCR検査件数)、④感染状況ー直近1週間の陽性者数、⑤感染状況ー直近1週間とその全週1週間の比、⑥感染状況ー経路不明なものの割合、の6指標によって、感染拡大ステージを総合的に判断するということになっています。問題は、経済関連指標がないこと。つまり、経済を回すため、ということもありますが、経済に対する抑制的政策によってどの程度耐えうるかを見ることができないところに大きな問題があるのだと思います。昨年後半から困難な課題ですがこの指標の開発を進めています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00035.html

(ダッシュボード)
もっとも重要なことは、バランスよりも、何をもってバランスと言っているのかということを政府と国民の間で共有することであり、いわばリスクコミュニケーションなのだと思います。現在は、先に触れた医療や感染の状況を表す6指標を中心とした目安ですが、これも総合的評価とされていて、しかも経済状況が伴っていないことから、不安と不満が高まる傾向にあるのだと言えます。業種ごとに地域ごとに詳細に状況を提示できるシステム、いわば車のダッシュボードのようなものを提示できればと思っています。それによって、より緻密な経済対策が打てるのだと思います。

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以上申し上げたうえで、今後の経済見通しについて触れたうえで、最後に先日閣議決定された政府の経済対策を紹介したいと思います。

(日本/世界の経済見通し)
2021年の経済見通しが民間シンクタンクから相次いで報告されています。今年の実質GDP成長率が▲5%であったものに対して、ワクチンが同年後半から普及するノミナルシナリオの場合は+2〜5%前後、感染拡大が数度発生するリスクシナリオでは若干のマイナス成長、そして2022年には本格的な回復基調になるとなる報告が多いのだと思います。また世界経済は、2020年で▲3〜▲4%、21年は+2〜+5%、コロナ前の実質GDPに回復するのは21年後半から22年前半にかけてとの予測が多いのだと思います。

(リスク要因)
ただ不確実性は高い。リスクとしては、感染拡大、金融市場の調整(過熱感のある株価や不動産の調整)、債務拡大による投資減退、米中デカップリングを中心とした自由貿易の停滞、の4つが主だったもの(例えば下記の三菱総研)。一方、企業のアンケートによると、感染拡大、雇用、所得が懸念材料とされています(帝国データバンク)。
http://www.mri.co.jp/knowledge/insight/ecooutlook/2020/20201117.html
prtimes.jp/main/html/rd/p/000000211.000043465.html

(好感材料)
景気回復を後押しする材料としては、緩和的財政金融政策(後述の経済対策と金融政策)、デジタル需要、米国自由貿易回帰、在庫調整進展、そしてオリパラなどです。これにワクチン普及による個人消費回復が加わります。
http://www.dir.co.jp/report/research/economics/outlook/20201217_021969.pdf

(ワクチン供給)
ワクチンの接種状況見通しについては、例えばみずほ総研(下記)がまとめていますが、接種開始は先進国で21年1月〜3月、後進国で4〜6月、それぞれ普及完了までに1年かかるとの予測ですが、主要全メーカー足しても37.5億人分の供給となり、全世界人口の50%にとどまります。
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/forecast/outlook_201210.pdf

(産業構造の変化要因と傾向)
経済の開腹ペースは、国別、あるいは産業構造別、輸出構造別でも、異なってくることが予想できますが、それらは主に、モビリティ変化(リモートワークや巣篭り)に起因するものと、エネルギー需要トレンド変化(グリーン)の2つの要因に分解できます。そしてそれらが以下の産業構造に影響を与えるのだと思います。まずは、産業構造別に言えば、元々拡大傾向にあった産業でコロナ禍の影響が少ない業種には更なる追い風が吹く事、元々縮小傾向にあった産業でもコロナ禍の影響が少ない業種には期間限定の特需があること、一方で、元々拡大傾向にあったもののコロナ禍の影響が大きいところは逆風となり、縮小傾向にあった上でコロナ禍の影響が大きい業種は苦しい状況になる傾向にある。
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/forecast/outlook_201210.pdf

(世界の状況)
世界各国の中央銀行が金融緩和を実施し財政支出を増やしています。金利はほぼゼロに張り付いていますので、各国とも直ちに財政再建に着手せざるを得ない状況にあるわけではありませんが、新興国では国債発行が直ちに金利上昇や為替暴落につながってしまうものもあります。また、石油価格の低下により資源国にとっても苦しい時期が続くことが予想されています。

具体的な国別に見れば、中国の回復が顕著で自立化政策のためハイテク投資が今後も加速するとの見通し。アメリカは、2007年以来の高い起業件数となっているようです。また歴史的低金利も相まって持ち家需要が極めて高くなっている。アメリカらしく将来のドリームに向けた社会の変容の胎動が聞こえてきます。欧州は回復ペースは緩慢の見通しですが、政府主導のグリーン・デジタル対応が進み関連産業が牽引力になる可能性はあります。新興国は、産業構造や輸出構造によって全く異なる様相を呈する見通しで、ロシア、オーストラリア、インドネシアはグリーンシフトで逆風、またブラジルなどは財政の持続可能性や金利上昇リスクなど直近の金融財政運営危機に直面、タイなどサービス輸出減退での逆風、フィリピンやベトナムなど海外労働者送金減少での逆風、一方で、メキシコや台湾はデジタル需要拡大で恩恵を受けるとの見通しです。
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/forecast/outlook_201210.pdf

(日本の見通し「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策)
政府は12月上旬に次年度予算を中心とした総合経済対策を発表しました。事業規模73.6兆円、財政支出40兆円で実質GDP下支え効果3.6%、雇用60万人を見込んでいるとのこと。3つの柱で構成されています。

第一は、医療提供体制の更なる整備やそのための地方創生臨時交付金(国から地方自治体)、またワクチン接種体制整備を含む「感染症拡大防止策」。

第二は、老朽化が進むインフラの減災防災対策・国土強靭化(事業規模15兆円/5か年)や自衛隊・海上保安体制の構築を含む「国土強靭化・国民の安心安全」です。

第三は、ー治体システム標準化、マイナンバー、学校ICT化、ポスト5G等などを含む「デジタル改革」と、2050カーボンニュートラル研究開発、再エネや電気自動車普及、住宅断熱リフォームグリーン住宅ポイント、企業脱炭素税制などを含む「グリーン改革」、中小企業事業再構築支援とサプライチェーン多元化などを含む「産業構造の転換」と、大学ファンドや宇宙等領域の研究加速などの「イノベーション促進」、GoToとともにテレワークや地方企業経営人材マッチングなどを含む「地方への人の流れの促進」と、雇用調整助成金とともに出向助成金の創設やリカレント教育を含む「成長分野への労働移動など雇用対策パッケージ」、そして2030年5兆円を目指した「農林水産業輸出拡大」、更には「家計の暮らしと民需の下支え」です。

(概要)https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2020-2/20201208_taisaku_gaiyo.pdf
(本文)https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2020-2/20201208_taisaku.pdf
(試算)https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2020-2/20201208_taisaku_kouka.pdf
(施策例1)https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2020-2/20201208_sesaku1.pdf
(施策例2)https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2020-2/20201208_sesaku2.pdf

私自身は、コロナ対応としての医療体制確保(コロナ対策PT事務局長)、国土強靭化としてのため池整備や地元インフラ対策(ため池小委員会事務局長)、安心安全の担保(安全保障調査会事務局次長)、未来投資(科学技術イノベーション戦略調査会事務局次長、宇宙海洋開発特別委員会事務局長、量子議員連盟事務局長)、経済安全保障戦略(新国際秩序創造戦略本部事務局次長)、に携わって参りましたが、昨秋から経済成長戦略本部事務局次長も仰せつかっておりますので、全体の味付けにもう少し関与できるよう努力したいと思っています。