「速さ」こそが同盟の力ー訪米で見えた日米協力の現在地

先週、米国で開かれた防衛関係に主眼を置いた日米の官民対話に参加してきました。初日の夜は非公式な夕食会、翌日は朝から夕方までの終日サミット。連続無休憩の約20のセッションに、日米の金融界、産業界、スタートアップ、AI、元政府関係などの方々が一堂に会し、意見交換を重ねました。

二日間を通じて何度も聞いた言葉があります。それは「スピード」です。中国の急速な台頭を念頭に、日米の技術・防衛・経済協力を「いかに速く形にするか」が、全体を貫くテーマでした。スピードの中心はAIの導入です。

AIの壁は「性能」ではなく「導入」

最も印象に残ったのは、AIの議論の中身が変わってきていることです。登壇したAI関係者の多くが、「モデルの性能はもう十分に高い。問題は組織への導入だ」と口をそろえました。

ある登壇者は、AIは収益の向上、コストの削減、リスクの低減のいずれかに効かなければ意味がないと言い、別の登壇者は、約10倍の投資効果があった案件があったと言います。また、すべての業務に最先端の高価なモデルを使う必要はなく、タスクに応じて安価なオープンモデルと高性能な推論モデルを使い分けるべきだという指摘もありました。

更に別の登壇者は、企業にとって最大の競争相手は他社ではなく「自社の官僚主義」だと言い切りました。組織の基本単位は個々の社員ではなく「ワークフロー」であり、AIは人を置き換えるのではなく、人の能力を高めるものだという考え方です。医療や製造の現場での具体例も紹介されました。

「主権」をどう確保するか

会議の関心は何よりもデータとAIの「主権」です。最先端モデルへのアクセスをどう確保するのか。自国のデータをどう守るのか。オープンモデルとどう向き合うのか。こうした質問が相次ぎました。

米側からは、自社データを使って複数のモデルを追加学習できる状態こそが主権だという考えが示されました。オープンモデルを使う場合は、隔離環境で運用すること、自社独自の評価基準を持つこと、種々のオープンモデルも活用することが勧められました。一方で、中国が蒸留したオープンモデルで米国AIのコモディティ化を狙っているという警告や、西側にとって最大の危険は「遅すぎること」だという発言もありました。

各国間でAIに関する緊急連絡の仕組み、いわば「AIホットライン」が必要だという提案も、今後の重要な論点になりそうです。

「AI競争は電力競争」

エネルギーの話題も繰り返し取り上げられました。米政府関係者は「エネルギー安全保障なくして国家安全保障なし」と述べ、AI競争は電力の競争だと強調しました。中国は昨年だけで石炭火力を93GW追加したといいます。エネルギーの調達構造を抜本的に見直す議論を始めるいい機会に感じました。

新しいエネルギー技術の紹介もありました。ソフトウェアで磁石を精密に制御(フェーズドアレイ)する核融合炉は、2030年の実証機運転を目指しています。量産後の発電コストは1MWhあたり約50ドルを見込むとのことです。送電網に頼らず、太陽光と蓄電池で動くデータセンター構想も語られました。日米の核融合規制の比較は、日本の法整備にも参考になる議論でした。

日本の「つくる力」と米国の「発想力」

今回の訪米で最も希望を感じたのは、日本の製造力と米国のイノベーションを組み合わせる具体的な構想が、次々と示されたことです。日本での消耗装備品のライセンス生産の拡大、日本製フリゲートの対米供給や造船分野での協力、燃費を大幅に改善する次世代旅客機の日本工場構想、完全再使用型ロケットの発射拠点を、北海道などの日本国内に設ける構想、部品をすべて日本国内で調達した純国産ドローンの開発などです。

宇宙分野では、日本は年30回程度の打ち上げを目標としていますが、能力が足りていません。一方で中国は、ロケットの再使用化によって打ち上げ回数を急増させつつあります。宇宙へのアクセスは、もはや安全保障そのものです。

変えるべきは能力ではなく「姿勢」

防衛分野の議論は、厳しい現実を直視する率直なものでした。とある参加者は、冷戦後の業界再編で大規模紛争への備えが十分とは言えない状態にあるのではないかと指摘し、研究開発予算の多くが活用されないまま放置されていた実態を指摘していました。そして、民間の力こそが唯一の解決策だと訴えました。

ドローンの数の差も衝撃的でした。ウクライナやロシアは約1,000万機を保有しているのに対し、米国は約10万機台にとどまるといいます。同盟国が共通規格で装備を調達できる「マーケットプレイス型」の仕組みや、日米共同の防空演習といった提案もありました。

特に心に残ったのは、純国産ドローンの話です。ある米国企業は、2人のチームがわずか6週間で、ISR(情報収集・警戒監視・偵察)用の100%日本製ドローンを開発しました。ところが「6週間」と言っても信じてもらえないため、「6か月」と説明したそうです。その登壇者は「日本に足りないのは能力ではない。変えるべきは姿勢だ」と語り、日本が世界にドローンを輸出する姿を見たいと締めくくりました。

おわりに

二日間を終えて強く感じたのは、日本には技術も製造力も資金もあるということです。足りないのは、それを素早く形にする意思決定の速さと、前例にとらわれない制度設計です。

米側の多くの登壇者が、日本を「最も重要な同盟国」と呼んでいました。その期待に応えるためにも、議論で終わらせず、一つでも多くの案件を具体的な成果につなげていきたいと思います。スピードそのものが同盟の力になる時代です。今回の対話で得た問題意識を、今後の政策と実践に生かしていきます。