
ウクライナ訪問報告――「危機が日常となった国」で考えたこと
先日、議員団の一員としてポーランドを経由し、ウクライナの首都キーウを訪問しました。年末に予定されている安全保障関係の文書改定を前に、「抑止の信頼性を、生産力や社会の強靭さによってどう裏付けるか」という課題について現場の知見を得ること。そして、戦争が欧州だけの問題ではなく国際社会全体の問題であることを、日本から足を運ぶことで示すこと。この二つが今回の訪問の目的でした。
■長い道のりの先にあった「日常」
キーウへは空路が使えないため、国境近くの街から夜行列車で18時間という長い時間をかけて向かいました。途中に3度も避難し、うち一回はシェルターに逃げ込みました。到着した首都で最初に感じたのは、意外なほどの「日常」です。人々は通勤し、店は開き、街は動いている。しかし、その日常のすぐ隣に戦争があります。滞在中にも、何度も防空警報が鳴り響き、頻繁にドローンを迎撃する音が聞こえてきました。市内では政府関係の建物や文化施設、駅の周辺などが攻撃を受けた跡を目にしました。
攻撃が続く中でも生活と社会が回り続けている。これは「危機の日常化」と呼ぶべき状態であり、同時に、社会全体の粘り強さそのものが国を守る力になっているのだと実感しました。
■戦争は大きな転換点にある
政府関係者をはじめ多くの方々と意見交換をする中で、戦況がいま重要な局面にあることがはっきりと見えてきました。
第一に、攻撃の質の変化です。ロシア側はより高速な無人機を投入し始めており、迎撃側は新たな対応を迫られています。また、鉄道や橋梁、発電施設といった物流・エネルギーのインフラへの攻撃が激しさを増しています。冬に向けてエネルギー施設への攻撃がさらに強まることが懸念されており、「最も厳しい冬になる」という声も聞かれました。
第二に、ロシア側の継戦能力に陰りが見え始めているという分析です。人的損耗は非常に大きく、財政面でも負担が重くのしかかっているとの見方が多く示されました。ただし、追い詰められた側が何をするかわからないという危うさもあります。核による威嚇がより強い言葉で繰り返されていることは、世界秩序にとって決して看過できない事態です。
第三に、戦争の影響が周辺国へと広がっていることです。訪問したポーランドでは、放火や鉄道を狙った破壊工作、偽情報の拡散など、いわゆる「ハイブリッド戦」への警戒感が非常に強く、これをすでに「戦争」と捉える声さえありました。一方、欧州各国の受け止め方には温度差もあり、移民問題をより切実な脅威と考える国もあれば、エネルギー面での事情を抱える国もあります。欧州の結束は決して自明のものではない、という現実も学びました。
第四に、世界経済への波及です。ウクライナは世界有数の穀物輸出国ですが、港湾や貯蔵施設への攻撃によって輸出が滞り、中東やアフリカなど遠く離れた地域の食料事情にまで影響が及んでいます。その余波は、飼料や燃料の価格を通じて日本の暮らしにもつながっています。戦争の行方は、決して遠い国の出来事ではありません。
■最前線を支える隣国
ポーランドでは、ウクライナ支援の拠点としての役割の大きさも実感しました。支援物資の多くがこの国を経由して届けられており、自国の防衛力の大幅な強化にも国民の幅広い支持があるといいます。歴史的に大国の狭間で苦難を経験してきた国だからこその危機感と覚悟を、政府関係者との対話の端々に感じました。
■現場で見た「イノベーションの速さ」
今回、最も強い印象を受けたのは、ウクライナにおける技術開発と生産のスピードです。
開戦時にはごく少人数で始まった企業が、わずか数年で大規模な生産体制を築き上げています。決して最新鋭の自動化ラインではありませんが、部品の多くを自社で内製し、品質管理や作業の追跡管理も徹底されているそうで、戦時下の急ごしらえでありながら、十分な生産力を持っていると言われます。
さらに注目すべきは、開発のサイクルです。技術者が前線に赴いて兵士の隣でデータを集め、数週間単位で改良を重ねていく。現場のニーズを吸い上げる組織、開発を支援する組織、実証と量産を担う組織が連携し、さらに部隊が必要な装備を比較・選択して迅速に調達できる仕組みまで整えられていると言います。「仕様書を書いて、何年もかけて調達する」という平時の発想とはまったく異なる世界です。
また、安価な無人装備が、高価な大型装備に対して大きな抑止効果を発揮しています。費用対効果の考え方そのものが、戦場で根本から問い直されています。
■サプライチェーンという弱点
一方で、課題に率直に向き合う姿も印象的で、改善への出発点だと実感しました。その一つが部品調達です。一部の部品は依然として特定の国への依存から抜け出せておらず、代替が難しいものも残っているとのことでした。また、ロシアへ流れている汎用品の多くが第三国を経由しているという指摘もありました。
これは決して他人事ではありません。有事において、必要なものを必要なだけ、自らの手で生産し続けられるか。サプライチェーンの強靭化は、日本にとっても安全保障の根幹に関わる問題です。
■歴史が育んだ「抵抗の心」
現地では、ウクライナの歴史についても考えさせられました。この地は古来、東西交流の要衝として栄える一方、さまざまな勢力に支配され、翻弄されてきました。2022年の侵攻当初、多くの人々は、はるかに大きな隣国と戦えるとは考えていなかったといいます。しかし、「もう奪われるのはごめんだ」という思いが人々の心に火をつけた。歴史に翻弄され続けてきた人々の誇りが、いまの粘り強い抵抗を支えているのだと感じました。コサック精神です。
■日本への示唆
今回の訪問を通じて、日本が考えるべきことを大きく三つにまとめたいと思います。
一つ目は、「生産力と社会の強靭さこそが抑止力である」という点です。どれほど優れた装備を持っていても、それを作り続け、直し続け、社会を回し続けることができなければ、抑止の信頼性は保てません。有事を見据えた生産の仕組み、迅速な調達制度、そして課題解決型の発想への転換が求められます。
二つ目は、技術の進化を戦略に組み込む仕組みです。無人機に象徴されるように、技術は戦い方そのものを数か月単位で変えていきます。新しい技術が安全保障に与える影響を的確に把握し、政策判断に反映していく体制を整えなければなりません。
三つ目は、外交の重要性です。この戦争が長引けば長引くほど、核をめぐるリスクを含め、世界全体の秩序が揺らぎます。欧州から遠く離れた日本が連帯の意思を示すことは、ウクライナにとって「地域の問題」を「世界の問題」へと押し上げる意味を持ちます。同時に、停戦と和平に向けた国際社会の努力を後押しすることは、アジアの平和と安定にも直結します。
■おわりに
会談の場では、日本への感謝の言葉を何度もいただきました。長年にわたる支援が確かに届いていることを実感するとともに、日本に寄せられる期待の大きさも痛感しました。
「戦後の復興を、自らの力で成し遂げる」。かつての日本がそうであったように、ウクライナの人々もまた、その未来を見据えています。今回現地で見聞きしたことを、今後の安全保障政策の議論にしっかりと生かしてまいります。