南シナ海と一帯一路。この壮大な構想は正しいのか。

一両日のうちに南シナ海がらみのニュースを立て続けに見ました。どうやら中国が南シナ海南沙諸島の7つの人工島のすべてに近接防衛システムを配備したようだというものと、その南沙諸島のいくつかの島にある灯台をモチーフとした切手を中国政府が発行してベトナムが抗議したというものと、中国海軍が米国海軍の無人海洋調査潜水機を目の前でかっさらっていって米海軍が抗議した、というニュースです。あいかわらず南シナ海は話題事欠かない状態です。

最後の無人調査潜水機はあくまで公海上の話ですから、それはいくら何でも酷い。しかも目の前で。米海軍海洋調査船の460mまで接近してなのだとか。中国が発表した理由は「正体不明の装置を発見し、危機が及ぶのを避けるため」だとか。その後、中国国防省は、米軍によるこの活動を偵察・軍事的測量だとして活動の停止を求め抗議しました。

米国トランプ氏の中国に対する厳しい発言、特に一つの中国にこだわらないという強烈なメッセージの影響がないわけではないと思います。六中全会で核心とされた習近平国家主席ですから、核心である以上、すべての軍を掌握しているはずですが、今回の一件が国家主席の承認の範疇なのかどうかは定かじゃありません。多分違います。しかし、リーダの意向をかなり反映した行動であったことは想像に難くありませんし、危険な状態であることは間違いありません。

中国の意図は何か。まず中国は南シナ海を死活的海域だと思っているということ。なぜそう思うのかというと、結論から言えば、中国のそもそもの意図は、軍事的覇権などというものではなく、経済権益の確保だと思うからです。であるならば、西進(marching west)政策は彼らにとって理にかなったものになります。第一は、経済権益を確保するためには、最も重要なのが国内政治の安定です。国内政治が不安定化する可能性があるとしたら、経済的国内格差。これは内陸部と沿岸部の格差と言えます。だからこそ西部・内陸部の開発を急ぎたいと思うのだと思います。もう一つは、経済発展は資源需要の伸びを意味しますから、中東への影響力を強めたいという思いからの西進です。天然ガスを中東から仕入れるには、当然シーレーンを確保しておきたいはずです。だからこそ南シナ海は絶対海域になります。

しかしアメリカは怖い。マラッカ海峡を封鎖されれば天然資源は入らなくなる。だからこそ、パキスタンのグラダル港から中国西部にパイプラインを引けばインド洋すら通らなくて済むし、またミャンマーのチャオピュー港からパイプラインを引けば、アンダマンニコバル諸島すら通らなくて済む。つまりシーレーンの代替手段になる。さらに言えば、シーレーンやパイプラインに面した要衝の整備をAIIBによってファイナンスすれば、影響力は維持できるし、中国国内の西部の労働力をそうした海外インフラ整備に充当することができれば西部の賃金は上がるし、パイプライン要衝として発展する可能性もある。これがいわゆる、一帯一路、中国のシルクロード構想なのだと思います。

この構想を前提とすれば、地中海からインド洋、そしてアンダマンニコバル諸島を超えてマラッカ海洋、さらには南シナ海までの広大な海域の安全保障を確保する必要性が見えてきます。すると、中国が1998年にウクライナから買ってきてようやく運用実験段階に入った空母の意図も見えてきます。まだまだ実戦運用には至らないと言われていますが、空母を実際に運用するためには3隻程度保有し、それぞれ空母戦闘群に仕上げる必要があると言われています。そして確かに中国は自前で2隻の空母を建造していると言われています。これに、巡洋艦・フリゲートを用意すれば完成です。2025年くらいではないかと民間の研究者に伺ったことがあります。

また更に言えば、サイバーアタックに関する米中のやり取りの意味も徐々に解ってきます。運用面でも技術面でもノウハウのない中国にしてみれば、何とか技術を入手したい。基本的にその意図で中国は米国などにサイバーアタックをかけて違法に情報を入手する。しかし米国はそれは禁じ手であると考える。米国が中国に文句を言うと、中国側はお前らだってやってるじゃないか、となる。しかし米国にしてみれば、サイバーアタックは自国の安全保障に戦略的に直接関係ある領域しかかけない。価値観が違うので話が合うはずもありません。中国のサイバーアタックの主目的は、恐らくは艦載用戦闘機であると思われます。空母戦闘群を運用するのに艦載機は必須ですから。

また、以上の見立てに従うと、スプラトリー諸島を昔、力づくで奪った意味が見えてきます。第一列島線以内、特に9段線の海上優勢の確立によるシーレーンの確保。もちろん当該領域の資源確保もありますが、より大きな戦略に利用する価値を見出し、埋め立てを図っているのだと理解できます。また、海軍主力を北海艦隊から、南海艦隊に移し、母港を南海島に設定する意味も見えてきます。

一方で、第一列島線の内、南シナ海から尖閣のある東シナ海はどうなのかと言えば、ここは空母戦闘群のように常時の海上優勢を確保する必要もなく、多様な事態に対処できればよいので、より小型なフリゲートでいいということになったのだと思います。現在、年間10隻以上のハイスピードで建造がすすんでいるそうです。小競り合いに勝ちさえすれば、勢力を確保できる。しかも、東南アジア諸国の海軍力は比較的小規模なものが多いので、それで十分ということも言えます。

ちなみに東シナ海は、どちらかと言えば、安全保障上の意味合いでは、第一列島線を超えるためであって、その目的は太平洋への海路を確保し、アメリカの牽制をしておきたいということだと思います。そう考えれば、日本の自衛隊が遭遇することになる艦船は、空母戦闘群などといった戦略艦隊ではなく、大量のフリゲートということになるのだと思います。もちろん、トランプ氏による、必ずしも一つの中国政策に拘泥されないという発言が確信的なものであるならば、尖閣や東シナ海はもっと違う意味合いを持つかもしれません。例えば1週間前に中国空軍が沖縄と宮古の間を飛行し、スクランブルをかけた空自機に対して、妨害弾を発したとして抗議をしてきました。日本政府は、そんなもん打ってない、と反論しています。これもトランプ氏発言の影響なのかもしれません。

とにかく上記の第一列島線や9段線はもちろんの事、マラッカから地中海までは、アメリカには関与してほしくない、ということであって、だからこそ何年か前に、中国が米中の新大国関係論をぶち上げてみたり、共同管轄論(米は太平洋、中国はインド・大西洋)をぶち上げてみたりしたのだと推察できます。

以上のように考えれば、強く強く思うのが、こうした中国の労力は違う方向に向けるべきではないのか、ということです。力づくで自国の権益を確保しようとするのではなくて、国際社会に受け入れる形でエネルギーを割いて欲しいものです。もちろん、上記の考えは政府の考えでもなければ党の考えでもありません。民間研究者から頂いた種々の意見を勘案して私が勝手気ままに書いたものですので、まったく当たらないということもあるかもしれませんが、あまりに全てが繋がるのだとしたら、そう構えて日本も政策を構築せざるを得ません。

米中と日米は、少なくとも偶発的衝突が起きないように、そして起きたとしてもエスカレートすることを絶対にさける仕組みを構築しなければなりません。そして、習近平国家主席の意図を勝手に斟酌した現場の行動を、中国外務省や国防省などの政府が追認する、などという、それこそ旧時代的な、昔の日本のような、そんなことだけは中国には避けてもらいたいと切に願うものです。

Forum-K 2016 懇親会開催 及び 2017 新年会

Forum-Kの東京後援会を開催させていただきましたところ(去る12月15日午後6時より都内ホテルに於いて)、ご多用中にも関わりませず、大勢の皆様が駆けつけていただきました。改めて感謝申し上げたいと思います。来年早々には下記の通り地元香川県丸亀にて新年会を開催させていただきます。今後とも、ご指導ご鞭撻を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。

大野敬太郎君を囲む会 「ForumK新年会」

2017年1月12日 午後6時~ 香川県丸亀市 オークラホテル丸亀

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※当催し物は政治資金規正法第8条の2に規定する政治資金パーティです。

トランプ氏は新しい世界秩序の構築者になれるか

トランプ氏が米国大統領選挙に勝利してから少し経ちますが、先ほど、トランプ氏が米国のFOXニュースで必ずしも一つの中国政策に拘らないとの考えを示したと報じられました。全く楽観視できない状況です。トランプ氏はアメリカファーストを標榜していますが、今日は、アメリカだけ良くなるモデルは本当にアメリカを良くするのか、ということについて書いてみたいと思います。

まず言えることは、トランプ氏のこれまでの発言からすれば、トランプ氏は、強いリーダシップを発揮している国のリーダには概ね関心をもっていること、現状の同盟関係に強い不満をもっていること(応分の負担の要求)、そして保護貿易的重商主義的考え方であること、は明らかだと思います。

まず3番目の論点について。例えばTPPやNAFTAには強い不満をもっており、未だに就任演説で脱退を表明するとしています。単に脱退でも大きなインパクトがありますが、世界経済の発展のためには自由貿易は必須です。従って、世界一位の経済規模をもつアメリカが自由貿易推進の旗振り役をやめることになるのは、世界経済の先行きに大きな影響を及ぼすことになり、ここは絶対に軌道修正してもらわなければなりません。これは日本の国益という問題ではなく、世界の発展のために必要なことだと確信しています。

TPPについては、発行の条件が全原署名国のGDPの85%以上を占める6か国以上の国内手続き完了となっているので、当然ですが米国の国内手続きは必要条件になります。米国は日本に対して2国間EPAとしての再交渉のメッセージを送っていると理解していますが、日本としては日本の国内手続き完了をもって、前述の理由を盾に、再考を求めていくべきです。TPP再交渉なども含めて認めることは絶対にできません。

一方で、アメリカファーストの経済政策で、交通運輸インフラの改善に5500億ドル、法人税減税(概ね35%を15%に)、雇用を制限している規制の改革、オバマケア見直し、そして金融規制強化法の見直し、という非常に大胆な雇用政策を打ち出していることを見れば、これらの公約を現実的なものに修正したとしても、結構な経済対策になるはずです。アメリカ経済の問題は、マクロでみれば世界一安定的に成長しているものの、中間層・低所得者層の雇用と賃金が上がっていない事なので、どのように労働分配率を上げていくか、ということはあるにせよ、そこは大きく刺激される可能性があります。しかし、この観点に立っても、国際的に新興国を中心に金融秩序を不安定化しないか、と言うことの方が大きく注目すべきポイントです。

いずれにせよ、保護貿易主義重商主義的アメリカファーストの政策で、世界経済の牽引役となれる世界経済モデルを構築できるかどうかが問題になるわけで、私は極めて懐疑的に見ています。アメリカファーストでアメリカが良くなるほどアメリカは小さくないはずです。

続いて2番目について。今年9月ごろだったと思いますが、トランプ氏は、米国は世界の警察官になることはできない、と発言しています。これは、オバマ大統領の昔言った発言と趣旨は全く違うものであって、オバマ大統領は、力の行使を背景にした世界秩序の構築の修正を意味していたと理解できますが、トランプ氏の場合は、アメリカの財政的負担の問題が先立っていると理解できます。例えば、アメリカが最強の国であるときに世界は最も平和で繁栄するのであって、アメリカはこれからも平和構築と人道支援の役割を果たしていくし、そのためにアメリカは再び強くならなければならない、と発言しています。これは孤立主義とは全く一線を画する考え方です。

つまり財政的にリーズナブルであれば米国の安全保障上の世界でのプレゼンスを維持するという理解ではありますが、一方で、現在の安全保障上の世界秩序を歴史的な経緯も含めて完全に理解し納得しているかは全く持って不明で注目すべきポイントです。

まず身近な日米同盟の軍事的中身については、深い理解があるとは思えません。例えば、アメリカが攻撃されても日本は何もする義務がないのに、日本が攻撃されたらアメリカは全力で助けなければならない片務的条約である、と発言しています。日本が攻撃されていてそれを助けにきたアメリカを日本は守るとした(正確に言えば3要件が満たされたとき)先の平和安全法制の整備に日本がどれほどの努力をしたのかをどの程度理解しているのか気になるところです。駐留米軍経費負担をどの程度日本がしているかの理解についても不明です。

米中関係については、今回この記事を書こうと思った直接の理由に繋がる今日耳にした、一つの中国政策に拘らないとした発言は大変憂慮すべきものです。トランプ氏は徹頭徹尾中国の事をそれこそボロクソに言っていますが、中国にとって一つの中国政策は、歴史的に見て間違いなく譲れない最大最高の核心的一線なはずです。現時点での中国の反応は、この手の話題に対してのものとしては極めて抑制的に見えます。トランプ氏の発言は感情的にはとてもスキッとするとの意見を多く聞きますが、決定的に米中関係を悪化させるはずです。

今まで論理的に矛盾の多い国際政治に関する発言は、今思えばむしろ軽い悪のりの感さえしてきます。例えば国際社会の中では世界秩序に対する挑戦者として日本では考えられないほど反感をもたれるロシアのプーチン大統領を賞賛する発言をしたり、今年に入って2回も核実験を断行した北朝鮮の金正恩に理解を示したり、日本や韓国に核武装を促したと捉えかねない発言をしたりですが、中国に関しては、レベルが違います。これはもしかしたら、大統領になる前に大きく踏み込んでおいて、南シナ海などの案件について中国の譲歩を引き出して、後にアメリカも譲歩したような形で元に戻す、という非常に高度な戦略があるのではないか、などと妄想してしまいますが、注目していかなければなりません。

次に中東への関与です。米国にとっては最大級の重要政策であるはずでし、私自身大きな関心をもっています。今のところ、イスラム過激主義に対する強烈なアレルギーという単純な動機から発しているものと思われます。ISISの台頭は、オバマ大統領の融和的政策によるものだという単純な理解に基づくもので、ISISを徹底的に叩き潰し、イラン核合意を破棄するのだという政策に繋がっています。

アメリカとしては影響力が低下した現在、サウジアラビアやトルコなど影響力のある中東の大国を味方にして進めなければ、平和的解決は望めません。昔のブッシュ政権時代のようなゴリ押し政策では混乱が増すばかりです。プーチン大統領に一定の理解を示したのは、もしかするとこうした中東問題を念頭に置いたものなのかもしれませんが、であれば、トルコやサウジアラビアに対する発言は矛盾していますし、イランの核合意破棄も、もう少し戦略的であるはずです。かといって、オバマ大統領の融和的政策は甚だ弱すぎたのも事実です。

つまり総合すると、よく分からない、という一言に尽きてしまいます。強いアメリカになって頂くのは大歓迎ですが、一体どのように世界秩序に関与すべきかについては、オバマ以上ブッシュ以下の新しい価値軸を作っていくしかありません。

以上いろいろつべこべ申し上げましたが、大きな期待をもって平和と繁栄に関与していかれることを望みたいと思います。

宇宙ビジネスの新潮流

自民党政調に宇宙や海洋の政策立案を行う宇宙海洋開発特別委員会(河村建夫会長)、そしてそのもとに宇宙総合戦略小委員会が設置されていて事務局を預かっています。

その委員会では、これまで数次に亘り政府に対する提言を取り纏め、また必要予算の獲得に向けた運動をしたりして参りました。実は、今年、新しい2本の宇宙関連法制(民間と政府の役割分担を規制法としてまとめたもの)が成立しましたが、これもこの小委員会で議論をしたものです。

本日、改めて宇宙基本計画工程表が改定案が政府から示され、大勢の議員の参加の元、親会である特別委員会で了承されました。

最近の宇宙の動向ですが、特にアメリカと中国で大きな動きがあります。アメリカでは、ビッグデータ社会の到来を先取りする形で新しい民間ベンチャービジネスが立ち上がっていて、過去10年の総額と同じくらいの金額がたった一年で動いています。中国ではお金に物を言わせて急速に政府による宇宙開発が進んでいます。

アメリカの例だけ紹介すれば、電気自動車で有名なテスラモータのイーロン・マスクCEOがSpaceX(ロケット製造・打ち上げ・衛星製造)というベンチャー、Googleの共同創業者兼CEOであるラリー・ペイジがPlanetary Resources(小惑星探査)と、Google Lunar X Prize(月面探査)のベンチャーを創業、マイクロソフトの共同創業者であるポール・アレンもStratolaunch Systems創業やSpace Ship One(宇宙船)への出資、Amazon創業者のジェフ・ベゾスはBlue Origin(宇宙船)というベンチャーを創業、Virgin創業者兼会長であるリチャード・ブランソンもVirgin Galactic(宇宙旅行)のベンチャーを創業。これはあくまで有名な例だけですが、なぜこうしたビッグデータジャイアントがこういう領域に積極投資をしているかというと、決して趣味ではなく、宇宙がビッグデータビジネスに直結しているからに他なりません。

何に使うかというと、衛星から撮像したビッグデータと人口知能を使って、経営判断から統計収集まで、分野は小売り、農業、気象、金融などに活用しようとするもの。

日本の基本的考えは、安全保障・民生利活用・産業科学技術基盤の維持強化という3つの政策の柱を元に、それら3つの相乗効果により宇宙政策を推進していこうというものです。つまり、かなり米国に後れを取っていますが、宇宙ビジネス拡大の潮流を捕まえようというもの。

私が今一番注目しているのは、宇宙空間を利用したビジネスを如何に推進するかです。内閣府を中心に現在「宇宙産業ビジョン」という準戦略文章を策定しようとしていて、来年春には発表することになると思います。

党としてもしっかりと市場拡大を睨んで環境整備を行っていきたいと思います。

以下、幾つかの具体的プロジェクトを紹介したいと思います。

・準天頂衛星。現在のGPSはアメリカの測位衛星を無料で使わせて頂いていますが(皆さんも使っています)、日本独自の高精度測位衛星を整備しようというもの。防災機能強化だけでなく新しいビジネスフロンティアの拡大につながると期待されているものです。

・宇宙輸送システム。つまりロケットと射場です。ロケットは現在H2というタイプですが、各段に安価で信頼性の高いH3というロケットを開発しているのと(H32年初号機予定)、イプシロンという固体燃料ロケット(安保上非常に重要)でH3のサブロケットブースターと共用できるというすぐれものロケット、そして射場は現在打ち上げ能力がいっぱいいっぱいで、多くの衛星を打ち上げようとすると必要になってきます。これは宇宙エコシステムの大幅な予算削減と国際競争力の強化にとって必要なものですが、民間の活力を導入しようと言う動きがあります。

・宇宙状況把握。SSAと呼ばれていますがアメリカと協調してその名の通り宇宙の状況監視を行うシステム構築を行おうとするものです。

・海洋状況把握。MDAと呼ばれていますが、これは宇宙でなく海洋の状況把握。とりあえず海保で地上システムの構築を始めたところです。

・情報収集衛星。昔、北朝鮮の不審船事件を契機に日本独自の監視衛星を上げようということになり、定期的に必要な衛星を打ち上げています。データ中継衛星の打ち上げは喫緊の課題です。

・その他、即応型の小型衛星であるとか、静止気象衛星(H35年までにひまわり後継)、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)、次期技術試験衛星、Xバンド防衛衛星通信網、X線天文衛星(H32年度)などが現在の計画です。ちなみに宇宙ステーションは2024年まで延長することで国際合意しましたし、それへの新型補給機HTV-Xも詳細設計に入っています。

社会的課題解決を目指す民間団体を支援しよう!

地域地域には、商店街活性化やシャッターを開ける会、子育て支援や介護支援、地域産品活性化や就農支援などなど、ありとあらゆる社会的課題に対して、NPO職員やらボランティアとして、あるいは事業家として、熱意をもって取り組んでいらっしゃる心の清らかな方々がいらっしゃるものです。

そうした活動は社会的意義が高いものが多いのの、なぜ行政でなくて民間がそうしたことに取り組まざるを得ないのかというと、行政では痒いところに手が届かないからであって、直接関与することに馴染まないからです。

一方、そうした活動家は、当然ですがそれだけで食べていくのは困難な場合が殆どで、大抵の場合は地方自治体から補助金を受けているのですが(もちろんそうでない場合もあります)、補助金で成功しているケースはまれで、これまたほとんどの場合がカネの切れ目が縁の切れ目で、補助金ありきの事業になってしまっているケースも多い。

そうした結果、巷でよく聞くのが、うちの市長は理解がない、とか、うちの町長はやる気だけはあってもカネがない、などなど。

そうした活動家に対して、政治として本当に放っておいていいものかというと、そうではないはずで、何かしらの支援の枠組みができないものなのかしらということになる。補助金はありだとしても、事業家が自ら民間資金を呼び込んで、ある程度のガバナンスをもって、熱意と誇りをもって事業として社会的課題を解決できるような団体に育ってくれたらそれ以上のことはありません。

そうした社会的事業・ソーシャルベンチャーの支援制度の制定を目指し、党政務調査会に特命委員会が立ち上がりました。といっても、10月末のことであって、税制やらなにやらで執筆をサボっていたので報告が遅れました。これも事務局を預かることになりました。

タイトルは、社会的事業に関する特命委員会。会長は伊藤達也先生です。実はこうしたソーシャルベンチャー支援の取り組みは政府も全く行ったことが無いかと言えば何回か試みはありましたが、改めて再チャレンジです。対象はNPOに限らず、事業家も含まれます。これまで5回のヒアリングを行いました。第一回目は、古田秘馬さんに党本部にお越しいただき、役員だけで会議の進め方や方向性などの議論を古田さんを交えて行い、顧問役についてもらうことにしました。

これまで、ETICの宮城治男さん(この道の大家)、坂の途中の小野邦彦さん、宮崎県日南市で商店街活性化を成功させつつあるテナントミックスサポートマネージャの木藤亮太さん、また古田さんも関与しているスペインバスク地方ビルバオ市の人材育成や地域活性化の成功事例としてスローフードビスカヤ名誉会長のマリアーノ・ゴメスさん、寄付文化醸成に熱心に取り組んでいらっしゃるドットjpの佐藤大吾さんや、公共施設を利用した民泊を推し進める丹埜倫さんなどからヒアリングを行いましたが、いやはや大したものです皆様。

いつかまた詳細に内容について報告したいと思っていますが、世の中には発想の自由な人がいることを改めて気づかされます。

 

 

現役世代が将来受給するときの水準を考えた年金制度

年金の改革法案の国会での議論が全く噛み合っていません。

それもそのはず、日本経済新聞が言うように、「深まらない議論になった背景には民進党の戦略も透ける。民進党は同日の審議の答弁者に塩崎恭久厚生労働相を呼ばず、質問を首相に集中させた。そもそも政府・与党が掲げる「現行制度の改善」を議論するのが狙いではない」「旧民主党が第一次安倍政権を追い詰めたときのように、年金問題を政権追及の柱に育てる狙い」(10月13日)だからです。

過去の政治が将来のことを考えずに今さえよければ的発想で今までやってきたから現在困っているわけで、改革しようとしないのは今の政治のやることではありません。念のためですが、困っていると言っても、現在の年金制度でも財政的には全くもって安定していて、破綻するなどと言ったことはありません。将来世代の給付水準(と所得代替率)を数%上げたいという「現行制度の改善」が狙いです。

国会の審議では、政争の具にするのではなく、政府が何をやろうとしているのか、を詳らかにし、議論によってより良い制度にすることが目的な筈です。それを願ってやまないわけですが、改めてここでは、日本の年金制度はどうなっていて、これからどうなるのか、を示しておきたいと思います。是非お読みいただければと思います。

詳細に入る前に、簡単に言えば、物価が上がっていて手取り賃金が下がっている場合(もしくは物価は下がっているけど手取り賃金はもっと下がっている場合)、次年度の年金受給額は据え置きで変わらなかった(もしくは物価分しか下げなかった)のを、賃金下落分下げますという法律です。それ以外の物価推移や賃金推移の場合は変わりません。それにより浮いた分を将来世代の支給額改善に回そうというもの。

今日、政府が発表したとされる数字について、新聞報道によれば、新制度を過去10年に当てはめると年金支給額は3%減る、夫婦だと7千円ほど減る(将来受給は7%改善)とのことですが、大切なのは現役世代の名目賃金もそれくらい下がっているはずだということです。若い人も賃金が減って苦労しているのに、年金だけ高いまま据え置きになっていた。皆さんはどう思いますか。ご年配を支える若者が負担に喘いで元気がなくなるから支えるエネルギーがでなくなるとは考えられないのでしょうか。

他党さんも今より年金が減る場合があると喧伝するのはいいのですが、そもそも物価と賃金水準に連動して適切に給付水準を調整しないとバランスが悪くなることは必定なのにもかかわらず、政治的配慮(?)で下方調整はあまりしてこなかったのですから、今こそ少しでも正常な形に戻していくべきです。受給者世代への配慮によって将来世代の受給が減ることを容認するわけにはいきません。昔の政治が将来のことを考えずに今さえよければ的発想で今までやってきたから現在困っているわけで、改革しようとしないのは今の政治のやることではありません。今なら本当にお困りの受給世帯を代替手段で救済できますが、将来につけをのこすとはできません。

ただ1点、多少気にとなるとすれば、景気後退期、GDPの6割を支える消費の内、35%を占める無職年金受給世帯の所得が減れば、消費にインパクトがある点です。年金を経済政策と見るべきでは絶対にありませんが、この種の政治的配慮は裏から見れば経済的に浮揚効果、いわばビルトインスタビライザー的な効果があることは否めません。ここはあくまで余談です。

以下、細かくなりますが、説明します。

1.現状社会保障の全体像と現行年金制度

・社会保障の全体像
社会保障全体の給付は2016年度の場合、118兆円です。年金が56.7兆円、医療が37.9兆円、介護や子育てなどその他が23.7兆円です。この合計118.3兆円をどうやって捻り出しているかというと、現役世代が保険料として国に払う35.6兆円と、事業主が保険料として払う30.7兆円と、国民が税として払う32.2兆円(国税)+13.1兆円(地方税)、そして年金運用基金の運用収入などで6.7兆円です。詳しくは下記まで。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000128232.pdf

・年金保険料は固定される

基礎年金(国民年金)の納付額(国民が保険料として支払う額)は年々上がっていますが2017年より固定され、16900円です。厚生年金も年々上がっていますが、これも2017年で固定され、(その月の報酬)×18.182%を労使折半します。例えば20万円の月給の人は会社が18182円を国に払い、ご当人も18182円払います。これ以上上がりません。つまり負担の上限は決まっています。

・年金給付額の原則

給付はどうなるのかというと、少し複雑です。まず原則論を書いておきます。基礎年金は、65008円×納付した月数/480を受給年齢から貰えます。これをAとします。厚生年金は、平均標準報酬×5.481/1000×被保険者期間(月数)/12です(平均標準報酬はボーナスを含み、過去の賃金は現在価値に評価します)。これをA’とします。

・年金給付額の調整(複雑ですがここは今回改正の理屈に関するところです)

ここは何を言っているのか分からないほど複雑ですが、お付き合いください。現行制度で上記AもA’も同じ理屈で物価や賃金などで調整されます。ここで物価や賃金で調整と書きましたが、当たり前のことながら念のため書くと、物価で調整するというのは支払う人に寄り添ったポリシーで、賃金で調整するというのは現役世代の負担に寄り添ったポリシーになります。

で、基本的には、年金支給額は物価が上がれば上がるし、下がれば下がります。更に、将来の人口構成や平均寿命を考慮して更に調整をかけています。マクロ経済スライドという名前で知られていますが、単純に0.7%引きます。この数字は毎年調整されます。つまり、例えば物価が1%上昇すれば次年度の年金支給額は1%−0.7%=0.3%上昇します。(もう少し言えば今回の改定で、受給世代への配慮から、この調整によってマイナスになるようなら0と言う下限は維持して、残りは次年度移行の景気回復時にキャリーオーバすることになりました。例えば0.3%の物価上昇でスライド調整が0.7だと本来0.3-0.7=-0.4%ですが、ここは0に維持して0.4%分は次年度以降の景気回復時に0.4%引こうというもの。)

ただ、経済状況が通常とは異なり、名目賃金(手取り賃金)は上がっているけど物価がもっと上がっているとき(実質賃金マイナス)(賃金<物価)は、年金給付を物価水準に従って上げてしまうと、現役世代の負担が増えるので、原則として物価上昇ほど上げずに賃金水準で上げることになっています。賃金上昇が0.5%で物価上昇が2%なら、次年度年金支給額は0.5%上昇するということです。

ここからポイントです。同じ実質賃金マイナスのケースでも、物価だけ上がっていて賃金が下がっている場合は、本来賃金ベースでマイナスにすべきところ、そうすると受給世代の負担が増えるので政治的配慮で据え置きになっています。つまり、物価が+1%上昇で賃金がー1%下落だと、次年度年金支給額は0%変化で変わらないということです。

更に同じ実質賃金マイナスのケースでも、物価は下がっているけど賃金もそれ以上に下落している場合、本来賃金ベースでマイナスにすべきところ、同様に政治的配慮で物価下落分だけ年金支給額を下げる制度となっています。(ちなみに以上の説明は新規受給対象者の場合は若干異なりますが説明は省きます)

2.今回何が変わるのか

野党側から下がる下がると指摘されているのは、上記の”年金給付額の調整”で触れた部分の一部です。すなわち実質賃金がマイナスであって、物価は上がっているが賃金が下がっているときと、物価は下がっているけど賃金はもっと下がっているときです(名目賃金<0<物価、もしくは、名目賃金<物価<0、のとき)。

賃金が下がって物価が上がるのは厳しい状況ですが、現役世代は給料が下がっている上に年金負担が増える(正確に言えばその時の負担は増えないが将来受給する水準が下がる形で負担が増える)ことになります。今までは支給額を減らさずに据え置きでしたが、原則、この状況の時は、年金支給額を賃金水準によって決定しようとするものです。物価は下がっているけど賃金はもっと下がっているという時も、これまでは物価水準で決定していたものを、賃金水準で決定しようとするものです。

改めてですが、今回の改正は、賃金(名目でも実質でも)が上昇基調にあるときは全く関係ありません。変わるのは、名目賃金が下落し、かつ、実質賃金が下落のときです。

3.ついでに

・受給資格は現在25年(今回の改正で10年に短縮)

年金は、受給資格期間である25年以上納付していないと受給できませんが、これを今回10年に短縮しようとしています:年金機能強化法案。

・厚生年金と共済年金は一元化されています

共済年金と厚生年金は既に一元化されています。なので原則として掛け金は後に述べるように一緒です。給付も同じです。ただし、正確に言えば、移行期間が数年分あります。

・厚生年金には所得制限があります

厚生年金(共済年金)の受給には所得制限があります。例を挙げれば65歳以上で年金受給額を合わせて46万円以上の収入のある方は、それを超えた分は受給額が半分になります。例えば月給が35万、厚生年金が15万の場合、合計50万なので、(50−46)/2=2となり、厚生年金受給額が13万になります。詳しくは下記まで。
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.files/0000000011_0000027898.pdf

・受給開始年齢

厚生年金の支給開始年齢は65歳ですが、現在60歳から段階的に引き上げています。今ご自身が何歳で男性か女性かによって支給開始年齢が決まります。例えば今50歳の人は男女とも65歳です。なお、基礎年金の支給は65歳ですが、60〜70の範囲で選択できるようになっています。60歳から貰えば3割減、70歳までがまんすれば3割増支給されます。この部分は政府からみれば財政中立です。

人口減少時代の働き方とワークライフバランス

働き方改革、ワークライフバランス、長時間労働是正、という言葉が流行り言葉になっていますが、今回は、このことについて触れておきたいと思います。

人口減少社会にあって労働力が低下することは必至です。ならば、女性の社会進出と高齢者の雇用継続は避けて通れない問題です。日本の労働関係法の不備や慣行によって阻まれる問題を解決しなければなりません。長時間労働慣行が女性の社会進出を阻み、保育所や特養等公助需要を増大させ、非正規労働者の固定化に繋がったりと、大きな問題を含んでいます。昔的な人権という問題ではなく、社会システム全体の問題であって、慎重に早急に環境整備を進めて行く必要があります。

理想の国家像としては、働きたいと思う女性や高齢者が躊躇なく働ける環境、そして世帯の中で自助・共助の精神でお互いを助け合い、困難な場合は保育や特養といった公助がしっかりとサポートをする国家。正規労働者と非正規労働者という区別が意味をなさなくなるような、自らが納得して夢をもって働くことができ、頑張れば納得いく地位が得られるような、多様な働き方を受容する環境が整っている国家です。

○配偶者控除と夫婦控除と世帯控除

環境整備の一つが数年前から議論され続けてきた所得税法の改正です。そもそも所得税改革が議論されてきたのは、出生率に影響する若年層尾世帯の社会保障負担が増え可処分所得が低下していることに端を発したものです。若者の負担を軽くしてあげないと日本がもたない。例えば昨年提出された年金制度改正法案も財政上は安定しているものの将来受給世代の給付水準の引き上げを狙ったものでした。配偶者控除の扱いは主要な議題の一つです。

いわゆる103万円の壁(配偶者が、税の優遇制度上、年収103万円を超えないようにしか働かない)という問題です。現在の制度では、配偶者の所得が年間103万円を超えると世帯主は38万円の配偶者控除が受けられなくなり、条件付きですが103万円~141万円の間であれば配偶者特別控除が受けられますが、逆比例的に141万円に至るまで38万円から0に控除が減額されます。一方で、配偶者自身の基礎控除は、配偶者が65万円以上働いた時点から比例的に控除額が0から比例的に増加し103万円の時点で38万円の基礎控除が受けられます

つまり、税制控除が最も受けられるのは丁度103万円の時で、世帯主の38万円の配偶者控除+配偶者自身の38万円の基礎控除、合計で76万円の控除が世帯で受けられます。これが103万円の壁と言われる問題で、配偶者は自身の所得が103万円を超えないように働くことが得だと思う制度になってしまっています。税制が配偶者の働き方に歪みを与えてしまっている。

であれば夫婦合計の年収に控除を設ける制度にしたらいいのではないかという議論が夫婦控除です。党内ではその他の案も議論されていましたが、夫婦控除という考え方が主流です。党内ではまだ議論が始まっていませんが、報道が先行していて、解散風に飲み込まれたのか、配偶者控除廃止と夫婦控除導入は延期して、103万円の上限を150万円にして世帯主の年収を要件にする方向で検討されていると聞きます。理由は、配偶者控除を廃止して夫婦控除にすると、税制中立(税収が減りも増えもしない制度)だと、減税世帯もあれば増税世帯もあり、世帯主が高所得の場合は特に増税になるのを嫌がったとのことです。報道なので真実かどうかは分かりませんが、本当であれば少し残念です。

もちろん大切なことは税制が働き方をゆがめないようにすることです。しかし一方で、自助共助を促すことも必要です。フランスのN分N乗税制を参考に世帯控除にすれば、核家族化の一定の歯止めになるであろうし、公助負担の軽減に繋がるのではないかと思います。夫婦控除が導入されたのち、この部分は議論を更にしていく必要があると思います。

○同一労働同一賃金

単純に非正規従業員が正規従業員と全く同じ仕事をしているのに、給料が何倍も違うのは理不尽じゃないか、ということに端を発する問題ですが、本質的にはもっと根深い問題があります。もちろん基本的にはこの同一労働同一賃金という言葉がもつニュアンス以上に、雇用形態のみを理由とする不利益取り扱いを排し、客観的な理由のない不利益取り扱いを禁止していかなければならないのは論を俟ちません。

問題は、労働慣行です。日本は職能給(人への報酬)、欧米は職務給(地位への報酬)です。日本は所属部署に関係なく、企業と従業員の契約になりますが、欧米は所属部署との契約。つまり、欧米の真似をすると職が固定される傾向にある。何が起こるかと言えば、A部署は課長以外全員非正規で、B部署は課長以外全員正規。AもBも欠員がでれば社外から募集。そういうことも起こらないとは限らない。これはあくまで例であって、その他に検討すべきことが沢山あります。そうした問題を無理に規制するよりは、いかような労働環境がベストなのかというそもそも論から始めないといけません。同一職種をどう定義するのかにもよりますが、木を見て森を見ずにならないような制度にしなければなりません。

○ワークライフバランスと長時間労働と女性就業率

多くの勘違いがあるのがこの言葉です。単に、個人が仕事と家庭の両立を図って「豊かな生活」を送れるようにすること、と言ったミクロ視点での文脈で理解されがちですが、そもそもこの言葉の意味は、よりマクロ的な視点で働き方全体を国家的に見直して、ワーク(仕事)とライフ(家庭内の介護や育児や教育)の好循環を生むことが本質です。社会全体構造の変革が必要です。例えば、企業が全体の働き方を見直さずに表面的に休暇制度を導入すると、独身者の負担が増え、家庭もちとの対立によって、企業の効率が落ち、企業収益も落ちることになります。また、長時間勤務により睡眠が短くなりミスが多くなると仕事量が余計増え、新しい価値を生む知的活動の時間も意欲も少なくなり、結局生産性が低下します。近視眼的ではない俯瞰的な構造改革が必要との観点は、そもそも私自身、小室淑恵さんの講演を聞いて初めて理解した観点です。彼女の講演の要点(大野のメモ)を付しておきます(もっともこの視点は地方という観点には馴染まない部分もあります)。

・少子高齢化社会ではワークライフバランスが必ず求められる(社会ニーズ)。

少子高齢化人口減少対策として出生率の向上と女性の就業維持を同時に行う必要がある。そのためには男女とも働き方全体を見直す必要がある。
―出生率と女性の就業率は正の相関関係がある。女性が働くほど出生率が高い。
―女性が就業しやすい環境をつくることが重要である。
 ⇒女性が保育と教育の両面で安心して子供を預けられる質の高い保育所を確保し待機児童を解消すること。
 ⇒企業に支援制度を義務付け、守れない企業にはペナルティをかけること。
 ⇒男女ともに労働に規制をかけること。
  ・フランスやドイツでは週35時間労働の規制がある。
  ・EUでは前日帰宅した時間から11時間休養を取る労働規制がある。
  ・国際会計基準では、従業員が積み残した有給休暇は全額バランスシートの負債に算入することになっており、ある種の労働規制になっている。
―真の少子化対策は男性の働き方の見直しだ。
 ⇒出産の最大阻害要因は経済的理由だ。男性の帰宅時間を早めることによって、女性が仕事を辞めなくて済み、共働きによって経済力が増し出生率が向上する。
 ⇒女性が出産で仕事を辞めて再度パートした場合の生涯賃金と、3回育休をとって定年まで働いた場合の生涯賃金の差は、5千万から2億円違う。
 ⇒子供が1人いる家庭で2人目を生んだかどうかと、1人目を生んだ時の夫の帰宅時間や家事育児の参画時間には、綺麗な正相関がある。

・ワークライフバランスは福利厚生ではなく企業の経営戦略だ(企業ニーズ)。
―従業員の人口構成の問題。長年の不況による新卒採用見送りと団塊世代の退職により、仕事が中堅に降りかかり、彼らの労働時間が増え、精神的問題等で生産性が低下する。
―優秀な人材を確保するにはワークライフバランスが必須。労働力人口減少により売り手市場になっているが、その売り手が企業選択で最も重視するのは労働と生活の両立である。
―企業が経済原則で個別に自由に労働時間を設定すべきだという考えがあるが、これは働きたくないと思う人間を増加させるだけで労働力の意味で地盤沈下になる。
―潜在労働力である女性の活用は必須だ。
 ⇒女性の潜在労働力の活用により、日本のGDPは16%向上するという試算がある。
 ⇒女性の働き方のロールモデルが必要。その不在が女性の就業継続の阻害になっている。男性には常に目指したい理想像、ロールモデルが存在する。
―介護も極めて重要なキーワードだ。
 ⇒従業員が主たる介護者になる場合が極めて多い(介護休暇の管理職の例など)。
 ⇒現在の子育て世代は団塊ジュニアだが、この世代は晩産化。つまり介護と育児が同時期になる可能性が高い世代であり、育児・介護・共働きの3重苦となる。

・働き方を変えないと政府の財政を圧迫する(国家財政的ニーズ)。
―介護と育児と仕事の好循環を生むことこそが大切である。
 ⇒長時間労働により、定時以降の子供の保育と教育の需要が増し、介護に携われないから公的介護の需要が増し、女性が働けないから年金需要が増し、企業は新規雇用を控えるため若者の就業機会が失われ、結果的に公的就業支援の需要が増え、結局すべて公的福祉の需要になって政府の財政を圧迫。
 ⇒増税をしても増税を繰り返さなければならない負のスパイラル構造。
―国民が自助努力する環境を作らなければならない。国民は行政に頼ろうとしているのではなく、時間がないという問題に陥っているだけである。
―したがって、短時間労働が日本を救うことになる。2つだけ戦略を示す。
 ⇒長時間労働を強いる企業は損をするという制度の導入。
 ⇒徹底的に質の高い保育の拡充による待機児童解消。
―この1~2年でこの循環を変えるしかない。なぜならば出産適齢期の女性の人口が減っているからである。

臨時国会が始まりました

臨時国会が始まりました。第二次補正予算、来年度予算、TPP、所得税抜本改革を始めとした税制、憲法審査再開が主だったところですが、今回も多くの法案を抱えてのスタートとなります。

私自身は、引き続き財務金融委員会、外務委員会、地方創生特別委員会に所属し、所掌の案件の審議を行います。

党では、今期から財務金融部会長代理として金融機能強化法など財務金融政策の審議を担当します。その他の政務調査会の会議では、これまでどおり、農林部会、中小企業小規模事業者政策調査会、雇用問題調査会、行政改革本部、宇宙海洋開発戦略特別委員会、知的財産戦略調査会、航空政策特命委員会、を活動のフィールドとしつつ、また新たに立ち上がる会議体である新経済指標検討や社会的起業促進でも活動を始めます。

引き続きご指導ご鞭撻を賜りますようよろしくお願いします。

日銀の新金融政策:イールドカーブコントロール

先週、日銀が新しい政策を発表しました。題して長短金利操作付量的質的金融緩和。年初にマイナス金利というサプライズ政策を導入し、7月にはETF購入倍増を発表し、また新しい政策の発表です。日本の経済に何が起きているのか、を見てみたいと思います。

結論から言えば、経済成長は+1%程度の回復基調に戻るとの予想を私は支持しています。

3年9か月前からざっくり見てみたいと思います。第二次安倍政権発足後のいわゆるアベノミクスで導入した大規模な金融緩和と財政政策によって、金利低下、円安、企業収益の改善、設備投資や雇用環境は改善、名目賃金は上昇、一方、金融緩和要因+円安要因ー原油価格下落要因+消費税導入要因で緩やかな物価上昇、実質賃金を押し下げ(名目賃金上昇が弱い)、消費は後退。

今年に入ってマイナス金利の導入で一段の金融緩和が実施されるも、主に政治要因によって円高。新興国経済低迷も相まって企業業績の多少の弱含み。設備投資も弱含み。総需要の後退と円高要因によって(原油価格上昇要因を吹き飛ばして)物価上昇率低下。結果、日銀が目指す物価2%上昇は未だ達成されていない状況です。

つまりデフレからの回復基調は続いていて、物価が継続的に下落するような状況からは脱出できているものの、力強いわけではない。そして、重要なのは、これは上で述べたようなスタティックなデフレギャップや輸入物価だけが原因ではなく、未だにデフレマインドは根深いということです。昨年、地元のとある製造業の社長さんが、昔はちょっと景気が悪くなっても直ぐに上向くという感覚が体に染みついていたけど、今はアベノミクスとっても、ちょっと景気がよくなったからって直ぐに悪くなるような気がする、と嘆いていたことを思い出します。

従って、処方箋としては積極財政による需要創出と期待インフレ率改善のための更なる金融緩和というポリシーミックスが必要だということになります。

そこで前者に関しては、先月、未来への投資と題して積極財政に転じたので(以前は減税ベース)、総需要がGDPギャップ以上に創出されるはず。残りは期待インフレ率向上のための金融のもう一段の緩和が求められていました。

ただし、金利が下がればいいわけではない。金利を短期から長期まで結んだ曲線をイールドカーブと言いますが(長期の方が金利は高いのが普通なので右肩上がりのグラフ)、今年のマイナス金利導入で短期の下落以上に長期の下落が進み、イールドカーブがかなりフラットになっていました。こうなると銀行運営(貸出減少や収益低下)や年金資産運用で問題がでる。

そこで今回日銀が発表したのが、長期である10年債の金利は0%になるように操作する、短期は更に深堀もあり得る、これによってイールドカーブをスティープ化する、というもの。これを受けて市場も直ぐに反応し、10年金利は0%近くになっています。これにともなって20年債や40年債も上昇しました。さらに、オーバーシュート型コミットメント(というややこしい名前を日銀が付けましたが)、物価上昇率が2%を超えても安定するまでは緩和は続ける意思を明確に示しました。

これによって実体経済としては、先の記事で書いたように、金融機関が貸し出しに積極的になり、中小企業にとってもよい状態になればと思います。

ただ、手放しで喜べるかどうかは見守る必要があります。もうかなり大胆であることは間違いない。黒田総裁の危機感と気迫さえ感じます。

例えば、イールドカーブをスティープ化するということは、ある種のインプリシットなテーパリングではないかという見方もできるし、もっと言えば引き締めになって円高バイアスがかからないのかとか、政府が0金利で資金調達できるヘリコプタマネーに類似するという見方もあるし、0%にするために無制限に国債買い入れを強いられることはないのか、そもそも適切な金利水準はどうなのか、基本的に様々な要因で決まる特に長期金利をうまくコントロールできるのか、はたまた少し将来の話をすれば、既に450兆円も積みあがっている膨大な国債や投信の将来価値が円通貨の信用性にどうかかわるか、オーバーシュート型コミットメントで達成はどう判断するのか、判断して急に国債買い入れを止めたら金利が急上昇しないか、そもそも年限を切るのをあきらめたことになるのではないか、あるいは逆に、これまで日銀はいくらでも国債を買う方針でしたが適切と考えるレンジで買う方針に転換したので場合によっては国債売却インセンティブが低下して買い入れペースが鈍化しないか、などなど。気にし始めたらきりがないですが・・・。

いずれにせよ、この機に経済を立て直さなければならないわけで、放置してもいいわけでもなく、是として注視していかなければなりません。