経済財政の基本的考え方

折に触れて経済財政の基本的な考え方を聞かれることがあり、今一度この場で触れておきたいと思います。主題は、物価高騰への対応と経済対策のアプローチです。

まず大原則としては経済成長を最優先するということです。当然ですが財政規律が政治目標になることはありえません。その上であるべき経済政策の方向としては、内需拡大と供給力や生産力の強化、それを通じた賃金上昇が急務という認識に立っています。

すなわち成長が財政を上回ることを目標とすべしです。まず必要なのは、成長への大胆投資です。経済成長は3要素、つまり労働・資本・全要素生産性で構成されますが、我が国は、人口減少で労働は減少、海外投資拡大で国内投資は減少、の傾向にあるので、必要なのは、全要素生産性、すなわち科学技術イノベーションに注力した上で、国内投資を拡大する必要があります。労働力減少と金利上昇(加えて言えば交易条件の悪化)が加わった困難を乗り越えての成長を目指さなければなりません。

加えて為替や供給網脆弱化によるここ数年の物価高騰に対しては、何よりも最大の武器となるのは、賃上げを伴う価格転嫁構造の実現です。まずは甲斐より始めよ。政府は公的事業者の元請けとして価格転嫁に応じるべきで、公定価格や政府関係事業等の政府調達は全て物価スライド(※)を導入すべきとの立場です。その上で特に中小企業の価格転嫁が実現できていない現状に対して下請法の改正を実現すべきとの認識です。

更に加えてトランプ政策の影響対策です。トランプ政策は、関税交渉・国内経済対策・国際秩序の3点を考える必要がありますが、国内経済対策に限って言えば、関税交渉の行方にもよりますが、自動車を筆頭に北米市場の需要減少の影響を受ける可能性のある業種があり、それによる雇用や賃金の下方圧力が加わります。従って、生産力強化と共に、内需拡大を目的とした時限的な減税も視野に入ります。経済対策の規模(※)は相当額用意すべきです。

もちろん今後は金利がある世界に入っていくことに加え、日銀がその保有する500兆円の国債を年間数十兆円づつ放出する予定であること、その国内民間引き受けキャパが100%ではないこと、従って海外引き受け量が徐々に拡大してしまうことを十分に念頭に置いた運営は必要なのだと思います。

※物価スライド)当然ですが物価上昇過程で増加する政府歳入増(税収増)に見合った歳出増を行わなければ、物価上昇で政府が民間から富を吸収する形となります。実際は他の政策経費として歳出を増やしていますから、必ずしも吸い上げているとは言い切れませんが、本来のあるべき姿ではなく、直接影響を受ける事業者にとっては全く予見性のない予算措置となっています。出すべきところにまずは出し、その上で政策的に必要な領域に投じるのが筋です。この点、今の政府の歳出ポリシーは結果が同じになったとしてもアプローチが基本的に間違っていると感じます。

※経済対策の規模)現下の物価上昇はコストプッシュ要因の比率が未だに高いと認識しています。従って、まずは交易条件の改善の努力(例えばデジタルサービス赤字の改善など)は当然として、経済対策の規模は基本的には交易条件の悪化分を財政投入すべきと考えています(10兆円程度か)。