改めて国際秩序について

今日、中長期的視点に立った外交勉強会があったこともあり、改めて国際秩序について記しておきたいとおもいます。再掲部分が大半ですがお許しください。

中国は、小平(ドン・シャオピン)以来の改革開放によって独自の発展モデルを作り上げ、目覚ましい経済発展を遂げていますが、独自の安保システム構築をも模索しており、軍事費増大や急進的海外戦略(例えば南シナ海)によって諸外国との軋轢を生んでいます。

その一方で、先進国ではグローバル化等によって低所得者層の所得は伸びなやみ、格差が拡大、既存の民主主義では内政の安定化ができないほどに不安定化し(選挙)、排他的自国優先主義の跋扈によって国際政治が不安定化するというプロセスをたどっています。

エレファントカーブ(像の鼻)という有名なグラフがあります。全世界の所得階層毎の過去30年の所得の伸びを示している図で、横軸に所得階層(左が貧しく右は金持ち)、縦軸は30年間の所得の伸びになります。すると、まるで象の鼻のようなグラフができあがり、名前の由来になっています。

左から新興国低所得層は20%程度(象の尻)、新興国中間層は80%程度(象の背中)となり、先進国内の中間層は0%程度(象の鼻の付け根)、先進国高所得者は60%(像の鼻の先)となります。

つまり、新興国の低所得者層に位置する人たちも、確実に賃金は上がっているのに、先進国の中間層のみが賃金が上がらず、世界の中で唯一割を食った結果となっていて、その結果、民主主義国家は政治が不安定化するということになります。

中国でも近年の急速な経済発展によって格差問題が顕在化していますが、その低所得者層でも、賃金は伸びていて、確実に生活レベルの改善が実感できている、ということになるのだと思います。

もちろん中国共産党も、恐れていることは格差による政治の不安定化なのだと思います。民主化されていないので、選挙が無い分、不安定化リスクは民主主義陣営ほど顕著ではありませんが、確実にその可能性はある。そして著しい成長を遂げたと言っても、格差が存在するのは事実で、内陸部や中西部は未だに豊かではない。だからこそ、仕事を作り、社会保障制度を作り、発展モデル都市を作り、ということを中国政府は懸命にやっていて格差是正に努めている。その結果として、ひずみが海外戦略に表れていて、諸外国からの批判に繋がっている、と言えます。(このあたりの件は、丁度2年前くらいに記事にしているので、ご興味があればご高覧ください。  https://keitaro-ohno.com/3405 )

一方、民主主義陣営の最近の傾向は米英で特に顕著で、ブレクジットは合理的に考えれば圧倒的不利益を被ることが分かっていても国民は新しい革新を求めて離脱を選択した。アメリカもアメリカファーストの旗印の下、長期的に利点の多い国際政治の安定化より短期的な自国の利益を優先する傾向にあります。トランプ大統領だから、とうよりも、前述のように構造的にそうなる可能性を秘めています(もちろん反動で元に戻る可能性もありますが)。こうした国際社会の動きは、20世紀初頭の世界のパワーコンフリクトを彷彿とさせるものがあります(地政学の復活)。

もちろん戦前とは要因やタイミングや規模が全く違いますが、いずれにせよ、こうした異なる発展モデル同志の争いが顕著になるのであれば、今後はグローバル化が見直され、国家若しくは経済ブロックの役割が高まり、サプライチェーンは再調整される可能性があります。戦前の失敗を繰り返さないためには、WTOや国連など、既存秩序の維持に貢献してきた国際システムを改善し、政治対立や経済対立を緩和させなければなりません。さもなくば、明らかに対立が構造化してしまいます。そうなると世界が軍事拡大路線を歩まざるを得ず(既にその傾向がある)、歴史が繰り返されることになる。

更に言えば、構造化するだけならまだしも、その後に国際秩序が180度変わることもある筈です。もし国際秩序が中国を中心としたものになり、戦後に米英が中心となって構築してきた既存のリベラル秩序の延長線上にないものだとしたら、政治のみならず経済や文化も含めて、ゲームのルールが変わり、日本をアップデートどころかリセットする必要がでてきてしまいます。

ここまで読んで頂いて、そんなことはあるものか、と思われる方もいらっしゃると思いますが、民主主義がポピュリズムにドライブされる可能性のある政体である以上、既存秩序は不安定モードになる可能性を秘めたものだと理解しなければなりませんし、そうしたポピュリズムとは無縁の発展モデルは、善政が可能ならばという条件付きながら、覇権を握る可能性を秘めているのも事実です。

特に、プラットフォームビジネスに代表されるように、今後の経済覇権は人工知能やビッグデータが中心的役割を担うはずで、こうしたデータ駆動経済は一党支配体制との相性が極めて高い。新しいことを矢継ぎ早にできる。米国がファーウェイにびっくりするくらいの危機感をもっているのは、単にサイバーセキュリティの問題では全くないからだ、と理解すべきだと思います。

米中貿易戦争の行方が注目されます。これは国際秩序不安定化の端緒なのか、覇権争いの端緒なのか、対立構造化の端緒なのか。ビジネスのサプライチェーンが複雑に絡み合っている現代において、関税を引き上げたり引き下げたりすることによって、自国が有利になるかどうかは、短期的な意味においても単純には分からないはず。分かっていることは、間違いなく世界経済に負の影響を及ぼすということです。

欧米の混乱のなかで、既存のリベラル秩序を維持していく旗手は誰なのかと言えば、日本がしゃしゃりでていかなくても必然的に日本が期待されることになります。ここしか残っていない。日本が世界の秩序をマネージしたことは有史以来一度もありません。前人未到の難行を成し遂げるという覚悟を我々は持たなければならないのかもしれません。