農産物の輸出目標が先送りされるとの報道がありました(読売27日)。
農業の将来は輸出にあり、と基本的には思っています。品目にもよりますが、例えばコメ。
基本的に1合食べる人が突然2合食べるようにはなりません。むしろ減っています(私はコメ派)。しかも生産能力で言えば自給率100%。それどころか農家保護のため価格調整のために減反を行ってきました。やろうと思えば150%くらい行くのかもしれません。
通常の産業であれば、生産能力があれば海外展開を検討しますが、売れるわけがないと考えたのでしょう、過去の輸出額を見る限り、日本は海外展開を検討した形跡もありません。もちろん、過去には具体的な対象先がなかった。ですが、今は中国がある。中国には、日本の平均所得以上の人口が1割。つまり1億人。日本と同じ市場があるとも言える。ということで、最近盛り上がっているのが農産品の輸出です。
現在農産品の輸出額は、最近少し頑張って0.5兆円。5年以内に2倍の1兆円にしようというのが政府の方向性でした(閣議決定)。この部分は大賛成でした。が・・・、原発の影響で先行きが不透明になり、この目標値を先送りすることになりました。大変残念ですがやむをえないのかもしれません。
農業を取り巻く環境は日に日に厳しくなっております。品種は数十年前からみれば格段に向上、生産量も断然に現在の方が多いのですが、農業人口の激減と担い手不足が焦眉の急を告ぐ課題であると言えます。その背景は一言で言えば農業者の収益力の低下。農産物の生産額GDP比は確か1.3%ですが、農業者就労人口は2.5%。これは他の産業に較べて労働生産率が半分ということでしょうか。
ただ、それでも日米英仏独で比較すると、生産額GDP比はフランスの1.8%に次いで2位(3位:米1.1%、4位:独0.9%、5位:英0.8%)。人口比も1位(2位:仏2.2%、3位:米1.8%、4位:独1.7%、5位:英1.5%)。
ですから、日本の農業は衰退産業だ、全然ダメだ、という感覚は一旦捨て去った方がいいのかもしれません。日本の農産物は、うまい。品質的には、一部を除いては、絶対に国際競争力があると断言できます。であれば、海外に売っていく努力はしなければなりません。
現在、農協に貿易実務を担える人材、あるいは部門はありません。将来、20XX年、近所の農協の若き職員が、「ちょっと明日から中国に2〜3日出張に言ってくるわ」と言って、「1億の商談まとめてきたで」などという会話が成り立つような夢を見ています。例えばJETROなどと協調するなど、やろうと思えばできることはあると思います。
TPPの議論は、まさに、going nowhereです。TPPは貿易という観点からは必要ですが、貿易に必要なのはTPPではなくて、FTA/EPAです。日本国内の諸環境を築いていない状態で、アメリカの戦略に同調する形での参加など、必要があるのでしょうか。通常のバイのFTA/EPAを強力に推進すべきではないでしょうか。面倒だから一気にTPPで挽回しようというのは、少し浅はかであると感じます。
そもそもTPPはアメリカのアジア戦略です。一気にTPPで輸出産業を振興しようというものですが、日本のTPPは基本的に対韓国戦略です。であるならば、TPPで大枠の貿易交渉を行うよりも、バイのFTA/EPA交渉をしたほうが、メリットは最大化・最適化できるはずです。
そして駄文長文ついでに申し上げれば、現行の戸別所得補償は、もっと良い施策にすぐにでも変更すべきだと思っています。何故か。所得保障はEUでも実施されていますが、あくまで面積基準での補償です。とにかく頑張ってつくると補償される。ところが、日本の現行制度の場合、基本的には赤字がでたら補填するという補償。頑張らなくても補償される。似非農家が増えるかもしれません。供給は更に増大。結果として農産物の下落。(必ずしもそのためではありませんが)自民党が指摘してきたとおりに推移しています。以前に書いたように、政府による補償制度は、あくまで対象者の自尊心を大切にしなければうまくいきません。
ついでに勢いで申し上げれば、TPPに参加して生産調整を維持しながら赤字補填戸別所得補償をするというのは、政治的には可能かもしれませんが、論理的には破綻しています。
TPPではなく自由度の高いEPA/FTAで農業貿易と輸出産業を最適設計し、生産調整で何千億も使うのならかつてEUで行ったように輸出補償の意味合いで給付し、生産者補助としての戸別所得補償を行ったほうが理に適っていませんでしょうか。
驚く事実があります。中国にコメを輸出したいと考えた人がいたとします。どうやるか。下記の農水省のページをご覧ください。
http://www.maff.go.jp/j/soushoku/boueki/kome_yusyutu/china.html
つまり、とある処理をしなければならないのですが、それは中国が認可した唯一の施設(神奈川県の全農)でしかできないのです!じゃ、香川から輸出するのに、一旦神奈川に運んで処理して中国に送れと・・・。ここは中国にやられてしまっています。外務省はがんばらなければなりません。
かなり雑文になりましたが、いずれにせよ、農業政策は、我が祖国の大地を守る農業、という観点で見なければなりません。パッチワークもそろそろほどほどにしないければならないのではないかと思っています。