無形資産で社会を回す

■地方に眠る無形資産

地元に「天空の鳥居」として有名になった高屋神社(観音寺市)というのがあるのですが、私の知る限りにおいては、全国的に有名になったのはここ5年くらいの話で、その絶景がいわゆる全国放送の情報番組で取り上げられることが多くなりました。

それだけではなく、「日本のウユニ湖」として父母ヶ浜(三豊市)、中世ヨーロッパの古城として豊稔池堰堤(大野原町)、年に1度しか渡れない「子供の守り神」として津嶋神社(三野町)、「海の神様」金刀比羅宮(琴平町)、帆山ひまわり畑(まんのう町)、など、県外から多数の観光客が訪れる場所があります。

いわば再発見された場所もあり、プロモートされた場所もあり、単にSNSで広がっていったものもあります。結局、全国各地には、地元にいたのでは気づかない無形資産が多く眠っているわけで、そうしたものを、もう一度再評価するということは、今更ながらとても重要なことです。

■ハイテク分野にも眠る無形資産

地方創生的なものだけではありません。普段、人間が「なんとなく」価値に気づいていながらも、絶対的な尺度で評価していないものは沢山あります。例えば、ハイテクベンチャー企業。唯一無二の技術で特許を取得していながら、その価値が第三者によって正しく評価されないので、ベンチャー経営者自身が資金調達に困っていたり、資金調達ができないから折角の技術が社会課題解決に繋がっていないとか、そもそも投資家にとって機会を逸失しているという問題でもあります。

■無形資産を測る必要

知的財産や無形資産などのストックの価値を公正に評価できたら、世の中はもっとよくなるのではないか。もちろん、既にフローの価値に変換可能な領域は随分前から取り組まれています。例えば観光GDPというのは、20年も前から国連観光機関が標準化に取り組んでいて、国連が示している国民経済計算(SNA)の枠組みの中で、GDP本体とは別枠のTSA (Tourism Satellite Account)として位置付けられています。文化GDPも、同様に10年くらい前からCSA (Cultural Satellite Account)。実はここ5年で、新たな領域として、データ社会やSDGs社会の勘定もサテライト(別枠)勘定を策定する動きとなっています。

■ポテンシャルとしての価値評価が必要

ただ、これらは既にフローで計測可能な分野の標準化が試みられているだけです。例えば、前出の高屋神社には毎年何人くらいの人がどこから観光できているのかを測れば、フローに変換可能です。しかし、あくまで未だフローに繋がっていないストック価値を測れないのかということを考えるべきだと思っています。(逆に言えば、ポテンシャルが測れれば、実体とのギャップも測れるわけで、そのギャップの国際比較をすれば、どれだけ伸びしろがあるかも測れるようになると思います。)

例えば、大学やベンチャー企業の知的財産については、既に多くの投資家が知的財産を含めた事業全体を評価して出資判断をする場合が多いのですが、知的財産を保有する側が事業性の評価を積極的に行っていなかったり、第三者が積極的に評価していなかったり、もしくは大企業と共有特許となっていたりで、いわば眠り続けている場合が多いのも事実です。

いわば「守り」のための知的財産から「攻め」のための知的財産に転換し、ポテンシャルであったものを表に出していかなければならないのだと思います。この観点では、知財・無形資産に関するコーポレートガバナンスコードやそのガイドラインの作業が相当進んでおり、また大学知財ガバナンスの検討も進んでおり、私自身も党知的財産戦略調査会で議論に関与しています。

また、ESGに関わる非財務の指標開発を全力で進めるべきだと考えています。Eの環境分野は、早くから欧州中心にTCFDコンソーシアムでその指標化作業が進んでいます。Sの社会分野も、我が国では金融庁が中心になってソーシャルボンド検討会議などで進められています。こうした動きは、パーパス経営とか、ESG経営とか、CSV経営などと謳われることの多い経営方針の世界的潮流と密接に関係してきます。

指標の開発においては、ビッグデータ分析という手法も大いに参考にすべきであると感じています。
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■日本としての政策の方針

大きな目標は、世界で還流する7000兆円ともいわれるESG資金を日本の社会課題市場に投じてもらえるよう環境を整備して、日本をバージョンアップすることです。対象は入口は大手になるので、まずはESG指標群を整備し、コーポレートガバナンスコード(CGC)などを整備する。そして大手企業が地方や専門分野で活動するESGプレーヤに出資若しくは人的貢献をした場合のCGC反映のガイドラインを整備する。加えてSIBや信託スキームなど金融取引環境を整備する。手段は様々ありますが、推進していくべきです。

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