(写真:PT座長と共に提言内容を下村政調会長に報告)
■ビジョンの共有が最大のポイント
-役所目線と政治目線(コロナワクチン提言を終えて)-
少し前の話になりますが、コロナワクチンのオペレーションに関する提言書を、党コロナ対策本部情報戦略システムPT(以下情報PT)で1月29日に取りまとめました。そこに至った経緯と雑感を書き記しておきたいと思います。本稿の本題は最後に記しています。
なお、当提言はワクチンに関するものなので、一見1月19日に設置されたコロナ対策本部ワクチンPT(鴨下一郎座長)で議論されるべきものと映ると思いますが、当提言は当初システム追加を求める内容で1月中旬には整えてあり、ワクチンPTの設置はその後であったこと、また政府から同趣旨の新システム構想が公表され提言は急を要したことから、ワクチンPT幹部に相談し、政府新システムを前提としたものに書き換えた上で、当PTのみで了承を頂き、直ちに政府に提出、その後にワクチンPTに報告することとされました。この間、政府側では河野太郎規制改革担当大臣がコロナワクチン担当大臣に任命され(18日)、同僚小林史明代議士が大臣補佐官に任命されました(20日)。
情報PTは、橋本岳前厚労副大臣が座長を務めるコロナ関係の情報戦略やシステムの議論を行うPT(プロジェクトチーム)で、昨年菅政権発足と同時に発足したものです。恐らくそれまで私が上川陽子現法相を座長とするコロナ再流行コンティンジェンシープランPT(以下再流行対処PT)の事務局長を務めていたため、事務局長として座長からお声がけ頂いたのだと思います(再流行対処PTの提言については下記をご参照ください)。
keitaro-ohno.com/7658/
keitaro-ohno.com/8201/
■PT発足時の動き
情報PT初会合は昨年10月30日。当時は実は私もPTの明確な提言の出口が見えておらず(設立当初から出口が見えているPTは殆どありませんが)、システムが社会のニーズに合っているのか、合理的に運用できるシステムが構築できているのか、現場目線で合理的か、などをチェックすることから始めようと思っていた程度でした。しかし、その後、焦点がワクチン供給に向かうことになり、足らずのものが見えてきます。いずれにせよ初会合では、前出の再流行対処PT提言の政府進捗状況と、当時のコロナ関係情報システムの説明が政府よりなされました。
■コロナ関係情報システム(参考)
コロナ関係の情報システムはいずれも全国民を対象とする極めて大規模なもので、政府から見たシステムの目的は、現場医療機関の状況把握と不足品の調達供給、患者の人数や状況の把握、ワクチンの配布供給管理が主だったところです。具体的には、新規フルスクラッチものは、医療機関の稼働状況やサプライ品供給を担うG-MIS、コロナ患者の健康状態を管理するHER-SYS、当時開発初期であったワクチン供給システムのV-SYSのほか、既存システムを利用するのは、帰国者のフォローアップのための空港検疫業務支援システム、医療機関への人材支援を行うKEY-NET、ワクチン副反応把握システム、などで、機能を切り口にすれば、2つの系統に分けることができます。すなわちサプライチェーン管理系(Supply Chain Management: SCM)と利用者管理系(Customer Relation Management: CRM)で、前者はG-MIS, V-SYSなど、後者はCRM: HER-SYSなどです。
■昨年12月時点でのPTの動き
第二回目は、12月10日、訪日外国人対策PTとの合同開催でした。当時、党は水際対策を強化するよう政府に求めており、訪日外国人対策PTとしても政府に対処を求めることとなって開催されたものでしたので、情報PTよりも当該PTがメインの会議でした。政治目線の中心であったのが当時入国していた外国人の状況管理。一方で役所側はオリパラに向けたシステム開発状況の説明が多く、殆ど噛み合わない議論となりました。ただ、私にとっては大きな成果がありました。それは後述します。
■ワクチン供給に向けた党内雰囲気(1月〜)
今年1月に入ると本格的にワクチン円滑供給が本格的に議論されるようになります。党内では、現行のワクチンシステムV-SYSだけでは国民は安心できないという雰囲気に包まれます。理由は簡単で、国民が安心して接種するためには政府が日次単位程度で接種の状況を把握している必要があるのに、当時政府は把握しない方針であったというもの。状況というのは、日本各地で地域毎に接種者が何人いるとか副反応がどの程度で何人くらいなのか、という接種状況の把握ですが、政府としてはワクチンの円滑供給には関係のないものとして、扱われないこととされていました。もちろん、全く把握するつもりがなかったわけではなく、旧来のシステムに頼るのが政府の方針でした。
■当初の政府ワクチン供給システム
当初の政府の方針を簡単に説明します。国民には市町村から予診券(クーポン)が送られてきます。国民はそれを持って医療機関(接種会場)に行く。医療機関はその半券を市町村に回送することで費用請求する。市町村は受け取った半券を一枚一枚既存の接種台帳に入力し、そこで初めて市町村は市民の接種状況を把握、国はその市町村に問い合わせることで状況を把握できるとされていました。一方、会場で副反応が生じた場合は、医師が診察をし、必要であれば国に直接報告することが法律上義務付けられています。従って、国は副反応をそこで把握できるとされていました。
■情報PTの中心的問題意識
ただ、問題は接種者の把握は医療機関から市町村へ半券が回送された後になるため、理屈上は3か月かかってもおかしくない。実際はもっとかかる可能性もあった。一方で、副反応把握は電子システムも整備されていたにもかかわらず、現場負担軽減という理由でFAX等も許容していた。問題は主に2つ。1つは政権や政治の説明責任の問題。例えば担当大臣は、ワクチン接種が始まっても、日本で起こっていることを把握できないという状況が想定されていたということになります。国民から見て、大臣から3か月前のことを報告されても、全く無意味なことです。2つ目は危機管理です。不測の事態が生じた場合(と単純ではありませんが)、一番必要なのは状況把握です。つまり、不測の事態に対処できないことが想定されていたという他ありません。
■提言案作成
そこで情報PTとして急遽政府に提言を行うべきということになりました。1月初旬から会議での同僚議員の中身の濃い議論をまとめ、急ピッチで役所との打ち合わせを重ね、橋本座長と骨子を作ったのが1月中旬。この作業中に、冒頭で触れたように同趣旨の新システムが政府から公表されたり、ワクチンPT設置を党が決めたりで、取り回しの仕方に不安もあったのですが、同僚議員の思いもあったのでそのまま進めることに致しました。提言の内容は下記の通りです。
■本題:役所目線と政治目線
政治側と行政側の意見が合致しないことはよくあることです。大臣など政府に入った政治家の言葉は実権があるので別ですが、一議員としての提言ではよくあることです。その場合にこそ、一議員としてではなく、党の正式な会議でオーソライズすることで提言の正統性を担保するのが一番近道になります。ただ、それだけでも足りない。え?政治の言うことを聞かない行政というのがあるのか、とお思いになる方もいらっしゃるかもしれませんが、主にギャップが生まれるのは以下の4つの場合になるのだと思います。
一つ目は、ビジョンの共有です。目標と言ってもいいかもしれません。政治が行政に求めることは多岐にわたります。役所から見たら利益誘導や選挙目的と思われることもあるはずです。ビジョンは党内会議でしっかり発言いただける先生方がいらっしゃるときにはじめて共有されるものです。逆に言えば、このビジョン、つまり何のために、ということが明確にならなければ、役所は簡単には動いてくれません。更に言えば、一議員でもビジョンの共有ができれば動いてくれたりします。
二つ目は、実行可能性の問題。政治には行政の抱える前提とか制約(人的・財政的・法的など)が必ずしも見えていない場合があり、過大な要求を突き付けていて実行可能性が乏しいことです。例えば昨年、日本学術会議は、メディアによって存在意義を疑問視された際、政府への提言を沢山だしていると反論していましたが、行政と頻繁に情報交換する議会人であっても必ずしも制約を共有できていないので、明らかに言いっぱなしの提言であるはずです。党内では、この問題については事務局長がすり合わせる役割を担う場合が多いのだと思います。
三つめは、政治内での対立構造の問題です。党内でも意見は様々。第一第二の問題が解消されていたとしても、政治内で意見対立がある場合は決定的に動きません。また対立が無くても正しいプロセスで意思決定を行わなければうまくいきません。問題は何が正しいのかということです。平たく言えば社会的常識をもって行うということになるのだと思います。いずれにせよ、ここは政治家同士で意見集約を行わなければなりません。この部分を役所任せにしていた某党がありましたが、それでは全く機能しているとは言えません。また、党内の正式な会議で了承いただいたとしても、別の正式な会議で全く正反対の結論が出される場合もあります。ここは会議の委員長や座長の出番になることが多いのだと思います。
四つ目は、役所の慣性の問題です。急に方向は変えられない。例えば今回のワクチンオペレーションでは、当初から予診券にQRコードなどを印刷しV-SYSに接続などしてくれていれば何ら問題はなかった。でもそうはなっていなかった。当初の役所側のビジョンがワクチンの円滑供給であったためです。後から政治のビジョンを押し付けても急には変わらない。そもそも現場状況把握の必要性というものは国民に頻繁に接する我々政治家でしか考えつかないビジョンなのかもしれません。いずれにせよ、すでに進んでいて慣性が働いてるものは急には変えられない。こんな時は、もう少し早く政治側と方向性の議論をしてくれていれば、と悔むことになるのですが、役所側もある程度進めた状況でないと政治側に報告できないと思うのかもしれません。
■コロナワクチンオペレーションではどうだったのか
ワクチンについては決定的に1番と4番だったのだと思います。しかし、ビジョンを共有できない部局がある一方で、そもそも提言を出す前から同じビジョンを訴えて出てくる部局もありました。後者の流れを作ったのはもしかして官邸主導だったのかもしれませんし党幹部主導だったのかもしれません。いずれにせよ最終的には河野太郎大臣とともに、同期の小林史明大臣補佐官が政府側で役割を担ってくれることになりました。ビジョンを共有すること。これこそが、政治家にとって最も重要なポイントなのだと思います。
■提言書本体
(写真:情報戦略システムPTで提言を説明する筆者)