米国のシリア政策とホルムズ海峡有志連合

(写真:IISS地域安全保障フォーラムで)

イランとアメリカの対立によって、イランはエネルギー供給路の要衝であるホルムズ海峡の封鎖を仄めかし、それに対してアメリカは国際社会に向けて同航路の航行の自由を確保するための有志連合の結成を呼びかけています。最近、初めてイギリスが参加を表明しましたが、未だ世界の足並みがそろっていると言える現状ではありません。日本にも呼びかけがあり、参加するか否かも含めて政府は検討しているとのことですが、我が自民党内でも意見は割れており、また、有識者の間でも様々な意見がでています。

議論の論点としては、外交上の米国とイラン双方との関係、自衛隊の法的能力的活動限界などがでていますが、そもそもアメリカが有志連合という政策を立案するに至った背景と彼らの認識を見つめなおさなければならないはずです。アメリカが”結果論的”に提示してきた有志連合へ参加するかしないかだけが論点ではないはずです。

なぜアメリカは有志連合の提案に至ったのかは先にも触れたイランによるホルムズ海峡封鎖言及が中心的な理由ですが、それはイランにとってはアメリカが核合意から撤退し独自経済制裁を始めたからで、ではなぜそうなったかと言えば、アメリカにとってはイランとイスラエルのシリアでの対立に原点があるのだと思います。

シリアと言えば、以前、ISというイスラム過激派が世界を恐怖に突き落としましたが、その活動拠点であるシリアにもアメリカを中心とした有志連合がIS掃討作戦として介入し、クルド人の武装勢力PYDを中心としたSDFを支援する形で掃討作戦が行われ、現在はISはほぼ壊滅、数千人の戦闘員が捕虜として拘留されており、一応終結しています。問題はその後です。

アメリカにとってのシリアでの関心について、ポンペオ国務長官やボルトン大統領補佐官は、イラン軍のシリアからの完全撤退と表明していますが、それは十分条件であって、必要条件は、シリアを拠点としたイラン軍によるイスラエルへの脅威の除去、シリアの安定化、イスラム国の復活阻止、の3点にあるはずです。ところが、昨年12月にトランプ大統領が米軍をシリアから完全撤退すると突如表明し、以降、アメリカのシリア政策が漂流しているように見えます。

実は直後にトランプ大統領は発言を少し修正し小規模部隊を残すことを決定していますが、いくらSDF(シリア民主軍)がいると言っても米軍のプレゼンスなくして政策目的を完遂するのは困難と言わざるを得ません。第一に、SDFはシリア北部に接するトルコがテロ組織指定していたPKKをルーツにもつ組織であって、SDFは北部からの脅威を受けることになること、第二に、南西部はアサド政権のシリア政府軍とロシアがいる。第三に、もともとIS拠点地域であったため、同地区の安定が多少でも崩れると、IS自体の活動が復活するという内部からの脅威にもさらされることになります。そういう状態では、イラン軍がイスラエルに与えている脅威は、除去どころか逆にイラン進駐を認めることになるのではないかと懸念しています。

そもそもアメリカはシリアからの米軍撤退(縮小)を撤回、プレゼンスを維持し、イラン軍のシリアからの撤退などというおよそ不可能な作戦目標を軌道修正し、イスラエルという意味では協調できるロシアを巻き込んで、シリアに駐留するイラン軍をイスラエルから引き離すような政策にすれば、今回有志連合などと言わなくても済んだはずです。

さらに言えば、現在イランはシリアを通じて、有志連合の動きに対抗するかのように、対立しているサウジアラビア、UAE、ヨルダンなどのアラブ諸国と接触をしていると言われています。シリア内戦が始まってから、シリアは米ロのみならず、イランやトルコやロシアと言った非アラブの旧帝国によって運命を左右されており、前述の周辺アラブ諸国は、アラブ国のシリアがアラブ人によって運命を切れられない状態になっていることを警戒し、シリアに接触しようとしていたところ、米軍駐留が仲介役と防波堤になっていたと言われています。

動物園で動物のゲートを、閉めておけばいいのに敢えて開けてしまって、逃げ出した動物を一匹ずつ捕まえるために、住民を巻き込んで働きかけているような気がしてなりません。

もちろん、オバマ政権時代でも、NATOの一員であるトルコに配慮しすぎたためにIS掃討作戦が遅れ大勢の難民が苦しんだ歴史はありますし、過去の中東政策でも和平交渉がなかなか進展していなかったなど、過去の延長線上で絶対的に正しいとは言えませんので、トランプ大統領が一発勝負にでて大きく舵を切り直そうと思ったのは理解はしますが、事態を打開し安定化できる論理的整合性は見えません。

従って、有志連合の前に、米軍のシリアでのプレゼンスを回復させ、核合意のフレームワークに戻る代わりに、イランにはシリア駐留軍をゴラン高原から離れた東部まで撤退させるなどの外交努力を取る方が先決だと思いますし、日本がこうしたアメリカの外交努力に役立つことがあれば、全力で後押しするべきなのだと思います。

ただ、現状、そうした外交努力が実る公算は政治的にありません。我々はこうした背景を理解して行動を決しないといけないはずですし、少なくとも、単純な、アメリカの顔を立てなければならない、とか、イランとも友好関係にあるから難しいとか、法律がないとか、そういう単純な問題では済まない問題だということを指摘しておきたいと思います。

その上で、日本として有志連合はどうなのかと言えば、現状ではアメリカが提案する有志連合には参加せずとも、日本独自の活動を有志連合と連携して行うべきだと思います。そして、他国が意思を表明する前に、日本としての活動を表明すべきだと思います。

韓国の安全保障貿易管理体制

本稿でちょうど500件目の投稿となりました。だからなんだということでもないのですが、感慨深いものがあります。

さて、韓国疲れが行きつくところまできています。我が地元でも韓国と姉妹都市提携を結んでいるところがあり、これまで子供達の相互訪問を行ってきましたが、先方から突然中止を通告されたとのこと。なら相互主義で当方からも訪問を中止せざるを得ない。どうにもこうにも、韓国政府とは、話が噛み合わない。我々が問題視しているのは、韓国国民ではなくて、文寅在政権の国際約束無視。どうもそういうことが、韓国国内では報道されることもなければ議論されることもないようです。

実はすべてのことが噛み合ってない。安全保障貿易管理と問えばWTOと答える。戦時労働者の国際約束と問えば歴史問題と答える。レーダー照射と問えば低空飛行と答える。論点が完全にずれた答えしか返ってこない。謎かけなら、その心は、と続くのですが、その心を考えても、真っ当な議論に繋がる筈がありません(因みに数年前から国際場裏では、交渉時における論点を直ぐにずらす文寅在政権は、動くゴールポストと呼ばれています)。

文寅在政権に理解力がないということはないのでしょうから、答えに窮してはぐらかしているのでしょう。いわゆる煙幕作戦ですが、文寅在政権が、すべての問題を日本に押し付け続けることで国内統治を行い続けるのであれば、そういうやり方では長くは続かない。文寅在政権がいつまでも韓国国民を騙し続けるのであれば、それはまさに、国民の魂を悪魔に売って自らの政権の幸せを追求する態度に他なりません。為政者は2つの言語をしゃべれなければなりません。1つは代表者としての言語、もう1つは統治者としての言語。代表者としての言語のみで突き進むと統治に問題が生じるのは自明の理です。

前置きが長くなって恐縮ですが、本題に入る前に、もう少し背景だけ触れておきたいと思います。韓国の政治状況は、保守と革新の対立が激しいことで有名です。分断が激しい。そもそも建国の年の解釈まで違う。革新は1919年。保守派1948年。これだけでも革新政権が自分の思いだけを他国に押し付ける傾向があることが分かる。対北朝鮮政策も違えば、経済政策も違う。共通するのは、どちらも反日なこと。なので反日はポピュリズムカードとしては使える。しかし保守の方が統治能力は高く、表では反日でも国際交渉では比較的論理的なので反日一辺倒でもなくなる。ところが革新は国際場裏でも反日一辺倒なので埒が明かない。

革新政権は、保守政権の業績を徹底的に排除するので、保守政権のやった日韓請求権協定(朴正煕政権)や慰安婦合意(朴槿恵政権)は、なかったことにしたいので、国家としての国際約束を破棄することまで考える。ここに国内政治と国際政治の分断が表れてしまう構図にあります。まさに 現政権です。

今日、タイトルのとおり、日本政府は、 文寅在政権 に安全保障貿易管理上の問題があるので、これまでとってきた優遇措置を撤廃する決定を正式に下しました。でも、これは韓国疲れとは全く関係なく、対抗措置でもなんでもなく、世界秩序の論理の話なのです。これまで、韓国は重要な国であって信用できる国だということで、輸出手続きに関して優遇措置を講じていました。ところが、疑念が生じたため、3年前から制度にのっとって輸出管理対話を働きかけていたのに、 文寅在政権 からはなしのつぶて。3年も無視されつづけていたら、ますます怪しいと思わざるを得ない。しかもこの対話は政治家同士ではなく実務者同士のものなので、余計ありえないものと映ります。

文寅在政権 はこうして問題をすりかえて正面から答えようとしてこなかった。貿易管理どうやってますか、との問いかけに、3年間なしのつぶて。優遇措置解除しますよ、と言えば、WTO違反とくる。WTO関係ないでしょう。恐らく韓国政府内の担当者も困っているはずで徹底的に論点がずれてる(否、ずらしている)。ついでに言えば、この 文寅在政権 の攪乱作戦に、日本の特に左派のマスコミがまんまと乗っかるのがどうも解せない。

今回の 文寅在政権に対する貿易管理の不十分さを理由とした優遇措置撤廃は、巷では日韓の問題として捉えられている場合が多いのですが、 文寅在政権 の無秩序な武器輸出による世界秩序の不安定化(武器商人)の問題でもあります。意外と知られていませんが、武器輸出大国なんです、彼ら。

キャッチオール規制と言われる通常兵器のいい加減な輸出体制に初めて一石を投じたものと見たほうがいいはずです(だからホワイト国から外した)。リスト規制と言われる戦略物資の優遇措置解除も、不適切な事案があったと政府は言っているので、中身は何か知りませんが然もありなん。

結局、 文寅在政権の無秩序な武器輸出のサプライチェーンに世界はどのくらい巻き込まれていたのかという問題です。特に日本は防衛装備品の海外移転を徹底的に管理しています。むしろ管理しすぎて非効率な状態になっているので私は改善が必要だとと思っていますが、韓国の売れれば何でもいい、というポリシーとは対極にあることは事実です。

改めて言えば、今回の安全保障貿易管理上の優遇措置撤廃策というのは、世界秩序の安定化のための政策として見るべきで、日韓関係における戦時労働者問題に対する対抗措置でもなんでもない。なので、国際社会として無秩序な武器拡散とそれによる世界秩序の不安定化を防ぐという方向の議論を促すべきであって、 文寅在政権の実態を知ってほしいとも思います。

いわゆる2000万円問題について

いわゆる2000万円について今日は触れたいと思います。

本題に入る前に、明確なのが、年金制度は破たんもしないし受け取れなくなることもない、ということです。そもそも社会保障と税については、過去の民主党政権下での与野党合意で決まっています。制度の全貌は後程述べますが、野党がいたずらに国民の不安を煽るのは、本当に謎で、自分らの時に基本設計したんじゃないですか、と問いたくなる。いくら選挙が近いからといって、塩野七生さんではありませんが、国民の魂を悪魔に売って(不安を煽る)、自らが天国に行こう(選挙)とする行為にしか思えません。

残念なことに、再度、年金不安論が沸き起こっています。(1)本当に2000万円も貯めとかなきゃだめなの?(2)やっぱり時々話題になるくらいだから年金制度って成り立たないんじゃないの?(3)中身はさておき、選挙前だからって報告書(※)の受け取り拒否はおかしくない?というもの。こうした疑問も含めて年金問題について触れたいと思います。

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market_wg/siryou/20190522/01.pdf

(A)まず私が思うのは、今回のことで、年金制度ってどういうものなのか、ちゃんと理解してみる良い機会だ、ということです。マスコミでは、中身を分かっていないコメンテータが”もう受け取れないってことですよ”などと平気で言っているのを聞きます。そうした政治色の強いコメントではなく、自ら調べて理解してほしいと思っています。まず第一歩は、誕生月に皆様の手元に届く年金定期便をじっくり眺めることだと思います。これ、結構分かり難かったのですが、小泉厚労部会長によって分かりやすいものに変わっています。年金制度の全体像は、後程も少し触れますが、厚労省のページを紹介しておきます。

http://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/verification/index.html

(B)次に思うのが、老後に備えて2000万円貯めてよ、と言われても、それは無理だよ、と言う人が多いと思いますが、この金融庁の報告書は不安を煽りすぎていて無理があるということ(正確に言うと金融庁が民間に諮問した報告書)。

さもありなん、この報告書は、資産形成を促す目的なのですから、そもそも不安を煽る必要があるという性格のものです。年金だけでは十分余裕をもった生活にならないから、資産形成してくださいね、という金融庁らしい報告書です。年金制度の検証が目的であれば(例えば厚労省)、財政的に安定はしてますよ、30年くらいかけてゆっくりと徐々に減額されますが、それでも現役世代の給与の5割はありますよ(今は6割)、となったでしょう。

そういう意味では、冒頭の(3)については、ちゃんとこの両者を分かりやすく書くように再諮問するのが正解だったと思っています。

問題となった報告書を見て見ましょう。なんと、モデルになっている世帯は、既に2484万円の貯蓄がある65歳と60歳の無職夫婦で、その後30年間、豪遊はできないけど趣味に娯楽に旅行に新しい挑戦をして過ごす予定の、毎月の支出が26万円、年金受給額21万円、の世帯なのです。そして受給額と支出の差額が5万円だから、30年つづくと2000万円必要だと煽る。更に介護やリフォームはこの支出に入っていないと煽る。

そもそもこの2484万円という貯蓄は高齢夫婦無職世帯の平均準貯蓄額なのですが、この平均にどれほどの意味があるのかは不明です。更に、26万円という支出は2484万円の貯蓄があるからできる支出のはずです。

資産形成を促す目的で2000万円いるぞと不安を煽り、世論がその方向で議論をしてくれればと思ったのでしょう。しかし実際は、年金制度そのものに疑問の目が向けられてしまった、というお粗末な話になっています。まぁ、厚労省の人は困惑しているのかもしれません。政治サイドはもっと困惑しています。

そもそも公的年金制度で十分な娯楽やリフォームを全部賄えというのは土台無理な話です。現役世代からお金を吸い上げてご年配層が十分に娯楽を楽しめてリフォーム費用も賄うべきだと本気で思ってる国民がいるとは到底思えません。

しかも、構造的には現在1800兆円ある国民金融資産の6割以上を65歳以上が保有しているのです(一人ひとりがじゃないですよ)。更に言えば、現役世代は車や家の負債があるので、ネットで言えば、9割以上を65歳以上が保有しているという試算もあるくらいです。

もちろん、かと言って、年金制度というのは、生きていくぎりぎりの保障をしたものではなく、ささやかだけど多少のゆとりある生活ができるレベルです。だから、現在の制度を全力で維持し、財政上できるのであれば拡充していくべきなのです。生きていくぎりぎりレベルを保障しているのは生活保護です。ちなみに、介護は介護保険制度で年金制度とは別枠です(介護保険制度の話はまた別の機会に触れたいと思っています)。

もうお分かりだと思いますが、野党が年金制度は問題じゃないかと煽っている謎さかげん。いやいや、そもそも年金財政の基本制度設計は、冒頭触れたように与野党合意(民主政権時)で確立したものでしょう。

更に謎なのが、最低保障年金と称して月7万円を給付する案を提案しているもの。農業の個別所得補償もそうですが(前回の記事をご参照ください)、耳障りはいい。でも財政的にできないことは自分らで分かったから、与野党合意したんでしょう。それなのに、また持ち出すって、どれだけ昭和の政治を続けてるんだ、という話です。もう令和にしましょう。

断言しますが、現状の制度のままであれば、30年たってもですが、自分が納付した保険料の倍は確実にもらえるということ、現役時代の給料の半分以上はもらえること、破たんすることないということ、納付する保険料は多少の調整はあるものの原則上がることはないということです。

是非、国民の皆様には、選択してほしいと思います。昔、民主党が公約に掲げたけど現実できないと分かって断念した案と、その後にその民主党が主導して基本設計した与野党合意案に基づく現行制度と。

自民党支部大会開催

地元の自民党支部大会(香川3区)を開催いたしましたところ、多くの党員同士の皆様にご参集賜り、誠にありがとうございました。来る参議院選挙に向けて、挙党体制で臨む決意をいたしました。

今回はスペシャルゲストとして小野寺五典前防衛大臣にご講演を賜りました。日本を取り巻く安全保障環境について、分かりやすくお話いただきました。ありがたいことです。

本会設営や進行では、至らぬ点が多々あったかと思います。今後の反省として活かして参りたいと思います。何卒お許し賜れば幸甚です。

参議院議員三宅しんご先生・小野寺五典前防衛大臣と
地元豊浜にて大平正芳先生のお墓参りに同行

農業について

農家の収入が上がる事。これが過去数年の我々の最大の命題でした。そして、現在、米の相対取引の価格は、3割強も上がっています。具体的に言えば、H26で60kgあたり11967円だったものが、H30で15686円(全銘柄年平均)。反収で言えば33000円が増えたことになります。

それ以前は戸別所得補償でした。1反あたり1.5万円の補償を国家が農家に対して行う制度でしたが、導入して何が起こったのかと言えば、米価が約1.5万円下落しました。農家にとって補助で1.5万円増えて、コメを売ったら売り上げが1.5万円減った。市場は1.5万円の補助金が農家に入っていることを知っているので、その分だけ市場価格が下落するということです。結果的に、農家に1.5万円補助を出したのではなく、流通販売業者に1.5万円だしたのと同じ効果という、世知辛い結果結果となりました。

市場はそれほど優しいものではありません。市場を構造的に理解し政策を打たなければ、こうしたお粗末な結果が生まれる。民主党批判をするつもりもありませんし、自民党もお粗末な政策をうったことがあるので、歴史上の反省としてとらえなければなりません。戸別所得補償全部を否定するつもりもありません。やり方が極めてお粗末だったということは肝に銘じなければなりません。

米価安定化の為に、H31年度は飼料用米などの戦略作物の助成制度を維持しています。また、主食用米からの転換を促す支援策や、備蓄米の安定的買取、それからナラシと呼ばれる収入減少影響緩和策も維持しています。

因みに良く指摘されるのは、国は大規模農家だけ支援して生産性を上げようとしているだろうというもの。民主党政権の前の自民党はそうでしたが、これは大きな転換を図っています。地域政策と産業政策の2つに明確に分けて両方推進をしようというもの。中山間地農業ルネッサンス事業、日本型直接支払い制度、スマート農業、鳥獣被害対策、棚田地域振興、そして農業農村整備事業、産地パワーアップ事業、畜産クラスター事業など、ありとあらゆる施策を実施しています。貿易関係では日米TAG交渉が話題になりますが、これもTPPレベル以上の市場アクセスは絶対に認めません。

輸出も出口の戦略として進めています。農産品の輸出額は3000億円程度で推移していましたが、1兆円の目標をかかげて取り組んできたところ、9000億円を超える勢いで伸びてきています。もちろん、目的は輸出を増やすことではなく、あくまで農家所得の向上です。逆に言えば、輸出をすれば農家が儲けるわけではない。丁寧に制度設計と運用を行って、目的を達成する努力をしていかなければなりません。

最低賃金について

最低賃金が議論になっています。上げるべきではない、とはいいませんが、極端に上げるのは愚の骨頂であって、上げたとしても経済の実態に合わせることが前提ではないかと思います。つまり時間軸の設計の問題です。なぜか。

労働市場がこれほどタイトなのに賃金上昇がまだまだ弱いのが日本経済の根本問題の一つであることは間違いありません。なので、賃金上昇にかける思いは政治家として当然のことです。ただ、社会主義国でもあるまいし、賃金を国家が決めることはできません。例外が、最低賃金です。昨年くらいから、最低賃金くらいは、無理やりでも上げるべきではないか、との、韓国文寅在政権のごとく主張する方が多い。ただ、分からんでもない。

最低賃金はガンガン上げるべきだと主張される方の主要な視点は、生産性の向上。中小企業小規模事業者(以下SME)の中には経営に行き詰まり倒産を余儀なくされる会社もでてくる可能性はあるけど、生産性が低いSMEが市場から撤退することによって生産性の高いところのみが生き残り、全体の生産性が上がるのだ、というもの。その他、実質賃金の上昇とそれに伴う消費増を通じた景気好循環という視点や、低所得者救済・社会格差是正という視点などもあります。

例えばオピニオンリーダのアトキンソン氏は東洋経済紙面で、低すぎる最低賃金が日本の諸悪の根源だとして、国際比較すれば2020年の適切な最低賃金は1313円だと主張しています。論旨を読むと、日本の本質的な問題は生産性の低さであって、最低賃金と生産性には強い相関があるのだから、最低賃金を上げて生産性をあげるべきだ、というもの。

しかし、相関があると言っても、本質的には生産性が上がるから賃金が上がって政府が最低賃金を上げるのであって、生産性を上げることを目的に最低賃金を上げる政策をとった国はないはずで実績もないはずです。最低賃金を通じたSMEの構造改革は理解しますが、極端な最低賃金上げは荒療治であって現時点では政治として結果に責任を持てない政策と言わざるを得ません。低生産性企業廃業促進法みたいになりますよね。本質的に資本主義民主主義国家の政策ではない。

さらに言えば、こうした極端な荒療治が成功するのは、市場に十分なプレーヤーがいることが条件です。寡占状態に近ければ、廃業によって市場が消えることにつながります。地域が機能しなくなる。最低賃金に直接かかわる業種はサービス業、例えば卸売・飲食・宿泊などです。最低賃金を極端に上げると、ご近所のスーパが廃業するかもしれない。他にスーパはない。地域の機能が失われる。雇用が失われ、世帯収入が減る。卸売などサプライチェーンが完全に劣化します。その結果、賃金水準が下がる可能性さえある。もちろん、それほど単純なものではありませんが、構造的には寡占状態の市場ではそういうことが起こりうるということは指摘しておきたいと思います。

もちろん、時間軸で経済成長+アルファ程度の穏当な最低賃金政策は可能だと思います。先に、政府の財政政策についての指摘を書かせて頂きましたが、これも同様で、先鋭的な原理主義が全てをダメにするのだと思います。合理的かつ予見可能な政策を大胆に断行していくことが求められるのだと思います。

訂正とお詫び


民主主義にとって政治家の政治資金の透明性を確保することは極めて重要なことで、我々政治家は、日常の政治活動の他、選挙時についても、収支を報告することが義務付けられています。従って、私どもも日頃から細心の注意を払って報告書の作成に努めておりましたが、今般、過去の選挙時の収支報告について、誤りの指摘が外部からあり、改めて確認をしたところ、記載に誤りがあったことが分かりました。誠に痛恨の極みであり、心よりお詫び申し上げる次第です。

選挙費用の原資は大きく分けて2つあります。1つはいわゆる自腹部分(自己資金か関係する政治団体が支出するもの)と、もう1つが公費です(選挙ポスターなど)。公費は受託業者が国庫から直接受け取るため、我々政治家は直接タッチしません。

選挙の収支報告書では、収入の部については公費負担部分は当然含まれないのですが、支出の部分については公費負担部分を加算して報告するように求められています。ところが今般、前者の収入の部について、本来は前述の通り公費負担分を除いて記入すべきところを、支出の部と同様に公費負担分を加算して記入していたことが分かりました(一般の決算は収入と支出が同額になるのが通常ですが、選挙収支報告では同額とはならない)。

記載すべきであった額は下記の通りです。なお、記載方法の誤認であり、実際の金額のやり取りに変更はなく、これについては支出元の政治団体収支報告書に同額の支出があることで確認できました。今後の対応は現在検討中ですが、最も早く皆様にご報告できる手段として、取り急ぎこの場で訂正をさせて頂きました。改めて深くお詫び申し上げる次第です。

なお、当問題をご指摘頂いたメディアの調査目的は、使途不明な余剰金が発生しているのではないかというものでした。つまり収入と支出が同額だと必然的にその差額(当方の場合は公費相当額)が使途不明金に見えるというものです。これは前述の通り全くありません。

選挙運動用収支報告書
収入の部 (正)7,891,228(誤)9,370,928 (差額が公費の1,479,700)
尚、支出の部は、9,370,928で変更はございません。

※後日追記)初稿時点から本日に至るまで、選挙収支並びに関連するその他の収支報告も精査をし、現時点で問題ないことを確認しました。本稿で触れた誤りについては、本日、訂正を申告いたしました。誠に申し訳ありません。(令和元年8月5日)

アメリカ出張報告

アメリカに出張に行ってまいりました。この出張の目的は、国際社会に日本の社会構造をわかってもらうこと、それを起点として、国際社会のあり方と日本の役割を同盟国と議論すること、それを通じて日米同盟の安定的運営に向けた次世代のコミットメントです。小泉進次郎代議士を団長として、福田達夫代議士、村井英樹代議士とともに参りました。大掛かりなテーマの出張でしたが、発信力の高いメンバーでしたので、成果もあったものと思います。

背景には国際社会の構造変化と秩序の揺らぎがあります。それを見越して戦略的にとは言いませんがアクションを起こしておかねばなりません。日米関係も首脳同士の個人的な関係が大きく寄与していますが未来永劫安倍トランプ関係に頼れるわけではありません。若手議員によって日米同盟の維持強化に対して将来的な積極的コミットメントの意志を示すことは重要なことです。そのためには、日米双方の社会構造の変化と政治を相互に理解しておかなければなりません。また、二国間だけではなく、WTO改革など、日本が果たしうる役割を考えつつ、雰囲気を醸成していくことも重要です。

因みに、こういう雰囲気というのはすぐに変わります。例えば◯◯国は良い国だという雰囲気が、数年経つとあっという間にダメな国だ、となり、◯◯同盟の方が良い、などということになってしまいます。そしてその雰囲気は、ワシントンDCのものと郊外のものとのズレもあります。したがって政治におよぼす影響もかなりのダイナミズムがあります。そういった意味で、常に努力をし続けなければならないのだと思います。

さて、日程は5月1日から5月6日まで。CSISでの団長の講演を中心に、同会場でメンバーによるパネルディスカッション、上院議員やシンクタンク、政府関係者との意見交換などを行い、情報発信に勤めました。いつものことですが、海外出張にくると、全力で日程を詰め込むので、朝は7時台から活動を開始し、夜は11時頃になるという、まぁこれは結構しんどいことになります。

 

 

CSISでのパネルディスカッション後の一幕

CSISでのパネルディスカッション後の一幕

多少具体的な日程に触れると、アーリントン墓地での献花、マーシャ・ブラックバーン上院議員、コリー・ガードナー上院議員、アレクサンダー上院議員、エド・サリバン上院議員との意見交換、経団連主催のレセプション、ヘリテージ財団、アーミテージ、CSIS、ブルッキングス研究所、CAPといったシンクタンクとの意見交換、政府関係者との意見交換、そしてアナポリス海軍士官学校への訪問と昨年他界したマケイン上院議員のお墓に献花して参りました。

最後のマケイン議員の追悼から触れます。マケイン議員はアナポリス出身の元海軍パイロット。アナポリスはエリート中のエリートが行くところで国民の尊敬と期待が集まるところですが、そこ出身というだけではない多くの魅力がマケイン議員にはあったと思います。特に軍関係者の同氏に対する尊敬は絶大で、多くの軍施設で他界後長きにわたってアメリカ国旗が半旗掲揚されていました。改めてご冥福をお祈りします。

マケイン上院議員

マケイン上院議員

また到着早々に訪問したアーリントン墓地は国が運営する国のために亡くなった兵士を祀る墓地で、私もしばらく行く機会がなかったので、貴重な機会となりました。改めて哀悼の誠を捧げます。

CSISでの団長の講演は、冒頭述べた趣旨に基づくものですが、海外の評価は非常に高かったのだと思います。よく耳にした意見の代表的なものは、次世代の政治が人口減少などの諸課題に非常に明るい前向きな姿勢で挑んでいるという印象を持った、というものです。また、後半のメンバーによるパネルディスカッションも比較的好評で終始英語で明るく直接訴えたことも功を奏したのだと思います(私は少しクソ真面目だったなと反省)。特に、村井英樹代議士の発言は、爽やかで心温まる雰囲気を会場に作ったのだと思います(上記動画の51分あたりから)。

各上院議員での意見交換で、それぞれから日米関係の重要性について、表面的社交的なものではなく熱いメッセージをいただきました。ありがたい事に、コリー・ガードナー上院議員は我々との面談の翌日に、メネンデス上院議員ら4名での超党派連名で、日米同盟強化に関する国会決議を提出してくれました。ありがたい事です。

Resolution Calling For A Stronger U.S.-Japan Alliance, U.S. Senate Committee on Foreign Relations, May 02, 2019

シンクタンクでの議論は、深い議論になる場合もあれば、表面的なものに終わることもありましたが、全般的に言えば良い議論ができたものと思います。

ハドソン研究所

ハドソン研究所

 

ハドソン研究所ワインスタイン所長

ハドソン研究所ワインスタイン所長

アナポリス。アナポリスには現在も毎年海上自衛隊の幹部職員が派遣されており、日夜日米同盟の強化を下支えしてくれています。そしてアナポリスは日本を感じさせるものであることを実感しました。例えばアナポリスは設立1845年ですが、爾来、日本人も入校しており、驚くことに、先程触れたマケイン議員のお墓と同じように、亡くなった日本人のお墓もあります。また、琉球の鐘(本物は日本に返却・現在レプリカ)や戦艦大和の模型、苦戦したミッドウェイ海戦など、負の歴史なのにも関わらずそれを乗り越えた関係であることに気付かされます。

アナポリス

アナポリス

因みに、咸臨丸もアナポリス出身の米海軍にお世話になったのだとか。咸臨丸は日米黎明時代に活躍した軍艦で、日米修好通商条約調印のために帰路についていた米艦船に随伴し、福沢諭吉やジョン万次郎を乗せて米国に向かった船として有名ですが(我が地元の塩飽水軍から水夫が多くでている)、途中で嵐に遭遇し操船が危ぶまれたところを救ったのが、アナポリス1期生卒業の米海軍士官であるブルック大尉。本当は自国の船で帰るはずだったところ、事情で乗れず、咸臨丸にたまたま乗せてもらったのだとか。アナポリスが無ければ、福沢諭吉もおらず、日本の発展も遅れていたかもしれません。

G20ー国際秩序、そして豊かさと公平さ

(写真はG20とは関係ありません)

先日、G20財務相・中央銀行総裁会議(以下G20蔵相会議)が行われました。日本が初めて議長国となったのですが、このことは、国際社会にとって極めて意義深かったと思います。なぜならば、後述しますが、世界の中で自由貿易の旗手たりうる国が陰りを見せているため、必然的に日本にお鉢が回ってきている情勢にあったからです。

この会議では、世界経済の動向や構造的問題、デジタル国際課税などについて議論されました。コンセンサス(合意)が得にくい分野もありますが、6月に大阪で行われるG20大阪サミット(以下G20サミット)に向かって日本はしっかりと役割を果たさねばならず、その前哨戦である今回の蔵相会議は大きなマイルストーンになると期待されていました。そこで今日は、世界経済について書いてみたいと思います。

g20.org/jp/
G20大阪サミット(来る6月開催予定)

■世界経済は減速傾向

G20蔵相会議に先立って、IMF(国際金融基金)が世界経済の見通しを発表しました。過去半年で連続3回目も下方修正であって世界経済の減速傾向が改めて鮮明になりました。これは、中国経済の減速、世界的なエネルギー需要の低下と資源国の経済減速、新興国全体の減速、また、ドイツをはじめとしたEU諸国全体の成長鈍化、などが影響しているものと思います。いずれにせよ、G20蔵相会議では世界経済は減速傾向にあるということを現状認識として一致しています。

因みに余談ですが、G20の役割はこうした減速傾向にある世界経済を再び回復基調に戻すために国際協調することにありますが、日本が消費税増税をこの場でコミットしたことについて、評価が分かれるとの論評がでています。つまり、財政赤字の拡大はリスク増大をもたらし世界経済に不確実さをもたらす要素であるはずですが、一方で消費税増税は世界経済の足を引っ張る可能性があり回復基調への国際協調という路線とは逆行するのではないかという主張です。しかしながら、これは消費税増税に伴う財政手当をしっかりしているので、私は指摘は当たらないと認識しています。

本題に戻りますと、世界経済の減速傾向の裏側には、経済グローバル化の負の側面として各国で経済格差が広まり、政治の不安定化を通じて、自国主義や保護貿易主義の傾向が世界に広まってきていること、他方で、経常収支の不均衡の問題が大きな構造的問題として存在します。それらが米中貿易摩擦やブレクジットの問題を引き起こし、世界経済の先行きを不透明にしています。

■経常収支の不均衡は誰が是正すべきなのかー米中貿易摩擦

米中貿易摩擦は典型例ですが、経常収支の不均衡を、自国主義に先鋭化した先進国が関税などで単独で対処しようとしている、という傾向が鮮明に表れているのですが、一体それは正しいのか。正しくないとすれば、経常収支の不均衡を一体誰が是正するべきなのか。これが国際社会の経済面での課題の最大のものであろうと思います。そして自国主義・保護貿易主義は、世界経済の足を引っ張るのみならず、必ずブロック経済化に繋がり、国際政治が先鋭化して、紛争が多発する不安定システムになります。ですから、絶対に避けるべきです。

米中貿易摩擦の構造はどのようなものなのか。中国側からすれば、経済成長に伴って債務を増やして消費や輸入を拡大し、それが世界経済や米国経済に裨益し貢献した筈なのに、なぜ俺らだけが虐められるのか、という見方をしていますし、一方アメリカ側は、不均衡の原因は中国にあるから、関税を上げて対処しようとしています。

現在のトランプ政権のこうした認識は誤りとは言いませんが正しいとも思えません。まず第一に、サプライチェーンがこれほどグローバル化していれば関税を上げたからと言って必ずしも貿易赤字の解消にはダイレクトに効かないはずです。しかも、現在はモノ以外の取引量が多くなっているので、モノの関税を上げ下げしても効果は限定的です。

しかしそれ以上に重要なのは、関税操作では貿易赤字は多少は減らせるかもしれませんが経常収支の不均衡を本質的に是正することにはならないということです。より本質的に不均衡を是正するのであれば、消費を減らすか財政赤字を減らすかのどちらかの選択をすべきです。しかしこれらは政治的には厳しい。一方で、輸出を増やす方法もありますが、失業率が低い米国ではこれも簡単ではない。

であれば、国際社会全体の問題として、経常収支の不均衡を是正する仕組みを整えるべきだということになります。これが今回のG20蔵相会議での日本側の主張の一つになっているのだと思います。そしてもう一つ、先ほど触れた、先進諸国の国内格差と政治不安定をもたらした過度のグローバル化もセットで是正に取り組まねばなりません。つまり現在の自由貿易の基準軸を少し引き戻すということを意味し、過度な格差を生まないようなシステムを模索すべきだということになります。

一方で中国型資本主義の拡大も大きな議論となるはずです。経済発展すると民主化するというのは通説でしたが、現在の世界経済の発展モデルは2極化していて、前述の既存の民主資本主義経済モデルが不均衡と格差にあえぐ中で、中国型覇権政党資本主義経済モデルが成長を遂げています。経済が減速しているといっても引き続き6%以上の成長を続けています。アメリカ経済規模を追い抜くのもそう遠くはないはずです。2040年には人口減少と高齢化のフェースに入ると言われておりますが、それ以降も6%は無理としても緩やかな成長が続くとされています。

これを可能たらしめている理由は様々あると思いますが、次に述べるネットテクノロジーも大きな貢献をしているのだと思います。特に、中国のような覇権政党制であるならば、ネットテクノロジーとの親和性は極めて高い。日本ではシェアエコをやろうとすると、利害調整に極めて膨大な政治コストがかかりますが、中国型は決断があればいい。

世界の経済成長モデルが2極化しているなかで、将来は今よりも大きな摩擦が生まれる可能性は残っています。次世代移動通信規格であるG5でも相当な覇権争いが始まっています。国際社会の秩序を維持するために、あらゆる国際機関を通じて調整の努力を怠ることはできません。AIIBの例をみるまでもなく、不可能ではないと思います。

■デジタルプラットフォーマの国際課税

現在の世界的な株式時価総額ランキングを見ると、GAFA( Googe, Apple, Facebook, Amazon )やBAT( Baidu, Alibaba, Tencent )で埋め尽くされています。世界経済の牽引役は、そうしたデジタルプラットフォームビジネスを行う会社で、これらの会社のサービスのお蔭で、人々の暮らしは確実に豊かになっているのだと思います。

ただ、それらの企業の富が適切に分配されているかというと、どうもそうでもないらしい。とある機関の報告では、一般的なグローバル企業の法人税実効税率は23%程度である一方で、こうしたデジタルプラットフォーマーのそれは、たった9.5%程度しかないとのこと。なぜそうなるのかと言うと、デジタルビジネスのサービスは、その消費地に支店や営業など何も置かなくてもできるため、現在の国際的ルールのもとでは課税されないことになってしまうからです。

こうした企業も含めて富の適切かつ適正な配分を行うべきという観点から、デジタル国際課税という議論が数年前から起こっていて、OECDなどの場で概ね2つの論点を議論しています。1つは、こうした企業を誘致するために法人税を極端に安くするタックスヘブンについて、法人税の見直しを行ってミニマムタックス(国際的な法人税課税最低水準)を定める方法などが議論されています。過度な法人税切り下げ競争を防止するのは極めて有効だと思いますが、どの水準にすべきなのかは難しい問題です。

もう1つは、支店などの恒久施設(PE)を置かないと課税ができない問題について、データ利用量などサービスの利用度合いに応じて課税する方法や、顧客データなどマーケティング無形資産に応じて課税する方法などについて触れています。前者はプラットフォーマを持たない英国などの案で、米中のプラットフォーマを狙い撃ちするようなものです。後者は米国などが提案しているもので、一般企業にも適用されるような一般概念への拡張です。後者の方が理解を得やすいと私は思っています。現在すでにイギリスやフランスで独自のデジタル課税を行っている国もあり、6月のG20で日本は確実に取り纏めを行うべき役割を担っています。

いずれにせよ、日本でも競争政策や個人情報保護の観点で議論が加速しているプラットフォーマーの問題について、一番重要なのは、これらの企業が確実に人々に豊かさを提供しているということであって、それを損なわずに、如何に公平な環境をつくるか、がポイントになります。(これを書いている本日、自民党の会議で、政府に対する一次提言を取りまとめたところです)。

イギリスはどこに向かうのか

「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」−ゴーギャン

この長い名前が付いた絵画をつい思い出してしまうくらい、イギリスのブレクジット(Brexit: British Exitの混成語で英国のEUからの離脱の意)が大騒ぎになっています。2016年に国民投票によって離脱が決まりましたが、現在、どういうプロセスで離脱するのかで揉めに揉めています。無理やり全ての関係を断つような合意なき離脱、と、合理的な話し合いを伴って離れる合意ある離脱、と、離脱慎重派、の3つ巴。合意無き離脱であれば、世界の秩序を揺るがす問題であるとともに、世界経済の混乱を招く原因となりかねません。特に英国とEUにダメージがでるはずです。合意ある離脱であれば、短期的には極端に大きなインパクトはでないはずです。今回はそのことに触れたいと思います。

◆何でEUから離脱する騒ぎになったのか(離脱宣言に至った社会背景)

背景としては国際社会全体が大きな挑戦を受けていることによるものです。1つは主に安全保障上の挑戦です。2つ目は経済的な挑戦です。これらは密接に関係しています。有名なエレファントカーブでしめされているように、経済のグローバル化によって世界は富める者とそうでない者に2分化しています。発展途上国の下位所得層でも所得は伸びていて生活改善の実感は伴っているものの、先進国の低位所得層は所得が何年も全く伸びず生活改善の実感がない。つまり大雑把に言えば不満は先進国の低位所得層にのみ蓄積している。アメリカのトランプ大統領によるアメリカファーストや、フランスの黄色いベスト運動、イタリアの五つ星運動など、欧米で自国主義やナショナリズムの傾向が強くなっているのはそのためです。

イギリスでは、特に高齢者や農村部では、なぜ高い税金を払って東欧やギリシャを支援しなければならないのか、というEU拠出金の不満、なぜワシらの職が移民にとられなければならないのか、という人の移動の自由に対する不満、そしてなぜワシらはEUの司法裁判所に服さなければいけないのか、という国の在り方に対する不満、などが出ていました。

また、そもそもイギリス人は欧州人という意識が低い。ドイツやフランスも一部にそういった不満がでているのも事実ですが、欧州人としての意識がイギリスよりは高い上、EU加盟国としてのメリットをイギリスよりは享受できているので、状況は違う。歴史を振り返れば、イギリスは欧州大陸とは常に異なる動きをしてきたのは事実です。栄光ある孤立と言われたのは19世紀末の振る舞いのことですが、紆余曲折在りながら、時にはバランサーであり、時には敵対し、時には失敗し、20世紀を走り抜け、EUに加盟する際も、他の諸国とは異なる立場で加盟していました。

◆そもそもなんで国民投票なんかしたの?(離脱までの政治の動き)

消費税は反対ですか賛成ですか、という国民投票をしたら、おそらく反対になるはずです。英国は離脱を選択した時点で短期的には経済的損失は目に見えています。ではなぜ国民投票なんかしたのか。英国のEU離脱に関する国民投票を決定したのは保守党のキャメロン政権です。キャメロンは残留派でしたが、当時、党内には強硬離脱意見が多かった。そこに、強硬離脱派の野党が急伸してきて党内強硬派の圧力が高まった。つまり、キャメロンは、国民と野党からの風当たりに加え、党内の風当たりの、3つの風に対処する必要がでた。

普通ならば、党内をまとめる懐柔策にでるところですが、キャメロンは恐らく選挙になれば、自分の保守党は過半数を取らないと踏んだ。そうだとしたら離脱慎重派の自由民主党と連合を組む体制に変わりはないはず。であれば、選挙の公約に国民投票を差し込んでおいても、自由民主党との関係で公約の国民投票を実施することにはならないはずだと踏んだ。ところが選挙の蓋を開けてみたら、勝って過半数をとってしまった。あっ、やばい、勝っちゃった、と思ったに違いない。その結果、2016年の国民投票に至ったというのがどうやら背景らしい。

政治の世界では2つ以上の方向から強い風を受けることは珍しくありませんが、個人的な感想を言えば、そこは踏みとどまるべきであったはずです。

◆今は何で揉めてるの?(合意なき離脱と合意ある離脱)

2016年に離脱が決まって以降、英国政府はEU側と離脱の交渉を続けていました。政府としては途方もない混乱が生じる可能性のある合意なき離脱は避けたい。だから、離脱に関してEU側と、主に拠出金関係、市民の権利関係、アイルランド国境関係、そして離脱プロセスの4つについてのみ話し合いをし、合意案をまとめた。イギリス政府の筋書きとしては、この案で英国議会が可決してくれたら、離脱発効させ、2020年末まで移行期間を設けて具体的な関税などの将来関係に関する協議を行って離脱するというもの。EU執行部側はそれは現在飲んでいるということになります。

ところがこんな合意案ではダメだと反対する議員が少なからずいた。議会が合意案を批准しないのだったら普通は政府はEUと再交渉ということになるのですが、EU側としては出ていこうとしている者に甘い態度をとると離脱国が増えるので、交渉には応じないと宣言した。そうした経緯で合意ないまま離脱するのかという問題がでてきた。なぜならば、離脱を国民投票で決めた後に法的に離脱期限を今年の3月29日としたからです。

合意なき離脱は、移行期間もへったくれもなくなりますから関税などの将来関係の政治議論が不透明になり、結果的にイギリスがしばらくは丸裸になるも同然。関税は跳ね上がり、物品サービスのサプライチェーンは分断され、ポンドは下落、物価は上昇し、外国からの投資も大きな影響を受ける。北アイルランドとアイルランドの国境管理はどうするのか、飛行機は普通に飛ぶのか、介護人材はちゃんとイギリスに入ってくるのか、など、短期的には、それはそれは壮大な、というか、むちゃくちゃなことになるのは目に見えてます。GDPが8%低下するという意見を出す公的機関もある(もちろん中長期的にはイギリス国益中心のEUとは異なる国際化路線を歩むことになるので成長する可能性もある)。

ただし、合意案で完全にまるく収まるかと言えば、そうでもない。最も大きな論争となっているのは、前述のアイルランドとの国境問題。政府は、来年末までには国境管理の具体的解決策を決めるので、それまでは関税同盟に残る、という安全策(バックストップ)を提示しています。これによりアイルランドとイギリス北アイルランドの国境はなくなり、来年末までは凌げるという寸法です。が、離脱強硬派はこの安全策の変更を主張しています。なぜならば関税同盟に残るというのは現状のEU加盟国としての状態と関税的にはほとんど変わらないし、国境管理の具体策を出すと言っても難しいので纏まらなければ永遠と関税同盟に残ることになり、実質的にみなし残留となってしまうことを懸念したものです。

つまり、冒頭書きましたように、合意なき離脱派と合意ある離脱派と残留派のそれぞれが、まぁまぁの勢力をもっていて、議会で何を諮ろうが、全く決まらないという状態が続いているということです。

◆決まらないって実際政治は何してたの?(国民投票後の政治の動き)

2016年に国民投票結果が示され、キャメロンが辞任したのちに就任したメイ首相は、離脱という方向を明確に宣言しました。ただ、離脱を宣言したら党内がまとまるかというと、前述のとおり、すでにその時点で何も決まらない政治になっていた。国論を二分する課題だからしょうがない。そこでまず、メイ首相は、まだ党首として国民の信任が得られていなかったことから、政治基盤を固めることから始めた。つまり2017年の春、解散に打って出た(イギリスの解散は議会の承認がいる)。その結果、保守党(与党)は得票率こそ増やしたものの議席を少し減らして過半数割れとなった(ハング・パーラメント)。なったのですが、民主統一党(DUP)と連立を組むことで過半数を得て、離脱方針のメイ首相は国民の信任を得たことにはなりました。

さらにその後、2018年末には党内の支持が弱くなってきたことをきっかけに、メイ首相は不信任投票にかけられましたが、これは信任された。ただ、そうだからと言って挙党体制が築けたのかというとそうではない。

そしていよいよ今年に入ってメイ首相は、議会に対してEUとの離脱合意案を提示し議会採決を求めました。1月のことですが、結果は与党からも大勢の造反がでて全体で230票の差で否決。当初の法的離脱期限は3月29日でしたから、メイ首相としては何としてでも合意案を議会に通さなければ、合意なき離脱になってイギリスは数年間、地獄を見ることになる。そこでメイ首相は議会に対して更に政治的な勝負をかけていくことになる。

3月12日から14日の3日間、集中的に離脱審議がありました。12日は再度の離脱合意案の採決。結果は149票差で否決。内容があまり変わっていないのだから当然と言えば当然ですが、230票に比べると賛成に回った議員が40人程度いたことになります。しかし否決は否決です。13日は、合意無き離脱回避動議の可否。結果は43票差で可決。法的拘束力はないものの、少なくとも英国議会は合意なき離脱はしないという選択したということになります。最後の14日は、20日に合意案が可決されることを前提にEUに対して6月末まで離脱期限延長を申請することの可否。これも211票の大差で可決。延長の意思は示した。メイ首相は、20日に合意案を可決してくれたら必ず6月までに離脱するけど、合意してくれなかったら長期の延長になるぞ、と半ば脅したことになる。長期延長は殆どみなし残留を意味するので強硬離脱派を牽制することには成功したという結果になりました。

ところが3回目の合意案採決をする予定だった3月20日の前日の19日、バーコウ下院議長が、大幅修正なき合意案の採決は不可能だとする声明を出しました。同じ案を再度採決するような議会にはできない、とのことなのでしょう。

この時点で離脱の法的期限である3月末までの議会承認は不可能と思われたため、もはや大幅延長を申請するしかないと思われていました。しかし実際は、メイ首相はEUに対して6月末までの離脱延長の申請をしました。まだまだメイ首相は諦めていなかったということです。そして申請を受理したEU首脳会議は、イギリスに改めて今月中の合意案の議会批准を求め、否決された場合は2週間期限を延ばして4月12日とし、その時点で新しい計画が出てこない場合は、合意なき離脱、もし議会批准が行われれば期限を5月22日とするということになった。英国議会は再度、合意なき離脱か否かを突き付けられたことになります。

因みになぜ5月22日かというと、7月にはEU議会が始まるので5月にはその議員選挙がある。ということは、離脱の結論が出ずにずるずるとこの時期に入れば、イギリスはEU加盟国資格を失わないままということになるので、法律上、議員を送り込まないといけなくなる。離脱を宣言した国が、改めてEUに議員を送り込むという不思議なことが起きる。イギリスにとってもEUにとっても困難な状況が生まれるということになる。いずれにせよ4月12日までにはEUに議員を出すのか出さないのか決めないといけない、と言うことになった。

メイ首相は最後の挑戦に出る。議会に対して合意案を承認してくれたら辞任するとまで啖呵を切った。迫真に迫る勢いですが、議会側は、メイ首相の強硬な議論の進めかたを疑問視し、法的拘束力はないものの数種の示唆的投票と呼ばれる議員意思確認の採決をした。結果次第では法的拘束力をもった法案化を行ってメイ首相を従わせようとした行動だと言われていますが、結果は示唆に富むものではありましたが、影響を与えるものではなかった。すべて否決。合意なき離脱は160vs400。EU単一市場・関税同盟残留188vs283。EU単一市場残留65vs377。関税同盟残留264vs272。野党労働党案273vs307。離脱撤回184vs293。国民投票再実施268vs295。英EU-FTA139vs422。

そしていよいよメイ首相提案の議会採決が3月29日に行われた。先のバーコウ議長の再裁決不可の判断が一度あるにもかかわらず、なぜ再採決が可能だったのかと言うと、政権は、国境管理に関するEUとの合意について法的拘束力を持たせたことが先の採決とは違うとして議会再採決を願ったということらしい。しかしこの議会採決の結果は、敢え無く否決となった。

もう何やっても否決の議会です。4月12日までに新提案をするか再採決して可決されなければ、いよいよ合意なき離脱となった。メイ首相は、4月に入って後も、議会側と協議を重ねたようですが、結局折り合うこともなく、再度EU側に6月末までの延長を申請したところ、最終的にはEU側からは10月末までの延期することで合意ということになった。4月11日時点の話です。

結局、EU側は、3月から4月11日時点までの英国内の目まぐるしい政治的駆け引きと動きを見て、英国は短期で何らかの結論を出すことはできないと踏んだのでしょう。延期すれば英国に生ぬるい対応と見られるけれども延期しなければ合意なき離脱による混乱で自らも火の粉を被ることになる。思えば3月に決まった4月12日という期限は、EU側にしてみれば、期限を短くして、このままだと合意なき離脱になるぞ、と英国を揺さぶってみた、ということなのでしょうが、何ら結論はでなかった。ならば今度は10月だ、とメイ首相の提案以上の期限を切って、このままだとみなし残留になるぞ、と揺さぶっているように見えます。

◆これからイギリスはどうするの?(今後の政治の動き)

いずれにせよ、少なくとも3月末までの離脱期限が10月末までに延期されたことは確かなことです。3月中の採決がもはや困難であることが明らかになるにつれて、直前の期限であった4月12日には合意なき離脱になる公算が高いと見られていただけに、ひとまずの混乱は避けられたことになりますが、なんら決まっていないことには変わりがない。

再度国民投票できないのかという意見もときどき聞きますし、そう主張する英国議会議員も一定程度います。どういう内容の投票にするのか、するとしてもその結果に満足しない勢力が再再度の投票を求めたら無視できなくなるため、当初は実現可能性は乏しいと思われていました。また、解散という話も聞こえてきます。これで解決することにはまったくなりませんので、これも当初は実現可能性は乏しいと思われていました。しかし、期限が10月となったため、期限という意味で多少の余裕がでてきたため、可能性はなくもない。

メイ首相は自らの離脱案を修正することはまずないと思います。一方、3月までの議会の投票行動を見てみると、メイ首相案に賛成とは言えないけれど大きな政治判断として賛成に転じる議員が増えてきたことは事実。であれば、第一義的にはメイ首相は議会に理解を得る活動を続けるのだと思います。ただ、強硬な姿勢を崩さない議員もいるため、結果がまったく分からないとしても、解散するとか国民投票するとかの奇策をうって事態を打開するということも十分可能性はでてきたのだと思います。これはまるで、調子が悪くなった機械を、軽くトントンと叩いてみたくなるのと同じです。それで解決されるということではないものの、何かが変わるかもしれないということと、実際に何かが変わって調子よくなることもあるという経験則に基づくものです。

合意ある離脱になった場合、離脱から2020年末まで移行期間が設けられます(延長されるかもしれませんが)。この間は英国はEU加盟国並みの扱いになり、表面的には混乱はそれほど多くないと思います。英国としては、その間に、将来関係の具体的外交協議に入ります。英国にとって主要な交渉国は当然EU。しかし、その他の国との外交交渉もこの間に済ませるのが望ましいはず。日本で言えば最低3本の協定を交渉することになる。この間、英国外務省は恐らくバケツの水をひっくり返したような忙しさになるはずです。

将来関係の議論の結果は、ヒトの移動や司法管轄権、拠出金や意思決定への参画などについては制限されることになると思いますが、その他は現在のEU関係と同程度になるものと予想しています。もちろん、EU側が立場的には圧倒的に有利であることは間違いないので英国は細部で譲歩を迫られることになるのかもしれません。

仮に合意なき離脱になった場合、おおよそ7000程度の外交的協定を再交渉する必要がでてくると言われています(未確認)。日EUの経済協力協定EPAがこの2月に発効しましたが、この交渉でも相当の時間がかかっています。こちらのほうが、途方もない労力がいるはず。

いずれにせよ、イギリスのEU離脱は国際秩序の形成にとっても経済的にも短期的にはネガティブインパクトとなる話ですので、合意なき離脱だけは避けてほしいと願うしかありません。ただ、仮に合意なき離脱となったとしても、中長期的にはイギリスが独自の手法で国際秩序形成に大いに貢献することになる可能性は大いにあります。世界にとって、短期的に大きな痛みを伴っても、中長期的にメリットを享受できる可能性はある。しかしそれは現時点でエビデンスに基づく確度の高い将来予想からくるものでは決してないことは、我々は肝に銘じないといけません。

◆日本にはどんな影響がでるの?

先行きが見通せないために、メーカー企業が英国から撤退を計画したり、在庫を積み増したりしているようですが、それ以外に、ポンドの下落、EUと英国両方の需要縮減と経済成長低下、物価上昇、関税手続き煩雑化、旅券制限、犯罪者情報相互共有、携帯電話、運転免許、など、様々な意見がでています。実際にはどうなのか。

合意ある離脱の場合は、マクロでみれば直接大きなインパクトとなる可能性は低いはずですが、問題は合意なき離脱の場合です。実際に前述したような影響は大いに出る。まず貿易ですが、イギリスが諸外国と経済協定を全部結びなおすには少なくとも3~5年。全部できて10年くらいはかかると見ています。一方、典型的に影響を受けるのは日本の自動車メーカです。イギリスを拠点にEUに出荷しているケースが多い。従って在英支店の収支は劇的に悪化するはずなので、この間に生産戦略を再考しなければならなくなる筈です。5年とか10年というスパンで先が見通せない事態になるということは、イギリスから生産拠点は撤退しなければならなくなると見るのが一般的だと思います。

一方、その他の商品のイギリス向け貿易の絶対額は意外かもしれませんが限定的です。しかし、関税手続きが暫くは煩雑になったりと、困難は続くものと思います。

私が最も気になるのが、イギリスが金融立国であること。先にも書きましたが、合意なき離脱となった場合、短期的には生産・消費・労働力のアラユル面で低迷が続き、為替下落と物価上昇の圧力が加わります。金融立国は世界全体のマーケットに多大な影響を与えるのはよく知られていることで、必ず世界経済に影響がでます。日本政府も日銀も、ブレクジットの影響を見越して経済財政金融政策を運営する必要がでてきます。

◆日英の関係は?

日本とイギリスの関係は、過去最高と呼べるレベルにあります。今年1月、安倍総理は4度目の訪英で日英共同声明を出し、最も親密な友人でありパートナーとして、同関係が次のステージに引き上げられたことが確認されました。次のステージとは、安保、経済、イノベーションです。特に連接性と安保協力で言えば、例えば昨年から今年にかけて4隻ものフリゲート艦(「サザーランド」「アーガイル」「モントローズ」)や揚陸艦(「アルビオン」)が日本を訪れ、日本と協力して東シナ海を含む日本周辺海域の警戒監視活動を行っています。これには、北朝鮮に向けた違法活動(瀬取り)の監視も含まれます。また、昨年10月には英陸軍と陸上自衛隊が初の共同訓練を行っています。また、今春は外務・防衛両大臣による「2+2」と呼ばれる安保会議が開催される予定になっていました(離脱問題で延期となりましたが)。メイ首相は、昨年初頭、日本が誇る護衛艦「いずも」を訪問し、この時は小野寺防衛大臣が同行しています(私は待機要員で防衛省にいました)。またそれに先立つ一昨年末、小野寺防衛大臣も訪英の際にイギリス海軍が誇る最新鋭空母「クイーンエリザベス」を訪問しています。

既存のリベラル秩序を維持発展させるため、それを支える世界の自由貿易体制を支えるため、また自由で開かれたインド太平洋を実現させるため、日英協力は極めて重要なパートナーシップであることは間違いありません。英国が如何なる困難に突き当たったとしても、この関係は維持すべきです。

◆EUとはそもそもどんな結束?(参考)

EU(英国含む)を一括りにすると、人口は中国に次いで5億人の2位、名目GDPは米国に次いで17兆ドルで2位の28か国からなる地域で、4つの自由、つまり、ヒト、モノ、カネ、サービスが結束の中心軸になっていて、その上で加盟国はEU法に縛られ、EUに拠出金を払い、一方で意思決定に参画できることになっています。

EUの予算は15.7兆円。拠出金は、独3.4兆円(21.9%)、仏2.5兆円(15.8%)、伊1.9兆円(11.9%)、英1.7兆円(10.6%)、スペイン1.3兆円(8.4%)など。一方で、EU議会議員はほぼ人口割りで、議席数は750。独96、仏74、伊73、英73、スペイン54などです。

貿易で言えば、EU→米47.5兆円、米→EU32.5兆円、EU→中国25兆円、中国→EU47.4兆円、EU→日本7.7兆円、日本→EU8.7兆円。

因みにイギリスの貿易はEU中心で、輸出は、EU43%、米18%、中国3%、日本2%、輸入は、EU54%、米11%、中国7%、日本2%です。

(状況の進展を受けて適宜加筆訂正しております)