米国訪問ー米国の動向と今後のポイント

(写真:キャピトルヒルにある下院議員の応接室で)

アメリカは今後どうなっていくのか。トランプは何を何時どの様に判断するのか。世界各国が注視し憂慮している関税や予算削減の措置。同僚小林鷹之代議士ら5名と共にした今回の訪米は、トランプ政権発足100日のタイミングであり、日本からの交渉団の訪米とも重なったため、米国でも非常に関心が高い時期の訪米となった。そうした中で、議会人として大統領と直接かかわりのある7名の連邦議員(上院下院・民主共和)の意見をバランス良く直接聞くことができたほか、LNG精製現場、事業者、予算削減にあえぐNASA、国防省兵站担当元高官、NSC元高官などの意見を聞くことができた。

我々からは、同盟国として、防衛力の抜本強化とセキュリティークリアランスやサイバー防御などの必要な法整備やインテリジェンス能力向上に継続して取り組んできたこと、加えて日本が対米投資額1位であることを必要に応じて共有した上で、①国際収支の認識の是正(貿易赤字でもサービス黒字でトントン)、②国際社会に対する負のインパクト(敵を作る)と自由で開かれたインド太平洋の継続、③大統領が日米同盟を片務的だと言うことに対する懸念、④防衛協力の深化、⑤国際共同事業に係る予算削減が国際秩序に与える影響、⑥有事の経済安全保障に関する認識、について打ち込みを行った。

関税政策に関する認識は、直接言及しなかった方もいたが、同志国に対して発動すべきではない、あるいは関税措置そのものに反対だと明言された方もいた。真っ向から反論されることはなく、総じて言えば懸念の方が大きいとの認識であった。デジタルサービス収支については、既に認識していたかどうかは分からないが、十分に理解を得た感触はあった。

一方で、関税措置によって国際社会に遠心力が働き、間隙を中国が埋める形になるのではないかとの認識については、完全に認識が共有できた。今回会談した殆どの方が、中国に関する何らかの認識を表明しており、立場や党派を超えて中国の懸念が共有されていることは明らかであった。ただ、米国には今回の米国の措置を受けて日本が中国に重心をシフトするのではないかとの懸念も一部にはあるようだ。裏を返せば米国の突然の米中合意の可能性もリスクシナリオとして考えておかなければならない。

防衛協力に関しても当然だが認識は共有された。多少の驚きとしては、日本は既に情報共有メカニズムに貢献できる国であるとの認識を示された方がいたことだ。いわゆるファイブアイズと呼ばれるもので、これまでの制度的取り組みを自負できるものであったが、運用面ではまだ実態は伴っていないと認識しており、改めて実運用の強化が必要と感じた。中心的な議論は、防衛装備品の産業政策の協調であり、具体的には共同開発であった。第三国移転の予見可能性を問題視している旨の発言があった。改善に向けた取り組みが必要だ。

一方で予算削減措置については、実施されると国際秩序にも拘わる重大な影響が生じる可能性がある。未だ何も決まっていないが善処したいとの回答であった。ただ、帰国直後にNASAのアルテミス計画については、開発中の大型ロケットや宇宙船の運用を将来的に終了して民間に切り替えるなどの大幅な計画変更の方針が示された。既に退官された高官が宇宙分野は通信衛星以外は政府投資がないと絶対に成功しないとしきりに言っていたことがメッセージだったのかもしれない。おそらく宇宙分野は今以上に民間移転が進む可能性があるだろう。

有事を見据えた経済安全保障上の協調の指摘が何度かあった。トランプ政権は当初から造船業の復活を宣言していたが、確かに世界を見渡すと中国の建造量は米国の200倍以上であり、大きな懸念となっている。日本もコロナ禍以前から造船は安保だとの指摘が相次ぎ具体的な措置を行ったが到底足りるものではなく、加えて直ちに実現できるものではないため、当面は日韓協力が主要なテーマとなるはずだ。その点、韓国大統領選は同志国陣営にとって最も注目すべき国際政治スケジュールになるはずだ。その他、中国が以前から不可欠性を有する資源を多様化する必要もある。

最後にLNGについて。アメリカが資源輸出大国になってから10年は立っていない。シェルオイルやシエルガスの技術開発に成功したためだが、我々が訪問した日本企業が出資するヒューストンのフリーポートも当初は輸入基地として始めたものだそうだ。米国の安保上の最大の貢献がLNGだと豪語する方もいた。副産物として半導体製造に必要なヘリウムの生産地ともなっているのは目新しい情報であった。LNGが今やアメリカの力の源泉となっているようで、ヒューストンの戦略的企業誘致も相まって、今や全米から人が押し寄せる地域となっている。輸出拡大に熱心だが、パナマ運河問題と移送コスト問題があるため、中国を含むアジアへの輸出よりも欧州向けが主眼のようだ。一方で話題となっているアラスカLNGについては、6兆円以上の巨額投資が必要なうえ、収益性も不明な点が多く、否定的な声が相次いだ。

NewPort LNG Project

■代表的な訪問先
ーキャピトルヒル議員会館(連邦議会議事堂)
ーLNG精製現場(フリーポートLNG基地)
ーLNGインフラ事業者(TCEnergy)
ー日米海洋石油ガス連携事業DeepStar(シェブロン本社)
ーNASA(ジョンソン宇宙センター)
ーその他会議場