宇宙基本法が成立して10年が経ちます。10年前までは、宇宙政策の主目的が科学であって、科学は絶対に必要なのだけど、莫大な血税投資をした割に、国民の皆様から何のため、という指摘に明確に打ち返せる材料に乏しかったのも事実です。宇宙という領域を、GPSのように国民の皆様からなるほど、と思っていただくような、つまり宇宙の積極利用によって新しい価値を生み出すような、そういう仕組みが必要だ、という話になり、与野党合意の上で、この法律は成立しました。結構この世界では画期的でした。基本法の制定により、宇宙の開発と利用について、「産業」「安保」「科学」がバランスよく好循環を生むよう、さらに省庁ばらばらではなくて政府一体となって取り組めるよう、機能・組織・制度が創設されました。これにより税金の効率的執行が可能になったものと思っています。具体的には、組織や機能としては、閣僚をメンバーとする宇宙戦略本部や宇宙担当大臣の設置、また事務機能を担う宇宙戦略室の設置、さらに従来文部科学省の中に設置されていた民間有識者の会議である宇宙政策委員会を政府全体として取り組めるよう内閣府の元に設置しました。制度としては、国が行う中長期戦略を「宇宙基本計画」として定期的に定めることがうたわれました。また、民間産業の活性化や安全保障上の抑制的合理的利用、またはJAXAの改革などもうたわれました。
宇宙基本計画は、20年先を見越して10年スパンくらいで政府がやるべき戦術を示すものですが、その中で、戦略を実現するための工程表も毎年提示することになりました。この工程表は、毎年6月くらいに宇宙政策委員会で意見が取りまとめられて12月くらいに工程表を改訂するという循環で動いています。
そして今日6日、官邸で宇宙戦略本部の会合があり、その宇宙政策委員会の工程表改訂に向けた重点事項に関する報告がありました。
http://www8.cao.go.jp/space/hq/dai17/gijisidai.html
まず、安全保障の分野では、近年の安保環境の変化にともなって、宇宙やサイバーといった新しい領域(ドメイン)で優位性を持つことが死活的に重要になっていること、そのため、情報収集衛星、Xバンド防衛通信衛星の打ち上げ、宇宙システム安定性強化のための脆弱性チェックの実施、海洋状況把握の能力強化に向けた取り組み方針の決定など、工程表に基づく着実な実施を行うとともに、宇宙状況把握(SSA)システムの35年度運用開始を見据えた具体的運用の検討開始、次期早期警戒システムの研究動向も踏まえた米国との協力、情報収集衛星の整備、SSA衛星や静止軌道光学観測衛星などの新たな技術開発の動向調査などが重点項目とされました。政府全体として取り組むことは多い。報告書では「防衛大綱の見直しに際して、今回あげられた項目について適切に勘案」すべきとされました。
宇宙産業の分野では今年劇的な変化がありました。先にブログでも触れましたが宇宙ビジネスは新時代に突入しています。昨年の宇宙政策委員会の宇宙産業振興小委員会では、宇宙産業ビジョン2030を取りまとめ、2030年代の早い段階で市場の倍増を目指そうしていますし、また今年の11月には準天頂衛星システムによる高精度即位サービスも開始される予定、さらに政府の衛星データを無料開放(オープン&フリー)して利活用促進を始める運びとなっています。宇宙空間もビッグデータビジネスとして注目されているためです。そこで工程表では、リスクマネー供給拡大も含めた宇宙ベンチャーの育成支援パッケージの実施や宇宙ビジネス・アイディアの掘り起しと投資家とのマッチング支援、事業化までを視野に入れたJAXAと民間企業のパートナーシップ型研究開発など着実に実施するとともに、衛星データの利用拡大として、11月から運用開始される準天頂衛星「みちびき」の7機体制の確立と機能性能向上、自動走行や農業防災などの分野での利活用促進のための6府省からなる官民タスクフォースの設置、今年度中の政府衛星データのオープンフリーデータプラットフォーム指導が重点項目とされました。また宇宙機器の国際競争力強化では基幹ロケット(H3/イプシロン)、技術試験衛星の開発、基盤整備ではDBJやINCJなどの官民一体でのリスクマネー供給拡大や、JAXAや企業OB等の専門人材と宇宙ベンチャーとのマッチング支援なども重点項目として謳われました。
科学の分野では、国際宇宙探査と宇宙デブリなどです。去る3月には国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)が開催され、月や火星といった太陽系の惑星について(特に月)探査活動が世界共通の目標であることが高らかに謳われました。また、月近傍の有人拠点構想について国際協力の下で進めることも謳われました。どのように日本が関与するのかを本格的に検討すべきでもあります。一方で、宇宙デブリ(宇宙ゴミ)の問題が大きく取りざたされるようになりました。宇宙広しと言えどもデブリの海になったら打ち上げても軌道に安定的に乗せて運用することは困難なため、どのように状況を把握し除去するのかが重要です。国際会議での議論に積極的に参画していくことは当然だとしても、除去の技術の検討が必要ということになります。
一言で言えば、宇宙は本格的な利活用の時代に入ることになります。
先日、小野寺大臣とともにJAXA筑波宇宙センターに出張して参りました。宇宙分野で基礎研究から開発利用に至るまで我が国を常にリードしてきたJAXAを訪問して、その高い技術力や知見、さらにはすでに防衛省と連携して進めている宇宙状況監視(SSA)に関する取組について学ばせていただくのが主だった目的です。また、最近、にわかに脚光を浴びているスペースデブリ解析室で勤務している自衛官も激励してまいりました。
宇宙空間の活用は、先にも触れましたように、現在見直しを進めている防衛大綱や中期防で、新たな防衛分野として重要な検討課題となります。