年初のご挨拶で、新しい資本主義の事について触れました。私個人として思っているのは、新しい資本主義とは、民間出資による社会課題解決を後押しし、行政だけに頼らない社会課題解決の新しい資金循環を作り、富を生み出す環境を社会全体で作ることです。
別の言い方をしますと、「成長と分配の好循環」というのであれば、その分配とは何で、誰が何の目的で行うのかということを考えなければならないということです。仮に分配を国が国費で行うのだとすれば、確実に成長に資する社会課題解決のための政府投資であるべきで、単に国が国民に社会保障給付的にばら撒くことであってはなりません。
成長に資する分配であれば、国が国費を使って民間投資も促すものとすべきです(余談ですが私は比率は1対3だと思っています)。だとすると、分配とは社会課題解決に他ならず、誰がというのは国と民間という社会全体であって、その目的は成長。その結果として既存の概念の分配(社会保障)を厚くしていくということになるはずです。
1年間で社会保障給付が数千億も伸びていますが、歳出削減に注力するのは給付事務の合理化の文脈であれば理解しますが、もう限界に達しつつある。それを賄う富の創出を考えなければ、誰が考えても回らない。であれば、社会の好循環には今までとは違う歯車も考えなければならない。それが、冒頭に申し上げたものです。
具体的に言えばESG資金です。世界にはブラックロックという運用資産1000兆円を超える資産運用会社があり、ESG市場に注力していると言われます。何もこのブラックロックでなくてもいいのですが、とにかくこうしたESGや担い手と共に成長の足かせとなっている社会の課題に”分配”していく必要があります。既存の資本主義の概念の分配に直接注力する方向であってはならない。これをやれば単に社会主義国家になるだけです。
https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/about-us/our-commitment-to-social-impact
では社会課題とは何か。例えば、税財政の議論では、賃金が上がらない、国際競争力が低下している、円の力と購買力がなくなっている、経済産業やイノベーション政策の議論では、富を生み出す力が弱くなっている、または富が流出している、そうした産業構造上の課題がある、そもそも人を育てる教育システムに課題がある、農業政策の議論では、農業生産基盤が弱体化している、なので輸出して富を稼がないといけない、コロナ政策では、国産ワクチンを作る力が弱い、防災では国土強靭化が必要だ、など挙げればきりがないほど、社会課題は山積しています。
昭和の成長期には既存の古いタイプの分配で解決したでしょう。否、解決するだけの成長があった。今は成長がないのであれば、新しいタイプの解決を見出さないといけない。上に挙げたような課題を各分野でしっかりと議論して税金を費やし適切に解決していくことは重要です。しかしそれと同時に、社会と共に解決する大枠の仕組みも必要なのではないか。各分野で、民間との協調解決路線を具体的政策として提示する努力が必要なのだと思います。
約10年前、強烈に感じた日本経済の窒息状態は、安倍政権による大胆な経済政策で脱しつつあったのは確かです。しかしここにきて頓挫しています。コロナ禍により問題が複雑化し半ば諦めの気持ちでコロナのせいにできなくもないのですが、本質的な構造的課題は確実に残っています。安倍政権の政策が日本復活の第一段階だとすると、歴史的に見ても、今こそ第二段階の方策が必要で、新しい資本主義という打ち出しは、非常に重要だと考えています。