今国会、最も活動時間を割いてきたことの1つに「防衛装備品の海外移転」の議論があります。昨年末に初改定された国の安全保障の基本方針である国家安全保障戦略で掲げられたものですが、我が国にとって望ましい安全保障環境の創出に繋がる政策であるという確信をもって議論に参加して参りました。
本題に入る前に私の考え方を示しておきたいと思います。国家が安全保障上、外国に何を移転すべきか、あるいは移転せざるべきかは、憲法や国際法や紛争当事国であるか否かは当然の前提として、一般的にはその時の我が国を含む国際情勢、装備品の性質や生産状況、相手国のニーズによって決まるはずで、個別ケースに基づいて厳格な審査が行われて当然であると考えています。例えば既に移転が認められている掃海目的の装備品移転でも、場合によっては我が国の安全保障上望ましくない事態が生じる場合もあり得ます。一方で、移転が禁じられている「地雷処理」でも、移転しないことによって我が国に深刻な安全保障上の危機を及ぼす場合もあります。従って、事前に一律に絞ることほど不合理なことはありません。
実はこれまでは自縛が過ぎて単純な移転も進まないのが現状でした。防衛装備品の移転は「外為法」で管理するのですが、外為法を拘束しているのが「防衛装備品移転三原則」であり、それはいいのですが、その三原則には「運用指針」という途轍もなく強力な制限がかかっているために、実質的に移転できないようになっていました。
驚くことに、防弾チョッキやヘルメット、通信機材や施設整備機材など、殺傷性や破壊性がなく周辺国から関心が寄せられているものでも、移転は認められてきませんでした。それは、運用指針に示されている移転ができる場合というのが、相手国の使用目的が救難・輸送・警戒・監視・掃海である場合の他、国際共同開発、特別の法律がある場合に限られていたためです。現状の国際秩序に鑑みれば、周辺国が装備品を欲しているにもかかわらず、そして日本が生産能力があるにもかかわらず、自衛隊が使うようなものを外に出すことになるイメージは嫌だ、巻き込まれるから嫌だ、という理屈は全く通らないはずです。
むしろ移転を戦略的に進めることで日本にとって望ましい安全保障環境を創出すること、すなわち装備品の移転をすることで仲間づくりをする、そのことで地域の安定を生み出し、周辺国とともに仲間で安全かつ安心な環境を作るべきです。危なそうなものは出さないという理屈は、結果的に危なくなる状況を作り出すはずです。危なそうなもののイメージは嫌だというのは、自分のイメージを守っているだけで、国民を真に守ることには繋がらないはずです。
加えて安全保障の裾野が例えば高性能半導体などにも広がっている現状において、半導体を出す相手によっては秩序が劣化する場合も向上する場合もあるため、個別に審査することとなっていて、一律禁止はしていません。現時点で「自衛隊ヘルメット」は全面的に禁止され、「AI兵器に使える半導体」は移転が可能というのは、到底論理的ではありません。自衛隊「的」なものがダメというのは不合理です。であれば、見た目のイメージではなく、その物品・役務の移転が持つ意味合いを厳格審査するべきは当然なのです。
もちろん何でも移転を認めるべきではないことは当然です。例えば紛争を助長することに繋がる移転は認めるべきではないし、国際法に違反する国への移転も禁じられるべきです。そもそも三原則には紛争当事国や国際法に違反したり国連決議に違反する国には移転しないことが既に謳われており、三原則の骨格は維持することが既に決まっておりますので、移転はされません。また現に戦闘が行われている地域への自衛隊による移転は憲法の制約からできないことになっています。
今年4月25日、小野寺五典先生を座長とする自公の関係議員約10名からなる実務者会議(以下、ワーキングチーム(WT))が設置され、爾来、合計23回にも及ぶ議論を重ね、昨日、ようやく自公で合意、与党案の提言を纏めることができました。ただ、既に報道にあるとおり、一部の議題については結論を得ることができず、来年に持ち越されることとなりました。
議題は主に5つ。1つ目は、我が国と安全保障上の協力関係にある国との国際共同開発・共同生産品の移転。2つ目は、ライセンス供与で生産している装備品のライセンス元国への移転と更に元国から第三国への移転。3つ目は、いわゆる5類型。4つ目は、部品の移転。5つ目が三原則本体の前文及び後文です。内容は既に報道されているので割愛しますが、結論を得ることができなかったのは、1番目の一部と3番目です。
1つ目の共同生産品については、昨年から話題に上っている日英伊による戦闘機の国際共同開発が念頭にあります。例えば、共同開発した正に同じものをイギリスは第三国に移転できるけど日本はダメというのは不合理ですし、イギリスが第三国に移転した場合に日本の部品がその第三国に移転できないのも不合理です。完成品について、公明党が難色を示し議論が来年に持ち越されました。既に国際合意があり、英伊からも国際的なプレッシャがかかっている中で、放置すれば我が国の国益に大きな穴があく、即ち我が国に望ましい安全保障環境を創出できない、と認識しており、直近最大の課題であり、早急に結論を出す必要があると認識しています。
3つ目のいわゆる5類型については、最も問題意識を持っていた課題で、多くの識者が指摘するものです。現時点で自公の考え方の隔たりが大きいのは事実です。イメージを優先するのか、国民の安心安全を前提に考えるべきなのか、自明のことであろうかとは思いますので、来年以降引き続き議論を続けていきたいと思います。