働き方改革と人口減少対策と生産性向上

今国会が実質上昨日で終わりました。国会の機能は立法だけではない、首相を選ぶことと行政をチェックする機能もある、と枝野幸男代表が本会議の演説で述べておられましたが、私自身、価値を行政と創り上げる事、も重要だと思っています。よく、国会議員って何しているの、と聞かれることがありますが、政策提言をしっかりとし続けて、価値を作っていかなければならないのだと思います。

今年の通常国会の目玉は働き方改革。去年からの持越しである上に、このテーマは大きな課題であって何年にもわたっていたるところで議論をされてきた問題ですので、今更感はありますが、重要なので、触れさせていただければと思います。

内政において中長期の最重要課題は何かと問われれば、誰しもが人口減少対策、と答えると思いますが、その主要な柱が働き方改革です。

今後の日本の人口は、楽観的試算でも2090年近くまでは確実に人口は減少し続けます。フローであるGDPを維持するならば、生産性をその分上げるしかない。そしてそもそも減少幅を少なくする努力をしなければなりません。つまり、女性や高齢者の労働参加を促すとともに、出生率改善を促し、労働生産性を高める事です。

その為には、種々の施策が考えられますが、労働政策は基本政策の1つです。私自身は、2年前に人口減少対策議員連盟で政策取り纏め役として政策提言を行いましたが、その時に有識者ヒアリングの一環としてお話を伺った、小室淑惠さんのプレゼンが未だに忘れることができません。皆様も、ネットなどで見れると思いますので、是非ご覧いただくことをお勧めいたします。

国会の審議を聞いていると、残念ながら野党の皆さんから国家感とか政策の基本哲学とかを聞いたことがなく、常に表面的な問題点ばかりの追求に終わっていることを残念に思っています。もちろん追求は重要であってどんどんやって頂ければと思いますが、寧ろ、小室淑惠さんがお訴えになっているような、今後の国家の何が問題で、その解決策は何なのか、を是非論じていただければと思っています。

改革の基本ポリシーは、多様な働き方が可能な社会を実現するということです。その具体的政策の玉が長時間労働の是正です。簡単に説明すると、現在の社会は過去と大きく異なり、働き方に多様性を許容しなければ労働力を維持できないという問題があります。例えば、介護離職や介護休暇取得者が激増しています。会社の50台の部長クラスが休まざるを得なくなる。また、出産よりも労働を選択する夫婦も多い。よく勘違いされるのですが、多様な働き方とかワークライフバランスというのは、左翼的ゆとり教育的な発想ではなく、国家感的発想だということです。

長時間労働を許容すると、家庭に負担のしわ寄せがくる。直接的には女性の社会進出を阻み、また出生率の低下につながるという明白なエビデンスがあります。更に介護人材を阻み、育児人材も阻みます。つまり、いわゆる「できる人」に負荷が集中する。できる人というのは必ずしも能力が高いということではなくて、実際に長時間でも労働が可能な人という意味です。介護休暇や育児休暇の取得をする人は、できない人になります。できない人の評価は能力とは関係なく結果的に低くなってしまう。

逆に言えば、企業から見れば、介護も育児も参画しない仕事専念人間を採用した方がいいわけで、そうした人が採用され評価される。しかし、もうそうした人材はいないのだ、ということを認識しなければなりません。多様性を許容できない社会は、貴重な労働力の流出という残酷な結果を生んでしまうという側面も忘れてはなりません。現在、高度人材が海外に流出しています。

もう一つの側面は、長時間労働を許容すると、家庭の負担増に伴って、育児や介護の公的サービスに対する需要が増えるということです。これは結局、政府の財政を圧迫し、それを通じて税金として国民に跳ね返っています。

モーレツ社員とか24時間働けますか、という言葉が昔ありましたが、昔の社会構造だとそれでよかった。でも、現代の社会構造は、仕事が好きだからがんばりたいんです、という美談的な発想は、社会をダメにすることは明白です。

小室さんは少子化や労働参画の議論をすると必ず女性に焦点があたるけど、事の本質は男性の働き方是正にある、と喝破されておられましたが、まさにその部分です。リクルートという会社は、残業時間自主規制を行い、深夜労働が86%減って女性従業員の出産が1.8倍、生産性が5%増え、労働時間が3%減少したそうです。子供が1人いる人の労働時間と2人目出産の間には、非常に強い相関があるというエビデンスもあります。

今回の法改正では、労働時間自体を規制することにしました。現在の労働規制は一応上限(月45時間)はあるのですが、36協定と言って、労働者と使用者の事前合意があれば、上限を超えていいことになっています。それを明確に上限設定することにしました(1か月100時間、複数か月平均80時間)。実はEUは週48時間という上限が設けられています。労働インターバル制度と言って、前日働いて次の日に働き始める間の時間を設ける規制もEUにはあります。日本も近くなったと言えます。

社会が労働時間の上限規制を設けると、別のことも起きます。例えば、これをお読みの皆さんが、とある会社のとある部署の課長さんだったとします。部下は10人。仕事が10増えた。1人に1の仕事を任せればよいはずです。しかし、多様な時代、10人の内5人が働けないとします。すると残り5人に2づつ仕事を任せることになる。恐らく「モーレツ」に残業することになる。最初の5人は離職するかもしません。仮に課長が、残業規制をして、チームで評価することとし、最終退出者の氏名と時間を記録するようにしたら、何が起きるでしょうか。チーム内でお互いにやりくりして、時間当たりのチームの生産性を競うようになります。結果的に労働生産性は上がる。ただ、課長は、自分の課と競合する他の課が同じポリシーでやってくれないと、自分のチームで他の課より成果が出せるか不安なはずです。恐らく社長に、全社的取り組みにしてほしいと言うはずです。社長にしたら、社会全体で同じ取り組みにしてほしいと思うはずです。これが今回の改革のポリシーの一つになっています。

もちろんこれだけではありません。もう一つのテーマは労働生産性自体です。本来、裁量労働制の改革が政策パッケージの一つでしたが、今年3月に野党の反対と厚労省の根拠データの不備があったために断念しました。一方で、高度プロフェッショナル人材制度の創設が謳われました。一定の職種、一定の年収の人を対象に、時間に囚われない働き方を許容する制度です。

正規・非正規の格差改善も重要テーマです。どうも国会での議論で残念なのが、非正規は正規と同じだけ働いているのに可哀そうじゃないか、という視点しか持ち合わせていないか、そう装っている人がいることです。確かに解消しなければなりません。しかし、正規や非正規という枠が時代にマッチしていないということをしっかり認識しなければなりません。上の段落でも述べたように、出産・育児・介護などライフステージに合わせた多様な働き方を選択できるようにすることが必要な時代です。だから「この国から非正規という言葉を一掃する」と総理もおっしゃいましたが、概念改革をしなければならないのです。

同一労働・同一賃金。実は日本で本格的にこの改革をやろうとすると、革命的改革になります。なぜならば、諸外国の労働慣行・労働市場構造と日本のものは結構違うからです。日本の場合、就職というのは会社との契約であって、それは退職まで続く。諸外国の場合は、特定の部署の特定の仕事の契約になるのが一般的です。つまり、日本の場合、一度就職したらエレベータ式に上っていける構造とも言えますが、上司や会社に言われた仕事は場所や内容は問わず何でもしないといけない。一方、諸外国の場合は、契約を更新しない限り、そのセクションで同じ仕事をする。結果的に、日本は新入社員を一括で採るのに対して、諸外国では空いたポストだけ採用する。従って、諸外国はポストが固定化する可能性が高く、つまり格差も固定化する可能性も高い雇用構造になっています。外国映画では、別の会社からスポッと課長がやってきたり、転職が盛んにおこなわれてたり、ヘッドハントが日常茶飯だったりするのは、このためです。こういう雇用構造だと、同一労働同一賃金はやりやすい。しかし、日本がこれを本格的にまねしようとすると、革命になってしまいます。

同一企業内で労働者の間の比較として不合理な待遇を禁じていますが、その運用を厳格化したこと、職務内容などが同じであれば均等待遇の確保を義務付けたこと、派遣の取り扱いも厳格化したこと、そして、明確なガイドラインを整備し、労働者に対して待遇差がある場合は説明を義務化し、労働者に対してADR(裁判外紛争解決手続き)の整備をすることとされました。

西日本豪雨

少しバタバタしていて投稿できていませんでしたが、西日本豪雨で甚大な被害が発生しました。改めて被災された皆様にはお悔やみとお見舞いを申し上げます。1万人を超える方々が避難を余儀なくされています。これから気温も上がることが予想されます。電気・水道などのライフライン復旧は急務です。今後も災害対応に万全を期したいと思います。

なお、災害救助法が適用された高知・鳥取・広島・岡山・京都・兵庫・愛媛・岐阜については、種々の特別措置が実施されます。

〜民間情報〜

生命保険協会
主要生命保険会社が構成員の一般社団法人
http://www.seiho.or.jp/info/news/2018/20180707.html

日本損害保険協会
主要損害保険会社が構成員の一般社団法人
http://www.sonpo.or.jp/
http://www.sonpo.or.jp/news/dizaster/help_line.html

有志による給水MAP
http://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/kyusui-google-map

被災地での衛生管理について
headlines.yahoo.co.jp/hl

〜政府情報〜

災害救助法
http://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/kyuujo.html
http://www.bousai.go.jp/…/…/pdf/180709_typhoon_kyuujo_01.pdf

経産省
電力・ガス・石油・コンビニ・支援物資状況・支援策
http://www.meti.go.jp/…/2018/07/20180709008/20180709008.html
http://www.meti.go.jp/…/2018/07/20180706007/20180706007.html

その他情報

防衛省
自衛隊活動状況
http://www.mod.go.jp/j/…/defense/saigai/h30_ooame/index.html

農林省
支援対策等
http://www.maff.go.jp/j/saigai/index.html

国道交通省
インフラ関係状況と復旧対応
http://www.mlit.go.jp/saigai/saigai_180703.html

厚生労働省
医療機関状況等
http://www.mhlw.go.jp/…/seisak…/bunya/0000212377_00001.html

内閣府
防災関連情報(総合)
http://www.bousai.go.jp/

首相官邸
災害対策本部・関係閣僚会議や総理・官房長官記者会見等
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/ooame201807/

宇宙開発利用

宇宙基本法が成立して10年が経ちます。10年前までは、宇宙政策の主目的が科学であって、科学は絶対に必要なのだけど、莫大な血税投資をした割に、国民の皆様から何のため、という指摘に明確に打ち返せる材料に乏しかったのも事実です。宇宙という領域を、GPSのように国民の皆様からなるほど、と思っていただくような、つまり宇宙の積極利用によって新しい価値を生み出すような、そういう仕組みが必要だ、という話になり、与野党合意の上で、この法律は成立しました。結構この世界では画期的でした。基本法の制定により、宇宙の開発と利用について、「産業」「安保」「科学」がバランスよく好循環を生むよう、さらに省庁ばらばらではなくて政府一体となって取り組めるよう、機能・組織・制度が創設されました。これにより税金の効率的執行が可能になったものと思っています。具体的には、組織や機能としては、閣僚をメンバーとする宇宙戦略本部や宇宙担当大臣の設置、また事務機能を担う宇宙戦略室の設置、さらに従来文部科学省の中に設置されていた民間有識者の会議である宇宙政策委員会を政府全体として取り組めるよう内閣府の元に設置しました。制度としては、国が行う中長期戦略を「宇宙基本計画」として定期的に定めることがうたわれました。また、民間産業の活性化や安全保障上の抑制的合理的利用、またはJAXAの改革などもうたわれました。

宇宙基本計画は、20年先を見越して10年スパンくらいで政府がやるべき戦術を示すものですが、その中で、戦略を実現するための工程表も毎年提示することになりました。この工程表は、毎年6月くらいに宇宙政策委員会で意見が取りまとめられて12月くらいに工程表を改訂するという循環で動いています。

そして今日6日、官邸で宇宙戦略本部の会合があり、その宇宙政策委員会の工程表改訂に向けた重点事項に関する報告がありました。
http://www8.cao.go.jp/space/hq/dai17/gijisidai.html

まず、安全保障の分野では、近年の安保環境の変化にともなって、宇宙やサイバーといった新しい領域(ドメイン)で優位性を持つことが死活的に重要になっていること、そのため、情報収集衛星、Xバンド防衛通信衛星の打ち上げ、宇宙システム安定性強化のための脆弱性チェックの実施、海洋状況把握の能力強化に向けた取り組み方針の決定など、工程表に基づく着実な実施を行うとともに、宇宙状況把握(SSA)システムの35年度運用開始を見据えた具体的運用の検討開始、次期早期警戒システムの研究動向も踏まえた米国との協力、情報収集衛星の整備、SSA衛星や静止軌道光学観測衛星などの新たな技術開発の動向調査などが重点項目とされました。政府全体として取り組むことは多い。報告書では「防衛大綱の見直しに際して、今回あげられた項目について適切に勘案」すべきとされました。

宇宙産業の分野では今年劇的な変化がありました。先にブログでも触れましたが宇宙ビジネスは新時代に突入しています。昨年の宇宙政策委員会の宇宙産業振興小委員会では、宇宙産業ビジョン2030を取りまとめ、2030年代の早い段階で市場の倍増を目指そうしていますし、また今年の11月には準天頂衛星システムによる高精度即位サービスも開始される予定、さらに政府の衛星データを無料開放(オープン&フリー)して利活用促進を始める運びとなっています。宇宙空間もビッグデータビジネスとして注目されているためです。そこで工程表では、リスクマネー供給拡大も含めた宇宙ベンチャーの育成支援パッケージの実施や宇宙ビジネス・アイディアの掘り起しと投資家とのマッチング支援、事業化までを視野に入れたJAXAと民間企業のパートナーシップ型研究開発など着実に実施するとともに、衛星データの利用拡大として、11月から運用開始される準天頂衛星「みちびき」の7機体制の確立と機能性能向上、自動走行や農業防災などの分野での利活用促進のための6府省からなる官民タスクフォースの設置、今年度中の政府衛星データのオープンフリーデータプラットフォーム指導が重点項目とされました。また宇宙機器の国際競争力強化では基幹ロケット(H3/イプシロン)、技術試験衛星の開発、基盤整備ではDBJやINCJなどの官民一体でのリスクマネー供給拡大や、JAXAや企業OB等の専門人材と宇宙ベンチャーとのマッチング支援なども重点項目として謳われました。

科学の分野では、国際宇宙探査と宇宙デブリなどです。去る3月には国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)が開催され、月や火星といった太陽系の惑星について(特に月)探査活動が世界共通の目標であることが高らかに謳われました。また、月近傍の有人拠点構想について国際協力の下で進めることも謳われました。どのように日本が関与するのかを本格的に検討すべきでもあります。一方で、宇宙デブリ(宇宙ゴミ)の問題が大きく取りざたされるようになりました。宇宙広しと言えどもデブリの海になったら打ち上げても軌道に安定的に乗せて運用することは困難なため、どのように状況を把握し除去するのかが重要です。国際会議での議論に積極的に参画していくことは当然だとしても、除去の技術の検討が必要ということになります。

一言で言えば、宇宙は本格的な利活用の時代に入ることになります。

先日、小野寺大臣とともにJAXA筑波宇宙センターに出張して参りました。宇宙分野で基礎研究から開発利用に至るまで我が国を常にリードしてきたJAXAを訪問して、その高い技術力や知見、さらにはすでに防衛省と連携して進めている宇宙状況監視(SSA)に関する取組について学ばせていただくのが主だった目的です。また、最近、にわかに脚光を浴びているスペースデブリ解析室で勤務している自衛官も激励してまいりました。

宇宙空間の活用は、先にも触れましたように、現在見直しを進めている防衛大綱や中期防で、新たな防衛分野として重要な検討課題となります。

所有者不明土地

今年の1月に土地問題について触れましたが、改めて本日、所有者不明土地問題(以下土地問題)に関する議員懇談会(会長:野田毅先生)が8時開催されました。1月に報告があったことについて、相当の進展があったので再度ふれておきたいと思います。もちろんまだまだやらなければならないことはあるのだと思いますが、ここまで党主導で政府を動かして引っ張っていただいた懇談会幹部の皆さまには敬意を表したいと思います。

参考資料:所有者不明土地問題に関する懇談会

目的は、一言でいえば、人口減少と高齢化にともなって、土地の流動化が低下し、利活用が進まなくなっておりますが、それは所有権の問題に起因するということが挙げられ、そのことを整理する必要があるということです。憲法12条には、国民の自由と権利は国民の不断の努力で保持しなければならないけれども、濫用してはならないのであって公共の福祉に服する、という趣旨のくだりがありますが、土地でいえば、所有権というものと利用そして管理の問題のバランスを現下の情勢に鑑みて、変えていかなければなりません。以下、自民党と政府の流れを追っていきたいと思います。

1.所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドラインの作成・改定(平成28年3月公表・29年3月改定)

国交省は昨年一昨年と、主に各公共団体に向けて所有者不明土地を利活用する場合にぶち当たる問題について、一定のガイドラインをまとめました。例えば、事業別状況別に、所有者の探索方法を解説し、財産管理制度や土地収用法の制度を紹介、相談窓口を設定して事例を紹介するなどです。私が地方創生特別委員会で触れた直前に公表されたもので、問題提起としての価値は大変高いものがあります。これ以降、このガイドラインでは触れえなかった本質的な改善の流れができます。

2.自民党「所有者不明土地問題」に関する議員懇談会提言(平成29年4月)

自民党の提言は、そもそも何が問題になっているのかを明らかにして、公的管理や利用の在り方を検討して、法制上の措置も検討することを求めました。更に、特だしして、農地、林地、民事法・不動産登記の連接、情報基盤の構築などの問題的を行い、政府全体として党政調に検討組織を立ち上げ、法制上の措置を含めた対応を政府とともに行うべきだとする提言をまとめました。

3.自民党政務調査会「所有者不明土地等に関する特命委員会」〜所有者不明土地問題の克服により新たな成長〜(平成29年6月)

前項の提言を受けて立ち上がった自民党の正式な組織で関係省庁や民間団体、有識者などからヒアリングを続け、より具体的な提言を行っています。第一に、利用権に着目した制度の新制度設計を求めています。日本の成長のための迅速な公共事業の推進の観点から、関係省庁が協力して、権利者保護に配慮しつつも対象事業を広くとったうえで安定的な利用を可能とすることを旨とした新制度の検討をすべきであること。農地・林地の機能向上が必要なこと。共有私道の管理等の円滑化が必要なこと。また、第二に、所有権取得に関わる既存制度の改善が必要なこと。具体的には、関係機関が連携して運用改善の在り方を検討するとともに不在者財産管理人等の申し立て権を市町村長に付与するなど財産管理制度に特例を設けること、土地収用について制度・運用を改善すべきであること、共有地の処分について同意要件の特例を設けるなどの改善をすること。第三に、肝炎する環境整備をすること。具体的には、所有権の探索をより効率的に行えるようにすること。例えば相続登記の促進を図るとか場合によっては法的措置を講ずるなどです。またマイナンバーの活用も提案されています。また、国の援助や代行制度、土地所有者の責務、実態把握、関連業団体の活用なども提案しています。

4、所有者不明私道への対応ガイドライン(平成30年1月)

以上を受けて、所有者不明私道の法的解釈に関するガイドラインを設けました。民法の共有等に関する法律の解釈が不明確であって共有私道の補修工事等を行う際に、所有者全員の同意が必要と解釈される場合があったからです。これを、同意を求める必要がある対象者のガイドラインを示しました。小さいことですが、こつこつ、です。

5、所有者不明土地等に関する特命委員会とりまとめ〜所有から利用重視へ理念の転換「土地は利用するためにある」(平成30年5月24日)

再度、特命委員会は提言をまとめました。サブタイトルにもあるように、土地は利用するためにあるわけで、所有から利用重視への理編の転換を図らなければなりません。当初から私が指摘してきたように、個人の権利を重視するあまり、社会が疲弊し、結果的にその個人の利益が棄損することは、その個人の利益も棄損するわけで、社会全体と個人個人がその気づきをもらえる社会にならなければなりません。

ちなみに、所有者不明土地面積は410万haで2040年には720万haにもなるとされています。
この提言は、すでに提出されていた「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」「農業経営基盤強化促進改正法」などの円滑な施行と、施行後の速やかな環境整備とフォローアップを打ち出しています。

また、土地収用の的確な活用と運用、登記制度の見直しと相続登記の促進、変則型登記の解消、土地所有権情報の円滑な把握のための仕組みづくり、などが提言されています。

6.所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(30年6月公布)

以上の流れで公布されたのがこの特措法です。前述のように、所有者不明土地が全体の20%になること、収容の際に不明裁決に時間がかかって公共事業が円滑に進まないこと、公共事業以外では利用が困難なこと、土地所有者の探索に多大なコストがかかること、長期間相続登記されていない土地は探索が困難な事、さらにはごみ屋敷ができても市町村は管理することが困難なこと、などに対して、知事の裁定で収用手続きにかかる時間を短縮できたり、地域福利増進事業というのを創設して公共事業以外でも最大10年利用を可能にしたり、所有者探索範囲を合理化したり、固定資産課税台帳等の公募情報を利用可能にしたり、登記官が相続人を調査して相続登記を促したり、市町村長が家庭裁判所に対して不存在財産管理人などの選任を請求可能にしたりしています。

7.事業認定申請の手引き〜事業認定の円滑化〜(平成30年6月公表)

あわせて、地方公共団体から「収用は使えない、使いづらい」という声を受けて手引きが公表され、あわせて相談窓口が各地方整備局(国交省)に設けられました。

8.登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会中間とりまとめ(平成30年6月)

さらに、登記制度の在り方について、党の提言を受けた形で研究会が立ち上がり、検討状況の公表がありました。例えば相続登記は義務化すべきか、変則型登記解消に向けて何ができるのか、登記の公開はどうすべきか、などの検討が行われています。

また、土地所有権の在り方についても、所有権と公共の福祉のバランスのあるべき姿や、放棄の是非、あるいはみなし放棄制度導入の是非、共有地の管理や財産管理制度の在り方などが検討されています。

9.農業経営基盤強化促進法(30年5月公布)・森林経営管理法(30年6月公布)

農地については、共有持ち分の過去の同意があった場合5年間だけ貸付可能であったものを、共有者が1人でも農業委員会による探索・公示手続きを経て農地バンクに20年間貸し付け可能になりました(遊休農地に限らない)。また持ち分の過半がわからない場合は貸付できなかったものを、知事裁定を経て農地バンクに20年間貸し付け可能となりました。その際の共有者の探索は一定の範囲に限定です。

森林については、所有者のすべてが不明な森林は、知事裁定を経て間伐代行が可能でしたが、一部が不明な場合でも市町村の探索を経て市町村に森林の経営管理権を設定することができるようになりました。また、所有者の一部が不明な共有林は、知事裁定を経て共有者による伐採造林が可能でしたが、所有者のすべてが不明な場合でも、市町村の探索や知事裁定を経て、市町村に森林の経営管理権を設定することが可能となりました(上限50年)。手続きに相当な時間を要するとか所有者の探索に手間がかかる問題を一部解消できたことになります。

10.所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針(30年6月1日)

併せて、同問題を重視した政府は関係閣僚会議を設置しており、課題解決のための検討を進め、工程表も公表しています。前述した課題は当然のことながら、2020年をめどに民事基本法制の見直しと併せて土地基本法等の見直し、更には国土調査促進特別措置法の改正、登記簿と戸籍の連携のための制度整備なども謳われています。

財政再建と消費税

(公債残高の累積 出典:財務省

日本は1000兆円を超える累積財政赤字を抱えています(政府の公債残高は900兆弱)。金利が高ければ大変な負担を残すことになりますが、びっくりするほど金利は安定しています(日銀がさせています)。しかし安定しているからよいということにはなりません。が、直ちに累積赤字が問題ということでもない。つまり、財政健全化原理主義でも困るし、経済成長原理主義でも困る、ということであって、景気の動向をしっかりと見つつ、財政再建の道筋を確立し、時代の変化にマッチした制度改革と成長戦略を確実に実行しながら、バランスよく計画的に機動的に予算フレーム(※1)を決めなければなりません。(どんなことでもバランスと計画と機動性は重要であって昔の原理主義的政治手法(声でかいとか)は葬り去らねばなりません)。

ここでは、現状、国家の予算構造はどうなっているのかを”解説”することを目的としたいと思いますが、最後に安直な原理主義がダメなことを触れたいと思います。

〇財政構造は明らかに改善しているが今後も努力が必要

6年前(政権交代直前)、国は毎年21兆円借金返済し、毎年47兆円新たに借金していました。つまり毎年26兆円、累積赤字が増えていたということです。雪だるま26兆円。一方、今年度予算を見ると、23兆円借金返済し、33兆円の新たな借金をしているので、累積赤字は10兆円増える。雪だるま10兆円。つまり、毎年の新規借金は47兆円→33兆円と劇的に減らし、借金返済を頑張って21兆円→23兆円とし、結果、累積赤字の増加額は6年前と比べて、26兆円→10兆円と16兆円も減った。

なんでこんなことが可能になったかというと、税収が劇的に改善したからです。再度6年前と比べると、税収は44兆円→59兆円と15兆円増えている。6年前は、税収(44)よりも借金(47)の方が多かったという恐ろしい状態でした。今は、税収(59)の方が借金(33)より2倍近く多い。健全性という意味での劇的改善です。歳出に占める税収の割合も、45%→60%と劇的改善です。(そりゃ消費税増税したからじゃないかと言う方もいらっしゃるかもしれませんが、6年前に直ちに増税していれば明らかに景気はもっと冷え込み、消費増税以上に所得税等からの税収が減っていた可能性は高いと思います。)

ただ、雪だるまは増えています。雪だるまの増減を専門用語でプライマリーバランス(PB)などと呼んだりしますが(PBは正確に言えば財政収支から純利払いを除いたもの)、現在のPB黒字化の目標年限は、管政権時代に打ち出された2020年目途というものです。当時の経済状況でなぜこの目標が打ち出せたのかは不明ですが、少なくとも現状でこれを達成するのは非常に困難です。一方で、野放図かというと全く左にあらず、安倍政権下での対GDPのPB赤字半減目標達成が2015年であって、年率0.46%。この調子が続くとすれば、2024年までにPB黒字化が視野に入ります。

いずれにせよ、経済状況を見ながらという前提ではあるものの、歳出改革と無駄撲滅、成長促進、税収改善、の全方位作戦が必要になります。

歳出改革と無駄撲滅は必須です。が、何が無駄なのかを議論しなければならない領域に入ってきたので、何百億円規模の事業の削減はなかなか困難になりつつあります。よく忘れられがちなのは無駄は時間の関数だということです。例えば、科学技術予算。無駄じゃないとしたら確実に民間が投資しています。ただ、放置すると確実に無駄は増えていきますので、毎年厳しくチェックしていく必要はあります。

社会保障も聖域ではなくなりつつあります。一時は毎年1兆円近く増加していた社会保障費は、今年は0.5兆円の伸びに収まった。これは本来あるべき姿ではありませんが、国家の基本構造の持続性を考えれば致し方ありません。社会保障は増えるのだからしょうがないという原理主義性を前提にすると非効率を生みますので、合理化できる領域が必ずあって効率化を促す意味で抑制するが、どの程度できるかを見える化し説明できるようにして合理化していくべき問題です。(ちなみに古代ローマの初代皇帝アウグストスは、必要に応じて税をとるのではなく、とれる税から必要な事業を決定すべきだという哲学を持っていたそうですが、少しは見習うべきだと思います。ただ対象領域は限定されるべきですが)。

成長促進は重要です。が、これも原理主義では困ります。相変わらず、財政出動による景気浮揚策が主軸だとする論が未だにあるのは不思議ですが、一方で、公共工事不要論という原理性をもった政権がもたらした結果を見ないでも明らかですが、インフラは重要です。ただ、そうした旧来的な時間軸の概念のない直接的景気対策は、現在は主軸ではない(将来的な産業戦略に基づいたインフラ等はやっていくべきです)。主軸は、生産性向上に資するような将来の国家構造の刷新のための施策です。人口減少と社会保障制度と産業構造革新をやり遂げなければならないからです。人づくり革命(幼児教育無償化・保育介護人材確保・高等教育無償化など)、生産性革命(中小企業投資促進、賃上げ促進、イノベーション、自動運転など)などです。

税収改善。来年10月に消費税の増税を国民の皆様にお願いしています。よっぽどのことがない限り上がる筈です。この消費税の増税について、世の中的には選挙的文脈で語られることが多いのですが(今増税すると政権ダメージだとか選挙が厳しくなるとかなど)、私の中では、経済にどれだけ悪い影響が出るか否かだけが判断基準です。負担増なので決して嬉しい政策ではない。しかし、増税を通じて政府の財政基盤が安定し、必要な事業を政府が行えるようになり中長期的に行政サービスが良くなれば、中長期的には望ましい政策となるからです。そして、現在の経済の一つのポイントは、消費改善です。今の経済、金融政策で労働市場が相当タイトになり、ようやく賃金も上昇しつつあり、企業の設備投資も相当よくなってきました。残るは消費の改善だけでしたが、これも悪くない状況になりつつあります。問題は、この消費税増税というのが、消費に直接的なインパクトを及ぼすということであって、注意が必要です。ただ、日銀が先日発表していたように、来年の消費増税の家計へのインパクトは、前回(5→8%)や前々回(3→5%)の消費税増税の時に比べて遥かに小さいものだと試算されています。具体的に言えば、前々回の家計への負担は8.5兆円、前回は8兆円、そして今回の家計へのインパクトは2.2兆円と試算されています。1/4の規模です。

〇金利は安定しているから累積財政赤字は気にしなくていいのか

ここでは財政再建の問題が原理主義が入る隙も無いほど複雑だということを書いておきたいと思います。

今年度末の政府公債残高は883兆円と見込まれています。この累積債務を国民一人当たりに直すと700万円もあるじゃないか、財政再建は必須だ、とご主張される財政再建原理主義の立場からの主張に対しては、否、それは正しいたとえ話ではないとまずはお返ししておきたいと思います。2つの理由が言えます。1つは、そもそも世代間の公平性への担保の問題。1人当たりに直すと、という例え話は、問題のフォーカスに時間軸が入っていません。政府の累積債務そのものの存在意義として、世代間の不公平さを吸収するバッファであるということが挙げられます。今、全力で財政再建するのは、過去世代の付けを今現在の世代だけが負うことになる。政府の累積債務は負担を中長期の時間軸で平準化することに意味があるのであって、1人当たりの例え話をすればその個人の前後数世代の負担の平準化の話は全くフォーカスされません。だから、バツ。しかしだからと言って放置すればいいという問題ではないのは、その額の大きさです。従ってもう1つの持続性の問題が重要になってきます。では持続性の議論をするにあたってなぜこのたとえ話がバツなのかというと、端的に言えば700万円の借金の貸方は国民も担っているからです。国債を誰がもっているかというと、ざっくり言えば日銀が4割、国民が5割(銀行・生保・個人・年金基金等)、海外が1割。つまり、国民保有の5割というのは国民の資産でもあるので、家計に例えたときの累積の借金は半分ということになります。つまり350万円。更に言えば、日銀が4割ですが、これは国民が間接的にしか債務を負わない中央銀行から政府が間接的に借りている構図です。従って甘い認識をすれば、金利その他経済状況が安定していれば増えても直接的に影響はでない。残る1割の海外からの借金が本当の借金であって70万円です。だから家計に例えればというのは、問題を分かりやすくしたようで、分かりにくくしているように思います。本当の問題は、日銀分の4割+海外の1割。ここは先にも書いたように、金利その他が安定していれば、という前提の部分です。

2012年以降、いわゆるアベノミクスの一環として黒田総裁率いる日銀は、異次元緩和を続け、市中の国債を日銀が大量に買い取る路線(念のためですが直接引き受ける路線ではありません)を歩んでいます。長短金利操作付きの金融緩和です。これが始まる前は、累積債務は、先にも触れましたが結局日本国民が貸し出しているのだから国民金融資産を超えるまでは大丈夫という楽観的な説明がなされることもありましたが、日銀が金利操作をしながら国債を買い取る路線になったので問題が少し変わった。現在までのところ、安定金利の元、予想インフレ率は上昇し、思うほどでもないけれど物価も上昇基調になり、結果的に為替も円安になり、景気回復基調にのり、株式市場も活性化し、国民金融資産も増えることになりました。これまでは良し。

ただ、今後が問題です。目標のイールドカーブ(金利)を形成するには国債買い取りを続けなければなりませんが、日銀が買えば買うほど市場の存在感は低下(流動性低下)、市場機能が低下し、また財政に対する信用力が低下して金利に上昇圧力が加わり、結果的に日銀は金利操作のために更に国債を買わなければならなくなる。しかし市場の機能が本当に低下しているとするならば、本当に市場から買い取り続けられるのかは疑問です。走り出したら止められない、のは分かりますが、どうやって歩みを普通に戻していくのか、金利のみならず、物価、債券、株式、為替、政府予算などなど、あらゆるところにインパクトを与えるものであるがゆえに、ダイナミクスを考慮した戦略を考えておかねばなりません(国会の権能ではありませんが)。現状、直ちに歩みを止めるべきではありませんが、いつ、何が、どうなったら、どうする、的なことは日銀の中でしっかりと検討してしかるべきだと考えます。日銀は最近、国債市場から撤退しつつあるように見えなくもない。日銀の基本政策は年間80兆円をメドに国債の買い増しを進めることにしていますが、ちょっとずつ減る傾向にあります。つまり出口を考えている様にも見えますが、これだけは日銀総裁以下金融政策決定会合のメンバーの頭の中を覗く以外に、どうしようとしているのか分かりません。現時点で金利をしっかりとコントロールできているのは事実なので、現時点ではまぁよくできた政策だということにはなりますが、果たして本当に将来的に大丈夫なのかというのは、よくわからない(考えすぎかもしれませんが)。

ついでながら、もっと単純な話をすれば、財政規模に比して累積債務残高が増えると金利が上がらなくても利払いが増え、結果的に政策経費が圧縮されるので、政府の事業に対する自由度が失われるという問題もあります。また逆に、純債務(債務から海外政府資産を引いたもの)で見るべきだ、借金はしているけど資産も沢山あるじゃないかという指摘もありますが(確かに政府資産は世界一であって日本は世界一の借金王にして資産王の国なのですが)、しかし純債務で国際比較しても、日本はGDP比120%でレバノンに続く2位の債務を抱えていることになります。レバノン・・・。また、これだけの累積債務がもたらす国民の将来不安の増長、例えばこれだけ国の借金が増えるということは年金貰えないんだよねと若者が思い、チャレンジング精神が失われるという問題もあると思います。

つまり、現実を直視すると、景気と財政(と将来生産性向上や人口減対策等を含めた政府事業)を両にらみでバランスよく改善していく以外に手はなく、大岡越前的解決方法はない。現在実施している政策以外に道はなく、若泉敬ではありませんが、他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス、という状態です。

いずれにせよ、累積債務について、金利が安定しているからというのは、理由にはならなくて、今、雨降ってないから傘いらなくね、的なことはすべきではないと思っています。そしてこの財政再建というお題目にとって最もやってはいけないのが、原理主義的政策決定だと思っています。

※1)現在、国家予算は98兆円
 収入は、借金33兆、税収59兆、その他6兆
 支出は、返済23兆、一般59兆、地方交付税16兆
 (一般歳出59兆円の内、社会保障は33兆円)

※2)社会保障
社会保障の予算は120兆円。2040年には190兆円と試算されています。
120兆円をどうやって賄っているかというと、保険料と税で6対4の割合で負担しています。保険料は被保険者と事業者で折半しています。税は国と地方で7対3の割合での負担です。支出は、年金:医療:福祉で5:3:2で給付しています。社会保障費の対GDP比は現在21.8%です。

 |            120兆円           |
 |    年金(56.7)    | 医療(38.9) |福祉(24.8)|
       5       :   3   :   2
 |     健康保険(68.8)    |  税(46.3兆円)  |
       6          :    4
 |被保険者(36.6)| 事業主(32)  |国(32.7)|地方(13.6)|
      5  :  5        7  :  3

【善然庵閑話】福沢諭吉と中江兆民とインパール作戦

(写真出典:The National Army Museum, UK)

合理的判断。簡単そうに見えても集団の中にあれば難しいこともある。でも簡単なことなのであれば、簡単に考えればいいのではないか。そんなことを強く最近思っています。というのも、政治的判断と合理的判断は必ずしも一致しない場合があるからです。とりとめのない話ですので、今日は久しぶりの善然庵閑話シリーズにします(善然庵閑話-ぜんぜんあかんわ-とは、遠藤周作の狐狸庵閑話-こりゃあかんわ-をもじって書き記している駄文シリーズです)。

明治の時代、思想家として対比されるのが中江兆民と福沢諭吉です。学のない私の浅はかな理解ですが、福沢は、国家が発展するためには西洋を導入して文明化しなければならない、未開は負けるのであって勝つためには文明化が必要だ、と説きます。そして、その発展段階では、搾取も必要悪として超現実主義をとります。そして脱亜入欧、富国強兵へと進み、ある種、文明化を成し遂げた時代の寵児になります。米国のマクナマラみたいなものでしょうか。福沢が現代に生きていたなら、恐らくは搾取必要悪説はとらなかったでしょうが、いずれにせよ、前進、発展、成長を指向する方向です。

一方で、中江兆民は、ご存知の通り自由民権運動の理論的支柱となった人物で、ルソーに心酔していた人物。教科書的には、ナイスなイメージで、自由民権運動という政治運動を成し遂げた後に第一回衆議院議員となる。けれども、結局、藩閥政治に嫌気がさしてすぐに辞任。直後から、明治政府批判を続けます。そして失意のうちに亡くなる。自由民権運動の成功者ではあるけれど、時代の成功者ではなかった。

ではその中江兆民が心酔していたルソーはどのような人物だったのか。ルソーは、神からすべてを授かっていたと考えた社会にあって人間はそもそも自然として平等である無垢な存在であったはずなのに、発展によって富の格差が生まれ、争いと不調和によって、いずれは滅亡するか、少なくとも国家は維持できなくなるほどに劣化していくものだ、という前提をまずはおきます。だから、そうならないために、国家というものが国民との社会契約によって自由と平等を担保しなければならない、と説きます。そして国民の一般意思(投票)によってのみ国家が定められるものだとします。だから、ルソーも中江兆民も基本的には発展や成長とは逆の方向、すなわち復古の方向であり、古き良き時代に戻るべき、というのが思想の源流になっているのだと思います。

ただ、中江兆民は決して左翼とは言えない。そういうイメージが付きまとっていますが、もっと深い思想をもった人物であったように思います。戦後のイメージは、中江兆民が幸徳秋水の師匠であったからなのか、陽明学派であって反権力的であったからなのか、戦後の左翼思想家が中江兆民を左翼と評価したからのか、どうもわかりません。いずれにせよ、日本のイデオロギーの源流を構成した人物であったことは間違いありません。

今の政治で野党が与党を批判するような分かりやすい批判合戦というものは、深遠な思想源流の議論にはありえないように思います。少し時代が後になりますが、思えば戦後の大思想家で進歩的文化人であった丸山眞男が福沢諭吉ファンであったことは有名ですが、思想の方向は全く逆です。しかし、丸山眞男は福沢諭吉の行間を深く読み解き独自解釈しています(これじゃ丸山諭吉じゃないかと揶揄されるほどだったとか)。

いずれにせよ、福沢諭吉も中江兆民も、岩倉使節団で西洋を見聞きし、日本はこのままではいかんと思った。ただ、全く同じものを見聞きしたはずなのにも関わらず、帰国後にやったことは結構違った。違ったのですが、結局は、右派とか左派とかではなくて、これが交互に竜巻か三つ編みのように捩じれながら、思想は明治を駆け抜け、歴史を作り上げていくことになる。

中江の思想は、その弟子である幸徳秋水から、どうもおかしくなる。当初、中江兆民の晩年のように、明治政府批判を繰り返していたようですが、それはあくまで中江兆民と同じように日露開戦前の雰囲気の中でのルソー的厭戦論に裏打ちされた主張であったように見えますが、そのうち明確に左傾化し、また達観したのか無政府主義となり、最後は大逆事件で死刑宣告される。論理としては、ルソーの思想を曲解すればキリスト排斥となるのと同じように、そのキリストのメタファーとしての天皇は排斥すべき対象になったのだと思いますが、いずれにせよ、おかしくなって刑死する。

因みにですが、そこからがまた不思議なのが、この幸徳秋水の考えは、明治から昭和初期の時代の、キリスト教に否定的な右派から支持されることになる。この時代は、日本の歴史の中では極めて例外的に神道が国教となっていた時代なので、そういうことになったのだと思います。

この福沢と中江の二人だけ取り上げてみても、明治から昭和初期というのは、当初では想像もできないような方向に流れていき、あり得ない戦争手法が生まれる。もちろんこの数少ない登場人物だけで断じることなど到底すべきものではありませんが、思想的には極めて複雑な歴史を辿ってきたのだと思えてなりません。

幸徳という名前が戦中に再度現れることになります。昭和の陸軍軍人である佐藤幸徳です。ゆきのり、ではなく、こうとく、です。幸徳秋水とは全く関係ありませんが、なぜこの名前をご両親は付けたのかが気になります。恐らく思想的には心酔していたのではないかと思います。

佐藤幸徳は、当時のエリート軍人で、盧溝橋事件に関わった牟田口廉也の陸大4期後輩。同時期に勤務した参謀本部時代に統制派と皇道派の考え方の違いから(当然、幸徳が統制派)関係が悪く、後に共に参加した悪名高いインパール作戦では、軍司令に牟田口が、そして隷下の師団長に佐藤幸徳が就く。

インパール作戦とは何かと言えば、これまた木を見て森を見ず的な滑稽な作戦です。当時、連合国が中国を支援するために使用していた主要な補給路の一つに援蒋ルートというのがあったのですが、これを攻略すれば中国軍に打撃を与えられる、ということになり、そこで立案されたのがインパール作戦。ところが、補給路を断つ作戦の立案に、自分の補給路の計画が全くなかったというオチになっている。一体全体どういう発想なのか全く理解に苦しむわけですが、当然、当時も多くの参謀から大いなる反対論がでていたにも関わらず、牟田口の積極案が取り入れられ、大本営陸軍部から命令が下って9万という大軍で侵攻を開始した。(チャンドラ・ボーズと手を結び、インドのイギリスからの独立運動を誘発するという側面が作戦目的の主だったものですが)。

幸徳は、当初から、補給路が確保できないとして、この計画に公然と異を唱えていたそうですが、侵攻中にイギリス軍からの徹底的な抵抗にあい、また険しい山間河川を渡るうちに引き連れた家畜も散逸し、食料弾薬も実戦に使われることなく散逸。幸徳は、司令部に再三に渡り補給の要請をしますが、「現地調達して進撃せよ」との回答がくるばかり。そのうち、ガダルカナルと同じような様相を呈しはじめ、最終的に幸徳は司令部に、「参謀長以下幕僚の能力は、正に士官候補生以下なり。しかも第一線の状況に無知なり」「司令部の最高首脳者の心理状態については、すみやかに医学的断定をくだすべき時機なりと思考す」などの辛辣な司令部批判電報を出して勝手に撤退。陸軍最初の抗命事件でした。軍団隷下の他の師団長がどういう判断を下したのか分かりませんが、他に数人更迭されたとの記録が残っています。

幸徳は死刑も覚悟していたとのことですが、このために、1万という兵士が無駄に命を落とさなくてすんだ。当時の価値観で言えば断罪されてしかるべきであったと思います。現代的に言えば合理的判断になるのでしょう。しかし、私自身は、幸徳によくやったという気にはなれず、むしろ、この非合理的な作戦を平気で立案した体制、そしてその非合理性を認識しつつも、この論が平気で通ってしまう組織的体制の欠如、更には参謀本部の責任所在の不明確さこそが断罪されるべきものだと思っています。

いずれにせよ、幸徳という名前から想像できる結果が歴史の中で生まれたことは事実であって、複雑さを感じずにはいられません。因みに、インパール作戦に参加していた幸徳師団の兵士はほとんどが四国からの参戦者であったと言われています(高松に幸徳を悼む碑が建立されているのだとか)。中江兆民が居なければ、あるいは岩倉使節団に参加していなければ、あるいはルソーとの出会いがなければ、恐らくは幸徳秋水は生まれておらず、佐藤幸徳もおらず、四国人である私はこの世に生まれていなかったのかもしれません。

改めて合理的判断。簡単そうに見えても集団の中にあれば難しいもの。でも簡単なことなのであれば、簡単に考えればいいのではないか。そんなことを強く最近思っています。

千鳥ヶ淵墓苑戦没者遺骨引渡式

(東部ニューギニア・ビスマルク・ソロモン方面作戦図:出典米陸軍

(東部ニューギニア千鳥ヶ淵墓苑戦没者遺骨収集引渡式:写真出典は墓苑HP)

ずいぶん酷い作戦を各地で強行したものです。戦時中の混乱期とはいえ、そして情勢の切迫感があったとはいえ、軍部首脳は、合理的解決方法を見出すこともなく、現場に責任を押し付けることを続けてきた結果、310万人という途方もない数の戦死者を出すことになりました。もちろん個は国を憂い家族を思い散華された。その想いは世代を超えて戦後世代に届き、我々の大きな勇気と力になっていることは間違いありません。そして二度と戦争なぞするまいという確固たる信念に繋がっています。しかしなぜこんなことが起きえたのか。戦後多くの方が解明に取り組んでこられたので私はここでは論じようとは思いませんが、ただ、一言だけ言えば、組織という集団心理の暗黒が、人間がもっている本質的な闇の部分であるとするならば、この310万人という事実を、そして戦地でどのような作戦命令があって何が起こっていたのかという事実も、日本人は未来永劫に亘って心に刻み続けることによってのみ、未来の議論ができるのだと思います。

というのは、なぜこのような事態が生じたのか、二度と繰り返さないためには何が必要なのか、を考えれば、必然的に、憲法上の統帥権や国家構造、もしくは軍部構造の問題などが注目されがちになりますが、こうしたシステム構造も極めて重要である一方で現場の目線も大切なのだと思っているからに他なりません。なぜならば、システムを作るのも動かすのも結局は人だからです。

先日、東部ニューギニアから遺骨収集団が帰ってこられ、ご遺骨の引き渡し式典(千鳥ヶ淵戦没者墓苑遺骨引渡式:依頼元の厚生労働省に依頼先の遺骨収集団が引き渡す)が執り行われ、私も出席をいたしました。今回は83柱のご帰還が叶いました。そのお一人お一人には、確実に生活があって人生があったはず。派遣される前にはご家族やご友人と、おそらく我々が普段しているような会話がなされていたはずです。

310万の内、海外の戦没者は240万。その内、中国本土は47万、ノモンハンを含む中国東北で25万、モンゴルを含む旧ソ連で5万。台湾と朝鮮半島は10万、ベトナム・カンボジア・ラオスで1万、ミャンマー14万、インド3万、タイ・マレーシア・シンガポールで2万。つまり、大陸で、約100万以上の将兵の犠牲がでています。

一方、レイテを含むフィリピンが最も犠牲が多く52万。沖縄19万、硫黄島2万、パラオ・グアムからミッドウェイを含む中部太平洋で25万、インドネシアは4万、西イリアン5万。そして、東部ニューギニア13万、ガダルカナルやラバウルを含むビスマーク・ソロモン諸島で12万。つまり、島嶼部で130万以上の犠牲者です。

パプアニューギニアからソロモン諸島は、かの有名なラバウルがあった。9万の大軍を送り込んでいたので連合軍も直接それに対処しようとはせず、レイテのあるフィリピンを主戦場としたため、東部戦線は完全に補給路を断たれ、言わば見放された格好になった。今回、参加した遺骨引渡式でご帰還された方々も、ガダルカナルに近いニューギニアの現場で精神的には極めて過酷な状態であったものと想像できます。

数年前、NHKが、南部戦線に関するドキュメンタリーを組んでいましたが(シリーズ物で他戦線のもあったようです)、そこに登場する生還者の言葉は未だに忘れられず、とても筆舌に尽くせるものではありません。もしこの世に地獄があるならば、恐らくはここがそうだと思うに違いなく、しかし地獄に入らばそこが地獄だとさえ思わなくなるのかもしれないということも感じさせられたものだったと記憶しています。政治を預かるということを生き方として選んだからではありませんが、しかし選んだから余計に、ひたすら刻み続けて行こうと思っています。

現在、遺骨収集を終えて帰還された将兵は、240万の内、半分強の127万柱。未帰還は113万柱とされていますが、現地国の事情や海没によって困難とされているものもあるので、収集可能なのは最大で60万柱と言われています。

3年前の平成28年5月、国会で戦没者遺骨収集推進法が可決成立し、遺骨収集が国の責務と明記されました。厚生労働省が所管する事業で、同法に基づいて定められた基本計画によって平成28年から平成36年が集中実施期間と定められ、同計画で指定されている日本戦没者遺骨収集推進協会が中心となって、遺族会やJYMAなどの協力を得ながら、毎年、各地に10〜20名くらいの収集団を組んで活動しています。

今回の東部ニューギニアの場合、派遣団は19名(協会本部4名、遺族会5名、東部ニューギニア戦友・遺族会6名、JYMA4名)で、2月14日~3月1日までの16日間の活動で、収容されたご遺骨は83柱であったそうです。団長からの帰還報告によると、日陰でも40℃を超える日々であったとのこと。恐らくは、熱帯ジャングルの土に眠る将兵の経験したであろう状況を正に実体験しながらの活動であったものと思います。

千鳥ヶ淵墓苑
http://www.boen.or.jp/boen034.htm

一般社団法人日本戦没者遺骨収集推進協会
jarrwc.jp/

予算委員会分科会

(予算委員会分科会にて)

思えば初当選直後、初めて質問に立ったのがこの予算委員会分科会で、当時は外務省所管の予算に関連した質問をしたのを昨日のことのように覚えています(分科会は所掌毎に複数行われる)。場所は確か第五委員室。当時、岸田文雄外務大臣、そして佐藤正久防衛政務官にお出まし頂き、何やら大変恐縮をしながらも、あっと言う間の30分でした(考えてみたら当時も小野寺防衛大臣でした)。

爾来、ほぼ毎年、この分科会ではどこかに立たせていただいています。この親会である予算委員会は、国会の花形で国民から注目されることが多く、過去に何度も憲政の歴史を作ってきた独特の緊迫感が漂う場所ですが、分科会はそれとは全く違うこれも独特の雰囲気で、また他の常設委員会や特別委員会(外務委員会とか厚生労働委員会など)とも異なった雰囲気を持っています。私自身は粛々感が気に入っています。

1年目は外務省、2年目は内閣官房(菅官房長官)、3年目は内閣府(石破地方創生大臣)、4年目は当たらず、5年目に入って予算委員会本会(安倍総理)で立たせて頂いた上で、分科会は経済産業省(世耕大臣)の議論でした。

そして6年目の本日、答弁側としては初めての分科会。これから何度か種々の委員会に答弁側として立つ機会がありそうですが、誠実に対応して参りたいと思います。

所有者不明土地

(写真は本文とは直接関係はありません)

初当選したころ、地元のとある方が、先祖代々ため池を維持管理しているけど高齢のため行政に移管しようとしたら登記上の所有者が4代前なので移転登記にハンコが100個くらいいる、ということになり、なんとかならんのか、というご相談を頂いたことがありました。所有者は不明ではないのですが、土地の有効利用が阻害されている現状の好例です。しかし移転登記が義務化されていない日本では、放置され、最悪、所有者不明となっている土地はかなりあるといわれています。

土地とは、所有する個人の安心の担保であるとともに、需給バランスに伴う価値の変動で、関心の変化がおきるものです。つまり、人口増加のとき(もしくは地価上昇)は、争って権利確定したいと思うし、人口減少の時は、放置しとこうと思うものです。しかし権利確定したい人が増えれば争いも増えるのは当然です。そこに国家が権限行使すれば憲法違反だという反論がでる。しかし無理して大反論にあいながら国家が交通整理をしなくても、そもそも有効利用したい人が多いはずなので、社会構造としては問題は少ない。

一方で、人口減少時代の土地の放置は、所有者もしくは管理者の土地への無関心を助長し、前述のように特にそれが所有者不明の土地にでもなれば、虫食い的散発的に利用できない土地が増え、新しい価値を生もうともがいている人たちの参入を阻む大きな阻害になることは必定です。従って、人口減少時代には移転登記を義務化することが望ましいと考えます。しかも土地の価格が上昇しつつある現在、それほど悠長にことを構えていたのでは、実現困難になることが簡単に想像でいます。

そもそも憲法は何と言っているかというと、第12条で、「この憲法が国民の保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」とあります。不断の努力は当然としても、それが何を意味するのかを国民全員が考えていかなければならないのだと思います。(そもそも義務化などしなくても、この趣旨に沿えば、全員が適切な移転登記を済ませているはずだからです)。

現在、所有者不明土地は、410万ヘクタール。北海道本島の6割に相当し、2040年には720万ヘクタール、おおよそ北海道本島の面積に相当します。その経済損失は、2040年までの累積推定で6兆円という試算があります。

今日、自民党政調の所有者不明土地等に関する特命委員会が開催され、方向性が見えてきました。ただ義務化については、決定されているわけでも方向性が示されている訳でもありません。しかし、今年度末までには、土地所有に関する基本制度の見直し(国交)・登記制度と土地所有権の在り方に関する検討(法務)・土地所有者情報把握の仕組み検討(各省)など、本質的な土地制度に関する検討が行われる方向ですので、引き続き注視して参りたいと思います。

今通常国会には、具体的な課題への対処としての法律改正が行われる予定です。国交からは所有者不明土地の収用の合理化など、法務からは法定相続人リスト整備や登記を促す仕組み、他人に害悪を及ぼすような土地の管理など、長期間相続登記していない土地を解消する仕組みを徐々に乗り出す方向ですし、農水や林野からは、既存制度の拡充・要件緩和などを進めることなります。