ロシアによるウクライナ侵略など、国際秩序が著しく劣化しています。欧州委員会のフォンデライエン氏は、ウクライナ問題を法の秩序と銃の秩序の衝突と表現しましたが、まさにロシアの侵略は既存の国際秩序への重大な挑戦です。NATO側としては、関与を薄めれば、これまでの普遍的価値を根底から覆すことに繋がりかねず、次の紛争を連続して起こしやすくするだけです。日本も防衛費を増額すべきです。軍事拡大は紛争に繋がるから外交をすべきだとの論も一部にはありますが、外交を続けるのは当然であって、本質は抑止力向上です。ヨカラヌことを考える輩がいるのであれば、ヨカラヌことをするなと言葉で言っているだけでは空しく、ヨカラヌことをしようと思わなくする実質的な環境を整えなければなりません。
一方で、多くの識者や関係者も指摘していますが、紛争の中身も、2つの点で随分変わってきました。1つは紛争の態様の変化です。技術力の圧倒的向上によって、戦い方が随分変わったということです。SNSを使った情報戦や心理戦、ドローンやサイバー攻撃もその一つだと思います。遥かに複雑な紛争態様を人類は経験していることになります。もう1つは紛争の背景です。昔は、自由貿易による国家間貿易拡大が、国際紛争抑止にもつながるというのが定説でしたが、経済的手段を安全保障ツールとして行使するような権威主義国家が出現すれば、当然、自由貿易が秩序安定化に資するとは限らず、経済面の安全保障を確保する必要がでてくるのは当然です。
従来も、エネルギーや食糧、戦略物資などの分野で、安全保障上の管理をされてきたものはあります。しかし、グローバル化がさらに進展し、サプライチェーンが複雑に入り組んだ状態では、それ以外にも、国民の生命を脅かし経済社会活動に重大な影響を与える重要物資はあるはずです。そうした重要物資に対して、最も簡単に供給リスクを回避しようと思えば、生産設備投資支援や備蓄などによりリショアリング(国内回帰)政策をとれば足りるのですが、経済合理性を完全に無視することはできません。したがって、それに加え、フレンドショアリング(同志国連携)の考えや、そもそも生産合理化、代替物質開発、物資使用合理化などの方策を取るべきです。ただ、これらは自律性を確保するためのものであって、そもそも世界にとっての日本の不可欠性を向上させて、他国の戦略意図を削ぐための努力をする必要もあります。すなわち重要先端技術の開発です。
いずれにせよ、同志国との綿密なすり合わせが必要不可欠になりますが、各国の思惑も入り乱れるために、それほど簡単ではありません。しかし、紛争を未然に防止するという抑止力という観点では、間違いなく避けては通れない課題です。
先日、日本で日米会談に続き、QUAD(日米豪印)のほか、IPEF(インド太平洋経済枠組み)が設立されました。日米では、IPEF立上げが宣言されたほか、国連強化、競争力と強靭性のための研究開発協力、半導体などの経済安全保障分野での協力と経済版2+2も合意されました。QUADでは、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けてコミットしていること、そして地域に具体的な利益をもたらすことにコミットすることが確認されました。IPEFでは、市場アクセス以外の、貿易、サプライチェーン強靭化、クリーンエネルギー・脱炭素化・インフラ、税・腐敗防止という4つの柱で、将来の交渉に向けた議論を開始することが確認されました。これらを含め、国際枠組みで具体化していくことになります。
一方で、経済安全保障は、見方によっては単なるコストになります。そうならないために、日米会談でも確認されたように、日本が取り組む新しい資本主義をベースに、世界でもサプライチェーンの脆弱性解消などを社会課題ととらえ、それをマネタイズしキャピタライズしていく方向を考えるべきなのだと思います。