(写真は党中小企業調査会PTの様子)
急激な輸入物価高騰による資材燃油高騰が続いており、事業者にとっても、消費者にとっても、非常に厳しい状況になっています。激変対策として、燃油や電気代の補助事業を行っていますが、持続可能ではないので、当面は続けるとしても、あくまでこれは臨時措置として認識しています。では政治は何をやっているのか。
今回は、昨年末から今月までの党中小企業政策調査会での17回にわたる議論と、経済財政の基本方針文書である骨太方針に向けた提言について、報告したいと思いますが、その前提となっている経済認識から触れたいと思います。(私は、伊藤達也調査会長、福田達夫事務局長のもとで社会課題解決PT座長として関与して参りました)。
〇経済の基本認識
連日のように食材の値段が上がったという報道に接して感じるように、消費者目線では、物価高を乗り越えるため、企業には給料を上げしてほしいと願うのは当然です。政府も産業界に賃上げを求めています。しかし企業としてみれば、資材や燃油高騰でただでさえ苦しいなかで、人件費に回す余力は到底ないと感じるはずです。だから政府の賃上げメッセージも地方の中小企業では冷めた目線で見られる。
ただ、よくよく考えると、30年間にも及ぶデフレと低成長で、値段というものは上がってはいけないということが日本人の骨の髄まで沁みついてしまっているのではないか。ここが本質的な問いになります。
結論から書けば、資材や燃油高騰があっても、売値に転嫁できれば経営は安定化するはず。ただ、転嫁をすると最終消費財の価格は当然上がるので、経済全体で考えれば消費者は困り、消費が減退し、経済が回らなくなる。ではどうするのか。企業には、資材や燃油の上昇に加え、人件費の上昇分も加味して、転嫁いただくことが必要という結論になります。
一方でこうした転嫁構造が進んでも対応できない業種が、政府調達を仕事としている業種です。公共事業受注比率の高い建設業などですが、そこは資材価格が上昇して転嫁しようにも転嫁先が行政なので、行政が転嫁に応じないとどうしようもない。行政の価格設定は、まず市況価格を調査して、無駄遣いをしないように予定価格を決めてから、競争入札をかけます。業者にとってみれば、落札したのはいいものの、仕事を始めたら既に資材が上がっているということもあります。現在、スライド制度で市況価格の調査頻度を上げて対処していますが、私はそもそも目標物価と目標賃金上昇を定めて、先んじて転嫁を受け入れるべきであると考えています。
一方で政府の本質的役割は、そういう構造的転嫁が可能になるよう、経済状況をマクロ政策でしっかりと支えていくことです。金利政策で雇用環境を維持し、財政政策で総需要を確保しておくこと、の2つが柱です。そのうえで、転嫁を進めるための元請けに対する「下請けからの転嫁依頼は積極的に受け入れて!」というメッセージを発出すること、それでも非協力的な元請けは社名公表を含めた措置を講じること、などです。更に細かく言えば、産業の川上から川下までで転嫁に差があり、一番弱い立場の下請けは転嫁に苦しむので、調査をしっかりとすることも重要になります。
考えてみれば、かつてバブルのころまでは、日本は世界経済をけん引できる勢いがありました。しかしそれ以降、成長はストップ。一方で海外は、少しずつ成長し、今ではアメリカの平均所得は日本の2倍近くだと言われます。海外が伸びるのは、海外では賃金が上がっているということで、それは売り上げが伸びるからですが、それはとりもなおさず売値が上がってきているということです。日銀がよく言う2%の物価上昇が望ましいという状況です。ところが日本は値段は上げてはいけないと思い込んでいる。
大手企業の内部留保が膨らんでいることが話題になることがありますが、大まかにいえば、これは海外で稼ぎ貯めている。国内市場の魅力がなくなっていると企業が感じるから海外がメインになっていますが、厳しい言い方をすれば魅力がない市場にしているのは産業界側なのだという認識があまりない。適切な値段で売って従業員にも給料をしっかりと出すことで消費も強くなり、経済は回るようになるはずです。
2012年に安倍政権が発足した当初から、こうした状況を作ろう政策を断行してきましたが、誤算があったのが雇用構造とコロナの2つ。働こうとする人が増えてきたのは良かったのですが、非正規の女性と高齢者が増えた。そこにきて、本格的に強気になれない企業が、調整しやすいからと、こうした新しい人材を非正規として採用していきました。そして正規も非正規も賃金はあがったものの、正規より比較的賃金の安い非正規の人数が増えたので、全体的な賃金は上がらなかった、という第一の誤算がありました。その後、こうした雇用市場の構造問題は2020年ごろには一巡するであろうと思っていたところに、コロナという第二の誤算があり、完全にとん挫してしまったとの認識が共有されているのだと思います。
本質的には、物価高を産業のなかで吸収する構造を作り出すことが必要で、転嫁を兎に角進めることです。転嫁構造が進んで賃金も上がれば、本格的なデフレマインド脱却のきっかけになると思っています。そしてその後に、コストプッシュインフレが収束するであろう来年に照準を合わせて、新たなブーストフェーズの政策をしっかりと用意しておく必要もあると思っています。
〇社会課題解決事業ー自民党中小企業調査会提言
提言の基本認識は、人口減少下で人不足と後継者不足という構造的問題のなかで、1.物価高を乗り越えるための方策(上記の認識と共通)、資金繰り支援、事業再構築や生産性向上の支援という基本的かつ対処的、帰納的な視点での政策ツールの提言とともに、2.地域経済の好循環をどのように生み出せるのかという演繹的視点の政策提言です。
そこで中小企業・小規模事業者を4つの類型に分けて、それぞれに合致した支援策を講じ、これらの相乗効果で地域全体の価値向上に誘導することを提言しています。具体的には、①グローバル型(海外展開で外需を獲得し中堅企業に成長する群)、②サプライチェーン型(品質でサプライチェーンの中核企業に成長する群)、③地域資源型(地域資源を活用し付加価値の高いモノ・サービスを提供する群)、④地域コミュニティ型(地域の生活や社会を支え地域の課題解決に貢献する群)です。
その中で、地域経済の好循環を生み出し拡大するための政策として、3つの柱を立てています。第一は、①や②のように地域でスケールアップを目指す中堅企業に対して、M&A等の経営戦略支援や輸出・海外展開、イノベーション、人材・資金面の支援を重点的に投入する「100億円企業」支援。第二は、社会課題解決を新たな市場として見立てた新しいタイプのビジネスに積極的に挑戦する企業に対して、インパクト投資の拡大を中心とした支援を講じる「ゼブラ企業」支援。第三は、③や④のように地域では不可欠な企業に対して、切れ目ない継続的な事業再構築や生産性向上の支援。
どの柱も重要なのですが、その中で特に第二の柱について注力しておりましたので、触れておきたいと思います。
1.基本指針・行動指針策定
社会課題を事業として解決しよとする企業(ソーシャルビジネス)の重要性は、5~6年前から指摘をし、党内でも議論を続け、政策提言もして参りましたが、ここ1~2年で急激に脚光を浴びています。そこで、この期に、しっかりとステークホルダーの役割を明示するべく、基本指針と行動指針を策定することを政府に求めています。(実はここ数年温めていたアイディアです)。
主要なステークホルダーは、もちろん住民ですが、その他、社会課題解決企業自身と共に、自治体、地域金融機関、投資家、大企業、中間支援団体などですが、それぞれの果たすべき役割を、対象となる地域や分野、規模等の違いも踏まえて整理することが必要です。
2.中間支援団体を中核としたインパクト投資も見据えたモデル事業実施
社会課題解決事業の実施は、言うは易し行うは難し、なのですが、まずはモデル事業を実施し、そののちに横展開を図ることを求めています。当然、インパクト投資の仕組みを積極的に利活用することを念頭に置いています。
3.認証制度の仕組みの検討
社会課題解決事業の最大の難しさは、地域社会の合意形成にあります。怪しいと思われたら終わり。であれば、怪しくない健全な社会課題解決事業者を認証する仕組みを検討すべきです。基本的には行政が評価する絶対座標の認証と、関係者の間で評価する総体座標の認証が必要と思っています。ここは長らく議論をしてきたもので、難しい課題ではありますが、やり遂げたいと思っています。
4.事業拡大に向けた中小企業補助金の活用
原則として、社会課題解決事業には補助金は入れないのが基本ポリシーです。なぜならば、補助金を入れれば入れるほどダメになっていくからで、そのことは以前から指摘して参りました。ただ、そうは言っても、イニシャルコストとしてどうしてもかかる費用を支援することは検討すべきということで、既存の施策に社会課題解決事業者の枠を設けることを考えました。
5.インパクト投資・融資の普及促進
何よりも社会課題解決のビジネスは、資金調達をどうするかが最初の課題になります。通常のモノやサービスのビジネスであれば、収益を得るまでにそれほど長い時間はかかりませんが、社会課題自体が市場であるので、息の長い資金調達が必要になり、通常の融資や投資は合致しないことが殆どです。そこで、社会課題解決事業に合致した資金供給の在り方自体を創設すべきだとの結論です。
6.コーポレートガバナンスコード活用のための取組
世界のESG資金を大企業が呼び込み、大企業が地域の社会課題解決事業の支援に繋げていくメカニズムを念頭に、大企業がメリットを享受できるようにするためにコーポレートガバナンスコードを活用することを提言しています。しばらく改定は行わないことになっていますが、既存のものを活用するメカニズムの構築を提言しています。また当然、改訂されることになったら、しっかりと反映していくことも求めています。
7.企業版ふるさと納税制度や地域活性化企業人制度等の活用
最後に、社会課題解決事業に対する大企業の資金面や人材面の投資を促していく有効なツールとして、企業版ふるさと納税(人材派遣型を含む)や、地域活性化起業人制度等の一層の活用を図ることを求めました。また、休眠預金制度の更なる活用を、本年予定されている 5 年見直しの機会を捉えて推進することも求めています。