【善然庵閑話】人は成熟するにつれて若くなる

久しぶりの善然庵閑話シリーズ(政治とは直接関係ない取り留めも無い事を書き綴った散文で、遠藤周作の狐里庵閑話を捩って名付けたもの)です。

今日、とある御仁との会話のなかで故竹下昇先生の話題になり、それでもってヘルマン・ヘッセをふと思い出してしまいました。ヘルマン・ヘッセなどと40代の中年の私が言えば、恥ずかしげもないのかと罵倒されそうですが、誰しも通った青春の時代(私もあったんです)、ご多分に漏れず、ヘルマン・ヘッセをいくつか読み、そうだこれでいいのだ、などと、自分の悩みを消化していたことを思い出します。今となっては単なる恥ずかしい苦く酸っぱい思い出です。

でも、25歳くらいのときに読んだ、とても印象に残ったヘッセのマイナーなエッセーがあり(駄洒落じゃありません)、それは「人は成熟するにつれて若くなる」というエッセー集に納められた、「日本の森の渓谷で風化してゆく古い仏像」というものです。

と言ってもなんでこんなエッセー集を25歳ごろに読み始めたのかも全く覚えていませんし、タイトルさえ正確に思い出せずネットで調べてようやくわかったくらいのものですが、どんな内容なのか、正確に現代に再生する力は私にはありません。

ただ、雰囲気だけ伝えれば、

雨や霜に晒されて静かに目標に向かっていく柔らかな顔をした仏陀像。その目標とは、自らすすんで森の中で朽ち果てて形のない無になることであって、客観的に見るとその行為自体が究極の高潔であって、その無の中に万象全てが含まれている、みたいな感じです。

まるで日本人のように人間の内面を追求する人がヨーロッパにいたのだという驚きと共に(ヘッセらしい)、こうした内面追及が人類普遍的なものなのかもしれないという勘違いをしながら読み耽った詩です。

般若心経にも色即是空というのがあります。万物すべて因果でつながっていて因は果になり果は次の因になる。形あるものは全てこの因果のサイクルの中の一現象でしかない。だからこそ、私のような世俗の人間自身が形のない空なるものであって、そんな空が自分の基準で判断する欲望やら怒りやら嫉妬なるものは当然のごとくすべてが煩悩でしかないというもの。

ヘッセの内面世界は実はこうした般若心経の教えをも超越した、無に向かうというダイナミズムの美学を感じます。

翻って政治における無とはなにか。それは公僕に徹することであろうか。ある種こんなどうでもいいことをぼやっと考えてしまった一日でした。

IoT/Industrie4.0とIICに見る世界の産業構造の大変革

このままIoTやBigData、AIなどが世界の産業構造や社会構造にどのようなインパクトを与えるのかの理解が進まないままだと、いつかはアメリカがしかけるIICやドイツが仕掛けるIndustrie4.0の産業戦略(というか標準化戦略)に飲み込まれて、日本の産業は単なる部品モジュール供給会社になってしまいます。このあたりの背景は、小川紘一著のオープンクローズ戦略に詳しい。

日本ではどうもIoTなどの言葉だけが先行していますが、日本が将来メシを食っていけるかどうかの瀬戸際に追い詰められている程の極めて重要な問題です。こうした新テクノロジーによる新産業をしっかりと捉え、明確な戦略を描き、雇用や所得に結びつけていかなければなりません。

IoTやBigData、IICやIndustrie4.0の本質は何か

IoTやBigDataでどのようなサービスが出現するのか、AIと組み合わせればどのようなことができるようになって、どういう社会ができ、どんな新しい価値を生むのか、というアプリケーションを議論するのは大いに大切であって、政府も党もこうしたアプリケーション産業が自由に出現できるような環境を創ること(規制改革など)を考えていくことは非常に大切です。

しかし、より大きな視点で見て、どのようなグローバル産業構造になるのかを考える方が遥かに重要です。

一言で言えば標準化です。すべてのものがネットにつながるということは、必ずそこに標準化というプロセスが入る。標準化ということは、オープンにするということであって、その公開されたインタフェース仕様に準拠しさえすれば、だれでも市場に参入できることを意味します。

例えば、その標準に準拠するモジュール化された高性能機器を日本が開発できたとしても、政府支援が潤沢な(例えば税制や補助)新興国に価格競争力ではかなわない。発売した当初は市場を席捲するかもしれないけれど、いつかは撤退を余儀なくされる。

ではなぜ標準化なんかするんだということですが、IoTの分野でしかけているのはドイツのIndustrie4.0とアメリカのIICです。何を目指しているのかというと、一言で言えば、標準化して無料でも良いから使わせて普及させてしまえば(オープン戦略)、あとは標準化に知財を刷り込ませたうえでその内側の技術を知財で守り通せば(クローズ戦略)、世界を牛耳れる、ということです。オープンクローズ戦略です。

つまり、もっとも気を付けなければならないのは、Industrie4.0やIICという標準化が作るビジネスエコシステムはドイツやアメリカに富が流れる構造になっている可能性があるのであって、何も考えずに標準化作業に付き合ってしまったのでは、日本は単なる部品やモジュールを供給する会社になってしまうというグローバル産業構造ができてしまう可能性にもっと注意を払うべきだということです。日本が目指す方向性は、決してキャッチアップネイションではなく、リーディングネイションであるべきです。

日本の技術力が衰退したではない

日本は素晴らしい技術力は持っているけど、それを産業化できていないか、産業化してもマネージメントできていない。つまり、科学技術成果を稼ぐ力に変換できていないか変換効率が悪いことが一つの原因です。

1980年代、日本はバブルのピークを迎えようとしていました。巨額の貿易黒字は日本のエレクトロニクスや自動車産業によって生み出されたものでした。CDやDVD、DRAM、液晶テレビ、カーナビなど、技術力を生かした先端技術製品を日本は多く生み出し、日本に多額の富をもたらしました。しかし一方で、市場を席巻したこれらの製品は、一部の製品群を除き5年程度で国際市場から駆逐された。近隣アジアの新興国企業に市場を奪われ撤退を余儀なくされた。

なぜそうなったかというと、日本は知財戦略を誤ったから。と言い切ることはできないのは当然ですが、そう見た方が見通しが良い。日本は特許取得数で言えば世界のなかで世界最多を争う国です。しかし、DVDや太陽電池のように世界の80%以上の特許を取得していながら、なぜ市場撤退を繰り返すのかを考えなければなりません。

まず言えるのが、日本の知財戦略と知財予算は、殆どが知財成立に使われ、知財活用に使われた国費は極僅かだということ。つまり特許の数は多いけど使ったことがない企業が殆どだということ。さらに言えば、例えば、多くの場合、国内だけに出願し、海外には出願しない。結果的に公知の技術となってしまい、実質的に新興国企業への技術移転となった。つまり、国内オンリーの特許取得が標準化政策と同じ役割を果たしてしまい、日本企業に深刻な事態をもたらしたと言えます。

科学技術政策としては日本は頑張ってきた。私も現在、党の科学技術イノベーション戦略調査会の事務局で第五期科学技術基本計画の策定作業に携わりましたが、日本は、第一期科学技術基本計画が策定された1996年から第四期を終える今年までに総額80兆円程度の税金を科学技術研究開発につぎ込み、官民合わせて毎年GDPの3〜4%程度の投資を行ってきました。これによって先ほど述べた先端技術による製品が開発され、日本の技術力ブランドの構築に大きな貢献をしました。ノーベル賞も何人も受賞された。LEDやタービンブレードなど最先端の技術が無尽蔵にある。だから決して技術力は衰退していません。

しかしそうした研究結果を稼ぐ力に変換しないといけない。問題の1つは、なぜ産業に結びつかないのか。これは多くの人が議論し政府や党内でも十分に議論され、対策を盛り込んだ文書が発出されています。問題のもう1つは、なぜ産業化された製品が5年程度で世界市場から撤退を余儀なくされるほど続かないのか、別の視点で見れば、なぜ巨額の研究開発投資が新興国に簡単にわたってしまうのか、であって、IoTなどの新プラットフォームが出現し社会に大変革を興そうとしている時には、こちらの方こそが真剣に議論されるべきです。

オープンクローズ戦略の例

例えばルータの世界では有名なシスコシステムズという会社がありますが、基本的にルータの機能を持つソフトウェアをオープンにして全世界に使わせ普及させた。普及させてしまえば、これと互換性のない繋がらないルータは使われなくなる。この場合のソフトが標準化そのもので、ここに知財を刷り込ませ(ルータ本体に繋がる)、ルータ内部のコア技術は知財でがんじがらめにしてクローズ非公開にした。結果的にみんながシスコのルータを使わざるを得なくなり、シスコはコア技術で稼げた。

携帯も面白い。当初携帯の規格は欧州勢がしかけた。GSM方式ですが、どのような戦略化と言えば、基地局の内側は知財で固めてクローズにし、外側はすべて標準化してオープンにした。使わせて普及させて儲ける仕組みであってノキアやエリクソンが台頭したのはご存じのとおりです。ところが、米国はGSMとは別の独自規格を出した。QualcomによるCDMAです。CDMAは単純に言えばそれまで欧州や日本で採用されていたTDMAより遥かに高速大容量の処理が可能なシステムですが、GSMの容量が飽和するにつれて、CDMAに席巻され、日本も含めて主要国ではほとんどがQualcomに牛耳られた。ここにきてノキアは苦戦を強いられる。

ノキアにとっての追い打ちは、Qualcomとノキア陣営が牛耳る携帯電話市場に、WiFiにシームレスにつなげることができるスマホというハードを米側が投入したこと。ゲームのルールが完全に変わってしまいました。基地局というクローズ領域を設けることによってなりたっていたビジネスモデルが、WiFiという究極のオープン化によってパラダイムシフトしました。ご存じのとおりノキアはその後市場から撤退しました。一方のQualcomは、ゲームのルール、市場の変化を明確に感じ取り、WiFi関連会社を買収し、特許ポートフォリオを完成させ、今でもピンピンしている。

再びIndustrie4.0とIICについて

Industrie4.0について、小川氏は「例えば、欧州企業が先導して企画したISO26262の安全規格は、自動運転に使うLSIチップの演算、コンペア、データバス、A/D変換を全て2系統にすることが義務付けられているが、日本の信頼性の高い構成のLSIは競争力に結びつかない」と言っており、彼らの具体的な戦略を垣間見ることができます。つまり、彼らにとって「国際標準とは規格を決めることではなく、実ビジネスの競争作りを先導する戦略ツールになっている」ということに尽きるのだと思います。

さらに小川氏は「2014年夏、ドイツと中国がIndustrie4.0の規格を共同で策定することに合意した」と言っています。これはまさに巨大市場を睨んだドイツの戦略。そして更に、ドイツとアメリカは共同戦線なのかについて、「ドイツ企業はアメリカのIICに積極的に参加している。ドイツ企業の狙いはビジネスツールの共有化・標準化であり、アメリカのAIやビッグデータ・クラウドコンピューティングなどのIT技術とサービス産業への参加を狙ったもの。アメリカの狙いはIICが先導するサービス産業のビジネスルールを、ドイツと協業してグローバルなデファクトスタンダードにすることである」と述べています。

日本のとっている政策は新興国の戦略

現在、日本は継続的に法人税減税を行い国際競争力を高める方向に舵を切っています。大いに賛成です。というか私も同僚議員とともに運動をした一派です。しかしよくよく考えてみたときに、なぜアメリカが比較的高い法人実効税率を維持できているのかと言えば、それはとりもなおさず、世界のビジネスエコシステムをアメリカ中心に構築できているからに他なりません。新興国は劇的な政府支援(税制や補助)によって、部品供給やモジュール供給基地となろうとしているわけで、狙うところが全く違う。つまり、法人税の実効税率を下げたからと言って、かならずしもグローバルなビジネスエコシステムのリーディングネイションに成れるわけではないというところが問題で、しっかりとした産業戦略と知財戦略を構築しなければなりません。

また知財の取得の仕方も現在の方向を否定はしませんし大いに賛成ではありますが、多くの特許を取得するということは、結局、グローバルビジネスエコシステムのリーディングカンパニーとクロスライセンスを狙った方策にしか見えない。これは「技術は開発するものでなくて調達するもの」が合言葉のサムスンの戦略に通ずるものがある。翻ってアップルのiPhoneが年間取得特許数が僅か200程度ということをしっかりと認識する必要があります。

アップルとサムスンの訴訟はどう理解すればいいのかというと、クローズ領域をもって収益を上げているアップルに対して、そのクローズ領域内にたまたまあったサムスンの小さい特許を巡ってサムスンがアップルに訴訟を起こすことによって、サムスンはアップルからクロスライセンスを勝ち取り共存共栄を狙っている、という一方で、アップルにしてみれば、絶対にクロスライセンスに持ち込まれないように徹底的に裁判で争っている、と見るのが正しい。

グローバル市場のなかで明確な産業戦略を描く必要性

先般、日銀がマイナス金利政策を史上初めて導入しました。同時期から株式相場や為替相場で乱高下が続いていましたが、ここはマイナス金利との強い相関はなく、世界経済に対するマーケット反応、特にアメリカ側の利上げ態度が軟化したことによる日本市場への資金の逆流入と、ドイツを中心としたヨーロッパの株価下落、そして中国経済の先行き不透明感と中国の外貨放出、そして原油の更なる下落などの複合的な理由、つまり一言で言えば世界情勢、によって日本が影響を受けた。

しかし、いくらそうだとしても、そして国内状況を見て設備投資は回復基調にあるとか実質賃金がプラスになってきたとしても、GDPの6割を占める消費は低迷、金融政策だけで景気回復を完全に主導できるとは言えず、本質的に産業の活性化を考えていかなければなりません。そして活性化の前に、グローバル市場での世界の戦略をしっかりと把握し、日本の戦略を立てていかなければなりません。

TPPもあるけどITAもありますよ

TPPについて国会で議論される前に(党内では議論してますが)いろいろな話題が上がっています。それはそれとしても、TPPはあくまで環太平洋であってしかも中国韓国と大半のASEAN諸国も入っていない。品目ごとに言えばほとんど関係ないものもあるわけで、逆に言えばチャンスの範囲もそれだけ狭い。そう考えれば、TPPと同じくらい話題に上ってもいいのが、ITAです。

って言われてもITAってなんやねん、と思われるくらい知名度が低いわけですが、国益の観点からすると驚くべき交渉を経産省・外務省はやってのけています。ITA。Information Technology Agreement。情報技術協定です。私も外務委員会の質問でとりあげてますが、中国・韓国・EUも含めて、そうした産業製品やサービスが関税無で供給できるというWTOの交渉です。

対象品目は全世界で1.3兆ドル。世界の全貿易額の10%を占める。日本からの輸出額は9兆円。日本の総輸出額73兆円の約12%に相当します。日本としての関税削減額は1700億円にも上るという試算もあります。しかもTPPと比べると即効性があり、今年7月から経済効果を発揮します。

参加国は、日本・米国・EU(28か国)・台湾・韓国・中国・香港・シンガポール・フィリピン・タイ・オーストラリア・香港・スイス・イスラエルなどです。

問題はたった2つ、1つは是非今国会中に上げなければならないことです。もう1つは、インダストリー4.0やIoTなどでゲームチェンジャーが出没するまえにゲームチェンジャーにならないといけないような時代にあって、相変わらず垂直統合型イノベーションを追いかけるのはナンセンスです。知財戦略や科学技術政策も変わらざるをえない。

兎に角第一歩目は通すことです。光り輝く日本にするために!

Society 5.0 〜イノベーション戦略〜

政府は先月、第5期科学技術基本計画を閣議決定しました。って何のことかと言うと、日本は平成8年から5年ごとに、2〜30年先を睨み、向こう5年の科学技術政策の計画を発表しており、今回は5回目の発表となります。実は党内の所掌調査会で私自身も議論にずっと参加してきたものです。

ただその党内の議論では全く出てこなかった新しい言葉が入っていました。総合科学技術イノベーション会議の誰かが提言したのでしょう。

Society 5.0

とてもいい言葉であると思っています。ご存じのように、ドイツでは数年前から国家的大プロジェクトを実行していますが、その名前が、Industrie4.0。これは日本語では第4次産業革命と訳されます。第1次革命が18世紀後半イギリス発祥のいわゆる機械化による産業革命。第2次産業革命が19世紀後半の電力活用による大量生産。第3次が20世紀後半の電子技術やITによる自動生産。そして第4次産業革命とは、IoTやBigData、AIなど高度な情報技術を駆使した生産革命のことです。

ではSociety5.0とは何かというと、Industrie4.0があくまで高度情報技術による”産業”の革新、それによる労働生産性の向上と国力の向上に注目したものですが、Society5.0は、そうした高度情報技術がもたらす新しい価値を伴った新しい社会、すべてがネットに繋がってAIやBigDataによってインテリジェンスを有している社会で人間が豊かに暮らすという超スマート社会を実現するための手段としてなすべきことの総称です。

なぜ5.0なのかというと、社会は太古から狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会と流れているので、5番目に出現すべき社会という意味が込められている。

今回は細かく書きませんが、この分野の可能性は言わずもがな非常に高い。だからこそ、国家の在り方もそれに合わせて変えていかなければならないと考えています。

ざっくり言えば、規制の在り方のそもそも論です。日本はご存じのとおり、規制が必要だとされる分野は、やれること、できること、を限定列挙するような、ポジティブリストが前提となった構造になっています。例えば自衛隊もです。通常の軍隊は、できないこと、やってはいけないことを限定列挙するネガティブリスト方式をとっていますから、臨機応変に活動でき、問題が生じたら軍法会議にかかります。自衛隊はできること、やれることを細かく書き込んでいます。産業界も同じで、企業も同じようなものです。だから世の中の変化に合わせて法律をどんどん変えていかなければなりませんが、特に情報関係の進歩は日進月歩。ルールが実態に追いつかないので、ビジネスチャンスを逃し、海外に先手をとられてしまいます。

例えばFinTech。メガバンクがFinTechに手を出そうと思っても銀行法で駄目だと書いてある。これは今般法律改正することになりましたが、既にアメリカでは、PayPalやら何やらが世界に進出して、アメリカに相当な富をもたらしています。アメリカはネガティブリスト方式になっています。だから、ビジネスをやり始めるひとは、どんどんやる。

ならば、ポジティブリストからネガティブリストにすればいいのでは、という単純な問題でもありません。ネガティブリストにすると、自由度は広がり迅速に対応できるというメリットがる反面、問題が生じたら裁判するというコストがかかります。アメリカがそうであるように、国家全体で言えば莫大な訴訟コストを払うことに繋がります。法曹人口も今のままでは到底足りません。消費者による訴訟の支援スキームも考えなければならないかもしれません。ポジティブリストの場合は政府が原則を決めているので訴訟にはなりにくい。

産業界がどちらを望むのか、一度そうした議論をしていかなければならないような気がしています。

Society5.0を実行し、日本がイノベーションに最も適した国になるためには(あるいは政府目標のGDP600兆円を実現するためにはとも言えますが)、政府が予算をかければよいと言う単純なものではないことだけは確かです。

農政新時代について

農政については、ご存じのとおり、2年前に既に政策を地域政策と産業政策に明確に分け農政を刷新しました。地域政策のコンセプトは、農家一人ではできないことを国家が代わりにやる、であって、インフラの概念だと思っています。例えば用水路の工事をするとかです。なぜやらなければならないかと言えば、農地がもつ多面的機能の維持し地域を維持する為です。後者の産業政策は、農家が頑張れば収益がでるという当たり前の構造を作るためのものです。少し具体的に言えば、過去の自民も民主も供給サイドしか政策を打っていないかったのを(例えば種々の補助金、土地改良、戸別所得補償)、需要サイドや流通サイド(輸出・マーケティング・流通・販売営業力・6次産業など)もしっかりと光をあて、エコサイクルを作りましょうというもの。総じて方向は絶対に正しい。

そうした上で、TPPがでてきた。TPPは農家にとって短期的にはマイナス。しかしやりようによってはプラスにもできます。そうなるように、まさに農政新時代の到来と言えるような新たな振興策と産業構造の抜本的転換が必要だと感じています。今日はそのことを書いてみたいと思います。

まず、多少余談になりますがTPPについて触れたいと思います。私自身、交渉の結果は意外なものだったと認識しています。例えば農林水産品の関税非撤廃の割合。日本だけ突出していて19%。他の国は、例えば最後まで頑張ったカナダでも5・9%、ペルーは4%、メキシコ3・6%、米国1・2%、残りは1%未満となっています。また、関税の即時撤廃も他国平均は85%であるのに対し、これも日本だけ突出して低く51%。国際的に見れば日本は相当頑張ったと言えます。

しかし交渉を頑張ったことと農業が大丈夫かは別問題です。これについては影響が出ないための当面の振興策と同時に、影響が出ても対処できる振興策枠を用意すべきで、昨年末に第一弾として緊急対策を党として出しました。私自身は今後も香川型農業を念頭に振興策に力を注いで参りたいと思います。これは農地が大切だからです。農地は農家の収入や安心安全な食料の供給という面以外に、大和の心や子供の心を育み、環境対策、地域結束など、非常に多面的側面を持っています。だから絶対に守らなければいけない。

しかし守るだけでは全然だめです。本質的に農家が儲からないといけない。だからと言って決して単純な大規模化とか法人化ということではいけません。また従来と同じことをやっていても茹でガエルになるだけです。まずは見える化。何がどこでどれだけどんな手法でどれだけのコストでどのような流通路を経て消費者に届いているのか、産業構造を俯瞰的に見えるようにし、かつ時間軸で分析する必要があると思っています。

日本の食品市場は80兆円。原材料は生産者が作った10兆円(輸入も数兆円ありますが)。この差の内の10兆円でも生産者側が関与できたら、単純計算で農業収入は2倍になります、とは言いませんが、そうしたことを実現するためには、産業構造を変えなければできない。生産者が原材料を供給だけではなく、生産者が食品産業全般に関与できるような構造にしていかなければなりません。繋ぐにはやはり農協の協力が不可欠です。農協の需要サイドとの関与を強め、農協に儲けて頂き生産者に十分に配当して頂く為に国は何ができるか。そもそも論を考えなければなりません。場合によっては農林中金にお手伝い頂き、農協と、流通やリテールや輸出や海外市場構築などを得意とする企業、つまり食品産業との資本提携戦略も視野に入れておく必要があると思います。

生産者にはこれまで同様美味しい品物を作ることに専念頂くことに大きな変わりは有りません(これは大原則です)。ただ、生産者同士がどうやって協力し、その品物を誰がどのように買い、海外も含めて誰にどのように売るのかは変わる必要があります。大きなチャンスでもあります。他業種との連携による商流開拓や標準化なども進めなければなりません。多面的機能を無視したやり方では地域衰退に直結しますが、そうじゃないバランスの取れた政策を推進しつつ新農政の詰めをやらなければなりません。

輸出も真剣に拡大をしなければなりません。10年くらい前は4000億円くらいだった輸出がここ急激に伸びており7000億円くらいに増えています。目標の1兆円も達成できる勢いです。問題は、輸出したら農家が単純に儲けると言うことにはならないということ。つまり国内と同じ様な構図のままのことを海外市場でもやったらボリュームが増えるだけで同じ結果になるということ。だからバリューチェーンごと海外市場に作らなければならない。もちろんマーケティングが大前提になる。

海外市場開拓の場合、しがらみが無い分だけ国内産業構造の改革より簡単だと言えます。もちろん海外であるための困難(相手国独自の規制やら言葉やしきたり文化の違いなどのコスト)もあります。一方で、輸出量の拡大によって国内供給量が減り価格が上昇するということも一部起きているという報告も聞きます。相当いろんなことを考えながら政策を作り上げる必要があるはずです。

いずれにせよ、既に見えている輸出の障壁(相手国の規制や国内HACCP認定の推進など)の改善を徹底的に進めることは当然です。

良い政策、良いアイディアを出していきたいと思っています。

3万円は正しかったのかー社会保障制度と経済政策の視点から

低所得層高齢者に3万円を単発で給付する措置が話題になりましたが、それについて、結論から書くと、経済政策としては全然ありですが、社会保障政策としては全然なし、であって、今となれば、問題は、政治メッセージとして正しいアナウンスだったのか、のみが反省として残ると思っています。で、なぜ改めてこのことを書き始めたのかと言うと、3万円の臨時給付金の是非を論じたいわけではなく、中長期展望としての経済動向と社会保障制度を、消費と個人金融資産いう観点から、心配しているからであって、この臨時給付金をトリガーに書き残しておきたいと思ったからに他なりません。

まずは経済的側面:確かに高齢者無職世帯の消費は2014年は減ったが・・・。

経済は、ざっくり言えば消費と投資と政府支出と国際収支から成り立っています。で、消費のGDPに対する寄与度は全体の6割くらいですので、消費の景気への影響は太宗を占めることになります。つまり、今景気は悪くないものの力強くないのは消費が弱いからに他なりません。で、現在の消費は230兆円位ですが、その内、高齢者世帯の最終消費支出額は115兆円を超え、全世帯のそれの半分を占めるに至ってます。つまり、高齢者層の消費は景気の動向に大きく影響するということです。

で、当然ですが、その世帯の消費は年金の給付額に大きく影響します。少し詳しく言えば、まずどの位の世帯が年金に依存しているかというと、高齢者世帯が総世帯の半分であって、さらにその内7割が無職世帯。つまり全世帯の50%×70%=35%位が年金に依存しています。この世帯の消費は2014年は1.6%も減りました。勤労者世帯(全世帯の48%)の消費が0.1%増加したのに比べれた明らかな減少で、この高齢者無職世帯が全体の消費の1%くらいを押し下げている、つまり3兆円くらいは押し下げている計算です。とすれば、先ほど述べたように消費がGDPの6割くらいを担っているので、高齢者無職世帯の消費低下がGDPを0.6%くらい押し下げていることになります。

なぜこの世帯の消費が減ったかというと2014年は公的年金支給額が減ったから

なぜ支給額が減ったかと言えば、年金給付が2014年前後に限って言えば過去の水準との比較で減ったからに他なりません。少し詳しく述べると、デフレが続いていた日本では、物価の変動に合わせて年金支給額もどんどん減ってきたはずが、実は10年位に亘って、政治的配慮から下げずに来ました。ところが民主党政権時代、自民党と一緒にですが、このままでは年金制度は持たないということになり、本来の物価に合わせた支給額にするために、一気に給付額を下げたのが2014年あたりです。より具体的に言えば、たとえ2000年の支給額は月額67000円でしたが、デフレが続き、2013年の本来の支給額は63400円位に減額されていなければならなかったのが、政治配慮で65500円にキープされていた。本来の支給額と約2.5%のギャップがあったわけです。それを2012年の法改正で、スケジュール的には2013年10月に1%減額、翌2014年4月に更に1%、2015年4月から更に0.5%の減額で調整することになった。結果として2014年には64400円に減額されました。お気づきの通り、消費が1.6%減ったのはこのことによる。

一方、2015年はデフレ脱却傾向で65008円に増額されました。後述する特殊減額とマクロ経済スライドをかけてもです。本来の百年安心年金の給付額に戻ったわけです。

※参考までに年金給付額というのはどのように計算しているかというと、2015年を例にとれば、前年の消費者物価(2.7%)と賃金上昇率(2.3%)の低い方を基準にしてマクロ経済スライドのスライド調整率0.9%を減じ、2015年は先ほど申し上げた特殊運用で更に0.5%減額措置をとったので、結局、2.3-0.9-0.5=0.9%が増額分。仮に2015年の物価上昇率と賃金上昇率の低い方が1%だったとしたら、2016年の年金支給額は65008×(1+(0.01-0.009))=65073円となります。

経済政策としての3万円は妥当

以上みてきたように、2013年後半から2017年前半は高齢者無職世帯は年金の減額措置や消費税増税などで負担が増えています。具体的にどれだけ負担になっているかというと、負担の計算の仕方にもよりますが、前年比変化分を負担としてアバウトな計算をすれば、2013年は10月から2014年4月までは1%減額なので、負担は約3千円(65000×0.01×5)。2014年4月から2015年4月も1%なので、約8千円(65000×0.01×12)。2015年4月からは0.5%減額の上にマクロ経済スライドが導入されたのでスライド分0.9%減額されるので、約1万円(65000×(0.005+0.009)×12)になります。今年2016年は変化なしで、2017年は消費税増税分があるので(スライド調整率は変化なし)、負担は約1.5万円(65000×0.02×12)。その後は負担は変わらない。こう考えると、この年金調整措置がある特殊な期間の高齢者無職世帯の負担は約3.5万円(4年で)になるので、経済政策として3万円をこの高齢者無職世帯に給付するのは、消費下支え政策としては全く理にかなったものとも言えます(これはあくまで私個人の分析に基づくもので政府が理由にしているものではありません)。

つまり一言で言えば、3万円の臨時給付措置は、消費税増税とともにマクロ経済スライド導入を含めた年金調整過渡期において、高齢者世帯の一過性の年金収入減少による消費減少を緩和するための措置、という観点では全く正しいことになります。

ちなみに年金支給額は今後どうなるのか

ここで少し脱線しますが、この計算にお付き合いいただいた方であればお分かりの通り、デフレ脱却によってスライド調整率0.9%以上の物価上昇(もしくは賃金上昇率)となれば、支給額が増額されていきます。日銀目標の2%であれば約1%ずつ上昇ということになります。そしてさらに、このスライド調整率というのは5年ごとに見直されることになっていますが、何によって決定されるのかというと、現役の被保険者の減少分と平均余命の伸びに基いています。現行の0.9%というのは、現役が0.6%ずつ減っているのと余命が0.3%伸びているので0.9。今後は高齢者雇用が増加すればスライド調整率は低くできる可能性もありますが、当面同水準が続くものと思います。

ただ、年金支給額増加しても今後消費は必ずしも増えない

支給額が増えたからと言って必ずしもこの高齢者無職世帯の最終消費支出が増えるとは限りません。なぜならば、高齢者世帯の内、最も人口の多いのは団塊世代であって現在60歳後半。消費が多いのは60代の世帯であって、今後団塊世代が70代に突入すれば消費は減少していくと思われるからです。ですから、消費の動向は、より詳細な分析をしなければなりません。この点は他に譲るとして、消費の動向分析のためには年金支給額の他に金融資産も見るべきです。

社会保障政策としての3万円

ここで個人金融資産を見てみたいと思います。国民の個人金融資産は総額1600兆円とも言われていますが、60歳以上が68%以上を保有しているという統計があります。更に衝撃的なのが、この数値は負債を勘案しておらず、こうした住宅ローンや教育ローンなどの個人負債のほとんどは勤労世帯が背負っているので、それを勘案すると、純貯蓄の90%以上を60歳以上が保有しているという統計です。

つまり消費を僅かながらでも伸ばしている勤労世帯からも消費税を国が吸い上げ、純貯蓄の90%を保有する高齢者世帯に給付すると言う構図が浮かび上がってきます。3万円の臨時給付措置は低所得の高齢者世帯だから問題ないとは言えません。単純な例で言えば、1億円の金融資産を保有しながら6万円の年金暮らしの人がいないわけではないからです。もちろん逆に高齢者の相対的貧困率は18%ですので、必要とする人に届くのは間違いありませんが、必要ではない人にも届く。そして30歳未満の相対貧困率が28%であることも見逃せません。こう見れば社会保障政策として見てしまえば、お金に本当に困っている子育て世帯にもお届けしなければ理屈はあわず、正しい方策とは言えません。これは少子化対策や地方創生にも合致しない。

つまり、臨時給付金をやるのであれば、政治的メッセージとしては、政府が言っている子育て世帯を含む勤労世帯対策もやってますよというアピールが欠かせないのは論を俟ちませんが(これは政府もアナウンスしています)、金融資産をもつ比較的豊かな高齢者世帯に、その子供達である勤労世帯のために如何にお金を使ってもらうかという政策(リバースモーゲージや教育資金贈与税減税拡充などなど)をセットにすべきであったと思います。

念のために言えば、高齢者世帯に個人金融資産が偏ることが直ちに悪いわけではありません。それは、若いうちは養育や生活基盤確立の為に働き借金して懸命に生きるわけで、年を取ればそれを取り崩して生きる、という構図は宿命だからです。今の問題は、これがあまりにいびつになってしまったと言うことです。

総じていえば、何が起きているかと言えば、勤労者世帯、特に結婚出産適齢期は極端に負担が大きく、高齢者は老後20年以上を睨んで戦々恐々として消費できない。消費ができないから景気回復が遅延。すると勤労世帯の賃金が上昇しない。上昇しないから子供が増えない。増えないから、勤労世帯が減る一方で、景気が回らない、という構図です。

ここから脱却するには、働ける人はいつまででも働ける環境を創り負担の一部を担って頂き、さらにマイナンバー制度を昇華させ、社会保障の運用を適正化して、困ったふりをする人、本当は困っていない人には遠慮いただき、本当に困っている人に、より手を差し伸べられるような制度を改めて組み立てる必要があると考えます。

少し長くなりすぎましたが・・・。

新価値基軸による新しい世界秩序の創造について

北朝鮮による水爆実験が行われたという報が飛び込んできました。国連安保理決議を無視した行為に断固として抗議するものです。北朝鮮はこれで孤立化の道をたどることになります。日本として国際社会として対抗措置をとるべきであり、また単独でも更なるしかるべき措置をとるべきです。

■世界で起きていること

米国の相対的プレゼンスが低下している中、中東の混乱が増し、それにより欧州は分裂気味、米ロも対立、アジアで中国は台頭。中ロが共闘姿勢をとれば、世界のパワーバランスは一気に崩れ、混乱に拍車がかかる可能性もあります。そうした多極化した混沌が北朝鮮にこうした行為を許しているのかもしれません。つい先日、サウジがイランに対して国交断絶を宣言する報がありましたが、これもこうした混乱の一部であると見るのが正しいと思います。

全ては米国の行動しない主義が招いていることです。レッドラインを引いておいて、それを超えられても行動しないことが如何に米国のプレゼンスを低下させ世界の混乱を招いているのか。オバマ大統領は驚くことに2013年9月に世界の警察官を辞めた宣言をしています(辞めるにしても宣言しなくてもよかろうに)。

介入を避けることで目前の危機がなくなるのであればそれは理想主義としては正しいのですが、現実は全く逆の方向に流れており、米国のこうした行動しない主義が中東ではシリアの混乱を助長し、さらにウクライナのクリミア紛争を通じたロシアの介入で、更に問題が複雑化し、極めて解決が困難な問題になりつつあります。

かといって、これまでと同じような欧米風の自由と民主主義一辺倒の価値観押し付け外交や地政学的パワーバランスの価値観、軍事力だけのプレゼンスだけでは解決できる問題ではなくなってきています。

■世界が為すべきことは新しい価値に基づく戦略再考だ

北朝鮮については後日改めて書きたいと思いますが、今回はそうした世界全体の平和に向けた価値の創造と戦略立て直しについて書いてみたいと思います。端的に言えば、米国は、世界でのプレゼンスを増すべきだということですが、そうするためには、軍事的プレゼンスも増すべきです。残念ながら北朝鮮やISILなどの輩が跋扈する世界には軍事は欠かせません。日本で治安を守ってくれる警察官が棍棒と拳銃の所持を許されているのも同じです。

しかしながら、先ほど触れたように、それだけでは埒が明きません。自由と民主主義という価値観や地政学的パワーバランスの価値観、軍事力だけのプレゼンスから脱皮し、そうしたものに加え、新しい価値観を背景とした、より現実的な対応をしなければなりません。私は人道という価値基軸を追加して戦略の見直しを図るべきだと考えます。

■現在の中東の最大の対立軸がサウジとイラン

サウジとイランの話から始めたいと思います。これまで不穏当な状況が続いていた両国ですが、とうとう最悪の事態、非常に危険な状態になっています。アラブ諸国連合で外相会議が行われたり、アメリカのケリー国務長官が動いたりなど、関係国も事態収拾に向けて動き始めていますが、まずはこうした関係国には平和的解決に向けた外交努力を続けて頂きたいと強く願うものです。

もともとこの2つの国はペルシャ湾をはさんだ中東の2大国。サウジは世界最大の、そしてイランは4位の産油国です。そして、サウジはスンニ派が、イランはシーア派が多数を占める国です。そしてこの2国は中東の派遣を巡り長く緊張関係にあり、周辺国の内戦で代理戦争を行っている。

例えばイエメン(サウジの南端)。現在のハディ大統領はもともと民主化の波に乗って政権に就いたスンニ派の人ですが、憲法草案の議論のもつれからこれがさらにシーア派の反政府勢力と対立。想像どおり、サウジはハディ大統領の後ろ盾となり、反政府組織はイランが支援している。

シリアも元々は、イランがシーア派のアサド大統領を支援し、サウジがスンニ派を中心とした反体制派を支援していた。そうした代理戦争の間隙を縫って台頭してきたのがISILです。

イラクも、もともとスンニ派のサダム・フセイン政権が多数派のシーア派国民を統治していましたが、フセイン政権後はシーア派が国づくりを主導するようになり、対ISIL作戦では、イランの指揮のもとシーア派民兵が動員されていることが、スンニ派とサウジの反発を招いています。

■ISIL対策を現実路線で徹底的に行うことから始めるべき

そこで話をISILに移します。ISILは、難民発生を武器にEU首脳にプレッシャーをかけ続けており、それがもとでEUは分裂しています。昨年末、EU本部があるブリュッセルを訪問した際、EU本部の知人が、各国国境管理を強化していてEUがEUでなくなりつつある、という趣旨のことを仰っていました。ISILはEUの在り方をも変えようとしています。

であれば、やることは、まずはISILの徹底排除であって、これは空爆だけでは解決しない。ではなぜ米国世論調査で米国民の過半数がテロ対策として対ISIL作戦での地上軍派遣を支持しているのに米国政府にできないかと言えば、2つの理由があります。

第一は、ISILの支配範囲は中東4位の石油産出量を誇るイラクでも北部のみで、石油掘削は南部が中心となっています。だからアメリカは、ISILの南下を防ぐことが最低限の戦略になるため、そのあたりで徹底的に空爆を行っています。つまり最低限やってればいいんじゃないのというのが積極的理由。

第二は、米国のイラク・アフガンでの経験則によるものであって、地上軍派遣後に誰がどのように治安維持を行うかが問題となる。それはとりもなおさず、アサド政権をどうするかにかかっています。これが消極的理由。

後者は少し複雑です。本来、オバマ大統領が当初から明確なプレゼンスを中東に示していればそれほど困難ではなかったはずですが、今となっては、ロシアも介入しているので、単純な話ではなくなってきています。それは、ロシアはイランとともにアサド政権を支援しているからです。

■ロシアとは妥協点を見出すべきだ

ロシアはISIL掃討ができたとしてもアサド政権温存を主張するはずです。もちろんアサド政権は大量殺人の責任を取るべきであるし、自由民主主義価値観から見れば撤退して頂かなければならない存在です。ロシアが地上軍派遣を米国に持ちかけた際にアメリカは即座に否定しているのはそういう理由です。しかし、そうしている間にも難民が大量発生しており、これだけでも人道問題であるのに、この難民が更にEUに入り新たな人道問題を起こしています。

ロシアが目指しているのは、中東の権益拠点であるアサド政権を軸に、アメリカがしなかった中東秩序の構築を、ロシアが変わって実行することによって、世界におけるロシアのプレゼンスの向上を図るというものに見えます。そうなってしまっては中東の世界が塗り替えられ、世界情勢が大きく傾くことになる。

であれば、目の前に人道支援しなければならない人がいるのであれば、という価値軸で、アサド政権にもISIL掃討後にも一翼を担ってもらうような戦後処理が現実的にならざるを得ません。欧米はこうした現実主義に転換して、目前のISIL対策をしなければ、混乱は増すばかりです。

そういった意味で、昨年12月にシリア問題解決のために関係国17か国が集まり、解決に向けた工程表をまとめましたが、私自身は妥協点としては大いに賛同します。何の話かと言えば、アサド政権と反政府勢力が半年以内に移行政府を発足させて来年春までに憲法を制定し選挙によって新政権を樹立するというものです。

誤解があると困るので念のため書き添えておきますが、アサド政権を支援するということは間違いです。人道上の価値によって妥協を探るということです。

■日本は新しい価値創造を世界でリードしていくべきだ

世界は新しい秩序の形成をなしていかなければならないと述べましたが、日本も例外ではありません。ただ、こと軍事に関しては、日本は、やることも、やれることも、やるべきことも、全くありません。昨年通過した限定的集団的自衛権行使を含む平和安全法制をもってしても、日本の存立が脅かされる事態が生じない状態で、いくら演繹的戦略的理由を述べ立てたところで、自衛権を行使できる憲法上および法律上の理由は全く見当たりません(せいぜい掃海活動ですが存立危機事態に該当する掃海活動というものは、否定はしませんが極めて限定的なはずです)。もちろん憲法と法律が許容したところで、日本が軍事介入をすべきでもありません。

では何をすべきなのか。人によっては、こうした混乱や対立はもともとは貧困や飢餓や格差からくるものであって、軍事に軍事対抗では解決しないので、貧困や格差解消のための支援や当該国の自己解決能力支援、いわゆるキャパシティービルディングをやるべきだということをことさら主張する人がいます。もちろんそれはそれで正しいし、日本も既にやっています。

ただ、対立はそうしたことだけでは解決できません。そうしたことに取り組むべきは論を俟ちませんが、国際社会の中で、特に今回、国連安保理非常任理事国になったのだから、イスラムから見ても価値の押し付けとならないような新しい価値創造を日本は主導していくべきです。

TPP経済影響試算について

昨年末、政府はTPPの経済影響試算を公表しました。どう計算しているかというと、GTAPという数理モデルを使った計算で、いろいろな仮定に基づくものなので、絶対正しいということではありませんが、大まかな方向性は把握できるものです。

で、結果から言えば、実質GDPは2.6%増、だいたい14兆円程度の経済拡大効果、雇用は80万人増となるという試算結果です。14兆円ってどの程度の額かというと、例えば消費税にして7%分、あるいは貿易の輸出額が73兆円(輸入が86兆円)、旅行収支の収入が2兆円、などと比較できます。結構大きい数字です。

気になる農林水産物については、最終的に1300〜2100億円程度の生産額減少。どの位の数値かというと、農林水産物生産額が10兆円程度ですから2%程度の価格低下になります。この額は先般発表した「総合的なTPP関連政策大綱」で示された対策によって生産は維持されると見込まれています。

なお、食料自給率という言葉はあまり私は好きではありませんが、この自給率に対するインパクトはほとんどないという試算結果がでています。

一般論として、自由貿易が目指す目的は、輸出入の増大によって生産性が向上するというプロセスと、それによって実質賃金が上がり雇用が増えるというプロセスと、実質所得の増加によって貯蓄と投資が増し資本ストックが増えるために生産力が拡大する、という3つのプロセスを通じて、生産性と投資と労働の好循環を目指したものです。

日本という国は、ものすごく内需依存度が高い国で自分だけで食っているようなもの。TPPについて言えば、対内直接投資残高(GDP比)で言えば、米21%、加35%、豪41%、星252%、チリ67%などですが、日本は突出して低く3.8%です。投資開放度が上がれば経済へのプラスのインパクトが大きく、1%上がるとGDPは3%上がるという試算もあります。

つまり日本全体としては期待は大ということになります。

しかし忘れてはならないのは、これはマクロの話であって、国民の皆様が何を営んでいるのかの内容によって明暗が分かれる可能性があるということです。ですから、明暗を分けさせないために細かい対策をこれから考えなければなりません。

http://www.cas.go.jp/jp/tpp/kouka/pdf/151224/151224_tpp_keizaikoukabunnseki03.pdf

(参考:産出額)
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/nougyou_sansyutu/pdf/shotoku_zenkoku_14.pdf

理化学研究所の快挙

研究不正問題で荒れた2年間でしたが、理化学研究所は継続的に斬新かつ先端的な研究成果を着実に挙げていることが分かります。

http://www.riken.jp/pr/press

もちろんSTAP細胞問題以降、研究不正撲滅のためにこの2年間、様々な取り組みを自主的にし、また同時に自民党でも不正撲滅のための議論をしてきました。これからも、不断の努力をしていかなければならないのは論を俟ちません。(ちなみに、私は同問題は、もちろん理研の研究体制の問題でもありますが、むしろ一義的には学術雑誌の査読体制の劣化を大いに指摘しておきたいと思っていますし、そもそもの本質的としては、研究者の評価を論文数などの具体的成果に求めすぎて研究者が雑念を捨てじっくりと研究に没頭できない体制にこそ問題があると思っています。)

ただ、冒頭に触れたいように成果は成果として大いに歓迎したいと思います。

今般、日本は偉業を成し遂げたんだと、日本人として喜びたいと思います。原子番号113、自然界には存在しませんが、人工的に安定的な原子番号113の原子の存在を確認し、命名権をアジアで初めて取得しました。

すいへいりーべーぼくのふね。高校生のときに覚えた原子番号表の語呂合わせは未だにしっかりと頭にこびりついています。あの原子番号表に日本人が発見し命名する原子が登場することになるとは思いもよりませんでした。

世界一の研究開発拠点を目指すべき。目的は箱をつくることではなく、世界の優秀な人材がこぞって日本に集まって、価値の高い知的生産活動を行ってくれること、それによって日本はもちろん世界に貢献するような知のハブ・人材のハブになってくれることを望んでやみません。だからこそ、一時断念した、特定研究開発法人への指定を、他の主要研究所とともに、早急に実現しなければなりません。

以前も書きましたが、古代ローマの時代、エジプトのアレクサンドリアに当時世界最大を誇る図書館がありましたが、とある事件で焼失するということがありました。それをクレオパトラがみて、わざわざトルコのベルガモンから、当時世界第二位の規模を誇る図書館を巨費を投じてアレクサンドリアに無理やり移築させたのた何のためかというと、クレオパトラが図書館というものがあれば世界から優秀な人材が集まってくることを、そして集まってくると自然に地域が発展することを知っていたからに他なりません。

 

所属委員会のお知らせ

今期より、外務委員会、財務金融委員会、地方創生特別委員会に所属することになりました。よりよき地域、よりよき日本の創造を目指して参りたいと存じますので、関係者の皆様には引き続きご指導賜りますよう今後とも宜しくお願いします。

大野敬太郎