ガザ周辺:レッドアラートに人々は何を思うのか

※先に書いた農業の記事との関連から、ガザ周辺のキブツを訪問した時に投稿したFB記事を一部修正加筆してここに再掲します。

頻繁にロケット弾が飛んでくるガザ周辺のキブツ(自治会以上自治体以下)。「なんで住み続けるかって?いつか境界の向こうの人たちと友達になれるかもしれないという希望をもってるからよ」。40代と思われるキブツの女性が言った言葉が未だに脳裏に焼き付いてます。

「精神的に辛いかって?こっちではPTSDとは言わないのよ。単にトラウマって言うの。PTSDのPは後で悩むってことでしょ。こっちでは現在進行形なの。常に精神的不安を感じてるの。」

ガザはご存知の通りハマスが支配しいてイスラエルは完全撤退した地域。その周辺は未だにロケット弾が飛んでくる。そのキブツ(ガザから2km)では先々週ロケット弾が着弾したとか。

「レッドコードアラート(空襲警報)がなってから10秒でシェルターに逃げろって言われてるのよ。私の子供たち、いつもその辺で遊んでるけど、10秒で逃げれるわけないわよね」。

防弾仕様でやたらドアの重いランドクルーザーで訪問したガザ周辺は、東京よりも治安はいいのではないかとさえ思えるテルアビブやエルサレムに比べて、未だにというか遥かに緊張感が漂っていて、アイアンドームと言われる迎撃ミサイル基地で守られている。そのアイアンドームの施設を訪問したときのこと。

「私、実は2年前まではアメリカのカリフォルニアで高校生だったの。両親がイスラエル人で、だから軍人として国を守るためにここにいるの。」と語るのは、小柄で可愛らしい20歳の若い女性職業軍人。アイアンドームの現場指揮官で、ガザから飛んでくるミサイルを打ち落とすかどうかを判断する仕事とか。

いつも危険にさらされているにもかかわらず明るく振る舞う彼女に夢を聞くと「アメリカに戻って大学に進学すること」と。そう語った目は夢と希望で輝いてました。

一方で陸軍医として働く27歳の男性は「ガザからハマスが掘ったトンネルから向こうの兵士が時々でてくるのに対応するのが私の仕事。」と語る。いつか高学歴従軍者の彼らはいろんな国に派遣されて世の中のために貢献してくれるに違いない。

また、近所の病院を訪問した際、対応してくれたのは若い女性。「私、実は東日本大震災直後に軍の飛行機で日本に行って災害復旧活動に当たったんですよ」と。

ビンビンに心に刺さるものを感じたガザ周辺訪問でした。

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イスラエルの農業はなぜ成功しているのか

イスラエルのハイテクを使った農業の成功が取りざたされることがあります。イスラエルの農業を担うのはほとんどがキブツであって、その農業を語るのにキブツの存在を忘れることはできません。キブツに所属する人口は総人口の3%。その3%の人がGDP比で15%の生産を担っている。日本と比べるとはるかに高い生産性を誇るイスラエルの農業はどのようなものか、今日は書いてみたいと思います。

キブツ。農業協同組合とか集産共同組合とか訳され、よくコルホーズと比較されますが、実態はいまいち分かりにくい。表面的に言えば、自治会以上、自治体以下の集落。1つのキブツの構成人口は約100人から1000人程度で、全国に約200のキブツがあると言われています。そして、大きいところでは、保育所あり学校あり集会所ありでもちろん農場や工場、会社などがあります。

一旦キブツに所属すると全ての私有物はキブツに没収されます。そしてキブツから給料をもらい、キブツに国税以外の税も納めます。職は最近では農業だけではなく、あらゆる産業形態に多角化しているとのこと。例えば死海の塩を使ったブランド化された化粧品も元々はキブツで作られ始めたとか。

そこまで書くと、おそらくこれをお読みになっている方は、それってコルホーズとかソフホーズとか人民公社じゃないの?と思うと思います。私もそうでした。しかし、それらと決定的に違うのが、労働と報酬が分離されていること。そしてそれぞれ人の能力や必要に応じてやりとりされるということです。がんばれる人は頑張るし、子供がたくさんいて必要な人には報酬も多く払われる。

ただ、資本主義社会に住む我々にとって、本当にそうした半社会主義的システムが機能するのか不思議に思うところです。おそらく一言で言ってしまえば、非常に高い帰属意識によって成り立っていて、それはユダヤ人らしい土地への強い愛着と共助精神に支えられているものだと思います。だからこそ、キブツの規模が明示的に定められていなくても100から1000程度になる。これは内田樹さんが何かで指摘していた、父性的なシステムは手の届く範囲でしか機能しない、というものと通じるものがあり、助ける人が助けられる人を全く知らなかったら相助け合おうとは思わないということになるのだと思います。(ちなみにキブツの人口比3%は海水の塩分濃度と同じなのだとか)。

私が訪問したガザ周辺のキブツ(※)でお目にかかった40代の女性は、「キブツは大好きだし出て行こうなんて全く思わない」とおっしゃっていました。

このガザ周辺のキブツを訪問した際のFB投稿を別の記事として再掲しておきます。

キブツの所属者は、キブツの発展のために働く。こうしたバックグラウンドがあって、そこに大学やら研究機関が開発したハイテクが持ち込まれた時に初めて、ハイテクを使った高生産性農業が可能になっているのかもしれません。

いずれにせよ、当たり前ですが、ハイテク農業だからハイテクを導入したら栄えるという単純な問題ではなく、結局は人の心がどのように動くのかに尽きるのだと思います。

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ドイツと難民問題について

僅か7時間の滞在でしたがドイツのフランクフルトを訪問。ドイツ連邦上院議長兼(フランクフルト市のある)ヘッセン州首相のフォルカー・ブフィエ氏(H.E. Mr. Volker Bouffier, President of the Bundesrat)にお目にかかる幸運に恵まれ、また州首相府次官ヴァインマイスター氏と難民問題に関する議論、そしてメッツラー銀行パートナーのゲアハルト・ヴィースホイ氏とは、日独産業交流について議論して参りました。

まずヴィースホイ氏から。前外務副大臣でドイツに通暁されている城内実先生からご紹介頂いたのがきっかけで実現した会談で、同氏は日本滞在経験もあり奥様も日本人、安倍総理とも何度かお会いになられている大変な知日派で、日独の産業交流に尽力されている方です。私から現在の日本の経済の問題と取り組まなければならない課題を申し上げました。ずばり中小企業政策をマクロの観点にどうやって引き上げるのかが私の関心ごとであって、地方創生のツールでもあるRESASを紹介しつつ、サプライチェーンの再構築を海外も含めて地方や中小企業が本質的に取り組む必要があって現在進行形であることについて申し上げました。

ドイツ財界代表

ヴィースホイ氏からは最近は日本の中小企業の欧州中心とした海外進出をサポートされており、具体的な成功事例も交えて非常に示唆に富むお話を頂きました。話は難民問題にまで至り、ミクロの問題は多々あるものの、人道的観点はもちろんのこと、ドイツ国民にとってもマクロ経済の視点でみて財政出動による景気浮揚策とも言えるし人口減少対策とも言えるとして、非常に好意的に捉えているとのことでした。

続いて次官との会談。街中の雰囲気はどちらかというと懐疑的な雰囲気を感じますが、難民受入に対して地方政府はどのような戦略を持っているのかは非常に興味深いところでしたので、州首相府次官にその点をお伺いしました。

端的に言えば、リアルタイムで発生している短期間に大量の難民受入という現場対応と、EUの骨格まで変えてしまいかねない戦略対応対処は、やはり同時に扱うことは現実には困難なようで、「とにかくヘッセンにも3000人の泊まるとこがない人がいるんです」という次官の言葉が印象に残りました。現場では文化と宗教的問題が顕在化しつつあるようで、すんなりはいかない問題です。

一方で、日本に期待することはと伺ったところ、今の政策は高く評価しているし、そのまま続けて欲しい、特に日本のUNHCR支援強化について感謝しているとのお言葉。難民は、祖国に近いところで安心して暮らせる場所を確保するのが最大最上の支援なので、そうした支援が中長期的に最も重要だとおっしゃってました。

いろいろと考えさせられる問題です。

 

 

高速増殖炉もんじゅ

夢の発電とまで言われた高速増殖炉もんじゅが岐路に立たされています。暫く前からその研究開発推進の是非を巡り議論がありましたが、先般、原子力規制委員会から、運用体制見直しと廃止まで視野に入れたと思われる勧告が文部科学省に出されました。

以下、誤解を恐れずにわかりやすく単純に記述することにします。良い事と悪い事とを。

高速増殖炉もんじゅを簡単に説明すると、普通の原発(軽水炉)で出た核燃料のゴミ(放射性物質)を再処理して別の核施設(もんじゅ)で核分裂反応させると、ゴミはきれいになるし(高速炉)、やりようによっては入れた燃料以上の燃料が出来上がる(増殖炉)という、夢のような施設(ゴミと書きましたが資源になるということです)。しかも、普通の原発は水で冷却するから、漏れて蒸発してなくなればメルトダウンという恐ろしいことが起きますが、ナトリウムを冷却材にしているので、漏えいしても蒸発することもなく、危険性は軽水炉に比べて小さいというもの。

通常運転できるようになれば、研究者の人的知的ハブ化が進み、日本が研究の拠点になりうると言うメリットもあります。実際に昨年の政府の発出したエネルギー基本計画でも、「廃棄物の減容、有害度の低減、核不拡散関連技術の向上のための国際的な研究拠点と位置づける」としています。

海外の情勢は、アメリカは昔やろうとして断念、フランスは現在も増殖しない高速炉(ごみ処理施設)として推進、中国なども積極的姿勢をとっています。

で、問題点ですが、まずそもそもなんでずっと止まっているかというと、20年前に運用を開始した際に冷却ナトリウムの漏えいが見つかったり、点検に不備があったりと、なんだかんだでずっと止まっています。つまり運用がうまく行ってない。

原子力規制委員会が今回勧告をだしのは、これが直接的な原因です。運営主である原子力機構がちゃんと点検をやらないから。

更に問題なのが、金食い虫であること。建設に6000億円、累積運転費4000億円と、これまで既に1兆円使っている。で、止まってても年間運営費200億円(動けば売電収入が少し入ってきますが)。何に使ってるかというと、安全基準や点検など。

以上書いた上で整理すれば。

・成功すれば普通の原発の核燃料ゴミを処理してくれる。
・成功すれば核燃料調達の心配がなくなる(増殖すれば)。
・核廃棄物処理や核不拡散の国際的研究開発拠点になりうる。
・累積1兆円投資して、これからも年200億円かかる。
・更に実用化するまでには途方もない期間がかかる。

ということになり、その上で課題は、

・上記は本当に合理的論理的戦略的に正しい理解なのか。

という視点とともに、原子力規制委員会の指摘について、

・原子力機構の運用体制は真っ当なのか。

ということと、そもそも、

・原子力規制委員会の運用体制は真っ当なのか(指摘自体正しいのか)。

という視点も必要だと思います。規制委員会については必要以上の高コストを強いている可能性はないのか、ガバナンスはどのようなものなのか、という視点もあります。また、原子力機構の運用体制については、そもそも過去20年間ずっと停止していて、その間、問題点ばかりを指摘されてきた機関の関係者の士気は保たれたままなのか、という視点とともに、もんじゅは運用計画の時間スケールが極めて長い研究開発プロジェクトですが、果たして通常の運用マネージメントで問題ないのか、これだけの長期プロジェクトに関与する関係者の士気が保たれるのか、というところも関心事項です。

いずれにせよ、以上のポイントを押さえたうえで検討を行っていきたいと思います。

岡倉天心と日米関係の新しい価値の創造

中長期的観点から、日本から見た日米関係の新しい価値を早急に考えていかなければならないと強く思うに至っています。このことは少し近現代の歴史観に触れざるを得ないので少し長くなりますがお付き合いください。

大変恐縮ながら余談から入ると、先日、ASPENというシンクタンクでの議論で、岡倉天心の「東洋の理想」が話題になった。東洋の理想とは、ご存じのとおり、Asia is one(アジアは一つ)で始まる岡倉の東洋美術思想に関する論文。当時の日本では軍国主義的勢力によって大東亜共栄圏の思想的支柱として利用されたこともありましたが、何を言っている論文かと言うと、アジアのものの考え方は基本的に似ていて、西欧にあるような誰かが誰かを支配するのではなく、インドラの宝玉が縦横の宝網でつながってお互いに光り輝く様に、偶然と必然の中で原因と結果があってそれらが相互に関係しあっている、と考えるのがアジア人だというもの。

で、ASPENで議論になったのは、この文章はいったい誰宛に書かれたものなのか、ということ。で、インド人だと見立てると、なるほど理解できますね、ということになった。

インドと言えば申し上げるまでもなく元々イギリスの植民地。岡倉天心はそのことを憂い鼓舞したかったのかもしれません。論文発表の直後には日露戦争があって日本の勝利によって民族自決の運動が高まる。インドは第二次大戦では連合国として参戦したけれど、そういう歴史感から、日本に対しては好意的であったし、今でもそうあり続けています。戦後の極東軍事裁判でパール判事が唯一日本擁護の演説をしてくれ、世界で初めて日本の円借款を喜んで受け入れてくれ、現在でも驚くことにインド国会で広島原爆忌平和記念日に追悼式をやってくれている国です。

そんなインドには、麻生財務相もよくおっしゃるように、アンダマン・ニコバル諸島という戦略的に重要な諸島があります。マラッカ海峡をインド側に抜けた目の前に鎮座する諸島です。この領域を仮にISが占領したとしたらと考えるとシーレーンは完全に失われる。そういう歴史観と戦略観で言えばインドは間違いなく最も近い友人として我々は接しなければなりません。

このアンダマン諸島のことを考えたときに、もう一つ思い浮かべるのが、時代はさかのぼるものの、朝鮮戦争時代の台湾。アメリカにとって当時は戦略的に非常に重要な場所でした。なぜかと言えば、朝鮮戦争初期は共産勢力の北朝鮮があっという間に南下してきてプサンくらいしか残らなかった。日本でも左翼思想の過激グループは九州を独立させるべしという運動すらあったとのこと。そのときにアメリカは、朝鮮半島が共産勢力下に置かれることを恐れたし、日本は最後の砦だったはず。戦争に勝って占領していたのだから。そう考えれば台湾というのはシーレーン確保の要衝であったし戦後の食糧供給基地でもあったので重要というわけです。

いずれにせよ、そういう理由で経済的にも国際政治的にもアメリカは、戦後の特に朝鮮戦争時代以降は徹底的に日本を支援し日本に関係あるところを支援するようになる。日本が早々に先進国の仲間入りができたのは経済発展ですが、その背景にはアメリカの徹底的支援があった。対日感情の悪かった欧州勢の反対意見に対峙し日本を国際社会の一員に導きいれた。

徹底的に叩き潰された側の日本としてはなぜアメリカがそこまで支援をしたのかはこうした国際政治環境が分からなければ分からなかったのかもしれません。だとしても当時の普通の日本人にしてみればアメリカというのは全てにおいて優れた先進国。蛇口を捻ればお湯がでることに感動し、ほとんどの家庭に冷蔵庫がある。まさに憧れの国だったと今の70代80代の方はおっしゃいます。

こうした歴史観を持たない人が仮に現在の日本で政権についた場合、中国と同盟を組みましょうと言い始めるかもしれません。それは国際関係に劇的変化があれば別でしょうが明らかに間違いなのです。中国とは友好的に戦略的互恵関係を築く必要があるのは明らかですが、共通の価値観に基づく同盟というものでは少なくとも今はない。韓国が少し似たような失敗を犯しているようにも見えます。

国際関係というものは、おそらく歴史観に基づく国際戦略に則ったものでなければならない。問題は、国民の中で必ずしも歴史観を共有できないくらいに平和が続き、立ち位置も見えなくなってきた場合、政治が理屈としての国際政治学上の日米同盟の有用性を説いたところで国民に理解されなくなる可能性をどうすればよいのか、ということです。

現在の20代30代の日本人に現在のご年配世代が抱いていた様なアメリカへの憧れの感情はもはや高くはないのだと思います。今後、そうした世代が社会を代表するようになったときに、政治がいくら国際政治学上の日米同盟の有用性を説いたところで国民は理解してくれなくなるような気がします。国民はいったい日米関係にどのような価値を見つけていくべきなのか、誰にでも分かりやすい理屈以外の価値観それを見つけ出す必要があると強く思うに至っています。

TPP大筋合意

TPPが大筋合意となり結果が公表されました。今日は概要について触れておきたいと思います。

大きいところから申し上げれば、関税撤廃率は他国が99%以上なのに対し日本だけ95%。また農林水産品の関税非撤廃率は日本だけ突出して19%と高く、がんばったカナダでも5.9%、その他ペルー4%、メキシコ3.6%、米国1.2%で、残りは1%未満となっている。即時撤廃も他国平均で84.5%なのに日本だけ突出して低く51.3%。国際的視野からすれば(海外から見れば)日本はかなり頑張った交渉を行った(我儘言った)と言えます。

一方、自民党も国会も農産品重要5品目について国益を守るとした決議を行って参りました。関税を残すラインは5品目の関税項目が586ですが、結果は412。上記データから見れば明らかに守った率は高いのですが、ここは微妙なラインであって中身を精査しなければ分かりませんので下記に簡単に雑感を書いておきたいと思います。

米については800万トン程度国内で生産されているうち、最終的に7万トンの輸入枠設定ですから1%に満たない。少量でも価格に大きく影響するという生産者側の意見もありますがこれは注意深く見ていく必要があります。

麦については生産者保護の観点から従来の国家貿易制度は維持して枠外税率も維持となりました。一方で枠内については国別に輸入上限枠を設定(最終25.3万トン)した上でマークアップは45%削減でぎりぎり合意。半分でもカバーする振興策財源確保に努力すべきです。

牛肉については38.5%から最終9%まで削減していくことで合意。撤廃にこそなりませんでしたが、かなり譲歩したと当初思いました。しかしセーフガードも付いており、何よりも16年で30%強ですから年に約2%。更に輸出は例えば対アメリカだと当初から15年は現在の2~40倍の関税撤廃枠をまたそれ以降は完全無税得ることができているので差引で考えればあり得ないとは言えないと思います。

豚肉は現行の差額関税制度を維持して分岐点価格(524円/kg)も維持で合意。従価税は0%に(現行4.3%)。ただ重量税は482円/kgを10年で50円/kgに削減となりました。輸入価格が524円程度に誘導することは変わらずなのですが、安い肉の輸入が多くなるかどうかは動向に注目しなければなりません。セーフガードもありますが、振興策は拡充したいところです

以上総合すれば振興策等の拡充で対応できる範囲ではあると感じますので、冒頭申し上げた他国との撤廃率の差を考えればぎりぎりの交渉を行ったものと思います。今後、振興策財源確保は論を俟ちませんが、輸出の拡大を含めた環境整備に努めて参りたいと思います。

一方で、当然ですがTPPは上記で述べた物品市場アクセスだけではなく、物品以外のサービスなどの市場アクセスや、知的財産権、労働、政府調達、金融サービス、電子商取引、紛争解決、衛星植物検疫措置など、多くの課題について取り決められたものですから、これらは主に日本にとってプラスのもの。締約国同士が同じビジネス条件となるので、農産品も含めて進出のチャンスでもあり、またグローバルなサプライチェーンの構築によってビジネスチャンスが拡大するため、大いに期待できます。さらに言えばRCEPなど他の貿易協定の努力を怠ることはできません。

 

アメリカ上下両院議員との意見交換

党国際局の活動の一環で議会交流のため先月後半から今月冒頭までアメリカに出張して参りました。少し遅れましたが報告させていただきます。概要だけ申し上げれば、東アジアの外交安全保障環境の強化のために日米ができることは何かということを議論して参りました。特に日米韓・日米印・日米豪の3つの関係は非常に重要です。

さて、現在アメリカは大統領選で一色といっても過言ではありません。毎日のように各候補者の情勢をメディアは伝えています。

その意味で米国内情勢について初めに書いておきたいと思います。

議会多数派の共和党内の混乱、つまり茶会運動が推す保守強硬派についてですが、特に下院の混乱が続いています。現地に到着した瞬間、報道されていたのは、穏健調整型で知られ安倍総理の議会演説実現に一役買ってくれたことで知られるベイナー下院議長が辞任するとの発表でした。31人いる保守強硬派が党内で反対すると共和党が単独で議会過半数を確保できなくなり、民主党に利用されるという構図が基本的な問題ですが、歳出法案を巡りこの問題が露呈し、議長が辞任に追い込まれたとのこと。紆余曲折の結果、本日、党内強硬派のライアン議員が次期議長に立候補する方向との報道がでています。当選すれば、保守強硬派の主張がなお一層通りやすくなり、種々の政策に影響がでるものと思います。

例えば、中長期的視点での興味深い指摘が一つ。それは、不法移民の一部を合法化し市民権を付与する可能性に道を開く包括的移民制度。もともと民主党は移民政策に関心が高く共和党は低いというイメージがあり、現に6月に同法案に上院は否決の決定を下していますが、非白人系(ヒスパニック、アフリカ、アジア)の人口比率が徐々に高まっており、2050年には非白人比率が過半数を超えるという試算があります。従って共和党も何らかの方針を打ち立てなければならず、徐々に関心を示し始めているのが現状。だからこそ、移民制度について厳しい指摘を続けるトランプ候補に当惑する共和党幹部もいるとのことですが、保守強硬派が執行部に付くと逆向きバイアスがかかるかもしれません。

さて、今回の訪問で個別に意見交換をさせて頂いたのは以下の方々。

ホアキン・カストロ下院議員、ダイアン・ファインスタイン上院議員、ジョージ・ホールディング下院議員、ダナ・ローラバッカー下院議員、ジム・マクダーモット下院議員、テッド・リュー下院議員、上下両院外交委員会上級スタッフ、トム・シーファー元駐日大使、スティムソン研究所、マンスフィールド財団、笹川平和財団デニス・ブレア元国家情報情報長官他研究スタッフ、ブルッキングス研究所ソリス日本部長。

それぞれどのような意見を交わしたかには触れませんが、雑感から申し上げれば、今年のGWも昨年もワシントンを訪問していますが、日本に対する関心と関係者の信頼は格段に向上しているように感じます。

理由は、第一にはアベノミクス効果によるもの、第二にはアメリカが中国に対して急激に懐疑的になってきていること、第三には先般の安倍総理演説が総理個人と日本の右傾化に対する不信を完全に払しょくしていること、です。

現に、以前は何度も聞いた右傾化という言葉を今回の訪問では一度も聞かなかったので、第三のポイントは、日本人が何を思っているのかをアメリカ人が理解し始める大きなきっかけになったものと思います。第二のポイントでも、南シナ海での中国による活動(埋め立て)はアメリカでも大きく報道されており、国民の間でも不信感につながっています。第一のポイントについては、これから日本は内政において当面経済政策重視でいきますが正念場に来た感があります。

以上申し上げた上で、東アジアに日米韓印豪について触れたいと思います。日米印・日米豪は非常に良好な状態を続けていますが、問題は日米韓です。

最近になって、日中韓首脳会談が行われる方向になったので、韓国パク・クネ大統領も中国習金平主席も多少は譲歩し始めたと見れそうです。これは取りも直さず日米関係がなお一層強化されたためというのが多くの見方です。しかし相変わらず慰安婦などを取り上げることについては熱心であって予断は許されません。

アメリカ側にも多様な意見はありますが、流石に韓国はやりすぎだという声が大きくなっています。ただ、日本がそれに乗せられて、事を荒立てるべきかどうかについては、多様な意見があります。

いずれにせよ定期的な交流を通じて常時意見交換できる体制を自民党内に構築しておかなければなりません。所詮何事も人間がやることです。

【善然庵閑話】魔女狩りとJSミルの自由論

ふと、昔読んだ魔女狩りという確か岩波新書の本の事を思い出しました。その中に、セイラム魔女裁判の話が出てくるのですが、これはアーサー・ミラーの戯曲にもなっていて、それを題材にした映画にもなっています。ダニエル・デイ・ルイス主演のクルーシブルという映画です。

この映画の主要な登場人物は、村長で人望のある主人公のプロクターと、その家に奉公していた少女アビゲイル(ウィノナ・ライダー)。彼女がある日森の中で、友人達と意中の人に恋の魔法をかけるという他愛もない遊びを始めた。少し興奮しすぎたのが災いし、興奮で狂乱状態に陥った少女達をたまたま見かけた村人がいて、それをきっかけに、魔女が村にいるという噂が立ち始めた。それを良いことに、アビゲイルは神の代理人を名乗って気に入らない村人を魔女だと名指ししはじめ、村は魔女だらけになっていき、とうとう魔女裁判が始まる。

最後にはアビゲイルは村から逃げ出すのですが、プロクターも魔女と契約を交わしたのではないかと疑われ裁判にかけられる羽目に陥る。判事たちも薄々おかしいと気づき始め、プロクターを救うために、魔女と契約を交わしたことを認めれば命は救うと言う提案をしたものの、プロクターは結局、命よりもプライドを選択し、処刑されるという切ない映画です。

魔女だ、あるいは魔女と契約を交わした、と仮に村中から烙印を押されたら、どうやって無実を証明すればいいのか。仮に自分がその時代にプロクターであったら何ともしがたかったのではないかと思います。

政治は行き着くところ賛成するか反対するかという局面を迎えます。その決断は重要ですが、その決断をするにあたっての議論というプロセスも重要です。J.S.ミルは、その著書「自由論」の中で、政治的議論の中で最悪なのは、自身と反対の主張をする人を不道徳者と烙印を押すことだと言っています。アビゲイルには政治的主張は全くありませんが、やったことは烙印を押していき気に入らない者を抹殺していくことでした。

現代は法の上に成り立っている。魔女じゃないのに魔女だと主張されれば、なぜ魔女じゃないのかの理由を説明する努力が必要なのは論を俟ちませんが、聞いてもらえなければ始まらない。あるいは魔女かどうかを村人に真剣に精査してもらえなければ埒が明かない。手を挙げれば魔術だ、手を下げれば呪術だ、というのでは話が進まない。

本日、参議院平和安全特別委員会にて本国会最重要課題の平和安全法案が可決されました。委員長が議論は尽くされたと言っていました。国民の皆さんが尽くされたと思ったかどうかは分かりませんが、確かに国会内部にいて感じるのは、同じ質疑が永遠と続いていたことです。それはとりもなおさず、最初から烙印を押されているからであって、それでは審議は深まる筈はありません。

いずれにせよこれからもしっかりと真摯に丁寧に説明を続けて行きたいと思います。

安倍総裁再選:何をどうやり続けるか

自民党総裁選挙において安倍総理が再選され、経済重視路線を打ち出しました。歴代首相の中で安倍総理ほど海外から真の改革者として認識され期待されている人物は珍しいと言えます。海外から信頼され期待される日本を築いて行くことは、グローバル化した国際社会にあって経済的に非常に重要な課題です。さらに重要なことは、現在の日本の課題は、国家存続のシステムが機能不全を起こしていることにあります。地方経済の疲弊が東京一極集中を招き、構造的に人口が減少の一途をたどっていますが、このことが経済や社会保障に負の連鎖をもたらしていることに、どのように向き合うのかが政治に求められた最大の課題です。小手先の改革では克服できません。そして一時しのぎの改革では成し遂げられません。何をどうやるか、は最も大切ですが、特に危機の時代にはそれ以上に、それをどうやり続けるのか、も重要であることは歴史が証明しています。そういう意味で、安倍総理には引き続き総理総裁として、謙虚に真摯に大胆にご尽力頂きたいと思います。