
公正取引委員会が先日7月17日に「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」改定案に対する意見募集について」を公表しました。すなわち企業結合ガイドラインの改正にようやく着手したということです。党経済安全保障本部でも1年以上に亘って指摘していたことなので歓迎したいと思います。今日はそのことについて思うことを書き残しておきたいと思います。
企業結合ガイドラインと聞いてピンとくる人はそれほど多くないと思います。独禁法と聞けばピンとくるかもしれません。独禁法は経済憲法とも言われ、戦後に財閥が解体されて以降、市場経済への転換を通じて高度経済成長を遂げ、規制緩和とともにグローバル化してきた歴史のなかで、極めて大きな役割を果たしてきました。
その目的は、経済権力の集中を防ぎ、公正な競争を維持し、市場の活力を高めると共に、消費者利益を守ることにあります。まさに、経済憲法であり、経済のOSのようなものです。独禁法が対象とする行為は、私的独占(市場支配や競争排除など)、不当取引制限(価格協定や談合など)、不公正取引(抱き合わせ販売や優越的地位の乱用など)、企業結合規則(合併や買収ルール)などです。
今日、話題としている企業結合ガイドラインは、最後の企業結合規則の運用ルールです。
約1年半前から党の平場の議論で、何度か訴えてきたのが、独禁法という競争政策と経済安全保障政策の関係整理についてです。経済安全保障という概念は、自由な経済取引のうち、特に安全保障に関わる領域について、程度の差はあれども国の管理下に置く、ということである以上、完全に自由な取引環境を前提としていないわけで、その領域については競争政策としての独禁法は、一定程度の適用緩和が必要なのではないか、ということでした。
そこで1年ほど温めたアイディアを昨年7月11日に発出した「我が国造船業再生のための緊急提言」に盛り込んだところ、公正取引委員会においてどのような議論があったかまでは不明なものの、昨年11月20日に「経済安全保障に関連した事業者の取組における独占禁止法上の基本的な考え方」及び「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」が当局より発出されました。
画期的であってよくできた事例集ではありました。しかし、私の問題意識は、特定の事業や事業形態や取引を想定したものではなかったため、昨年末の12月16日に「新たな安全保障環境において求められる経済的措置に関する提言」において、事例集について評価をした上で、「それでも解決しない問題がある場合には、かかる問題に対処するため、関係するガイドライン等を含め、独禁法の運用又は制度の在り方を検討するべきである。」と指摘をしました。(概要2ページ及び本文9ページIII(4))
提言起草の段階で、企業結合ガイドラインの改正に踏み込むことに相当の難色を示されましたため、表現は「ガイドライン等」まで後退させました(実は平素からこういう細かい調整を行っています)。どのような難色であったのかと言うと、主に競争政策は国際社会の中で一国だけ突出して舵を切れるものではない、という至極当然のものではありました。ただ、繰り返し申し上げますと、私の問題意識は極めて一般論的・概念的なものであって、諸外国も当然のごとく経済安全保障に関わる領域については緩和の方向に舵を切らざるを得ないのだから、世界をリードする形で日本が改正を検討すべきではないのか、との思いでした。
実はこの提言を発出した後に知ったのですが、EU(欧州委員会)も同時期に企業結合ガイドラインの改定を目指していました。そして実際に、EUは企業結合ガイドラインの改正に踏み切ったのは、本年4月30日でした。どちらが先かというのは醜い争いに聞こえるかもしれませんが、国際平仄を定めるにあたって国際社会を主導することは極めて重要なことであって、経済安全保障の基本的考え方の3つの柱の一つになっているほどです。(戦略的自律性、戦略的不可欠性、国際ルール)。
恐らく当局としては、相手(EU)の出方を待ってからでないと、優位な方向性を出せないとの考え方であったのかもしれません。しかし、私どもとしては、常に他国の後塵を拝している状況では、国際政治的な立場が向上しないのではないかとの思いを持っています。
人のドレスを見てより良いものを着るか、ドレスの世界標準をリードするか、競争政策だけの話ではなく、日本と言う国が本物になれるかどうかの話であるように思っています。(余談ですが、この手の話になると、昔読んだ内田樹さんの「日本辺境論」ー日本は歴史が長い分だけ常に他国の動向を常に気にしながら自らの立ち位置を決める運命にある国だ、との趣旨の文庫本ーを思い出してしまいます)。