私の推しメシ

党機関紙の地元名産品宣伝コーナである「私の推しメシ」に拙文が掲載されましたのでお知らせします。こういう宣伝もしてますよ、ということで。

アメリカのスーパーに行くと、時折七面鳥が丸裸になって売られていますが、図体が大きいうえに生の丸裸は日本人にはなかなか手を出しにくいものです。そもそもアメリカ人がクリスマスなどのお祝い事で七面鳥を食べ始めたのは、ヨーロッパ人が移住してきたときに、それまでお祝いで食べてきた牛や豚の代わりに食べるようになったのだとか。ヨーロッパの食文化がアメリカに上陸して変化したということですが、それが今度は日本に上陸して再び変化を遂げます。そう、あのチキンで有名な某チェーン店によって。日本上陸は1970年。当時のキャッチコピーは「クリスマスにはケ○○ッ○―」でした。
しかし、わが地元の丸亀はもっとめざとい。ハリウッド映画に出てきたローストチキンをヒントに1953年から売り出したのが丸亀「骨付鳥」。今や「うどん」に次ぐ香川県の名物として、「骨付鳥」は社会的地位を築いています。
塩と胡椒とニンニクで下味付けされた鶏もも肉。かなり濃い味付けで、ビールが進む第一級のB級グルメといったところでしょうか。やみつきになるその味は、地元民をも何度もお店に足を運ばせる魅惑の味です。ヒナとオヤの2種類あり、歯ごたえの差を楽しむ向きには両方召し上がってもらいたい一品。是非、ご賞味ください。

令和初の総理施政方針演説

議員として、国家国民の為、想いをもって政策立案に携わることは、密かな誇りとやりがいを感じるものですが、それが実施され、国民の皆様にお届けでき、それを評価頂いたときは、それがピークに達します。一方で、その過程の通過点での楽しみの一つが総理施政方針演説です。立案に携わった政策の内容が、その中で触れられることは、静かな誇りとやりがいに繋がっています。

今日、第201回通常国会が開会されました。国民からの信頼を揺るがす事件があった後の国会開会であって、このこと自体は誠に遺憾です。どのような素晴らしい政策でも信頼あってこその政治ですから、それだけ余計に謙虚さと真摯さを大切にしなければなりません。一方で、令和初の通常国会となり、新しい時代を築いていく思いを新たに致しました。

総理施政方針演説の中で、携わった政策を含め個人的に着目した点を挙げておきます。是非お目通しいただければと思います。

■地方創生

  • 文化財の積極活用で観光地づくりを後押しする制度の積極推進。
  • 自家用車で有償運送サービスが可能となる規制緩和の実施。
  • 観光インフラ整備の積極推進。
  • 農産物輸出の積極推進(昨年はEUへの牛肉やコメの輸出が約3割増加、TPP諸国への乳製品輸出も2割増加、サツマイモ輸出は4割増加、中国への牛肉輸出は解禁)。
  • 農林水産業は3000億円を超える予算で生産基盤の強化や販路開拓を積極推進。
  • CSF(豚コレラ)対策を一層強化。
  • 地方移住起業支援。東京から地方に移住して起業・就業する場合に最大300万円支給する制度を、更に使いやすく(社会的事業推進)。
  • 「移住支援センター」を全国1000の市町村に設置。移住ニーズ掘り起こし。
  • 地方創生交付金1000億円。
  • 若者の地方移住と起業を応援。

■成長戦略:中小企業

  • 事業承継対応。個人保証二重取り(先代経営者と後継者の両方)を原則禁止。
  • 商工中金は2月から年間3万件2兆円の新規融資について個人保証原則撤廃。
  • 信用保証協会は4月から個人保証なしで後継者に融資保証。一部保証料ゼロ。
  • 下請け対策のため取引慣行の是正。
  • デジタル化対応のためデジタル取引透明化法を制定による取引慣行の是正。

■成長戦略:規制改革

  • 無人自動運転解禁によって中山間地域の移動手段を提供。
  • 自動制御ブレーキなどのサポートカー限定の免許制度新設。
  • ビッグデータ時代の匿名加工個人情報の利活用促進。
  • フィンテック時代の金融行政の刷新。
  • マイナンバーカードを来年度中に健康保険証として利用開始。
  • 行政手続きの電子化を2024年までに完了。

■成長戦略:イノベーション

  • 科学技術イノベーションについて未来を担う若手研究者に大胆投資。
  • 企業のベンチャー投資を税制支援し自前主義からの脱却。
  • 国の研究機関によるベンチャー出資の促進。
  • 5G・ポスト5G等通信基盤を予算と税制で後押し。
  • 量子技術についてイノベーション拠点の整備促進。
  • 宇宙政策。
  • Society5.0時代の教育(小中学生へのIT端末1人一台を4年以内に実現)。

■1億総活躍

  • 兼業副業の後押し。
  • 全世代型社会保障。厚生年金適用拡大と起業支援。
  • 高齢者の就業意欲拡大への対応。70才までの機会確保。
  • 年金受給開始の選択肢を75才まで拡大。在職老齢年金も見直し検討。
  • 医療保険については年齢ではなく能力に応じた負担へ見直し。窓口2割負担。
  • 昨年の幼児教育保育無償化に続き、4月から高等教育の無償化。私立も実質無償化。
  • 保育の受け皿の更なる整備(待機児童数は調査以来最少を実現)。
  • 妊娠出産子育ての切れ目ない支援。来年春までに子育て世代包括支援センターの設置。所得の低いひとり親世帯への支援拡大。希望出生率1.8の実現を目指す。

■その他、オリパラ、外交安保、憲法改正など

●第201回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0120shiseihoushin.html

中国の金融システムについて

中国は5年前あたりから人民元のデジタル化を検討し、昨年から実施に向けて本格的に動き出しました。そして昨秋には暗号法が制定され、今年に入り必要な標準化作業は順調に進んでいると発表しました。デジタル人民元が発表された際、巷では中国による通貨覇権をめぐっての人民元の国際化戦略ではないのか、という見方がありましたが、それは正しい見方なのか、また、暗号法はブロックチェーン技術を中核とした情報保全策の推進が主要目的だと思いますが、背景に別の意図があるるか、また金融の自由化を進めつつ不透明さも残る中国の金融市場ですが、その他にシャドーバンク部門の不透明な不良債権問題、金融危機の指摘など、今後はどのようになるのか、 今回は、中国の金融政策と通貨について触れて見たいと思います。結論から言えば、日本は中国の金融状況を丁寧に分析評価しつつ、世界への余波を避けるため中国が金融危機に陥らないよう協力できるところは協力し、また潜在成長力の高い中国の金融市場に積極的に関与する方向を目指しつつ、一方でデジタル円と暗号通信を含むデジタル情報保護の環境整備の検討に早急に着手すべきだということです。

中国のキャッシュレス事情

中国は、政府が主導しなくても、キャッシュレス化が進んでいる国の一つであることはご存知だと思います。主要都市に行くと、現金を扱っていない小売店が殆どで、最近でこそ外国人旅行者でもスマホ決済ができるようになりましたが、昨年までは外国人旅行者にとっては不便でさえありました。ここまでキャッシュレス化が進むのは、現金の信用性が低いからだという話も聞いたことがあります。あまりにキャッシュレス決済が進み過ぎて、中国人民銀行(中央銀行)が国家の唯一の公式決済手段である現金を扱うよう通達をだしたとの話も伺いました。

キャッシュレスやフィンテックの進展と通貨デジタル化

こういう状況でしたので、デジタル人民元の検討は中国当局にとっては自然な流れだったはずです。むしろ中央銀行は既に市場で進展しているデジタル化対応を行っていたわけで、デジタル人民元は国内対応の目的が専らであったのだと思います。通貨のデジタル化自体は、物理的な運用上の合理性もありますが、流通コストが極めて安いため、悪貨は良貨を駆逐するという言葉に理論的な裏付けを与えているグレシャムの法則にも示されている様に、通貨政策上の流通と信認の意味でも合理的なのだと思います。そういう意味では、スェーデンやカナダも導入の検討を表明していますし、各国の中央銀行も否定的ではない。むしろ逆に市場でデジタル化が進む中で、中央銀行のデジタル化対応の遅れによって、経済社会の成長の足を引っ張ることを懸念する声も大きい。

デジタル人民元は通貨覇権戦略か

一方で、デジタル人民元政策が国際社会にとって通貨覇権を巡った刺激的な国際化戦略として見られることもあるのは事実です。ただ、この見方は専門家の間では一般的ではありません。それは人民元自体の流通量が未だに世界の1%弱程度(日本円は10%程度)で、信認性も高いわけではなく、市場からは中国市場の透明性の問題が指摘されているからです。基軸通貨には程遠い。だからデジタル化しようが本国の制度改善を行わない限り国際戦略だとしても限界があると考えるのが普通だと思います。

例えばIMF(国際通貨基金)は、加盟国への補完的な準備資産としてSDR(特別引出権)という通貨バスケットを用意していますが、SDRに中国人民元が採用されたのは僅か4年前。金融政策の透明性が指摘されていたにもかかわらず採用したのは、もちろん経済的影響力もありますが、金融の自由化を積極的に進めていた中国を国際金融秩序に組み込むことが目的であったのだと思います。割当量は1%程度。その当時から一時は通貨流通量は増えましたが、逆に最近は下がっています。

では透明性とはなにかと言えば為替や資本移動の規制などです。中国の金融システムはつい最近までは非常に脆弱で、むしろ外国資本にむしり取られないよう保護することに懸命だったように見えますが、ここ数年で急速に自由化を進めています。しかし、それでも資本移動の自由は確保されていません。確保されないのは国家意思として確保していないのもありますが、そもそも金融政策の論理的帰結なのかもしれません。

金融自由化は成功するのかあるいは戦略的制限付き自由化なのか

金融の世界には金融のトリレンマという定説があります(マンデルフレミングという理論の拡張と言われています)。これは、資本移動の自由、安定為替相場、金融政策の自由度の3つは同時達成することはできないという定説です。中国は、この3つを同時に達成しようと努力しているように見えます。基本的には国内の金融政策の自由度を優先しますが、為替や資本移動の規制を適宜調整することで、絶妙に海外資本を取り入れ成長してきました。しかし、内外金利差と為替の相互作用が強まり、市場にとって政府の規制調整介入は予見性に欠けるものになっています。恐らく為替政策の根本方針を変えないといけないのではないかと思います。

例えば外貨準備高。中国は高い経済成長によって2014年くらいには4兆ドルというとてつもない額の外貨を積み上げていきましたが、経済の減速傾向が強まったことを背景に、2015年に基準金利を引き下げ金融緩和を実施します。すると内外金利差が縮小し元安圧力が高まったため、急激な資本流出を起こし始め元安が更に進行します。そこで政府は外貨を使って元を買い支えるのですが(中国は固定相場制ではなく管理フロート制をとっています)、その額はなんと1兆ドル。この状態で為替相場の安定を維持する能力が疑問視されはじめたため、2016年に政府は資本流出規制を強化します。これはメディアでも相当取り上げられたので覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、市場の透明性に対する疑問が呈されるようになりました。それ以降、資本流出は止まり、逆に株式や債券の対内投資規制が緩和されたため、収支は流入超過に戻っています。

いよいよデジタル人民元発行か、環境整備は進んでいるのか

Facebookが独自の暗号資産であるリブラを発表してから暫く経ちますが、G20から賛同を得られる状況には全くありません。国家が独占して持つ通貨発行主権を冒すばかりか既存の金融システムにとってリスクとなるからです。またマネーロンダリングの懸念がある。リブラは独自の通貨バスケット方式でFacebookとは独立して運用することが謳われていますが、各国の通貨当局としては金融システムに混乱を生じさせかねないとの見方をしているようです。

そうした中、恐らく今年中か遅くても来年までにはデジタル人民元が実際に発行されることになるのだと思います。確かに民間発行の暗号資産とは次元の異なるものであることは事実です。また冒頭示した暗号法は、デジタル化を推し進める中国にとっては極めて重要な位置づけになるのだと思います。暗号法の骨子は公表されていて、ざっくり言えば、暗号を国家機密情報に該当するコア暗号や普通暗号と、商用暗号に分けて、商用暗号については健全かつ秩序ある市場を創造しようというものです。

暗号法だけではなく、同じ昨年末には、中国人民銀行はブロックチェーン、AI、ビッグデータなど17分野の金融機関に関する標準化に着手することを宣言、今年初には標準化は進んでいることに言及しました。極めて独自のデジタル金融国家となっていくものと思われ、先行利益によって世界も追従せざるを得ない可能性もあります。

中国は量子技術に莫大な国家予算を投じて研究開発を進めていますが、こうしたコンセプトが裏にあるからなのだと思います。今でこそ量子通信技術は日本が先行、昨年末には日本政府は量子技術戦略を発表、今春にはメーカから製品も発売予定とのことですが、中国では量子通信の中継拠点を軍事施設に配し、主要拠点からは衛星量子通信を行うといいます。量子技術の研究開発を今後も積極的に進めていかなければならない理由はここにあります。

そもそも中国の金融システムはどのようなものなのか

ただ、デジタル化を進めたから全てが良くなるという問題ではありません。健全な金融システムが整っているかどうかが本質的な課題だということは既に述べました。そこで次に中国の金融システムについて触れておきたいと思います。中国の金融については、PHP新書から発売されている「中国金融の実力と日本の戦略」(柴田聡著)に詳しい。私のような素人でも分かりやすく解説してくれています。

中国は折に触れて過重債務やシャドーバンキングの話が話題にのぼりますが、実態はどうなっているのか。中国の金融システムは、銀行偏重で直接金融の比率が1割程度と言いますからバランスが悪いと言えば悪い。日本のバブル期も全く同様な状況でした。中国株式市場ができたのは1990年代です。そしてその市場の構成は、厳しい規制で外国資本が殆ど入っておらず、個人が9割弱、機関投資家が1割で一般法人は数%。その結果、相場が大きく乱高下することで知られ、投機の場になっている。今後は、外国資本の出資規制という岩板規制が段階的に撤廃されていますので、直接金融は健全化されていくものと思います。

一方で銀行は、先進主要国が低金利政策をとっている中で、外資規制と経済成長による抜群の環境にある市場で、いまだに3%程度のスプレッドを維持できていて、貸せば儲かる業界になっています。その結果、銀行資産規模は、GDP比で300%を優に超え、これは新興国の100%弱の3倍にもなっています。銀行の表面上の不良債権比率は1%台で日本と大して変わらず、BISのバーゼル規制にも参加しているどころか、それよりも高い自己資本比率を実現していたりします。また過剰債務については、数年前に国際社会から金融危機の可能性を指摘されてから債務を圧縮、現在ではクレジットGDPギャップはほとんど解消しています。ではなぜ昨年から金融危機が指摘されたり、地方銀行の破たんや取り付け騒ぎが話題に上っているのかというと、後述のシャドーバンク部門の膨張にあります。

他の金融セクターはどうなのか。たとえば生命保険市場は現在世界2位の巨大市場に成長していますが、1人当たりの保険料収入は日本の1割程度、またその内容も短期リターン型商品が殆どを占めていることから、質と量の両面での潜在成長力は極めて高い。損害保険も同様です。

特に注目されるのがフィンテックを成長の柱とした保険会社の成長です。昨年深センを訪れた時、高速道路上でたまたま事故渋滞に巻き込まれたのですが、お互いにスマホで事故状況を撮影している姿をバスの中から見て、何しているのかを尋ねたところ、最近提供開始した損保サービスだろう、スマホで撮影するだけで保険が下りる制度を使っているのではないか、という答えが返ってきて大変驚きました。後日、日本の損保会社もそうしたサービスを提供開始するという話を聞きました。

巷で噂のシャドーバンク問題と経済の減速傾向

いわゆるシャドーバンクというのは、名前が怪しいので最近ではノンバンク仲介と呼ぶのだそうですが、闇でも違法でもない非伝統的な銀行以外による信用仲介のことです。具体的には銀行や信託、保険会社などの金融機関によるファンドで、その規模は1600兆円(100兆元)にも達し、銀行セクターの預金残高の6割にも匹敵する額なのだそうです。特に急成長しているのはMMFで、それは2013年からサービスを開始している彼の有名なアリペイが、個人口座にチャージされた資金を自動的にMMFで運用するサービスを付与したことで急拡大したのだとか。MMFはそれ以降5年で13倍の120兆円に達しているのだそうです。

そのファンド資金は様々なルートを通じてインフラや不動産などの資金需要は旺盛だけれども脆弱なセクターに向かっています。何故なら銀行融資だと規制が厳しく旺盛な資金需要を満たせないためです。特に地方政府はインフラ需要にあてるために、ファンドの受け皿となる融資平台という特別目的会社(SPC)を設置しています。これが厄介で、例えば中国の全企業債務残高は昨年末で2100兆円(GDP比152%)でしたが、その3割がこのSPCよるものです。中国の貸出金利は大体5%程度なので、企業は年間に100兆円(GDP比7~8%)の返済を負担していることになり、この地方政府のSPCはその3割を担っていることになります。そしてこの地方のSPCが脆弱なインフラ系企業セクターに資金を供給し続け、経済の減速傾向と相まって不良債権が増えていると言われています。そしてこのSPCにぶら下がる地方銀行の取り付け騒ぎが話題になったりするのだと思います。

またシャドーバンクという資金ルートは複雑で統計も未整備であると言われています。実際にファンドへの流入額1600兆円と末端調達額総計800兆円に大きなギャップが生じています。規制官庁による監督手段も確立されていません。金融システムにとっての最大のリスクの一つだと言われています。そして国際金融システムのなかで中国の規模は到底無視できるものではなく、世界のリスクともなる可能性があります。慎重に協調しながらリスクを分析評価していく努力をしなければならないはずです。

以上見てきたように、中国の金融システムは、トリレンマ定説からくる当局の金融政策のジレンマと、経済減速傾向で鮮明になりつつあるシャドーバンクの不良債権問題で、未だ脆弱な構造になっています。金融危機が著しく高い状況にはありませんが、仮に生じれば、世界経済へのインパクトは計り知れません。バブル崩壊を経験した日本として、危機回避に協力できるところがあれば協力すべきです。発生しなければ、金融部門の潜在成長力は極めて高く、人口減少フェーズに入るころには公的年金制度の整備と相まって金融システムも相当整備されているはずです。そうした時代を迎える中国を隣国にもつ日本は、時代を見据えて各種環境整備を進めていくべきです。

米国イラン関係について

イランの国民的英雄とされるソレイマニ司令官が米国によって殺害されたことを機に、両国の関係が更に厳しいものとなりました。正面衝突を起こそうという意思は両国ともないはずで、現状は厳しいながらも比較的管理された状況と言えます。ただ、イランが関与するとされるテロ組織が米国に対して活動を活発化させる可能性もあり、その進展は予断を許さない状況でもあります。少なくとも両国の政治指導者にはいかなる状況になろうと慎重で理性的な判断をしてもらいたいと切に願います。国内の人気取りや面子だけのために武力に訴えるようなことは厳に謹んで頂きたいと思います。

この米国の行動に戦略はあるのか

そもそも米国のこの行動がどのような戦略に基づくものなのかがよくわからない。米側の発表によると、同司令官は、イエメンやシリア、またカルロス・ゴーンが逃げて行ったレバノンなどでの海外作戦を指導、多大な犠牲を出しており、これが殺害の理由としています。

確かにこの司令官はどうやらコッズ部隊というイランの海外秘密工作部隊を指揮、 米国とイスラエルに対する過激な言動を続けている海外テロ組織を支援・連携していたと言われています。例えばシリアでのシリア政府を支援しての反アサド派に対する大量殺戮、レバノンでのヒズボラを支援してのイスラエルに対するテロ攻撃、イエメンでのフーシ派を支援してのサウジアラビアに対するテロ攻撃、またIS掃討作戦後のイラクでのシーア派イラク民兵を支援してのスンニ派に対する苛烈な弾圧を指導していたと言われ、まさに悪魔ともいえる人物であったとの評価があります。

恐らくイランの海外活動が肯定されるべき要素は一つもなく、国際刑事裁判所が扱う国際人道法に該当する活動を行っていたものと判断できますが、ただしこれらは司令官の問題というより国家意思の問題でもあります。司令官殺害という米軍の行動自体にここで疑問を呈するつもりはありませんが、 しかしその後に起こり得る事態と対処可能性をどこまで考えていたのか、司令官殺害作戦の戦略的側面が良く分からない。

巷の噂で、同司令官は、国民人気の高さから、かなりの政治力を持つようになっていて、イランの最高指導者や首脳周辺から疎まれていたところがあり、利害が一致する米側と当初から綿密に想定されたシナリオ通りに殺害を実行したと言う説もありますが、こうした陰謀説は戦略論を論じる場合は9割引きにして聞くことにしています。

殺害を計画した時点に時計を戻すと、国民人気の高いと言われている司令官なので(実際はそれ以外の側面がある)、殺害計画を実行すればイランの国民感情を徹底的に煽る結果になるため、イランは”何か”を報復として実行するだろうと考えるのが普通です。であれば起こり得る事態で想定されるのは、1つは宣戦布告を伴った正面戦争です。が、これは国際政治力と国力差からするとイランにとっては可能性はゼロではないけど難しいはずです。歴史的にも同様の事態が生じたときにイランは無茶はしなかった。2つ目は、イランが比例原則に基づいて限定的な報復攻撃を実施してくることです。実際にこれが選択されましたが当初の想定より限定的であったと評価されるべきです。3つ目は、核開発を再開し米国と非対称だけどもタメを張る力を持つことです。既に2015年のイラン核合意を米国は否定していますので、今回の司令官殺害によってイランが核開発を本格的に進める可能性があるのは米国としては想定されているはずです。 そして実際に核開発に言及しました。

米国はイランによる限定報復攻撃に対する対抗措置として(本質的には核再開発に対するものも含めての対抗措置なはずですが)更なる経済制裁を加えましたが、これでイランが折れることは全くあり得ない話です。従って今後イランは核兵器開発をある程度のレベルまで進める可能性が高くと考えるのが普通です。その時点までは米国がどのような経済制裁を加えようともイランは交渉に出てくる可能性は低い。そうなるとキューバ危機の再来となります。果たして米国がこのレベルまで事態が進展することを想定しているのか疑問に思います。

こうなると継続的に緊張を伴うというコストを払いながら力によって牽制を続けていくことでバランスをとることになり、既存の国際秩序システムが望む状況にはまったくならない。

米国は国際協調主義に復帰するべきだ

もう一つの問題は、現在の米国に戦略レベルでの国際協調が殆ど見られず、単独行動が多いということです。確かに歴史上アメリカは単独主義をとることもあります。イラク戦争のときもブッシュ政権は国際協調によるデメリット(合意形成に時間がかかり作戦行動の障害になるなど)を嫌い米英など限られた有志連合で実力を行使しました。ただ、それは戦術レベルでの話であって戦略レベルでの話ではなく、また政権の特色として発露するような単独主義ではなかったはずです。

例えばイラン核合意は、それ自体素晴らしいものでもなんでもなく、イランの戦略的脅威レベルを下げるために国際社会が編み出した妥協の産物であって、若泉敬ではありませんが、まさに他策ナカリシヲ信ゼムト欲スというものなのですが、米国がこの合意に異を唱えるのであれば、少なくともそれが国際約束なのであればなお、国際的な再協議から始めるべきではなかったのかと思います。

国際秩序システムの弱体化

そもそも現在の国際秩序システムは、第二次大戦以降、冷戦や地域紛争などの困難を乗り越えて半世紀以上にわたって米国を中心に国際社会が構築してきたものです。ところが、中国の台頭とテクノロジーの進化によって既存の国際秩序の脆弱性が指摘され始めたため、新しい秩序の形を模索する必要がでてきた。

そうした背景があるなかで、米国では経済のグローバル化による国内格差問題が顕在化して自国主義傾向を強めていった。つまりトランプ政権が特異な政権というわけではなく、米国の社会環境が生んだ大統領だということなので、ポストトランプがトランプ的でない保証は何もありません。だからこそ自国主義が単独主義に繋がり国際秩序が弱体化しているのだとすれば、放置すると国際秩序は益々脆弱なものとなる構造にあります。そしてそれは自国主義国家にとっても自国の為にはならないはずです。であれば、自国主義でも国際協調主義に復帰すべきです。本来、国際社会の筆頭格の米国が新しい国際秩序を模索すべきなのです。

イランと米国の歴史

イランに話を戻します。そもそも米国とイランの関係悪化には長い歴史があり、しかもそれは国際社会の秩序が形成された過程と密接に関係しています。そこで、少しだけ両国間の歴史について触れておきたいと思います。

発端は第二次大戦前にさかのぼり、連合国とソ連の関係の中で生まれます。大戦開始から2年後の1941年、ドイツが独ソ不可侵条約を一方的に破棄してソ連に侵攻すると、独の拡大を抑止したい連合国はソ連と提携し支援を開始します。英国はソ連援助の補給線を確保するために、自国の石油企業が開発利権をもつイランに目を付け、レザー・シャーに圧力をかけますが、そもそもシャーは中立を宣言していた上、シャーが枢軸国寄りであり、さらにこの外交圧力がイラン国民感情を刺激し親独暴動まで起きたため、シャーは連合国の要求を拒否。そのため英ソは共同でイランに侵攻して占領します。結果的にレザー・シャーは亡命、息子(即位してレザー・シャー)に帝位を継がせます。

こうしてイランは独ソ戦期の連合国にとって対ソ援助の最重要拠点として英ソの占領下におかれ、イランは後に連合国の一員として対独宣戦布告を行うまでになります。が、戦後、どうなったかと言えば、英国は素直に撤退するものの、ソ連はヤルタ合意であった戦後6か月の期限を超えても駐留を続け、イラン国内の独立運動や近隣国の親ソ勢力を支援するなど徐々に影響力を拡大していきました。

こうしたソ連の拡大傾向は、イラン政策だけではなく戦後直後の原爆開発着手、東欧諸国の選挙不当介入による共産政権樹立、ダーダネルス海峡地域の使用を求めるトルコに圧力をかけたことなど、様々な分野で見られ、これらがソ連にとっての自国防衛策であったとしても、連合国のソ連に対する不信が強まったのは事実で、その結果、ジョージ・ケナンの封じ込め論に代表されるように米国の対ソ戦略が協調から拡大抑止に転換していきました。その後、ソ連はイランから撤退することになりますが、このあたりから、中東は米ソ冷戦構造の狭間の中で翻弄されることになります。

当時の米国の基本戦略は、植民地地域に自治権と独立を付与することで、現地ナショナリズムとの協力を保ちつつ、影響力を維持することで、広い意味で西側に組み入れる方針でした。一言で言えば同盟網によって対ソ勢力拡大を図るということです。そうした背景で、いざとなれば秘密工作も多用したのが米国です。

特にアイゼンハワー大統領は対ソ戦包囲網の構築にCIAを多用したことで知られ、イラン政策は典型例となりました。イランの石油は当時も引き続き英のアングロ・イラニアン石油会社が独占していましたが、1951年に着任したモサデク首相はこれを不服としてレザー・シャーの反対を押し切り石油会社を国営化。米国はモサデクがソ連共産党と接近していると見てCIA工作で政権を崩壊させました。以降、亡命先から帰国したシャーは米支援の下、苛烈な独裁体制のもとでの世俗主義的な近代化を目指していきます。

ところがその結果、国内で強い反発が起きシャーは国外追放され、そのかわりに亡命中であったイスラム原理主義者であるシーア派のホメイニ氏が帰国して、1979年にイラン革命でイランイスラム国家樹立を宣言します。イスラム法(シャリーア)に基づくイスラム主義の台頭です。このイラン革命は同地域の冷戦構造に複雑微妙な影を落とし始めます。

というのも、このイラン革命で米国はイランという同盟国を失ったことになりますが、その結果、ソ連は米国が近隣他国のアフガンに介入してくるのではないかと恐れた。そのころソ連は自国防衛の為の干渉領域として隣接するアフガンに親ソ政権を樹立したいと考えていて、ソ連に近い革命勢力であるPDPAを使ってクーデターを起こさせます。しかしPDPAの急進的な改革でアフガン国民の間で不満が瞬く間に広がり、それに加えてイラン革命の影響もあって、イスラム主義者のムジャヒディーンによる反政府活動と内戦に発展しました。PDPAのタラキ首相はソ連に援助を求めますがソ連は当初介入には慎重でした。そうしているうちに、米側に近い首相補佐官アミンによるクーデターがおきたため、ソ連は米国の本格介入を恐れ一気にアフガンに侵攻することになります。

更にその結果、米はソ連のアフガン侵攻を中東支配と西側への石油ルートの寸断と受け止め、軍事費増加、ソ連への禁輸措置、モスクワ五輪のボイコットを行うに至り、新冷戦構造が深刻な状況になりました。特にレーガン政権は、ソ連を“悪の枢軸“とし、それまで核抑止戦略(MAD戦略)を精神錯乱だと断定し、核廃絶に向けて交渉を有利にするためとして核軍拡路線を突っ走りました。当然ながらソ連はレーガンのレトリックに大反対し、アンドロポフ政権は、レーガンの核軍拡は先制核攻撃を意図したものだと考え核拡大に走ります。

イラン革命は米国の安全保障を揺るがす極めて大きな歴史的転換点であったと言えます。そして同年、反米感情が高まったイラン国民が在イランアメリカ大使館を占領するという有名な事件が発生しますが、ここから両国は現在に至るまで国交を断絶しており、両国互いに敵対する関係が続いています。例えば後のレーガン大統領はイランをテロ支援国家と指定、これは現在まで続いていますし、その直後に米海軍はイランがペルシャ湾に機雷を埋設した報復として直接イランを攻撃、また同年米海軍がイラン航空機を誤って撃墜する事件が発生しています。司令官殺害事件の直後、ウクライナ航空機が撃墜され、一時騒然としてましたが、後にイランは誤って撃墜したことを認め、イラン政府はイラン国民から猛烈な抗議にあっています。当初、イランがそのことを認めなかったのは、この米海軍によるイラン航空機撃墜の歴史があるからなのだと思います。

海上自衛隊の中東派遣は問題ないのか

中東は複雑です。日本が直ぐに何かできるほど生易しいものではありません。そして現在緊張関係が高まっているのは事実です。

先日、計画に従って日本政府は海上自衛隊を情報収集の目的で中東派遣する命令を発出しました。これについて国民世論は完全に二分しており、野党は反対しています。しかし日本の生命線である原油は引き続き中東に頼っています。それは日本の船舶が頻繁に中東からマラッカ海峡を通って日本に航行していることを意味しています。緊張が高まっているからこそ情報収集の船を出すというのは、むしろ自然だと思います。

もちろん海上自衛隊の行動は日本の法律で厳しく制限されています。だから現場の自衛官に過大な負担を課すことになるとの主張もあります。しかし、政治視点からすれば、中東派遣の任務はあくまで情報収集なのであって、何かの事態が起きれば当面の対処として別の命令を出すこともあり得ますが、それ以上の事態が生じたら撤収することを旨としておかなければなりません。であれば、 必ずしも公表する必要はありませんが、 何がミッションの目的なのか、どういう状態になれば目的達成として撤収するのか、時限措置なのか、どういう事態が生じたら撤収するのか、などを明確にしておかなければなりません。

またそもそもこうした新たな任務にアセットを出せる十分な余裕が海上自衛隊にあるわけではありません。今後北朝鮮情勢が進展すれば、運用上の支障がでないとも限らない。 であれば戦略論としてリソース配分を考えておくことも必要なのだと思います。

新年のご挨拶

子年の新しい年を迎えました。謹んで新春のお慶びを申し上げます。皆様方には、公私にわたり一方ならぬご厚情を賜り、心から感謝申し上げる次第です。子年は、新しい運気の始まりにあって、成長に向かって種子が膨らみ始める時期を表し、また、鼠は大黒天の使徒で吉兆を知らせる大変めでたいものとされています。もし幸運の年なのであれば、それだけ余計に運任せにするのでなく、それを掴み取る努力が必要です。そして新鮮で前向きな気持ちで今年をスタートしたいものです。

ネズミで思い出すのはダニエル・キイスの「アルジャーノンに花束を」です。脳手術によって知能を回復していく知的障害を持つ主人公チャーリーが、同じ脳手術の動物実験によって心と知能のバランスを崩して寿命を迎える鼠のアルジャーノンを前に、自分の行く末に悩み苦しみながら、アルジャーノンの死を悼み、心配りをする作品です。知性は人間を豊かにする筈なのに、愛を知らず情が欠落したままだと、その知性は独善的な正義感や自尊心となり、孤独や焦燥に至るのだということを主人公は悟ります。

夏目漱石の、情に掉させば流され意地を通せば窮屈だ、という意地と言うのはまさに独善的正義であって社会は許容しません。では独善的ではない正義とは何かが問題になります。例えば社会保障給付を行うにあたって障害者を定義することは社会的な正義なのかという問題があります。定義は区別を生みだすからです。しかし本来、正義を持ち出さずとも、相互理解と信頼という情があれば制度は成立するはずですし、それは人間が不断の努力によって紡いでいくべきものです。

新しい時代を切り拓こうとすると、こうした本質的な議論を避けられません。こういう時代にこそ、現実対処力とともに、そもそも論が必要です。それを通じてこそ、バラバラなそもそも論が集約されて信頼が醸成され、社会に継続力が生まれるのだと思います。今年は、新しい時代を切り拓いていくために、粉骨砕身努力していきたいと思います。

本年が皆様方にとりまして幸多き年になりますようご祈念申し上げます。

携帯WEBのご案内

改めて携帯用のホームページを作成いたしましたので、ご案内申し上げます。

最近のホームページは、PCからでもスマホからでも閲覧デバイスによって表示を最適化する所謂レスポンシブデザインが主流なので、改めてご案内申し上げるのも恥ずかしいことではありますが、当選直後から整備しようと思いながら現在に至っておりました。

使い勝手や見たいコンテンツなど、ご意見をお寄せ頂ければ大変幸甚です。どうぞよろしくお願いいたします。

https://keitaro-ohno.com

年末ご挨拶

年末まで数時間となりました。改めて本年も皆様にはひとかたならぬご厚情を賜りましたことを心から感謝申し上げます。

今年を振り返りますと、何よりも台風災害で甚大な被害が発生し、多くの方々が被災されました。改めてお見舞いを申し上げます。発生直後は多くの電柱が倒壊し停電が長時間続くという事態が発生しました。ブルーシートを家屋に被せて雨風をしのぐ方々もいらっしゃいました。日本の防災能力を向上させる必要性を日本中の方々が実感した年ではないでしょうか。また、京都アニメーションでの残忍な放火事件がありましたが、こうした事件が後を絶たないことは残念でなりません。事前防止として何かできることはないのか考えさせられました。

また、政界では年末差し迫る時期に、IR事件という誠に昭和的な汚職が明るみになりました。まだ検察側の主張をマスコミを通じて聞いているだけで、結論は司法の判断を待たざるをえませんが、政治の信頼という私が最も大切にしていることがらを失墜させたのは事実であろうと思います。誠に遺憾でなりません。思えば年初から、統計問題などがつづき、昨年に引き続き、政府の信頼性が傷つけられました。それぞれの問題は、課題も原因も全く異なり、十把一絡げには断じることはできませんが、多くの国民には不信感が残っているのではないかと思います。それだから余計に、身を引き締めて、謙虚さと真摯さを肝に銘じる必要があるのだと思います。

一方で明るい話題も多くありました。何といっても、元号が令和になったことです。心機一転を図るにこれ以上のことはありません。時代が変わったことで、改めて、令和の時代にしていかなければいけないという能動的な感覚を大事にしていきたいと思います。また、現職の安倍晋三総理が歴代在職最長となりました。歴史の中で生きている重みを感じるできごとでした。

また、ブラックホールの撮影という世紀の大成功を日本の天文チームがおさめてくれたり、惑星探査機の「はやぶさ2」が史上初めて小惑星「リュウグウ」への着陸に成功し帰路についたりと、日本の科学技術力を感じました。科学技術イノベーション政策に従事している手前、日本のそうした底力に黄色信号がともっていることを十分に認識しているので、改めてひと時の安堵を与えてくれました。それと同時に、もうこれが最後になってしまうかもという焦燥感にもかられ、来年からの活動の原動力にしていきたいとも思っています。

国際関係に目を移すと、年初から、中国が人類史上初めて月面の裏側に無人機を送り込み、香港では大規模デモは発生し、また中距離核戦力全廃条約が失効、米中貿易戦争が一進一退の攻防を繰り返し、日韓の問題が改めて大きくクローズアップされました。戦後、国際社会が築いてきた安定と繁栄が揺らいでいることを改めて今年も実感することになりました。

一方で、今年はG20で日本が議長国として世界の平和と繁栄に資する提言を発することができたのは大きな一歩であったと思います。思えば、ここ数年、主要国では内政の不安定化により、国際政治問題では日本が頼られることが多くなってきました。これまで、経済1流政治は3流などと揶揄されたりした日本ですが、もっとも信頼されるリーダーが日本の首相であるという海外主要紙のアンケートを見たときに、大きく時代が変わったものだと思いました。

以上のように多くのことがありましたが、来年が皆様にとりまして、よい年になりますよう、こころからご祈念申し上げます。

量子技術を巡る熾烈な国際競争

量子という言葉を最近よく聞くようになりました。新聞紙面上を賑わす機会が多くなったからですが、何ができるのかを明確にイメージしている人は少ないのかもしれません。なぜならば、量子って言われても良くわからないから。そう、かくいう私も量子はよくわからない。でも、まったく恐れることはないと思っています。例えば半導体の原理を知っているかと言われると、必ずしもそうでもないのに、恩恵は十分に受けているからです。

政治にとってより重要なことは、量子が将来、大きな社会的インパクトを生むことが明らかなことを認識したうえで、国として何を為すべきかという戦略的視点を持つことだと思います。アメリカ、欧州、中国では、政府が国家戦略事項に位置づけ、莫大な予算を投じています。特にアメリカで決定的なのは、民間企業が、びっくりするほどの投資を量子技術の分野に行っていることです。

社会的インパクト?

例えば、量子技術を使った量子暗号通信で、絶対に破られない安全な通信が可能になります。ゲノム解析技術が発達した現在、医療機関の通信の安全は必須でしょうし、金融業界にとってもネット利用が不可欠になりますので、通信の安全が最重要課題になります。国家の安全保障や外交の分野でも必要不可欠な基盤となるはずです。

また、量子センサーを使って、今までは不可能だった計測が可能になります。量子技術を使った高性能な医療検査機器によって、簡単に病気が見つかったり予防できたりするようになるはずです。モビリティーなどに革命を起こすことになるはずです。また、現時点で予想もつかない量子技術を使った材料が開発される可能性もあります。

またもっと将来には、既存の計算速度を圧倒的に凌駕する高性能コンピュータが登場し、人工知能の性能が格段に向上し、現在より遥かに多様なビッグデータ解析が可能になるはずです。逆に言えば現行方式の暗号通信はかなりの確率で破られることになりますので、冒頭述べた量子暗号通信は必須になってきます。

いつごろの話なのか。

実用化に向けた進捗という意味では、技術領域によって格段の差があります。量子暗号通信については、来年にはメーカーが製品化することを予定しており、量子暗号通信方法に関する国際標準も取得しているため、実用レベルに近いと言えます。量子センサーも、例えば医療機器や高性能ジャイロなど、実用化の目途は立っていない者の一歩手前のレベルに到達しているものがあります。量子コンピュータは総じていえば、まだ実用化のレベルには達していません。もちろん、既にカナダの会社が日本の基礎技術を使って製品化したものもありますし、Googleが量子コンピュータの優位性を実証する実験を行って世間を驚かせましたので、着実に進化しているのは事実ですが、実用化には課題が多いのだと思います。

日本は何をしているのか~量子技術イノベーション戦略の策定について

研究開発はこれまでも粛々と続けてきましたが、いよいよ量子戦略と中長期計画を立てる時期に差し掛かっています。戦略は、ざっくりと言えば、Society5.0という社会のあるべき姿を意識しつつ量子技術の担える領域を定め、国際協調すべきは協調し、競争すべきは競争する、という考えに基づいてターゲティングを行い、かつそれらのターゲットについて、何を為すべきかをバックキャストして大まかなスケジュールを定め、そのため直近で必要な措置を講じる計画を立てる必要があります。政府は既にその中間報告を行っています。そして間もなく量子技術イノベーション戦略が発表される予定です。

ただ、私自身は、最大の課題は、社会が未来を見据えて積極投資を行うかどうかだと思っています。思えば、例えば宇宙産業も、日本は官による調達が基調になっていますが、アメリカなどは民間投資が遥かに大きい。官だけ頑張ってもインパクトはそれほど大きくない。官1民3くらいの割合で、未来を切り開いていく必要があるのだと思います。

例えば金融セクター。アメリカのウォール街近郊に、量子暗号通信を使ったベンチャー企業が誕生しているようです。金融界はデータビジネスとの連携が不可欠な世界になっていますが、データセンターは必要不可欠です。その通信の秘密が脅かされる時代がくるのだとしたら、暗号通信技術は必要不可欠です。そのベンチャーはおそらく金融セクターの投資によって立ち上がったのだと思います。官民で未来を築いていくような社会にできたらと思います。

豊かさとは〜例えば古民家再生

日本がこれまで求めてきた豊かさの概念を、多少でも軌道修正する時期に差し掛かっているのではないかと思っています。豊かさは、もちろん経済的側面が基本軸になりますが、GDPなどに代表されるフローの経済のみを追求するのではなく、地方に眠る伝統や文化も含めたストック価値を見つめなおし、それをフロー経済に価値転換しつつ、ストック価値を高めていく循環も必要です。特に、そのストック価値の向上が、社会的課題の解決に繋がる場合に、社会の豊かさは極大化されるのだと思います。

古民家はその典型例です。その再生と利活用によって、多くの社会的課題の解決が可能になります。空き家問題、環境問題、森林環境維持、観光を含めた交流人口や地方移住者の増加、雇用創出や職人技術継承などが直接的な例ですが、日本人の生きる価値を構造的に豊かにする力も持っているはずです。例えば日本の近代住宅は寿命が短く、政府が採ってきた経済対策としての新築誘導政策も相俟って、マクロで見れば日本人の大半は住宅ローンの為に働いている様な状況が続いていて、若者の人生設計に多大な負担を強いていますが、古民家再生による長寿命化で、より豊かな生活を送れるはずです。

そうした中で、例えば古民家再生協会など民間の力で古民家再生や利活用のムーブメントが生まれているのみならず、人材育成や再生支援などの具体的な環境も整いつつあり、また、フロー価値への転換手段として、古民家ツーリズムなどの新しい流れも生み出されています。後段は特に重要です。古民家の店舗や宿泊施設というだけではなく、うどん作りや農業などの体験型という付加価値もついた宿泊施設とするなど、地域特有の産物とのコラボレーションと体験型などの付加価値により、地域全体が活性化する構造も生まれています。

成功事例を見ると、地域の関係者の理解が得られているかが重要だということに気づきます。場合によっては、地域の関係者自らが事業に共同出資して責任を分担し、全員が事業に積極的に関与しています。そうしたモデルは強い推進力を保っていますし、逆に言えば、それを可能にしているのは、事業運営の透明性とガバナンスの確保です。もちろん、運営する者の人的資質や人脈も重要ですが、最近では、現役時代に社会の第一線で活躍していたような元気で優秀なアクティブシニアや若者が、社会に貢献したいとの思いから社会的事業家として活動するケースが多くなりました。非常に頼もしい存在です。政治や行政はそうした活動に対して、補助金だけではない側方支援ツールを確立すべきです。

地域にとって誰かがやってくれる古民家再生ではなく、地域自らが積極的に取り組める環境を創っていくことこそが、重要なのだと思います。

以上は、古民家再生を中心に触れましたが、他の価値創造にも当てはまることだと思います。こうした分野を少しでも増やせられるように、これからも積極的に取り組んで行きたいと思います。

※本文は、古民家再生協会「ジャパトラ」に寄稿した文章「地域に新しい価値を創造する古民家」を加筆訂正して掲載しております。

フェイクニュースの脅威:民主主義の脆弱性

(Photo: Disinformationに関する国際会議にて)

今、巷で話題のDisinformation(以下DIと略します)とかFakeNewsについて触れておきたいと思います。Disinformationというのは、いわゆるフェイクニュースと同義ですが、フェイクニュースよりも広い意味で使われ、定義としては、意図的に人や組織に害を及ぼす偽情報です。

いま、世界中の民主国家で、このことが大きな課題となっています。なぜかというと、意図的に他国の国政選挙に影響を及ぼす目的で偽情報をSNSなどを通じて送り込むようなことが可能になっているからです。技術の進化によってもたらされた新たな脅威であって武力紛争のきっかけになったりします。民主主義の脆弱性をつくものとも言えます。

例えば、EUでも対策の方針が出されていますし、UNESCOのホームページには、ジャーナリズムのためのDI対策のハンドブックが取り上げられています。英語ですが、最近は簡単にWEBブラウザで翻訳を見れますので、参考までに添付しておきます。

en.unesco.org/fightfakenews

2014年、ロシアがクリミアを併合したクリミア危機が発生しましたが、この事件はパラダイムシフトともいえる事件でした。戦争のやり方を変えた事件として歴史に刻まれるはずです。ロシアはDIを含むサイバー攻撃をウクライナのクリミア地方にしかけ、状況を有利にしたうえで作戦を実行したと言われます。

http://www.businessinsider.jp/post-34327

台湾も中国からのDI攻撃に晒されているとされています。そして外相自らも、「台湾は中国のDI作戦の最前線にいる」と表明しています。

台湾で最も有名な中国によるDIは、日本で台風災害が発生した時の関西空港の事故がベースになっています。当時、関西空港は連絡道路が寸断され、空港に大勢の旅行客が取り残されましたが、もちろん国籍に関係なく日本の当局によって救助されています。

ところが、台湾では、「中国大使館はバスを15台も派遣して中国人を救ったが、台湾事務所は対応が遅れ大勢の台湾人が避難できなかった。それを気に病んだ台湾の外交官が自殺した」「中国大使館のバスは台湾人であっても中国籍と言えば載せてもらえた」などという趣旨のDIが拡散され、台湾政府は国民から大きな非難を浴びた。そのほか、「バナナ価格が豊作で暴落し農家が大量破棄をしているが、政府はその報道を禁止した」とか、「台風被害の際に現地視察に向かった総統は、発砲準備を事前に軍に指示していた」というDIが拡散された。台湾政府が公式に発表したもので、こうしたDIのネット上のルーツは中国からのアクセスであったとし、あらゆる対策に乗り出しています。

参考:2018.10.4読売新聞「偽ニュース台湾同様」など

ただ、こうしたDIによる脅威は何も台湾だけではなく、欧州も冒頭に触れたようにロシアからのDI攻撃に敏感で、検討を重ねています。以下に各国のDIの事例や各国の対策がうまくまとめられていますので添付します。

http://www.soumu.go.jp/main_content/000621621.pdf

日本はどうすればよいのか。先日、関連する国際会議に参加した際に、他のASEAN諸国からの参加者から投げかけられた言葉がいまだに胸に刺さっています。「日本は静かだからね」。しかし、日本も対岸の火事として傍観している場合ではないのだと思います。一つの理由として、日本のサイバー攻撃対処の方針のなかで、この分野(国民の意識や判断を歪めるもの)の取り組みが極めて弱いと感じるからです。具体的にデータを盗まれたり改ざんされたり、違法に機器を操作されたりする、我々が想像するサイバーアタックよりも、かなりたちが悪く、社会的なインパクトが大きいのだと思います。

まず基本的なところからですが、当たり前ですが言論の自由・報道の自由が侵されてはなりません。なので、政府による直接の規制とか事実認定とか、そういう方向の議論は望ましくないと思います。

では何ができるのか。少しだけ余談から入ります。政治が直接口をはさむ問題ではありませんが、クオリティペーパー(ちゃんとした新聞社)がちゃんとしてくれていれば問題はかなり防げるはず。日本が他国と大きく異なるのはクオリティメディアの国民からの信頼性が極めて高い(6〜70%)。米国や台湾は20%前後です。もちろん高いから良いということではないのですが、特にDI対策の分野では、クオリティメディアがちゃんとしていて信頼性が高いならば、まだまだDIに頑健な環境を維持できるはずです。

ただ、残念ながら報道の質の低下が最近著しい(裏付けの乏しい記事が多い)。これは、恐らく、インターネット普及によって財政基盤が脅かされていることも大きな原因だと思います。読者も見透かしているのか、新聞は偏向していると感じる日本人の比率は3年前に比べて30%→47%、正確だと感じる日本人の比率は39%→25%と激変している(日本新聞協会調べ)。その結果かどうか、昨年だけで200万部も発行部数が減っています。私自身このことに危機を感じます。

イギリスやオーストラリアでは、クオリティペーパは民主主義の根幹であるという認識のもと、政府として支援するべきか否かなどの議論がなされているそうです。私自身は、政府が支援すべきとは微塵も思っていません。クオリティーメディアは、新しいビジネスモデルの構築が遅いと感じています。

本題に戻りますと、基本的なDI対策に関する私のスタンスとしては、政府は余計なことをせず民間を促す、ただし安全保障は例外、というものです。その上で、第一に、オンラインプラットフォーマにDI対策として透明性と説明責任や信頼性強化などに取り組んでもらうにはどうすればいいのか、第二に、情報に接するユーザや情報を収集し加工伝搬するジャーナリズムのエンパワーをどう考えるのか、メディアリテラシー教育ももっと進めるべきではないのか、第三に、政府でもジャーナリズムでもない第三者としてのファクトチェック機関をどのように促せるのか、3点だと思います。特に第三番目は、世界各国では多くの機関が立ち上がっているのに、日本ではたった1つだそうです。国家危機的状況になった実例が多くないためかもしれません。