コロナ動的オペレーション

(写真:連日連夜コロナ対策に全力を尽くす職員達)

事実上の第二波が到来しています。医療体制も地域によってはひっ迫しています。医療提供体制を確保することが最重要課題です。従って、そうした地域では、公衆衛生学的介入を直ちに行うべきで、判断基準となるデータセットとともに、どのような状況でどのような介入を行うべきなのか、整理して都道府県知事に提供するよう、提案しています。すなわち、地域ごとのスポット的な動的介入オペレーションの提言です。もっとも各地域で独自の介入を実施し始めたのはご承知のとおりです。

その際、何も県下全域に同程度の介入を行う必要はないということです。例えば地方から見ると東京は全域が危険水域に感じますが、実際の患者数のデータを見ると、特定の地域に集中しています。従って、スポット的に介入を時間軸のなかで動的に発出していくオペレーションが効果的なはずです。

どのような条件で介入を行うべきか。第一に介入の状況です。医療余裕が基本となります。患者数が今後どの程度増えていくかは基本的には実効再生産数によって予測することができます(現実問題としては、実効再生産数は1週間移動平均をとる場合が多く対処が遅れる可能性が高いので、参考にしながら入院患者数の予想をする方が現実的だと思います)。その予測が設計上の医療余裕を既定の日数で超える場合は、介入とすべきです。なお、医療余裕にも数種類の判断基準が必要なはずです。一言で患者と言っても、症状によって必要な医療機器が異なり、その機器もそれぞれ数に限界があるからです。軽症者から重症者まで、しかも重症者にもECMOと呼ばれる特殊な装置が必要な患者もいらっしゃいます。それぞれに対して、基準を設定し、どれかが超えても介入するということにしなければなりません。

次に、どのような介入を行うのか。介入タイミングはその内容にもよります。例えば、医療余裕が20%で、1週間後に医療余裕がー10%とオーバーフローする可能性が予測できたとして、緩やかな介入をした場合、1週間後の医療余裕が50%になるような介入もあれば、10%になるような介入もあるはずです。具体的には、緩やかな注意喚起として外出を控えるよう要請する場合と、強く行動制限を数値目標を8割などと示して要請する場合と、飲食店などに休業を要請する場合では、接触率の低減効果が全くことなるはずです。従って、様々な介入方法があるとして、それぞれの実効再生産数の低減率を予め推定しておき、それを根拠に、必要な介入を行うことが効果的だということになります。

すなわち、介入すべき状況、介入する内容、介入するタイミングの3つの軸で、地方自治体が県民に説明できる形で判断できるツールセットが必要ということになります。

このような動的かつ適切なタイミングで介入を行うことで、医療負荷を減らせ、かつ、経済的インパクトも最小化できると思います。

最後に考え方ですが、まず感染しないに越したことはありませんが、医療提供体制が確保できていれば、感染したとしても重症化し死に至る可能性は高くありません。この可能性というのは、他疾患や事故の標準的な可能性と比較しての話です。先にも書きましたが、医療現場の献身的努力によって、第1波のときとは比較にならないくらいの合理的対処が可能な状況になっています。感染を恐れすぎて生活困窮者が増え、社会不安が蔓延するような事態は絶対に避けるべきですが、医療崩壊を起こせば同様に社会不安が蔓延します。GoToキャンペーンについて考え方を聞かれる場合がありますが、以上の考え方に尽きるものです。

コロナ感染者増について

コロナウイルスの感染が拡大しています(※1)。新規陽性患者数で見れば、3~5月の第1波のレベルを超え、事実上の第2波と言えます。少なくとも、ワクチンが開発され提供されるまでは、我々は、この忌々しいウイルスと共存していかなければなりません。であれば、どのような心掛けを行えばいいのか。

まず事実を正しく捉えることが大切です。情報が溢れすぎていて感情的になっている方もお見受けします。たとえば、コロナは季節性インフルより重症者が少ない風邪程度だ、と主張する記事を見て、こんな戯けたことを言っている奴はけしからん、亡くなった人への冒涜だ、後遺症で悩んでいる人がいるのに、と返す。どちらもどちらであって、正しい理解をしなければならないのだと思います。

その上で、行政介入はどうあるべきなのか、あるいは、なぜ政府は第1波と同程度の感染者がいるのに緊急事態宣言を出さないのか、他疾患に比べると風邪程度と思えという人がいるが本当か、一方で後遺症に悩む人がいる中で極めて毒性の高いウイルスなのではないか、政府は何に注力すべきなのか、などについて触れていきたいと思います。

まず、注目すべきデータは、当然新規陽性者数、要入院者数、重症者数、死亡者数、実効再生産数に加え、医療提供キャパと余裕、稼働率、更には人流統計データ、地域経済分析データ、可能であれば感情ビッグデータが主要項目です。そういう意味では、こうしたデータをダッシュボード的に並べて確認できる環境を作るべきで、政府に提言していきたいと思います。

さて、この事実上の第2波。現時点では第1波と決定的に違うことがあります。それは重症者数や死亡者数と病院余裕です。これらは、下記のサイトで確認できます。

重症者数
https://crisis.ecmonet.jp/
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-japan-chart/

医療提供体制
https://www.stopcovid19.jp/
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

8月1日時点でのデータは以下の通りです。

第1波に比べると、現在は新規陽性者に対する重症者が少なく受入医療体制が圧倒的に多いといえます。また、死亡者数は決定的に少ないことも分かります。重症化し後遺症が残るレベルも報告されておりますし死亡に至る場合もあるのも事実です。しかし他疾患リスクと比較して圧倒的に高いレベルとは言い切れませんので、適切に恐れる必要があるのだと思います。いずれにせよ、こうした第1波との違いは明らかで、医療現場の皆様の献身的なご努力に心から敬意を表し感謝します。医療提供体制が脆弱であった第1波に比べて現在は医療の受け入れ態勢が整っているのは事実ですので、要注意期間ではあり地域によっても状況は変わりますが、重要なことは、感染しないよう、またはさせないよう、十分に気を付けながら、日常を過ごす、ということになるのだと思います。

ただ、だからといって、問題ないわけではありません。重症者の増加傾向は要注目です。8月末には千人を超える状況も想像できます。また要入院者数のグラフを見ると、2万人をこえる可能性も想像できます。少なくともこうした状況を踏まえ、地域ごとに、医療体制確保の次のフェーズに備えておく必要があります(PTで提言した動的オペレーション)。また、接触機会を制限する行政介入は、どのようなレベルにせよ、早期行使、早期終息が経済的インパクトも最小にできることが、先の党コロナ対策本部PTで確認できましたので、これも地域の実情に合わせて、都道府県で対処検討を行うべきです。今後の医療提供体制の状況や感染拡大の状況次第では、政府レベルの緊急事態宣言を少なくともスポット的に発出すべき状況になる可能性もあります。また、現在でも、感染が集中的に拡大している地域(東京都新宿区)などは行政介入を行うべきだと思いますし、その他の地区も、それぞれの地域にあった行動基準を設けて注意喚起はすべきだとは思います。つまり、やるかやらないかという二元論ではなく、状況に応じた動的な対応をすべきです。なお、念のためですが、第1波の時の全国への一律の緊急事態宣言のような極端な行動自粛要請は生活困窮者を増やし国力の決定的な崩壊を招きかねませんし、そうすべき理由もありません。重症化や死亡に至る場合を見過ごすということではないし、生活困窮死亡者1万人と感染死亡者1人とどちらを取るか、と言う極論でもありません。

次に、この第2波で重症化率や死亡率がなぜ低いのか。感染者の発生傾向や重症化率のデータなどと照らし合わせて、私が最もしっくりくる説明をしてくれているのが、東洋経済新聞社のコラムニストである大崎明子さんという方が纏めている国際医療福祉大学の高橋泰教授のモデルです。先日、地上波民放でも取り上げられていました。

https://toyokeizai.net/articles/-/363402

まず日本人はどの程度の人が感染経験があるのかについて、欧米では無作為に抗体検査を行ったら10%以上という結果(人口の10%以上が感染)が出ていますが、日本の場合、感染者が多いとされる東京でさえ0.1%程度でした。そこで日本人特有の耐性があるのではないかということが話題になりましたが、高橋教授のモデルはこれにも合理的な解釈をつけています。

高橋教授によると、実際の患者数や抗体陽性率、重症者数や死亡者数に合致する暴露率をシミュレーションで探ると、人口の30%程度は既にコロナウイルスに暴露経験があるというものです。そして、それらの98%の人が暴露しても感染しないか自然免疫で無症状のまま完治しているというものです。

これは、そもそもコロナはインフルエンザと違い毒性が弱く、抗体ができる前に自然免疫で殆どが完治するため、暴露経験のある人でも抗体検査では陽性となる率が極めて低く、一方で残りの2%が強毒化するかそもそも強毒のもので発症し、その0.002%程度が重症となり、その一部が高齢者を中心にした致死性の高いものだ、というものです。

こう考えれば、無作為の抗体検査では0.1%しか出ないのに、任意のPCR検査を増やすと検査陽性者が増えるのは理解できますし、僅かとは言え0.002%の方が重症化しその一部に後遺症が残る例があるということで、必ずしも風邪のような軽いウイルスだと断言できない理由もわかります。

そこから見えてくるものは、第1波の際に医療体制が必ずしも整っておらず、重症患者が適切に処置されずに重篤化したり重症患者から感染が拡大したのではないか、ということも想像できます。従って、ポイントは、重症化対策であり、重症患者の適切な処置であり、そのためには治療薬やワクチンの開発とともに、医療提供体制の十分な確保こそ最重要課題だということになります。

高橋教授は、社会活動の低下で暴露率は下がっても、血栓形成リスクが上がるので感染率や重症化率が上がるリスクも指摘しています。生活困窮者が増えても同様なのだと思います。結局どうしろって言うのだと言いたくもなるのですが、要するに、政治は医療提供体制を全力で確保するのは当然として、それぞれ適切な感染予防を取りながら不要不急の外出は避けつつコロナウイルスと付き合うということになるのだと思います。

(※1)第一稿から更に拡大したのを受けて加筆しました(8/1)。

見送りとなった種苗法案

アーティストの音楽やハリウッド映画を、インターネットで無料でダウンロードできたら、皆さんどう思われますか?

前国会の話になりますが種苗法という法律案が話題になりました。農家さんの植えるタネとかナエの話です。結局、この法律案は成立見送りとなりました。坊主難けりゃ袈裟まで憎いという言葉がありますが、法案審議を聞いていると斯くも曲がった解釈になるのかと思ったことが何度もありました。私自身は知的財産戦略という観点で改正法を脇から注視していただのみで、改正案の立案プロセスには直接参加していませんが、法案の内容からかけ離れた反対運動を見て、今後の冷静な議論を訴えたくなり取り上げることにしました。

元農林大臣、と言っても数か月お務めになっただけなのだそうですが、が大反対運動を展開され、柴咲コウさんも参戦、一般に知れることになったのがこの改正案です。そして柴咲コウさんも困惑している様子が記事になっています。

http://www.j-cast.com/2020/05/27386744.html?p=all

話題のきっかけになったこの柴咲さんの最初のツィートから取り上げます。

上記から再引用すると、「新型コロナの水面下で、『種苗法』改正が行われようとしています。自家採取禁止。このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます。これは、他人事ではありません。自分たちの食卓に直結することです」「種の開発者さんの権利等を守るため登録品種の自家採種を禁ずるという認識ですが、何かを糾弾しているのではなく、知らない人が多いことに危惧しているので触れました。きちんと議論がされて様々な観点から審議する必要のある課題かと感じました」「もっと様々な意見を持ち上げて議論して決めていくことだと思います あらゆる角度から見ないといけませんよね 育成者、農家、消費者」とのこと。

ご主張は、俯瞰的な視点で、何の権利が守られて、誰の自由が制限され、誰がどのような負担を負うのか、きちんと議論しないといけない、もしかしたら農家さんが大変な負担を強いられるかもしれない、ということなのだと普通の人は理解します。

改正案を表面的に見ると、ホームセンターで買ってきた種苗を来年の為に自分で増殖するのが制限される、と一見すると思えてしまう内容なので、柴咲さんの反応は、私は正しい恐れだと思いますし、議論の動機につながる重要な視点だと思います。

ところが、問題は、そもそも反対の為の反対論者が、このツィートを上手に利用し、野党も上手に参戦。「これは大変危険なドンデモナイ法改正だ」、ということになったようで、それが転じて、例えば、ネット上の反対は、「種苗法改正案が成立すると、モンサント(巨大外資で今は存在しない)などの巨大資本が、日本の種苗を根こそぎ買いつくして、日本の農業がダメになる」とか、「遺伝子組み換え食料が消費者の知らない間に出回って、日本の食の安全が大打撃を受ける」と言った調子で、煽りに煽っています。さて、法案のどこにそんなことが書かれているのか、行間を読んでも出てきません。

マスコミも面白いのでしょう。柴咲さんのツィートがきっかけで、疑念のある法案が見送りになる公算、などと報じています。でもね。恐らくこれは柴咲さんの本来の趣旨である、真っ当な議論をしましょう、ということからかけ離れているのだと思います。事実、主要新聞は、真っ向からモンサント懸念とかの遺伝子懸念を”自ら”訴えてはおらず、反対派が懸念を表明しているという記事のスタイルにしています。それはそうでしょう。中身を見ても、どうひっくり返っても、そのようなことは書かれていません。

■議論の経緯

なぜ反対派の主張がでてきたのかというと、この種苗法改正案ではなく、先に成立した、平成29年の農業競争力強化法の成立や種子法の廃止によってです。種子法は、1952年に成立した法律で、国内の優良な種子の安定生産と供給の為に、国と都道府県が負うべき責任を示したものです。つまり大切な日本の種子を国や都道府県で守るのだとされました。ところが時代を経ていくと、折角税金を投入して品種を開発したのに商品化され消費者の手元に届くことがあまりないのは勿体ないではないか、全国一律に規制をかけるのはオカシイくないか、ということになり、種子法の廃止に繋がっていきます。更に、もっと日本の財産として有効活用するために、民間にその知恵を移転することにしたのが農業競争力強化法でした。

そこで反対が沸き起こったのが、外資を含む巨大資本による支配と、それによる遺伝子組み換え食品の流通による食の安全懸念です。それはそうでしょう。これも一見、そうした可能性が高くなるように見えます。しかし、そもそも種子法の対象は稲・麦・大豆のみでしたし、海外企業参入に関する定めはなく、海外企業とは何の関係もなく、それ以前でも海外が根こそぎ買おうと思ったらできたものです。ただ、懸念があるということで、知見を民間に提供するときには、利用目的をよく確認して、利用契約を結ぶことが、ルールに盛り込まれました。現在までに海外巨大資本に買い漁られたことは唯の一度もありません。

しかし反対は続きます。実は種子法が廃止されたことを受けて、都道府県では独自の品種の安定供給の為に旧種子法並びの条例を定めるケースがあったのですが、これをとらまえて、種子法廃止は適切ではなかったのではないか、との批判や、そもそも都道府県の品種開発を国が助成していたのですが、それを打ち切るためではないか、などの反対がありました。ここまでくると、プロのアクティビストとしか思えません。

以前、集団的自衛権の限定行使の法案審議の時に、この法律は戦争をするための法案だ、と断じたグループがあったり、マイナンバー法案のときに、国民の個人情報を国家が管理するためのものだ、と断じたグループがあったりしました。例えば、引っ越しをしたとして周囲ご近所にご挨拶に行ったら主が包丁をもって出てきたとします。殺される、と思う人もいれば、料理中だったのかしら申し訳ない、と思う人もいる。仮に前者と認識したとしても、常識人であれば、状況把握に努めるはずですが、いきなりあの家の人オカシイ人だと言いふらすようなことはしないはずです。どのような議論も、懸念を表明することは重要だと私は常に認識していますが、内容を吟味せずにミスリードや扇動を行うことは、弊害も大きいと指摘せざるを得ません。

■種苗法の中身

まずは農林省の種苗法改正案の説明文書の3ページ目をご覧頂ければと思います。

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/syubyouhou/

事の発端は、日本の官民の汗と涙の末に素晴らしい品種が開発されても(例えばシャインマスカットやサクランボ)、それが簡単に外国人の手に渡り、海外で増殖されて、その地の富になっていることをどう考えるべきなのか、というところにあります。

実際に、苦労の末、おいしい品種を開発した農家さんもいらっしゃいます。彼らの苦労は関係ないと断じることは絶対にできないのだと思います。

冒頭に提起したように、例えば、アーティストの楽曲が、無断で大量にCDにコピーされて売られていたとしたら、それは放置していい問題なのでしょうか。農業だからといって放置されてしかるべき問題ではありません。そして放置されてきたからこそ、競争力がなくなり、良い品種の更なる開発に対するインセンティブが阻害されてきてしまったのではないか。その可能性は税によって支えられてきたとしても、限界があるのではないか、という視点です。そこで出てきたのが知的財産保護の仕組みです。品種開発した農家さんにその労力に見合った対価が払われるべきなのだと思いますし、そこに反対する人は聞いたことがありません。

こうした考え方に対する反対はどこにあるのかというと、知的財産として保護された品種を勝手に増殖できなくなると、農家はどうやって生きて行けばいいのか、というものです。ここに誤解があるのだと思います。以下の保護される主な品種は、上記の資料の2ページ目にあります。また、特設サイトも農林水産省によって用意されています。一言で言えば、制限されるのは高品質品種でそもそも増殖が簡単にできるものでもなく、実際農家が増殖を普通にしているものではありません。なぜならば増殖するのにかなりのコストがかかるので、その品種を作りたいと思えば買ってきた方が安いからです。全部が制限されるものでは全くない。

そもそも自己増殖は改正されなくても制限されていました。法改正案ではその範囲が拡大されることになりますが、それでも全体の1割程度の特に付加価値が高いものです。コシヒカリはどちらでしょう。巨峰は?デラウェアは?野菜などはもともとF1なのでそもそも種子による自己増殖はできないと言われています。つまり、在来種や品種登録されたことがない品種もしくは品種登録期間が切れた品種は、一般品種であって、自己増殖の利用制限は全くありません。また対象となる登録品種でも育成者許諾を得れば可能です。

よくある反対意見が、自己増殖は今まで無料だったのにカネ払えというのか、というものです。そもそも、いくらかご存じなのかしら、と思ってしまいます。農林省が参考例を提示していますが、とある作物の10a(1反)あたりの種苗代が1600円だったときに、許諾料は2.56円程度なのだそうです。念のためですが、一般品種は無料。付加価値の高い登録品種がこの登録料です。

反対はつづきます。

そもそも海外持ち出しは制限できないじゃないかというもの。いいえ。刑事罰の対象になりますし、海外での品種登録を進める事ができます。持ち出されてしまえば取り締まれないではないかという反対もあります。では何もしなくていいのですか、ということと、国際ルールをつくっている最中だということは指摘しておきたいと思います。

反対はつづきます。

巨大資本が日本で品種登録したら高い許諾料を払うことになるではないかというもの。既に述べましたが、在来種はもちろんのこと、一年以上流通している品種は品種登録できません。海外資本が新品種を登録しても、何もそれを使わなくてもいいのではないかと思います。国産の方が上手い。

反対はつづきます。

都道府県は許諾料の範囲でしか品種開発ができなくなるのではないかというもの。都道府県は現在でも許諾料だけでなく国の補助金や独自の農業予算で開発を進めています。法改正とは何の関係もありません。

参考までに農林省がQ&A集を作っています。

真っ当な議論ができる環境をつくっていくことが重要なのだと思います。繰り返しになりますが、反対することを否定するものではなく、議論ができることは重要なのだと思いますが、原理主義的反対は、健全な議論を阻害します。

様々な視点で種苗法について議論されていらっしゃる方がいますのでご紹介します。「種苗法」でネット検索してでてきたものをご紹介しているだけなので当方とは全く関係ありませんが一読に値します。

smartagri-jp.com/agriculture/1406

しかしそもそも政治の信頼不足からくるものであるとすれば、その政治の信頼を回復することのほうが、はるかに重要なのだと思っています。だから、腐敗は徹底的に排除、などは当然だとしても、李下に冠を正さず、も重要なのだと思います。

コロナ再流行に備えて

今月に入って再流行が懸念されるコロナウイルス感染症に対して、万全の体制を整備するために、党内各所で様々な議論が行われています。私自身は、党新型コロナウイルス関連肺炎対策本部に設置された再流行コンティンジェンシープランPTで活動の場を与えて頂き、先般、我々の提言を本部会議で取り上げて頂きました。少し専門的な内容になっていますがここに掲載することにします。

なお、経済と感染症対策のバランスという言葉を発すると、金儲けと人命を天秤にかけるなという指摘がなされることがあります。本PTでも触れていますが、金儲けではなくてどちらも人命なのです。これについては三浦瑠璃さんが文芸春秋で詳しい分析を発表しています。

新型コロナウイルス感染症~再流行に備えた医療体制のガバナンス強化と危機管理オペレーションの提言

自由民主党政務調査会
新型コロナウイルス関連肺炎対策本部
再流行コンティンジェンシープランPT
座長 上川陽子

新型コロナウイルス感染症は全世界的に甚大な影響を及ぼしている。我が国では、3月から5月にかけて大きな流行がみられ、人工呼吸や集中治療などを受けた重症者は100人以上、症状が改善し退院した者は1万5千人以上、死亡者は1000人近くに上った。4月初旬に発せられた緊急事態宣言の期間は1か月半に及び、感染の脅威に晒された国民の不安は大きく、また経済活動の抑制に伴う経済的重圧も加わり、日本の社会生活・経済活動に著しい影響を及ぼすこととなった。

幸いにして国民の真摯な協力と医療福祉関係者等の献身的な努力等により感染者数、入院者数は減少に向かい、政府は5月25日に緊急事態宣言を全面解除し、新しい生活様式の目安を示して、感染の防止に最大限の注意を払いながら社会経済活動の再開を進めつつある。
しかし、先般公表された抗体検査結果 でも明らかなように、抗体保有者は想像以上に少なく、また抗体を保有していても感染を阻止できるのかは不明であり、依然として国民の間 に不安が残っているのが現状である 。

今後、社会経済活動が段階的に再開される中で、感染の再流行は必至との思いで、来たるべき事態の対処に万全を期す必要がある。かかる背景で、党内では様々な視点で今後の新型コロナウイルス対処の方策が議論されているが、当PTでは、医療提供体制等について、累次にわたって議論を重ねてきた。その結果を提言するものである。

1.目的

新型コロナウイルス第2波第3波が到来し再流行は必至との前提に立ち、その時に想定される様々な事態に対処しうる万全な医療体制を整備することを目的とする。3月から5月の流行への対処で得られた知見をもとに、再流行時のインパクトをシミュレーションにより的確に見積り、具体的な想定シナリオに基づいた動的オペレーションプランを立案し、その実効性を担保するためのガバナンス強化と医療体制を下記のとおり提言する。なお、シナオリには、季節性インフルエンザ流行、クラスター発生、公衆衛生学的介入の遅延などの追加ストレステストを行う。
① シミュレーションに基づくシナリオ立案と需要予測手法の確立
② 医療体制ガバナンス強化とそのための政府オペレーションセンターの設置
③ リスクコミュニケーションとそのためのリスクマネジメントの確立
④ あらゆる状況に適切に対応できる動的オペレーションプラニング
⑤ 医療提供サイドへの支援と機能強化

2.現状認識と課題

新型コロナウイルスが認知されたのは昨年末から今年1月にかけてであるが、その直後に我が国に寄港した大型クルーズ船で集団感染が確認されるなどの事態の進展に合わせて、1月末には党本部に新型コロナウイルス関連肺炎対策本部が設置された。2月末には感染の拡大傾向が確認され、専門家の見解を踏まえ、学校休校要請が発出された。3月中旬ごろまでは新規感染者は50人程度に抑えることができていたが、その後、状況は好転せず、3月13日には新型インフルエンザ等対策特措法が改正され新型コロナウイルス感染症が同法の適用対象に加えられた。成立後、同法に基づく緊急事態宣言の要否などが話題になる中、感染者数の増加は一時小康状態となったが、4月4日ごろから大規模な感染拡大が確認されるに至り、4月7日にはその後1か月半に亘ることになる緊急事態宣言が発出された。

この間、政策立案サイドから現場に至るまで、大小様々な混乱があった中で、関係者の苦労は相当なものであった。顕在化した課題は多岐にわたり、すべてを網羅することはできないが、特徴的な課題と、そこから見える構造的問題を抽出し、PTの評価とともに改善すべきポイントについて触れる。

2-1 新型コロナウイルス感染症の特性把握(「敵」を知る)

当初は新型コロナウイルス感染症に関する情報が決定的に少なかった。どのような感染経路でどのくらいの感染力を持ち、感染したときの症状や重篤化率、治療方法や致死率などの知見は皆無であった。未知の敵に対峙するにあたって、ウイルス学・免疫学・臨床医学などあらゆる側面から新型コロナウイルス感染症のプロファイリングを行わなければならない。

2-2 医療提供の現場サイドの状況把握(己を知る)

医療提供の現場サイドである相談窓口・検査機関・医療機関の状況把握や連携も十分にできていなかった。感染が拡大するにつれ、医療現場等へのマスクなど防護具の緊急配備やPCR検査体制の拡充など、目前に迫る必要作業にリソースが集中的に投下されたが、相談窓口、PCR検査機関、帰国者・接触者外来や病床などのリソース不足、相談窓口と検査機関や医療機関の連携トラブル、政府と自治体や医療機関などとの連携不足、都道府県と保健所設置市など自治体間の連携不足、サプライ品の決定的不足など、様々な課題が次々と噴出した。
政府や自治体の運用サイドでは、これらの噴出した課題の対処に全力を尽くした経緯はあるが、時々刻々と変化する現場の状況把握を可能とするインフラもなく、リアルタイムに状況を把握する仕組みの整備が急務であることが関係者の間で共有された。

2-3 運用サイドの司令塔機能の課題

(自治体との権限構造)
広く知られている通り、日本における緊急時医療提供体制の構築は、主に地方自治体(特に都道府県知事)の権限に委ねられており、地方自治体が、日本全体のリスクマネジメントを図ろうとする政府と対立する場面も見受けられる。政府の運用サイドが協議の場で求めるモデルは、個々の自治体にとっては必ずしも受け入れやすいものとは限らない。現時点での最大の問題は、双方のギャップが放置されることであり、そのことがリスクマネジメントをさらに困難にする。要請ベースのリスクマネジメントを強化するためには、インセンティブ制度や原則主義の強化が必須となる。

(自治体間の連携不足)
隣接する自治体同士でも、それぞれのリーダーシップの認識・取組に差があり、効果的な連携が図られないケースもある。そうした場合、政府の運用サイドが、関係する自治体間の調整を買って出ているが、権限もなければインセンティブも十分でなく、必ずしも合理的解決に至っているわけではなかった。自治体間の連携を強化する仕組みが必要であり、インセンティブ制度の強化や広域連携の仕組みが必要である。

(医療機関との権限構造)
政府や自治体は、これまでも医療機関に対して病床確保や情報提供等を要請しており、概ね協力頂いているものの、医療機関にとってはあくまで任意の応諾であり、必ずしも容易に受け入れが可能なものとは限らない。更にインセンティブも十分ではないため、医療現場に負担のみをかけていると受け取られることもあり、合理的解決に至っていない場合が見受けられる。ここでもインセンティブ制度や原則主義の強化が必要である。

2-4 オペレーション実効性の課題

クラスター発生により感染者が急増した県では、制度に基づき病床確保のための協力依頼を隣接県や医療機関に行ったが、事前合意の不備等の運用面での課題があり、更に全体合理性の観点から隣接県で協力しなければ感染拡大を防げないという意識が共有されていなかったことにより、合理的解決が見いだせなかった。その結果、政府の運用サイドが合意形成を図るために人的リソースを投入せざるを得ず、全体最適性が失われ、運用サイドと現場の双方が混乱するという悪循環に陥ったケースもあった。

オペレーションの実効性を確保するために必要なことは、①正統性の担保となる正当な制度、②その制度に基づいた適切かつ合理的な運用、③制度の趣旨を含めた関係者間の意識共有、が最低限必要となる。特に意識共有の努力は軽視されがちであるが、運用サイドの思惑(直面する困難や計画立案の理由や背景、施策の優先順位など)は、努力なくして現場と共有されることは稀である。事態の進展に則して共有すべき情報を明確にし、積極的な意識共有を各段階で図ることが必要となる。特に要請をベースとした社会においては重要なポイントとなることが運用サイドの中で共有された。

2-5 リスクコミュニケーションとそのためのリスクマネジメント

(リスクコミュニケーション)
政府のオペレーションの重要なポイントは、感染症と経済と国民感情(不安)のトライアングルを適正化することであり、政府はこの3つのそれぞれとコミュニケーションをとることである。

国民目線で必要な情報を的確に提供すること、つまり、具体的にどのようなリスクがあって、放置すると何が起こり、政府は何を何の根拠で何時頃どの程度やろうとしているか、などが伝わることと同時に、政府のオペレーションが国民の望みに応えられないと分かった場合には、国民の不安を汲みとって、随時オペレーションを修正して合意形成を図ることが必要となる。そのためには、どのようなリスクがあるのかを系統的に把握し管理する必要があり、リスクマネジメントなくしてリスクコミュニケーションはない。

これまで、政府の情報提供の在り方に多くの疑問が寄せられた。国民サイドから見れば、不確かな情報が氾濫する一方で、欲しい情報が政府から提供されず、連日の医療体制の不足に関する報道によって不安が広がった。東京等の一部地域で生じた需給ギャップがあたかも全国で生じているかのように受け止められ必要以上に不安を感じた国民も多かった。その一方で、個別課題に対する国民の不満が噴出し、運用サイドでは、その都度、その対処に過大なリソースが割り当てられ、全体最適性を失った結果、別の課題が噴出するという悪循環に陥り疲弊を極めた面もある。

政府の様々な部署が別々の情報を発信したために生じた混乱もあった。リスクコミュニケーションは、大きく2つに分ければ、①政治の意思決定に関わりメッセージの正統性を担保する機能と、②感染状況や感染症プロフィール等の一次情報若しくは運用サイドに関わりメッセージの正当性を担う部分がある。この正統性と正当性の構造を明確に意識する必要がある。基本的に、前者は政府コロナ対策本部、後者は厚生労働省で主体的に担われているが、構造と機能が必ずしも明確に意識され運用されていないものと見受けられる。以上の観点で、リスクコミュニケーションの体制の整備を図る重要性が共有された。

(リスクマネジメント)
見えない未知の敵であるコロナウイルス感染症の拡大は最大の脅威であった。関係機関の全神経が感染拡大に向けられたことは間違いではない。しかし背後の潜在リスクを管理する視点が十分だったとは言い難い。分からないことを管理するのがリスクマネジメントである。3月時点で武漢モデルを援用し地方自治体に病床数の整備目標の割り当てを行ったが、他疾患患者の平均死亡率などと丁寧に比較衡量したようには見受けられない。公衆衛生学的介入において、経済活動の縮小により生じる失業率や自殺率等とのバランスの具体的な検討が行われたようにも見えない。
考えうるリスクをリストアップして、そのリスクを分析評価し、最善と思われるオプションをいくつか意思決定サイドに伝えるとともに、個別のリスクが生起した際のオペレーションを準備しておく必要がある。リスクコミュニケーションとしての政治的メッセージをどのように行うかも含め、意思決定に資するリスクマネジメントの必要性が共有された。

(パッシブリスクマネジメント)
既に述べたように政府は3月に各都道府県に対して武漢モデルを援用した医療資源の割り当てを提示したが、地方自治体にとっては現実に即していない過大な割り当てと映り、目標未達の県もあった。そのため、4月以降の感染拡大期に病床が逼迫するなど医療提供が滞る自治体もあった。自治体との権限構造に関わる課題については既に述べたが、そもそもオペレーションの考え方自体を進化させる必要がある。
リスクマネジメントにはパッシブ型(PRM)とアクティブ型(ARM)がある。不測の事態が生起しないよう努める、想定内の管理を行うアクティブリスクマネジメント(ARM)も重要であるが、不測の事態が生起した場合に備える想定外の管理を行うパッシブリスクマネジメント(PRM)も同様に重要である。PRMに従えば、計画未達の場合や想定を超える事態が生じた時にどのようなオペレーションを行うのかをあらかじめ決めておくことが必要となる。ARMのみで過大な想定に基づいて過大なリソース割り当てを行うことは現実的ではない。

3.ガバナンス強化と危機管理動的オペレーションの提言

3-1 シミュレーションに基づくシナリオ立案と需要予測手法の確立

本PTは、設立当初、到来必至と言われる新型コロナウイルス感染症の再流行について、必要となる病床数や検査体制の規模を見積るための精緻なシミュレーションと、それに基づくシナリオ立案手法の確立を提言した。その結果、現在では、都会と地方のそれぞれのモデルについて、感染力や感受性の強さ(実効再生産数Rt=1.7, 2.0)及び公衆衛生学的介入のタイミング(D=1~7)をパラメータとしたシミュレーションが可能となり、地方自治体にとって、より現実的なシナリオとオペレーションのプラニングが可能となった。公衆衛生学的介入のトリガー基準も10万人あたりの新規陽性患者数2.5人/週が共有され、また介入タイミングが早ければ早いほど終息も早いことが共有されている。

そこで、このシナリオとオペレーションのプラニングを基本として、追加ストレステストをかけ、ARMとPRMによるリスクマネジメントを前提とした危機管理動的オペレーションプラニングの在り方に関する提言を行う。またこのオペレーションが合理的に実行されるための国家ガバナンスの強化、更には医療サプライサイドの強化を提言する。

3-2 ガバナンス強化

(政府新型コロナウイルス感染症対策オペレーションセンター(仮)設置(機能))
現在、政府全体の新型コロナウイルス感染症対策のうち、意思決定としては官邸におかれた新型コロナウイルス感染症対策本部が、また運用サイドに関しては厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部が主体的に担っているが、下記の観点から、運用サイドに政府新型コロナウイルス感染症対策オペレーションセンター(VOC)を設置することを提言する。

① 運用サイドを一元的に担うことを明示するため
② 省庁横断の統合運用を行う機能を実質的に強化するため
③ 自治体や医療機関との連携機能を強化するため
④ 医療提供サイドのリアルタイム状況把握を強化するため
⑤ リスクマネジメント機能を強化するため
⑥ 一次情報と運用の管理責任者としてリスクコミュニケーションを一元的に担うため
⑦ 意思決定サイドとの連携を図り、意思決定を合理的に運用に落とすため

VOCで取り扱われるべき内容は政府の中で改めて検討を求めるが、当PTとしては下記の点が特に重要と考える。

(関係機関調整の機能設置)
関係省庁、自治体、医療機関、民間宿泊所、官民の救急搬送機関、DMAT等の災害医療の専門家など、様々な関係機関間の連携調整機能を強化すべきである。特に強制する権限のない要請等をベースとしたオペレーションが基本となる自治体や民間に対しては、事態が起きた時のその場での対応では合理的解決に至らない場合もあることから、以下の提言を行う。

① 関係機関の間で、事前の協定締結を積極的に推進する。
② 補助金等を活用したインセンティブ制度の強化。
③ 原則主義手法の確立と公表等の運用の検討。例えば企業統治に用いられるComply or Explain原則やEUのGDPR運用等で用いられる行動規範原則などが参考となる。
④ 中長期的には、リスクマネジメントの観点から、緊急事態下の権限構造について、慎重な議論を行った上で、法改正を含め見直すべきである。
⑤ 関係機関調整にあたってリエゾンオフィサー(LO)の活用・増派も検討すべきである。

(リアルタイム状況把握の機能設置)
万全の医療提供体制の確保のためには、保健所、検査、医療機関の病床等の医療提供に関わる資源や従事者を含めた稼働状況、サプライ品の需給状況、患者状況、搬送の対応状況、他省庁で利用可能な人的・物的資源の状況、連携可能な宿泊施設等、海外の物資調達状況など、リアルタイムの状況把握が必要である。
現在、G-MIS、HERーSYS等の情報インフラが整備され運用されつつあるが、その機能の拡充を検討すべきである。また情報入力にかかる労力が必要最小限のものとなるよう入力項目を見直すとともに、感染拡大時には入力項目をさらに絞るような工夫も必要である。さらに、収集が困難な情報については感染拡大の状況によりリエゾンオフィサー(LO)の増派等も検討し、状況把握体制を強化すべきである。また、IoTの積極的活用も検討すべきである。

(リスクマネジメントの機能設置)
顕在化したリスクのみならず潜在的なリスクも含めて、リスクを分析し管理し全体オペレーションプラニングを行う専門の者をリスクマネジメント班として配置すべきである。官邸事態室や民間から危機管理の実務経験者を積極的に登用すべきである。その際、全体コーディネーションもリスクマネジメント班が担うべきである。また、次に述べるリスクコミュニケーション班との強固な連携が必須である。

(リスクコミュニケーションの機能設置)
政府の運用サイドの管理責任者として、一次情報の管理責任者として、リスクコミュニケーションを一元的に行うべきである。また、来るべき再流行に備えて、リスクを整理した上で、まずは政府の対応指針と国民の行動指針をしかるべき時に発表するべきである。なお、国民が政府の情報に直接接することができるWEBは重要である。伝えることより伝わること、見て欲しいより見たいと思う、WEBの構築に全力を挙げるべきである。

(意思決定サイドとの調整機能)
正統性を担う政治意思決定機関と正当性を担う運用機関の合理的な連携が必要である。意思決定に資する合理的で正しい情報と、意思決定自体の意図や趣旨を、双方で正確に共有し、必要であれば全体プロセスを見直せる合理的なガバナンスと運用が行われるべきである。

(物品等調達後方支援の機能設置)
医療機関等の関係機関が施設整備や検査機器等の設備整備を行う場合の支援、検査キットや医薬品、防護資材を含むサプライ品調達などの支援、サプライチェーン上の調整、海外調達の支援など、関係省庁や機関との連携を強化し、状況把握に努め、後方支援機能を強化すべきである。また、サプライ品の供給体制に支障がでることが予見される場合には、必要に応じ費用対効果を睨みつつ国が強く関与する形で必要な物資を国内生産することが可能になる法整備も検討すべきである。

(人材確保後方支援の機能設置)
医師や看護師や専門家を含む人材確保調整を一元的に担う機能を強化すべきである。そのためにも確保可能な人材のデータベース化に注力すべきである。

(省庁横断的応援体制の制度的担保)
感染症の拡大状況次第では、大規模なオペレーションが必要となる。事態に応じた応援体制が柔軟かつ確実に組めるよう、省庁横断的な応援態勢、政府一丸となった組織が制度として担保される仕組みを検討すべきである。

(意識共有の徹底)
医療提供体制の整備にあたって、関係者の意識共有を徹底すべきである。その際、シミュレーションや過去の統計など、広範囲のエビデンスを収集し関係者間で共有するべきである。それに資するようG-MISやHER-SYS等の新たな情報インフラ機能の強化を図るべきである。その際、現場への丸投げや非効率形式主義は徹底排除すべきである。

(リエゾン強化)
関係省庁の協力も得つつ、政府内、政府と都道府県、都道府県と保健所設置市等、オペレーションに関わる機関間の連携を効果的なものとするために、リエゾンの強化を行うべきである。またボランティアベースの民間活用もスコープに入れるべきである。

3-3 動的オペレーションプラニング

3-3-1(シナリオ立案とストレステスト)
現時点で想定されうる悲観シナリオを作成し、オペレーションプラニングを行うこと。同時に、リスクマネジメントの観点から、他疾患患者リスクや救急対応減少リスク、医療品サプライチェーンリスクなど想定されるリスクをすべてリストアップし、それぞれのリスクを分析・評価し、対策を検討しておくこと。その際、以下の主だったリスクに対しては、最悪シナリオを作成し、ARM/PRMを意識しつつ別途オペレーションプラニングを行うこと。

(複合事態を想定)
新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの同時流行、クラスターの発生、公衆衛生学的介入の遅延を、追加ストレステストとして実施すべきである。このような複合事態は、実際に生じた場合には、現場で相当な混乱が予想されるため、入念なリスクマネジメントによる十分なプラニングを事前に行うべきである。リスクコミュニケーションのプラニングも徹底して行うべきである。

(季節性インフルエンザを想定)
特に季節性インフルエンザの同時流行については、ピーク時に1週間で200万人を超える患者がコロナ疑いをもって相談窓口に殺到する可能性もある 。発熱患者をどのように外来で受け止めるかなどについて専門家による検討を深め、ARMとPRMを分け、国民への行動指針を策定し、早めにリスクコミュニケーションを図り、HER-SYS改修が必要であれば早めにアクションをとり、保健所や医療機関での患者目線の医療提供フローの再確認を行うなど、入念なプラニングを行うべきである。

(院内感染等のクラスターを想定)
院内感染などクラスターの発生時への対応として、政府は一定数の即時受入可能な病床の確保を各都道府県に求める考えであるなど既に即応可能なプラニングを行っているが、流行拡大期やピーク時まで見据えたプラニングを行う必要がある。

3-3-2(感染状況フェーズに応じた介入レベル等の動的オペレーションプラニング)

感染拡大フェーズと広義の公衆衛生学的介入のレベルを定義する。

(感染拡大フェーズ)
フェーズ1)新規陽性者数が徐々に増えているが休業要請等フルスペックの公衆衛生学的介入トリガー基準を満たさない段階。
フェーズ2)新規陽性者数が増えトリガー基準を満たす段階
フェーズ3)新規陽性者数が減少期に入るがトリガー基準を上回る段階
フェーズ4)新規陽性者数が減少期でトリガー基準を下回る段階

(公衆衛生学的介入レベル)
レベルI)アラート等注意喚起を促すメッセージを発する。
レベルII)アラート等注意喚起であるが、接触機会低減の具体的目安を提示する。
レベルIII)緊急事態宣言や休業要請等を伴うフルスペックの公衆衛生学的介入を行う。

(公衆衛生学的介入オペレーション)
早期介入・早期解除が感染拡大防止の観点でも社会経済への影響を最小にする観点でも最も有効であるが、重要なことはフェーズ2に入れないことである。そのため、早めにレベルIからレベルIIの注意喚起を積極的に行うオペレーションプラニングを検討することが重要で、感染拡大フェーズに応じて動的に実行されるべきである。従って、どのレベルの介入を行うかについて意思決定に資する複数の選択肢や示唆を提供するべきである。その際、関係機関と連携し、感染症、経済、感情の3つのインパクト評価を行う示唆も提供すべきである。

(医療提供機関毎の詳細オペレーションプラニング)
患者目線でみた相談、診断、搬送、入院、治療、退院に至るまでの一連のステージの各段階で、そこに関わる施設のオペレーションについて、感染状況フェーズ毎のプラニングを行う必要がある。

3-3-3(事前の図上訓練)
立案したオペレーションプランの実効性を確認し、必要であれば修正し、また関係者間の意識共有を図るため、実際の感染拡大期を想定した図上演習を行うべきである。まずは机上演習(TTX)レベルを実務者で繰り返し、官邸や本PT提案のオペレーションセンターと各都道府県などの司令塔機関を含めた指揮所演習(CPX)レベルを実施し、最終的には実動演習(FTX)を少なくとも1回、例えば防災の日に、行うべきである。

3-3-4(地方自治体オペレーションプラニングの合理性チェック)
自治体のオペレーションプラニングにおいては、合理的水準に到達していない場合は、インセンティブ制度などを活用したあらゆる支援を行い、また原則主義に基づいた関係機関との調整手法も活用して、望ましい水準の達成を目指すとともに、目標未達の時点で再流行が起きた場合の対応などPRMに基づく時間軸のオペレーションプランの示唆を提供するなど、リスクマネジメントを徹底すべきである。

3-3-5(国際政治動向と水際対策)
水際対策については、国際社会の動向に注意しつつ、水際対策に関する疫学的知見収集をより積極的に行い、リスク管理とともに別途オペレーションプラニングを行うべきである。

3-4 医療提供サイドへの支援と機能強化

3-4-1(保健所の体制整備(相談・問診・診断段階①))
対応初期の相談・問診・診断段階において重要な役割を担う保健所については、全都道府県で即応体制を整備することが急務である。各都道府県は、設定シナリオに沿って最大需要を想定し、即応体制整備に必要な人員をあらかじめ確保すべきである。その際、他部署や外部からの応援派遣、OB・OGや市町村保健師の活用、業務のアウトソーシングなどを具体的にプラニングし事前に必要な契約等を行うことが不可欠である。また、感染関連情報の管理等を効率的に実施するため、HER-SYSを積極活用すべきであり、国はシステム運用上の課題については速やかに洗い出しを行い解決に努めるべきである。

3-4-2(検査体制の整備(相談・問診・診断段階②))
院内感染・施設内感染防止等のためにPCR検査の対象を入院患者等に拡大するとともに、唾液を使った検査や抗原検査など新たな手法の積極活用を進めるべきである。また、PCR検査センターの設置を促進するとともに、これまで帰国者接触者外来を担ってこなかった医療機関においても、PCR検査や外来診療の提供を広く求め体制整備を急ぐべきである。さらに我が国ではCT等の画像診断が広く普及しているという強みを活かすべく、肺炎の早期診断等のためにCT等の画像診断を有効に活用していくべきである。
また、検査についてはリスクコミュニケーションの点でも大きな課題があった。診療ガイドライン等に検査の目的や精度面で一定の限界があることなどを分かりやすく解説するなど国民目線で必要な情報を的確に提供する工夫が必要である。

3-4-3(医療提供体制の整備(入院/転院・治療段階))

(病床等の確保・支援)
都道府県は、設定シナリオに沿って、感染拡大のフェーズ毎に必要となる重症者・中等者用の入院病床数、疑い患者を受け入れる協力医療機関数、軽症者用の宿泊療養施設数を具体的に定め、あらかじめ必要数を確保する。その際、クラスター発生も想定して必要病床を定める一方で、一般医療の確保にも配慮した効率的な病床確保に留意すべきである。特に、感染予防・ゾーニングの観点から、検査~入院~治療を行う医療機関を、地域の医療資源を踏まえつつ、固定化・集約化する方向で調整することが望ましい。
国は、自治体が関係機関に行う協力要請に対して、十分なインセンティブ制度が活用できるよう、既存の自治体向け制度を拡充すべきである。地方自治体のオペレーションプラニングにおいて、リスクマネジメント上、国が地方自治体に協力を要請する場合には、国全体のリスク低減効果に見合うインセンティブを自治体が得られるような仕組みとすべきである。

(人員の確保・支援)
都道府県は、病床の確保等にあわせて、感染拡大に対応しうる医師、看護師、臨床検査技師、診療放射線技師等の必要な人員の確保を進める必要がある。このため、国は都道府県が人工呼吸器等の管理、検査等を適切に行う医療職の養成を行うことを支援するとともに、ハローワークやナースセンターの活用、医療のお仕事Key-Netを通じたマッチング支援などを進めるべきである。
また、都道府県は、緊急時の人材派遣について地域内で人材派遣調整の手順をあらかじめ協議し定めて即応体制を確保しておくべきである。特に、患者急増時に、病診連携による緊急的対処として、近隣の診療所の医師・看護師等が病院の応援に入る仕組み等についても、事前調整を行うとともに、必要な財政支援なども行うべきである。

(医療用物資等の確保・支援)
都道府県において、人工呼吸器の消耗品や検査用の採取用具・試薬などの必要な量の確保を進める。また、マスク、ガウン、フェイスシールド等の個人防護具は、どこに目詰まりが生じていたのかを十分見極めた上で、G-MISをより活用して医療機関サイドのニーズを的確に把握し、タイムリーに配布していく仕組みとすべきである。その際、流通やデジタル関係の有識者からも積極的にアドバイスを得て、利用者の事務負担などにも配慮しながら、令和の時代にふさわしいオンライン化、逼迫時のプッシュ型支援 などを検討する。

3-4-4(救急・搬送体制の整備(搬送段階))
都道府県は、救急医療の関係者、消防機関、さらには必要に応じて域内の自衛隊を含め、救急・搬送に関わる関係者との協議等を予め進め、新型コロナウイルス感染症を疑う患者を受け入れる医療機関の設定など、地域内の救急患者受入・搬送体制を整備する必要がある。また搬送体制の整備にあたっては、空床情報や重症患者の受入状況等の情報をリアルタイムに把握するためG-MISの活用をさらに進めるべきである。

3-4-5(ICT/IoT化による効率化とリアルタイム状況把握)
医療体制の整備に当たっては、現場の負担を最小化し、効率的なオペレーションが可能となるようあらゆる関係機関のICT/IoT導入に対するインセンティブ制度を強化すべきである。医療分野の既存のシステムでは、「ICT/IoTをどう使いこなすか」という視点に欠けていた面があった 。再流行に備え、外部の有識者や内閣官房IT室をはじめとした関係省庁等の連携のもと、HER-SYSの医療機関への普及など徹底的にヘルステック(医療×デジタル)改革を進めるべきである。先に導入した接触確認アプリ の他、マスクマップ 等の物資の在庫マッピング、質を確保した上でのオンライン医療相談・診療等の導入を進める。

3-4-6(医療機関の持続可能性の確保(必要な経営支援))
医療機関が地方自治体等からの協力要請に対して合理的に応じられる環境を整えるため、協力に応じたインセンティブの仕組みや経営が悪化している医療機関への支援を強化すべきである。医療機関が安心して新型コロナウイルス感染症患者を受け入れ、診療にあたる基盤を創れるよう、十分な予算措置スキームを確立すべきである。
なお、新型コロナウイルス感染症への過剰な対応で全体のバランスを失することのないよう、他疾患患者への対応体制の確保や救急対応とのバランスなどにも配慮すべきである。

3-4-7(治療薬、ワクチン等の早期の実用化、確保)
新型コロナウイルス感染症に関する治療薬、ワクチンの研究開発、薬事承認、保険収載というプロセスを、有効性、安全性評価に基づき、予算、制度上可能な限り加速化すべきである。
具体的には、①開発企業に対する国による全面的支援、②治療薬の観察研究 における院内倫理委員会の承認手続の簡素化、③医師や企業による治験に関する医薬品医療機器総合機構(PMDA)の相談・審査の加速化、④薬事承認における条件付き承認の活用の検討などに取り組むべきである。また、開発企業の研究開発上の秘匿性は考慮しつつ、治験・臨床研究中の治療薬の進捗一覧表など正確で分かりやすい情報の提供に努めるべきである。

3-4-8(「診療ガイドライン」の迅速なアップデートと分かりやすい公表)
国民、医療現場にとって安心安全な医療提供体制の構築を進めるためには、エビデンス(科学的根拠)に基づくことが重要である。新型コロナウイルス感染症は、「新型」であるがゆえに、エビデンスの蓄積が発展途上であるが、これまでの国内外のデータや論文等から、感染症専門家による「診療ガイドライン」 がまとめられており、随時アップデートされている。医療現場の合理的妥当性な診療に資するよう、エビデンスが蓄積され次第、速やかにアップデートするとともに、国民に関心が高い検査、治療薬等の動向について、解りやすい形で公表するべきである。

以上

■参考
厚生労働省発表資料 https://www.mhlw.go.jp/content/000640287.pdf (6月16日)
山猫総研と創発プラットフォームによる第二回緊急意識調査(6月16日)

防災重点ため池

農業用ため池対策の推進に関する法律が本日成立いたしました。法律の名前は「防災重点農業用ため池に係る防災工事等の推進に関する特別措置法」です。

何の話かは、先に記事に書きましたので、ご参照ください。

ため池の管理保全について

まずは関係者の皆様に心から感謝申し上げます。特に立法検討PT座長の谷公一先生はじめPTメンバー、農業農村基盤整備議連幹部の先生方、農林関係幹部の先生方、国対関係の先生方に最大の感謝を申し上げたいと思います。こう書きますと自分がやった的に聞こえますが、全然そういうことはなく、法律の中身はPTメンバーが起案、国会プロセスは農林委員会の役員の先生方や国対の先生方が行ってくれました。まったく至らぬ事務局長を支えて、と申しますより、成り代わって縦横無尽の活動を頂きました、進藤かねひこ先生、宮崎まさお先生には頭があがりません。このお二人がいらっしゃらなければ困難を極めたのだと思います。流石は土地改良に詳しいお二人であります。

法律の目的は、水害などの災害から国民の命と財産を守るために、防災工事を集中的・計画的に進めることです。西日本豪雨の例をひかなくても命の面から工事促進派必須ですし、コストの面でみても決壊してから改修するより事前に改修したほうがコストは削減できます。

簡単に内容をご紹介いたしますと、国が基本指針を定め、その指針に基づき、各都道府県知事が法定の基本計画を策定、それとともに対象となるため池を指定。そのなかで、県は市町村などとの役割分担、地震や豪雨の耐性や老朽化の耐性評価、などを定め、また県に市町村などの実施団体への支援を求める一方で、国から地方自治体への財政支援に関する配慮を国に求めています。

豪雨災害に備えて引き続き努力してまいります。

■法律の概要

■国会内に設置されたため池協議会

■党の最上位政策決定機関である政策審議会にて法案審査を受ける

■国会対策委員長への説明

■総務会長への説明

アフターコロナ論

Afterコロナ論

■はじめに

新型コロナウイルス感染症は未曽有の深刻かつ重大な影響を世界各地にもたらした。その影響はあまりに大きく、事態生起の初期段階から、社会構造や人々の価値観をも大きく変える可能性などが指摘されている。近年では経験したことがないリスクを前に、少なくとも完全に元の状態に戻ることはないとの認識も識者の間で共有され、中長期的な展望への大きな関心の高まりとともに、Afterコロナ・Withコロナ・Postコロナ・Beyondコロナ(ここでは特に断らなければ全てを総称してAfterコロナとする)など様々な視点と呼称で将来像に関する議論が始まっている。

例えば自民党は、第二次補正予算編成にあたって、政府に対して、第2波、3波の可能性に備えつつ中長期戦も視野に入れ、感染症予防と経済活性化の両立を図りながら「新たな日常」を確立するため、予備費を含めた様々な政策を提言しているが、その際、 Withコロナ」下での新たな生活・仕事の様式、産業形態、産業転換、災害対応のあり方について「Beyondコロナ」も見据えた検討、今後のコロナウイルス第2波、3波への対応、基本的な感染症対策のあり方、についても深度ある検討を進めることとした。

本来、Afterコロナ論は、目指すべき社会像を徹底的に議論し、バックキャストによって実行すべき政策を洗い出すべきであるが、同手法は政策の実行可能性や意見集約などの問題が顕在化しやすく抽象的結論になりがちである。感染症が進行しているなかで、時間的制約もある。そこで、こうした視点も踏まえつつ、コロナ禍の政策を3つの段階に分けて考えることにしたい。第一は、経済回復を含めた危機対処段階であり累次の経済対策で示された経済回復政策パッケージもここに含まれる。第二は、目指すべき社会へ移行する間の期間であり、第二次補正予算提言で示された上記3つの課題はここに含まれる。第三は目指す社会の実現である。第三は目指すべき社会を徹底的に議論しなければならないが、これは第二段階の議論を経て大まかな方向性が明らかになることに期待し、それを起点にしつつ、今後の議論を継続することとしたい。

前もってエビデンス整備の重要性も触れておきたい。コロナ禍の経済的側面をとらえれば、ヒトとモノの移動制限は、消費・投資・供給といったあらゆる経済的側面を毀損するため、通常の不況とは全く異なる様相を呈している。そして経済は感染症の状況と密接に関係し、更に感染症の状況は人々の行動意識に大きな影響を与え、社会経済活動の変容は経済的側面に影響を与える。見落とされがちなのが、そこに媒介する生身の人間としての感情である。政府や自治体がこの状況にアクターとして介入する場合、経済・感染・感情の全てがターゲットとなるため、政策と共にリスクコミュニケーションが極めて重要となり、またそれの正統性や信頼性を担保するためにエビデンスがより重視になる。

■変容する価値観:国際秩序・経済社会環境・企業活動

変容する価値観の類型を政策実行の難易度によって3つに分けておきたい。第一は、コロナ禍以前から既に変容しつつあった価値観で、コロナ禍をきっかけに一気に社会実装が加速化する領域である。第二は、コロナ禍で生まれた新たな価値観で、政策誘導によって社会実装が進む領域である。第三は、コロナ禍で生まれた新たな価値観ではあるが対立する古く効率の悪い価値観があり、相当な政策によるテコ入れで初めて社会実装が可能になる領域である。こうした価値観の累計を念頭に、主に国際秩序環境と経済社会環境の2つの軸について触れていきたい。

国際秩序は、米中対立の激化など国際政治の動向、資本主義の在り方にもかかわる国際経済の動向、そしてサプライチェーンの変化が主だった論点となる。経済社会環境では、各国の財政状況や消費者の価値観変化に伴う経済活動の動向、そして地方の重要性の高まり、あるいはデジタル化の進展によるビジネスモデルの変化や働き方の革新、資本主義の在り方や価値観の変化などが主だった論点だろう。

〇国際秩序に関わる課題

コロナ感染者の終息を目標に各国巨額の財政を投じて対策に取り組んできたが、いかに早く終息させるかで今後の国際秩序に大きな影響がでる。早期終息が実現できなければ、コロナによるコストインポーズにより国力が大きく損なわれ、パワーバランスに大きな変化が現れる。更に財政状況の国際的なバランスの変化は国債格付けや為替などを通じて構造問題にもなりかねない。したがって、現段階の経済対策はもちろん、第2波第3波への盤石の備えも今後の国際秩序形成に大きくかかわってくる。

(社会の持続可能性と資本主義)
グローバル化やデジタル化の急速な進展により産業構造やビジネスモデルが劇的に変わりつつある一方で、社会課題が複雑多様で構造化された問題として社会の持続可能性自体を脅かしている。社会課題の解決を、国家財政のみに頼るような伝統的手法だけではなく、社会全体で解決していく重要性が多く指摘され、SDGsやESGなどのように伝統的資本主義の在り方に一石を投じる考え方が広がりを見せつつあった。コロナ禍にあって、国際コーポレートガバナンスネットワークをはじめとしたESG投資家が揃って配当よりも雇用維持を最優先すべきだと表明したことは、間違いなく既に芽生えていた価値観の変化に沿ったものであったが、コロナ事態を機にSDGsの考えがなお一層広がる可能性は高い。この意識変化は個人の行動にも影響を及ぼしつつある。例えば社会的活動への関心がコロナ禍で大きく高まった。こうした企業や個人の意識変化は、コロナ事態対処で各国が財政支出を大幅に拡大し中長期的な政策自由度が多少なりとも縮小されることが予想されるなかで、非常に重要な価値軸になるものと思われる。

(経済安全保障と民主主義)
経済安全保障の側面も見落とせない。経済グローバル化の負の側面として自由主義国家の国内格差や難民問題が顕在化し、それにより政治が不安定化、自国主義傾向が強まり、国家同士の対立激化と国際秩序の劣化傾向、さらには国際システムの機能不全が指摘されてきた。またデジタル覇権を巡った米中対立構造は、経済安全保障に絡めて議論されることが多く、経済安保を新たな領域に持ち込んだと言えるが、そもそもGAFAやBATに纏わる課題を考える上で、覇権政党国家とデジタルビジネスモデルの親和性は高く、いわば既存の民主主義国家と覇権政党国家の生き残り競争の様相も呈している。そうした中、世界的なコロナ禍は、本来まさに国際協調により解決する問題であったにも関わらず、WHO問題や恣意的軍事活動などに見られるように、実際は対立構造が加速化している。国際社会のなかで、デジタルに纏わる流通の制度、課税のあり方、個人情報保護の観点での規制の在り方などの議論を加速して国際ルール形成をリードし、またFOIPに代表される価値観を国際社会の中で死守しなければならない。その裏側で、日米同盟を基軸としつつ、安定した安全保障環境を築くため、次世代の防衛装備体系構築の議論にも早急に着手し、国際政治環境の変化に柔軟に対処できるよう備えるべきである。

(グローバルサプライチェーン)
産業構造上のサプライチェーンリスクにどう備えるのか、特にパワーバランスがシフトしつつある中でキーテクノロジーの漏洩をいかに食い止めるのか、またテクノロジー覇権競争にどう対処するのか、これらは長年の課題でもあった。コロナ禍は、こうした課題への対処に残されていた時間を奪った側面が大きい。知的財産戦略を抜本的にアップデートし、貿易管理制度の精緻化とともにクリアランス制度や秘密特許も検討すべきではないか。特に本格的なサプライチェーン上のグローバルアライアンスが展開されるものと思われる。各産業は、それぞれの経営判断に基づいて、自国回帰か、もしくは国際的に冗長なサプライチェーンを再構築すべきか判断を迫られる。国内回帰の場合には、政府は単なる立地補助も重要だが、本来ボトルネックとなっていたチョークポイントへのイノベーション誘発政策も光を当てるべきだ。一方で、自由貿易推進がFOIPを掲げる日本としての旗手政策であることから、グローバルアライアンスを促す政策を積極的に展開すべきだ。

〇経済社会環境に関わる課題

(財政問題)
コロナ禍で各国揃って巨額の財政を投じたため収支は大幅に悪化している。現在のところ、財政悪化による金利上昇や為替変動の環境には全くないが、今後、国際社会でのコロナ終息競争の勝敗によって環境は激変してくる可能性がある。また巨額の財政赤字は成長戦略に大きな影を落とす。成長戦略と併せて償還の在り方の中長期的ビジョンを早急に策定しなければならない。また財政の悪化も国際的な課題であるためG20などのフレームワークで協調して対処する方策を模索すべきである。

(産業構造)
デジタル技術の進展は、例えばC2Cやシェアリングエコノミーがビジネスの供給側のみならず需要側の価値観をも大きく変えているなど、従来のビジネスモデルにはなかったプロセスで社会全体の価値観を変容させており、その結果として産業構造も大きく変化を遂げようとしている。そうした中で、人的移動が極度に制限されたコロナ禍は、WEB会議やECなど人々にデジタル技術に関する大きな気づきと新しい価値の発見を促したといえる。産業構造は、デジタルシフトとともに、パンデミックを嫌気しての地方回帰と立地シフト、製造業のサプライチェーンリスク回避の動きに伴った垂直統合から水平分業やオープンイノベーションへのシフト、更にはコロナ禍による事業承継問題や休廃業加速の問題などの顕在化、などによってサプライチェーン再構築も含めて変化していくと思われる。これらの方向は、おおむねすべて政策誘導によってさらに後押ししていくべき領域である一方で、社会全体のデジタル化に対するリスクには対処すべきである。

(労働市場と勤労意識)
最も重要な国内の社会的課題は雇用環境と労働意識の変化である。そもそも人口減少社会にあって労働人口の減少から、政府は働き方改革を推し進めてきた。60歳を超えても勤労意欲のある高齢者が9割を超える中、高齢者の勤労継続を後押しする政策を様々な面から後押ししてきた。その結果、これまでの経済回復基調のなかで何百万の高齢者が労働市場に流入し、人手不足を補ってきた。女性もしかりで、非正規への流入を通じて正規への流入に移行する時期であった。コロナ禍でこうした方々が大量に労働市場から退出したが、そのほかにも労働市場の構造が変化している。経済回復期に合わせてスムーズかつ合理的に再参入できる環境を整えるべきである。一方で、労働市場のなかで明らかに元に戻らないと予想できるのは働き方である。ネット回線を通じたリモートワークやWEB会議が盛んに行われ、緊急事態宣言解除後でも継続を宣言する企業が少なからず現れている。社会全体のデジタル化に対するリスクには対処すべきである。

(個人の勤労価値観変化)
コロナ禍による個人の意識変化も見逃せない。突然襲ってきたコロナ禍で、休職や失業を余儀なくされ、また事業収入を絶たれるなどして生活苦に陥るケースが多い。通常の不況時などのいわゆる想定内の社会保障制度は、世界の中で相当きめ細かなサービスを提供しているのが日本であるが、急遽づくりのコロナ対処制度はスピードに問題があり、社会不安を生んだ。大学による国民感情分析によると不安に思う国民が9割を恒常的に超え、その期間も長かったことは、これまでにない。そうした想定外の状況を生み出さないよう、あらゆる事態に対しても対処可能なプランBを常時検討すべきだが、より汎用性の高い社会保障制度も模索すべきではないか。例えば、既存の複雑な社会保障制度を組み替えてベーシックインカムを導入することも全く論外とは言えない時代に入ろうとしているはずだ。

(経済価値観の変化)
コロナ禍にあって社会的意義のある活動に関心が集まった。経済社会構造もこれまでフローばかりを追い求める資本主義社会であったが、数年前からSDGsなどに代表されるように社会的意義と持続可能性が大いに議論され、資本主義の在り方にも一石が投じられている。しかし、寄付金や政府による補助金等による財政支援で活動するスタイルよりも、ESG投資なども併せて自ら事業として成立させつつ社会的課題を解決するスタイルこそが新しい資本主義の流れとなりつつある。こうした社会的事業に対して環境醸成の支援を積極的に行うことが中長期視点で行政コストを低減させることにつながる。

(個人情報保護とデータ利活用)
経済対策や個人給付、あるいは感染症や医療機関状況把握など、コロナ事態対処における政府のデータ利活用については、国ごとに国民の評価が大きく二分した。最も早く対処した民主主義国家では、事態生起とほぼ同時に、国民への情報提供と情報収集を、個人の携帯デバイスを通じて実施し、リスクコミュニケーションに成功したと言われる。事態終息後に個人情報の取り扱いを巡って一部で批判があったが、個人にとって感染リスクを避けるという利益が個人情報提供の不安を上回ったために登録者数が増えたと考えるのが自然である。コロナ事態がデータ利活用と個人情報に関する国民の意識と価値観に影響を及ぼしたかどうかは、Society5.0の実現を目指すうえで非常に重要な視点になるはずだ。個人情報保護には当然配慮しつつ、政策の進め方については大いに見直すべきだ。その際、規制改革もデジタル社会に併せて徹底的に検証し、見直すべきは見直し、そもそもの法体系の在り方の議論にも踏み込んでいくべきだ。

(リスクコミュニケーションと政策ダッシュボード)
世界各国で国民はコロナ危機に関する政府の対応や情報に注目した。賛否は各国で分かれるものの政治や政治指導者に対する関心は大きく高まった。世界中で発生するような巨大な危機を前にそれぞれの国民はそれぞれの政府に対応を委ねた。言い換えれば政府に対する依存度を高めたが、一方で、政府が想定外の事態に的確に対処できたかは国民の評価が分かれる。一言でいえば、国家が何を何の目的でどういうプロセスで何時頃やろうとしているかという基本的なことが、国民に全く伝わらなかったことは大いなる反省であろう。営業が不得意な飯伏銀の職人がグローバルマーケットに参入できないのと同様に、リスクコミュニケーションは政策と同様に、あるいはそれ以上に重要な要素となる。特にコロナ禍は、経済・感染・感情の全てがターゲットとなるため、それらすべてに訴えかけるコミュニケーションが必要であり、その正統性や信頼性を担保するエビデンスも重視となる。国家運営に資する政策指標ダッシュボードを早急に整備すること、また政治指導部に対する平時からの専門家意見具申システムの整備も急務である。

■第2波第3波に備えて

社会に甚大な影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症について、政府は緊急事態宣言を全面解除し、新しい生活様式の目安を公表した。緊急事態宣言の期間は1か月半に及んだが、その前後も含めて、感染の被害あるいは脅威に晒された国民の不安は大きく、また経済活動の停止に伴う経済的重圧も加わり、更には日本の経済状況にも著しい影響を及ぼしている。今後、社会経済活動が段階的に再開されることとなるが、第2波第3波の到来は必至との思いで、事態対処に万全を期す必要がある。医療崩壊に至らないよう最悪シナリオの立案を、通常インフルエンザの同時到来などのストレステストを加味しながら、万全の体制を整えるべきであるが、一方で経済的負担も相当なレベルに達していることから、感染者数抑制に最も効果のある緊急事態宣言の在り方とオペレーションについて、シナリオに基づいたより深い分析を行う必要がある。政治から見て失業率が1%上昇すると自殺者が3千人程度増加することに直視しなければならない。こうした観点でみても、ダイナミックなオペレーションが可能となる政策ダッシュボードは必要不可欠である。

雇用情勢とSDGs

雇用状況が気になってしょうがありません。先日発表された4月の雇用統計によると、有効求人倍率は引き続き全都道府県で1を超えていますし、完全失業率は0.1%上昇の2.6%で完全失業者数の増加は6万人で収まっています。しかし激変しているのは事実です。

http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html

大和総研によると就業者は先月比で▲107万人。非労働力人口も+94万人。特に女性の就業者▲70万人、非労働力人口+68万人。特に非正規の女性の雇用者は▲64万人であることから、コロナの影響で労働需要が急速に萎んでいるのと同時に労働供給も萎んでいて、特にパートやアルバイトの女性でその傾向が顕著になっています。そして休業者が+115万人と激増しており、非正規で+67万人、正規で+26万人となっており、先月の傾向が一層顕著になりました。

http://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20200529_021573.html

以上の傾向から、各種助成制度を利用するなどで、なんとか雇用を維持して頑張っている企業が多いということの裏返しですが、とある試算によると平均で3か月が限界なのではないかとも言われており、また中小企業小規模事業者はかねてから事業承継の問題が指摘されていることから考えると、今後、助成制度の期間終了と同時に急激に廃業が増加、それにともなって雇用環境が急速に悪化していく可能性もあります。

今夏までに感染が再拡大しないよう全力で取り組み、また皆様方には大変恐縮ながら不要不急な外出はお控え頂き、社会経済活動が通常どおりに再開できるような環境を整えていかねばなりません。また、感染状況を注視し、社会経済活動が通常通り再開できる目途が立たない場合は、第二次補正予算で計上した予備費を使い、生活と経済を政府が下支えする必要があります。

もちろん続く限り政府の下支えは必要ですが、一方で政府が永遠に下支えすることを前提とした戦略などはあるべき姿であるとは思えません。そういう意味で、今年いっぱいは感染症対策と経済財政運営は極めて難しい状況になるのだと思います。そして、それにあたっては、昭和的えいや感でやるのではなく令和型の説明可能な運営方式にする必要があり、その為には運営指標が絶対に必要になるのだと思います。現在、同僚議員とともに検討しております。

一方で、今回のこのパンデミックが仮に落ち着いたら是非取り組まねばならないのが、社会構造の在り方の議論であると思います。例えば、多くのESG投資家が、配当よりも従業員雇用維持を優先すべきだと表明しています。今回のコロナによってSDGsの流れがなお一層加速するような施策を打っていかねばならないのだと思います。危機の際に国家財政のみに頼らずとも協調して危機を乗り越えられる仕組みを構築すべき時代に入ろうとしているのだと思っています。

検察庁法改正案は何だったのか

反対運動が沸き起こった検察官定年延長を巡る検察庁法改正案。今国会では見送られ廃案も検討されているという報道もありました。奇しくも政界疑惑が続いてきたなかで、政権が検察庁による捜査を阻止するために人事に介入したのではないか、との疑惑が広がり、特にコロナ対策が最重要課題であったため、批判が拡大しました。さらに渦中の黒川検事長は、まったく情けないことに緊急事態宣言下令下でかつ同法案大揉めの真っ最中に賭けマージャンを行っていたことが発覚し辞任。処分内容や退職金を巡って更に情けない尾ひれがついています。

今回は、この騒動で思うことを書き残しておきたいと思います。そもそもこの法案、どのような背景で、何の話で、政権は何を目指し、何に反対があり、私がどのように感じているのか、について触れていきたいと思います。

1.はじめに

まず初めに、簡単に、どのような制度改正が目的でどこに批判が集まったのかに触れます。制度改正の内容は、細かいことは後に述べるとして、検察官の定年を現在の63歳から65歳にすること、そして、65歳を超えても定年を延長できる特例制度(勤務延長制度)を導入すること、が目的でした。つまり、定年を延長することと、その定年を更に延長できる制度を導入する、ことが主な目的でした。批判が集まったのは後者の方です。

今回の騒動で問題になったことは大きく分けて2つに整理することができます。1つは政権に近いと言われた黒川検事長を政権が都合よく検察トップに据えるために無理やり勤務延長制度を導入して定年延長したのではないか、ということと、そもそも定年延長制度が検察の独立性を脅かすことになるのではないか、ということです。前者を黒川問題、後者を定年延長制度問題と称することにします。

問題を複雑にしているのは何かというと、定年延長の議論は以前から真っ当なプロセスでなされてきたものの延長線上にあるものなのですが、政権が今年1月に法案を通す前であったにもかかわらず、解釈の変更で定年延長制度導入を唐突に行ったから、いよいよ黒川検事長の続投を無理に通して政界疑惑追及回避を狙ったのではないか、との疑念が生じたことにありました。その結果、法案にもミソが付くことになります。いずれにせよ、この2つは絡み合っておりますので、以降、整理していきたいと思います。

2.検察と民主主義について考える

詳細に入る前に、内閣の独断により政界疑惑をも捜査立件できる検察の独立性が脅かされるのではないか、つまり政権の悪事を捜査立件する機関がなくなるのではないか、という、そもそもの国家構造の問題、検察と民主主義の問題が提起されていましたので、まずはこの問題について考え方を整理しておきたいと思います。

強大な権限をもつ検察と内閣の2つの組織は、常に権力構造の緊張関係が重要になります。本質的には検察の独立性と国民による監視をどう両立させるかという問題です。現在は緊張関係が法律と慣例、制度と運用によって保たれています。ですから、誤解を恐れずに言えば、法律に規定したから構造上問題ないという性質のものではなく、常に不断の努力で緊張関係を維持していくことが重要なのだと思います。

例えば現行法でも、法律だけ読むと、検察トップ層の任命権は内閣にあります。なので今でも内閣の独断で検察トップ人事を決められるように見えます。でも実際にはそうならない。言うまでもありませんが検察には公正な捜査が必要とされるので独立性が重要です。内閣が暴走して検察に政治介入したら大変なことになります。ですから政治介入は慣例上運用上制限されてきました。一方で制度と言う意味では、検察の独立性を人事面で構造上担保しているのは、非常に厳格な罷免制度です。普通の国家公務員にはない特別の身分保障がされているということです。つまり、一旦任命されれば、検察が政治家の汚職を追求しようが総理大臣を逮捕しようが、辞める必要はないので幾らでも追及できるという構図になっています。

では独立性が重要なのになぜ政治である内閣に任命権があるのかというと、絶大な権力を有する検察の暴走も心配だからで、検察も国民による監視の下に置く必要があるということです。思えば検察も時々暴走してきました。例えば以前、厚生労働省の元幹部職員が検察に逮捕起訴され無罪となった事件がありましたが、なんと担当検事の証拠改竄が発覚するに至り、国民の批判が集まりました。検察も暴走する可能性があることを世間に晒した事件ですが、こうしたことはときどき起きています。

検察庁というのは、もともと戦前は大審院(最高裁)の下に置かれていました。司法の一部であって、自分で捕まえて、自分で裁く、という絶大な権限があった。ところが占領軍から見たら極めて不完全な三権分立と映り、現在の行政組織の一部となり、国民監視の下に置くため選挙で選ばれる政治で構成される内閣の監視下に置かれ、それが内閣の任命権に繋がっています。

今回の反対運動は、内閣の恣意的判断で人事が行われれば検察の独立が脅かされる、との理解だと思いますが、以上に述べた理由で、検察と内閣の権力関係の構造は、定年延長制度を導入しても直ちに変わるわけではありません。現行ルールでも、やりようによっては、独立が脅かされる、政界疑惑追及ができなくなる、ということは起こり得る話です。一方で、構造的には定年延長制度が導入されると延長対象者が一般化され内閣の影響が強まると考えることもできるし、極めて限られた場合だけに適用されるのだと考えれば、影響力はほとんど変わりません。

つまり、誤解を恐れず言えば、定年ルール変更で検察と内閣の本質的な権力構造が決定的に変わることはないのですが、制度が変化したときに生じる緊張関係のバランス変化は、不断の努力によって保たなければならない、ということです。ここが重要なのです。定年延長制度導入で大変なことが起こるという批判が相次ぎましたが、そういう性質のものではそもそも全くないのだと思います。

検察官OBが法改正反対の意見書を提出しました。詳細は後述するとして、権力の緊張関係を適正にとるための意見だと見れば極めて意義のある意見書ですが、検察は内閣を通じた国民の監視下に置かれる必要はないとも読める内容であって、そうだとすれば現行法をも否定する検察独立至上主義の考え方にも見え、それこそ三権分立を脅かす意見書だとも言えます。検察OBはそこを指摘したかったわけではないはずで、恐らくその主張は、黒川問題に対するものであったはずです。

ですから、繰り返しになりますが、権力の緊張関係をどのように保つのかが一番本質的な課題なのだと思います。今回の騒動で、世の中の単純な非難合戦を見るにつけ、野党がそういう構造を分かっていながら(どう見ても分かっていない方もいましたが)政権追及をするのは分からなくもないのですが、国民の皆さまを違った方向に誘導するのではないかと懸念しております。つまり、検察の独立は絶対だと思う人が多くなった時にこそ、三権分立が脅かされるのだという部分です。

多少余談になりますが、以前、戦時中の政治史について学んだ際に、当時の政治機能が現代のそれと、それほど大きく変わらない本質を有していたことに驚かされました。当時、様々な政界疑獄事件が相次いで発生し、国民意識は政治=悪であって、唯一信頼できるのが日本を懸命に守ってく下さる軍隊というものでした。法構造上、当時の政治は今より遥かに強い権限を持っていたにもかかわらず、軍隊を全くコントロールできなかったのは様々な理由がありますが、少なくとも政治が軍隊に反対すると国民の反発が避けられないという構図もあった。すなわち信頼を失った政治はどのように民主主義を制度で担保しようが崩壊していく運命にあるという、とてもナイーブな構造にあるのだと思います。ですから、信頼を獲得していくことが如何に大切か、そして政治は手前勝手な正義で政策を実行していくのではなく、国民との健全なコミュニケーションを保って正義の健全なアップデートとフィードバックを図らなければ、結果的にトンデモ行政組織ができていくのだと思います。

3.黒川検事長定年延長と法律案の事の発端と疑念について

具体的な話に入ります。事の発端から話を始めたいと思います。事の発端は2つ。1つは黒川検事長の定年延長がどのように決まったのか、もう1つがこの法律案がどのような目的でどのような経緯で俎上に載ったのかです。

3-1.黒川検事長と閣議決定

今年一月、内閣は検察官の定年に関する閣議決定を行いました。内容は定年を迎える検察官の勤務延長です。勤務延長制度は一般の国家公務員に認められた制度で、内閣が認めれば3回まで1回につき1年以内定年を延長することができるという制度ですが、検察官にはないとされていました(検察官の定年は検察庁法で、一般の国家公務員の定年は国家公務員法で規定)。内閣は検察官の定年制度の解釈を突如変更し、検察官にも他の国家公務員同様の勤務延長制度が適用されるとしました。そして適用の第一号となったのが政権に近いと言われている黒川検事長でした。

氏は本来であれば今年2月に63歳を迎えそのまま定年を迎えるはずだったのですが(法律上検察官の定年は63歳、検事総長のみ65歳)、上記の勤務延長制度の援用で8月まで延長されました。理由はカルロス・ゴーン事件等やIR事件を含む遂行中の事件捜査に対応するには同氏の指揮監督が必要不可欠というものでした。政界疑惑で検察の活動が注目されることが多かった時期に重なりますので、様々な憶測を呼び、批判されることになります。結局、端的に申し上げれば、この閣議決定が黒川検事長を検事総長にするためであったのかどうか、勤務延長制度の導入で内閣の影響力が強まらないのか、について検証を進めたいと思います。

3-2.検察庁法改正案

法改正が遡上に載ったのは、数年前からの議論の延長線上にあったことであって、直接疑惑とは関係ありません。ご存知の通り公務員の定年延長の議論は随分前からありました。昨今の労働力不足から民間には65歳までの定年延長を促しており、年金も一元化され受給開始年齢を段階的に65歳にしています。そこで公務員も同趣旨で現在の60歳定年を延長すべきだという議論がありました。そして平成30年に、人事院が内閣に意見申出を提出したことで、議論が進展し、定年を65歳まで段階的に延長し60歳以上は役職定年として人件費を削減する国家公務員法改正案に繋がっています。

http://www.jinji.go.jp/iken/moushide.html

前述の通り検察官は別の法律で規定されていますので検察庁法改正の議論もでてきます。同法では検察官の定年は63歳(検事総長のみ65歳)となっていました。そこで国家公務員法改正に合わせて65歳にすることが議論されました。ところが単純にはいかないのが前述の勤務延長制度です(定年を3回までに限り1回1年まで延長できる制度)。もともと検察官には勤務延長制度がないため、当初の改正案は単純に定年を65歳にするとされていましたが、後に一般国家公務員と全く同じように勤務延長制度が追加されました。疑問が呈されたのが、追加された部分が先に述べた閣議決定を正当化するためだったのではないか、というものです。

いずれにせよ、問題は勤務延長制度のところだけで、それが果たして黒川検事長を定年延長するためだったのか、つまり前者の閣議決定を合わせて考えた時、黒川検事長のための閣議決定とそのための法律案追加だったのかということ、そして、そもそも検察官の勤務延長制度が本質的に妥当なのか、に集約されます。

4.黒川問題

4-1.黒川検事長を検事総長にするための法改正案だったのか?

すでに述べましたが、この法律が成立しようがしまいが、黒川検事長が検事総長になるかならないかとは全く関係ありません。黒川検事長が検事総長になるためには定年延長が必要でしたが、定年延長は、既にその前に閣議で決まっていました。ここは社会的な批判の大きな誤解だったと思います。ただ、そもそも法律案に追加的に埋め込まれた定年延長制度が閣議による黒川検事長の定年延長を正当化するためのものであったのかどうかは未だに解明されていません。そして、法律改正が先送りになった今、法改正を前提とした閣議決定だけが残り、不備のある状態になっているのだと思います。閣議による検察官定年に関する運用解釈変更は直ちに違法ということでは決してありません。しかし法改正を前提として閣議で見直すまではいいとしても、運用を開始するのは法改正を待つべきであったのだと思います。

4-2.黒川検事長を検事総長にするための閣議決定だったのか?

閣議決定で黒川検事長の定年が延長されているからといって、直ちに黒川検事長が検事総長になることはありませんでした。それは、明々白々に、現職の検事総長が辞任しなければ就任できないからです。そして検察官は独立性を担保するために厳格な罷免制度が適用されるなど特別の身分保障がされていますので、普通の人事で罷免されることはありません。そこで、現職検事総長がいつどのような形で退官する可能性があるのかがポイントになります。

現職検事総長は今年8月13日で64歳。自ら辞任しない限り65歳になる2021年8月13日まで勤務可能です。なので、世間の批判がない静かな状態で内閣が黒川検事長の検事総長就任をもくろんだとしても、黒川検事長が”確実”に検事総長になれる資格を得るのは、2021年8月13日からです。そしてその時までには少なくとも3回の勤務延長を黒川検事長に対して行わなければなりません。3回も「退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由」を内閣が示し続けることは端から困難です。

一方で、現職検事総長は慣例通り今夏辞任すると政権が考えたのではないか、という疑念もでてきます(検事総長は2年で後任指名し辞任するのが慣例だそうです)。こうなれば議論してきた疑惑が完全に吹っ飛ぶくらい検察自体の信頼が失墜します。いわば黒川検事長の信頼どころか検察庁全体がそもそも腐っているということになります。

なぜならば、黒川検事長がもし正義より政権忖度を優先する人物ならば、その上司である検事総長はそれを知っていたと考えるのが自然で、慣例とは言えど辞任すれば黒川検事長が検事総長になる可能性があり、それを許すような検事総長であれば自らも政権忖度したことになる。そうなれば組織全体がそもそも政権に忖度するような組織であったということになります。これには私は少し無理があると思います。現職検事長は慣例を無視してでも検事総長を辞さないことで正義を守ることになると考えるのが自然です。検事総長が政権に忖度する理由も見つかりませんし、そもそも検察庁の信頼を失墜させてまで忖度する理由もないからです。

そして検察人事制度を変更するというおよそ慎重にも慎重を重ねなければならない決定を黒川検事長の勤務延長のために法律案の修正と閣議決定をしてまで行う、しかも行っても確実に検事総長になるとは限らない、というのは、検察沙汰になっている政界疑惑があるなかではありましたが、ロッキードのような官邸がからむ政界疑惑の大事件の立件を検察が抱えている事実はなく、検察に断念させるためではなかったのかと考えたところで、政権が命運を賭ける対象としてはバランスに欠ける着想としか言えません。

しかし論理としての可能性は排除できず断定はできません。一見どう見ても政権が黒川検事長を検事総長にしたくて定年延長制度を導入したように見えますが、黒川検事長を検事総長にするために法律案まで変えて閣議決定までした、というのは自然ではないと思います。であれば、内閣にはより明確な説明責任があるはずです。しかし一方で、以上は黒川=政権のいいなりを前提とした導出であって、仮にそうでもないのだとしたら、政府にとっては悪魔の証明になり、怪しさだけが残る後味の悪いものになりました。

5.勤務延長制度は検察官の人事制度に馴染むのか

本質的な問題に入りたいと思います。それは今回導入された勤務延長制度が検察官の人事制度に馴染むのかどうか、妥当なのかどうかです。導入された勤務延長制度は国家公務員制度を援用したことは既に申し上げました。しかし違いもあります。一般国家公務員の勤務延長制度は、人事院というこれも内閣から独立した組織が妥当性をチェックするしくみになっています。しかし、人事院は検察官の独立性を尊重する観点からこれまでも検察官人事には介入しないことになっていました。従って、今回の検察官勤務延長制度では、他のチェックが入らない仕組みになっています。

そこで構造的に何が変わるのかを考えたいと思います。まず、仮に全ての検察官について勤務延長が前提になる制度だと考えると、内閣が認めなければ退職する、ということになり、罷免の考え方の範疇に入ってしまいます。これは、先にも述べてきた特別の身分保障である非常に厳格な罷免制度に関わることになり、内閣の影響力が従前より大きくなると考えられます。しかし実際には基本原則は65歳です。現行制度上の一般国家公務員の勤務延長制度で、延長を目指して幹部職員全員が官邸忖度を強めているのかという視点でみれば、この見方は自然ではありません。それは、一般国家公務員のケースでの実体がそうなっていないことからも明らかです(実態上勤務延長ルールが適用される公務員は極めて限定されています)。

従って繰り返しになりますが権力の緊張関係をいかに保つのかに努力を傾注する方が健全です。一層の事、検察の人事権は内閣関与の元、人事院に移してもいいのかもしれません。いずれにせよ継続審議するのであれば更に深い議論が必要なのだと思います。

5-1.検察官OBも法律に反対しているではないか。

反対意見書では、「これまで政界と検察との両者間には検察官の人事に政治は介入しないという確立した慣例があり、その慣例がきちんと守られてきた。」とし、「今回の法改正は、検察の人事に政治権力が介入することを正当化」するものだと反対しています。

現行の検察庁法第十五条に「検事総長、次長検事及び各検事長は一級とし、その任免は、内閣が行い、天皇が、これを認証する」とあります。冒頭にも触れましたが、これだけ読めば、これまでも内閣が恣意的人事を行えることになります。しかし実際には反対する検察官OBも指摘しているように「慣例」としてされてこなかった。検察と政治の緊張関係を維持するための「知恵」(同意見書)としてです。

つまりこの法律の条文は、「内閣は検察人事に介入しない」ことが慣例ではなっているけど検察にとっては内閣に「介入されるかもしれない」という緊張関係を生んでいるということになります。そして介入されたと感じれば「介入はオカシイ」と意義を唱えることで緊張関係のバランスを保とうとすることは大変意義があります。しかし本質論として「介入はオカシイ」としているのであれば、条文の趣旨を無視した意見だということになります。

なぜこんなややこしい条文があるのかは冒頭に触れましたが、独立性が重んじられる検察官でも暴走を止めるために国民による監視が必要で、国民に選挙で選ばれる政治が構成する内閣に一義的にそれを担わせる、という構図にするためです。

検察OBの意見書にも同じことが言えます。緊張関係を保つための意見書だと理解すれば極めて妥当なものです。一方で、内閣の任免権が及んでこなかったような指摘があり、字義通り捉えるとこれは法律自体の否定であって、それこそ準司法とよばれる行政権の越権的解釈であって、本質的に三権分立に対抗する検察至上主義の考え方になってしまいます。検察官は不当な政治介入を受けないんだ、というのは絶対に正しいですし当然ですが、検察官は民主主義の根本である国民の統治を受けないんだ、とも受け取れかねない記述になっています。

反対意見書の視点は「内閣は同法改正の手続きを経ずに閣議決定のみで黒川氏の定年延長を決定した」ことへの猛烈な批判です。決して統治制度や三権分立に対抗しようとしたことではないことは明白なのだと思います(元検察官ですから)。そういう意味で、むしろ意見書は、賛否はあれど、この位の勢いで反対することで、適正な緊張関係をこれからも維持する上で重要な歴史的指摘になるのではないかと思います。従って、反対意見書は黒川問題の文脈で読み取るべきものであって定年延長制度問題の文脈で読み取ると混乱することになります。

かかる観点で改めて定年延長制度という新しい人事制度を見てみると、「内閣が定める事由があると認めるときは」は定年延長が可能とされています。これだけ読めば、従前の任免権同様、内閣が恣意的人事を行えることになります。しかし実際には「慣例」として行われてきた検察と政治の緊張関係が維持されるべきもので、これまで国民統治を受けてきた制度と決定的な齟齬があるとは思えません。注目すべきなのは、変化に伴う緊張関係の変化です。当然そうした恐れは生まれますし正しい恐れだと理解します。この緊張関係は繰り返しますが不断の努力によって保たれるべきものだと思います。

5-2.その他

ここまでお読みいただければご理解いただけたのではないかと思いますが、ついでながらその他の指摘についても触れておきます。三権分立を揺るがす事態だという指摘については完全に間違いです。司法に犯罪容疑者を送る唯一の役割ですから準司法官と呼ばれますし、一般行政組織よりは高い独立性が求められるのは当然ですが、検察庁は司法ではありません。そして、そもそも検事総長は内閣が任命することに変わりありません。最高裁判所長官も内閣が指名しますし他の裁判官も内閣が任命します。三権分立の分立は、それぞれが完全に独立しているという意味ではなく、相互にチェックするところにポイントがあります。上の例で言えば、内閣が検察官の任免権を持つけど検察官は内閣の一存で罷免されず内閣を立件できるという緊張関係です。誤解を恐れずに言えば、延長ごときで揺らぐことは全くありません。

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/kokkai/kokkai_sankenbunritsu.htm

また検察官の独立性は担保されるのかという指摘もありました。政界疑惑追及を避けるために検察人事に介入するのはけしからん、という指摘も、人事介入というところに違和感があります。繰り返しになりますが、これまででも、これからも、検察トップ層の任命権は内閣にありますので、今回の改正で変わることはありません。出世を狙って政権にすり寄って判断が変わるようなことがあるかもしれない、という指摘は、論理的には法改正後でも制度上の根本部分は変わりません。そもそも検察官の独立性は、何で担保されているかというと、繰り返しですが、厳格な罷免制度であって検察官の身分保障です。政権に逆らったって身分は保証されます。

6.雑感

黒川検事長の勤務延長という個別問題は後味の悪い結果となっています。少なくとも政治は透明性をもっと高めていくべきなのであって私自身も努力を続けていかねばならないのだと強く思っています。一方で制度自体については明白な問題というものではなく、少なくとも時代の変化に併せた65歳への引き上げと段階的給与削減は必要だとは思います。ただ今後、廃案ではなく審議するということになるのであれば、勤務延長制度を政治サイドから企図する積極的理由は今のところ見当たらず、であれば今回の批判を十分に反省しつつ改めて法務省内部でよくよく吟味し、制度を導入しなければならない実務上の積極的理由も明確にした上で、議会に送ってもらう他ありません。

雇用を守る

今、もっとも大切なのは、当たり前ですが感染拡大を防止することであって、その為に緊急事態宣言が出され、外出自粛・休業要請が続いています。しかし、一方で世界的な景気の鈍化の中で、もっとも重要なのは雇用を守ることです。

昨日、政府は3月の雇用統計を発表しました。求人が求職を圧倒的に上回っている現状に未だ変わりはありませんが、コロナの影響で、有効求人倍率が昨年末の1.57から1.39に急速に悪化してきています。

求人から見ていくと、コロナの影響で休業を余儀なくされている企業が新規の求人を控えている実態が明らかに見えています。前年同月比の12.1%マイナス。3か月連続で10ポイント超えの悪化です。最も影響を受けているのが、製造業の▲22.8%。次いで宿泊飲食サービスの▲19.9%。次いで生活関連サービスの▲16.6%などとなっています。

一方、完全失業率は2.5%(▲0.1%)。現時点では大きな変化は見えていません。これは企業が政府の雇用調整助成金を使って休業手当を従業員に支給し、また借入等で何とか凌いでいるためで、このことは、就業時間が1時間未満であった就業者数が、前月から29万人も増加していることからも伺えます。

しかし今後の状況は注意深く見ていく必要があります。コロナの影響を甘く見て、下手に緊急事態宣言を解除すれば、感染被害から国民を救えないばかりか、最悪の経済状況を招きかねない。長期化すれば、借り入れの返済を見通せず雇用を維持できなくなる企業が増える可能性を否定することはできません。この傾向はリニアなものではなくて、加速を伴って悪化する可能性があります。

現在の失業者数が160〜170万人で推移しており、また求人は238万人ですから、休業者と見られる29万人という数がかなり多いことに気づかされます。そして実際に雇用を維持できなくなったら、連鎖的に業績が悪化、更に雇用上の悲しい数字が増える可能性があります。また、29万人のうち主に非正規雇用者で23万人となっています。最近の働き方改革の取り組みで(良い働き方改革と悪い働き方改革がありますがそれは別として)、結果的に、正規雇用者が増え、非正規雇用者が減っていたため、コロナによる雇用調整の構造問題化が早めに訪れる可能性もあります。

従って、兎にも角にも、短期決戦。緊急事態宣言の下で感染拡大を徹底的に早期に収束させ、同時に雇用を全力で守るための方策を今後も矢継ぎ早に打っていく必要があります。

本日、衆議院で補正予算が通過し、明日、参議院で可決成立する見込みです。既に実施中のものも含めれば、税や社会保障、公共料金などの支払い猶予、無利子無担保無保証の融資実施、給付金による固定費を含めた企業支援、雇用維持支援などが実施されます。ただ、重要なのは、借り入れで先行きが見通せない不安を、それこそ解消することはできませんが、軽減することはできるはずです。大きいところでは、地方創生特別交付金と、企業にとっての固定費の緩和措置。数か月固まっていたけど、また動き出すぞ、と思える環境を作ることが必要です。

地方創生特別交付金は、補正予算では1兆円が措置されました。ただリーマンの時と同額なのです。リーマンは金融危機。コロナは需要供給所得のトリプル危機に今後の金融不安がある(このことは別途)。だとしたら、同額ではマインドとして足りない。特に、国と言う図体が大きい組織できめ細かな対策ができない部分を、自治体というきめ細かな対応ができる組織に、大きな方針を定めた上で、思い切って任せるところは任せるべきです。

また、固定費は現在、家賃補償が議論されています。融資と助成金のハイブリッドタイプが主要軸として議論されますが、何よりも重要なのは、また融資かよ不安だよ、と思うものではなくて、このくらい補助してくれるんだから融資もちょっとはしないとな、と思えるものにしていくことだと思います。つまり、政策実効性というより、この際、事業者のマインドを主軸に置いたものにすべきだと思います。(10万円の特別給付金以来、特に若年層から将来世代の負担増の心配の声が聞かれますが、このことについても別途触れたいと思います。)

なお、ここからは余談ですが、コロナ後に新卒の就職意識が大きく変化しているという報道(NHK)に接しました。楽しく働きたい(37%→31%)、個人と仕事を両立させたい(25%→23%)、人のためになる(13%→18%)。そして大企業志向(56%→52%)、中小ベンチャー志向(40%→45%)。人のためというのが劇的に増加していると言います。私が思う官民の在り方の将来像、資本主義の将来像、に繋がる社会を支える担い手です。彼らを全力で応援したいと思います。

コロナを生き抜くーカミューが生きた時代

(アルベール・カミュー。写真出展:wikimedia)

コロナ感染症が蔓延しているなか、カミューのペストが過去にないほど売れているのだそうです。異邦人もシーシュポスも読みましたが結局あまり好きになれない作家でした。しかし、何か人間の本性を抉り出すような静かな迫力を感じる作家だという印象は強く残っています。

カミューが生きたのは20世紀前半。アルジェリアの地でした。アルジェリアはフランス領でしたが、植民地ではなく本国扱い。なので、アルジェリアでフランス市民権を有する入植者も多くその数100万人とも言われ、カミューが生まれた海岸都市オランでは人口の8割が入植者であったと言われます。

彼らはコロンと呼ばれていたそうですが、コロンは自らをアルジェリア人と呼び独立を声高に叫んだ。そしてそのコロンと現地人の争いがあったり、その現地人の間でもコロンに協力するか否かで争いがあったり、またコロンとフランス本国との争いもあったり、更にはフランス本国内でもコロンを擁護するものと反対するものの争いもあったり、とにかく内部の言い争いが非常に多かった時代として現代に伝わっています。

そうした中でアルジェリア独立運動が起きたのが1954年から始まるアルジェリア戦争です。カミューがペストを発表してから数年の経過したころです。結局フランスはこの戦争で9万人以上、アルジェリアはなんと100万人とも言われる犠牲を強いられることになります。これ以降、民族自決運動の流れでフランスはアフリカの植民地の独立を次々と容認していきます。第二次世界大戦で強硬な姿勢で臨んだシャルル・ド・ゴールが戦後再度政権に就いたときに方針転換した結果だと言われています。

そのコロンをフランス本国政府はどう見ていたかというと、隣国エジプトの支援を受けていたと見ていました。従ってフランスはエジプトを忌々しく思っていた筈です。

一方そのころのエジプトは中東戦争真っただ中でした。1948年にイスラエルが誕生するとアラブ諸国はこれに反発しイスラエルを攻撃、第一次中東戦争が勃発します。そしてそれに対抗するためイスラエルはエジプトを侵攻します。エジプトは米英に支援を要請しますが断られ、結局ソ連に近づきます。この決断は後に、スエズ運河やアスワンハイダムを巡って、中東を冷戦構造の最前線に立たせることになります。

エジプトは当時イギリスの保護国でした(*)。イギリスにとってスエズ運河は世界覇権を維持する中心のアセットであったからです。しかしエジプトのナセルはそうしたイギリス支配構造に反発、クーデターを起こして親英の王政を打倒し、スエズ運河の国有化しチラン海峡を封鎖するという強硬手段にでます。

ここに、エジプトのアルジェ介入阻止というフランスの思惑と、エジプトからスエズ権益の奪還というイギリスの思惑と、チラン解放というイスラエルの思惑が一致し、ウィルソン平和原則があるにも関わらず秘密外交で3か国による忌まわしい対エジプト攻撃が実施されます。第二次中東戦争ともスエズ危機とも称される戦争です。

そしてこのスエズ危機は、国際秩序構造に大きな変化をもたらした事件となりました。変化とは何かと言えば、結論だけ書けば派遣国家としてのイギリスの地位が名実ともに決定的に低下、同盟国のアメリカにとどめを刺される事件でした。考えてみれば、この米英間の覇権をめぐる攻防は、国際秩序安定化のために第二次大戦真っただ中から議論されていた国際金融秩序構築のための議論に既に見ることができたわけで(後のブレトンウッズ体制に繋がる)、アメリカはイギリスの覇権をはく奪する為にアラユル手を尽くしていた感があります。

ペストを読んだのはもう30年も前。とても響いた言葉が今でも心に残っています。ペストに勝つには人間は誠実でなければならない。確か主人公の言葉です。誠実。生きることに誠実。結局、万人が自らできることを誠実に尽くす、自分の為でもあり、人の為でもあり、という理解を私はしています。

今、巷で多くの言い争いが起きていると言います。生活を支える宅配便配達人に暴言を吐く人、医療関係者をばい菌扱いする人、家庭内でのDV、フェイクニュースの愉快犯、必要以上にマスクを買い占める者、懸命に働く役人をSNSで滅多切り。目に見えるもの全てに悪態をつく。そんな忌まわしい社会の入り口に立たされている予感がします。カミューが生きた時代ほど国際社会の混乱はないはずですが、結局、人間の本質はあまり変わらないのかもしれません。だったとしたら、少しでも誠実でいたい、そして社会がそうあって欲しい。私はそう思います。

(*参考)

スエズ運河が完成したのは、徳川幕府が大政奉還した直後の1869年。スエズ危機に先立つ半世紀前ということになります。その直後に派遣された岩倉使節団も、完成したばかりのスエズ運河を通って帰国したという記録が残っています。

建設を企図したのはフランスの元外交官であるレセップスという人。自国政府の全面協力を獲得するも、アレクサンドロス=スエズ間の鉄道権益を持っていたイギリスの妨害で進捗芳しくなかった。転機となったのが、エジプトの国王交代で、当時極度の財政悪化にあったエジプトは、イスマイルの英断でスエズ運河株式会社の株式を放出。実業家のロスチャイルドは、イギリスのディスレイリー首相に、スエズ運河は中東海洋覇権の要衝であるから、株式を取得し管理権を獲得すべきであると説き、スエズ管理の実権をフランスと共に握ることになります。

スエズ運河の航行の自由が関係国によって訳されたのは随分後、1888年のコンスタンティノープル条約によってですが、イギリスはこの時点でこの条約に締結こそしたものの、アフリカや東南アジアで権益を争うフランスの中東での版図拡大を恐れ、批准はしていませんでした。しかしボーア戦争で財政的負担が増大し国際的地位は低下、ファショダ事件での英仏の大激突による両国の疲弊、さらにドイツの興隆によるドイツ脅威論の高まりもあり、またフランスもビスマルクの戦略に嵌り国際社会から孤立していたため、英仏はタッグを組むことになり、1904年という日露戦争開戦の年に英仏協商が成立します。この協商で、英仏は対立していた植民地の分割統治を約し、エジプトは全面的にイギリスの手に落ち、イギリスはスエズ運河に関するコンスタンティノープル条約に批准しました。